目次
本稿は「1. はじめに」と「2. 補間多項式」に当たります.なお,本稿はこの
PDF版
を元に,Mathlogの仕様に合わせて一部の文言・体裁を変更したものです.内容は変わりません.
- はじめに
- 補間多項式
- ラグランジュ補間
- ニュートン補間
- 補間多項式による近似の誤差
-
数値微分
-
数値積分
- ニュートン・コーツの公式
- ガウス・ルジャンドル公式
-
補遺
- ルンゲ現象
- 補間多項式とテイラー多項式の関係
はじめに
計算機上で関数を扱うには,関数をよく知られた扱いやすい関数で近似できると何かと便利である.中でも扱いやすい関数は多項式関数であろう.との2つの演算さえ実行できれば計算でき,しかも,曲線として表現できる幅もそれなりに広い.本稿では,この多項式関数によって,種種の計算を近似的に行う方法を紹介する.
ラグランジュ補間
次の定理は,本稿を通して重要な役割を担うものである.
補間多項式の一意存在性
実数の組は,なら必ずを満たすとする.このとき,任意のについて変数にを代入した値がであり,かつ次数が以下である多項式がただ1つ存在する.
まず存在性を示す.に対し,多項式を
で定義する.このとき
である.仮定によりならなので,である.したがって
により多項式を定義すれば
となる.の次数は次なので,これらの定数倍の和であるの次数は最大でもである.
次に一意性を示す.多項式はともに次数が以下であり,かつすべてのに対してを満たすとする.で多項式を定義すると,の次数も以下である.また,のときであり,はどの2つも相異なるので,因数定理によりはを因数に持つ.すなわち,は多項式によって
と書ける.の次数は以下なので,この等式が成り立つにはでなければならない.よってであるので,が示された.
ラグランジュの補間多項式
定理1の多項式をラグランジュの補間多項式(あるいは単に補間多項式)という.
は次のように表せる.
は総乗記号であり,のをに置き換えたものである.この場合はについて積をとる.
補間多項式の例2
のとき,補間多項式は
である.このように,個の点に関する補間多項式の次数は必ずしもにならない.
点と補間多項式の関係
ニュートン補間
この節では,補間多項式が通るべき点を追加したとき,補間多項式はどう変化するか考える.
定理1の状況で,に対して,点に関する補間多項式をとする.
とおくと,についてである.の次数は最大でもなので,因数定理により
を満たす実数が存在する.
したがって
である.すべて足すことで
を得る.以上により,定義1の補間多項式は,個の実数により上のように表せることが分かる.また,この式に現れるをまでで打ち切った多項式はであり,点に関する補間多項式になっている.このことをまとめると次のようになる.
定理1の状況で,任意のについて多項式
が点に関する補間多項式となるような実数が存在する.
あとはがを用いて具体的に書ければよい.差商はこの簡便な表記を与える.
差商
定理1の状況で,差商を次のように定義する.
関数がを満たす場合,をとも表記する.
帰納法により示す.のときはなので明らかに成り立つ.次に,個以下の点に関する補間多項式について成立を仮定する.点に関する補間多項式をとする.点に関する補間多項式を,に関する補間多項式をとおくと,多項式
は次数が以下であり,かつ点を通る.定理1により補間多項式は一意なので,これは補間多項式である.右辺の次の項の係数(であることもある)は,帰納法の仮定により
である.定理2により,は実数によって
と書けるが,この次の項の係数はであるので
である.上の第1項はに等しいので,帰納法の仮定により
である.よって,個の点に関する補間多項式についても命題は成り立つ.
このように,多項式の定数倍の和によって,点に関する補間多項式を得る方法をニュートン補間という.
ニュートン補間の例
例3により,点に関する補間多項式は
である.定理1からも分かるように,これは例2と一致している.
補間多項式による近似の誤差
補間多項式はしばしば,関数を近似するために用いられる.この節では,補間多項式による近似がどの程度妥当であるか分析する方法について考察する.
は以上の整数とする.を関数とし,曲線上の点はを満たすとする.点に関する補間多項式をとおくと,が十分に滑らかであれば,がに近いときの値との値はごく近いことが期待できる.次の定理はこのことを保証するものである.
補間多項式による近似の誤差
上の状況で,関数は階微分可能であるとする.このとき,任意のに対し
を満たすが存在する.これにより,が区間で最大値を持てば
である.
この定理は次の補題から導かれる.
閉区間で定義された関数はにおける個の点でであり,かつで階微分可能であるとする.このときを満たすが存在する.
どの2つも相異なる個の実数についてであるとする.に対し,とおく.関数はで連続かつで微分可能なので,平均値の定理により
を満たすが存在する.これにより,個の実数をの値がであるように取れる.この項数列をとする.
同様に,に対して,とおく.再び平均値の定理により
を満たすが存在する.により,さきほどと同様に項数列を定義する.
以下,これを繰り返すことによって数列を定義する.は項数列であり,その項に現れる任意の数はを満たす.よって,特にのときは項をただ1つもち,その項はを満たす.
以上の補題により,定理4は次のように証明される.
のときはであるから,は区間上の任意の値にしてよい(たとえばとすればよい).そこで,がのいずれとも等しくない場合について示す.
とおく.ただしはであるように取る.すなわち
とする.
のときであり,かつ関数は仮定により階微分可能である.よって,補題5によりを満たすが存在する.ここで
である.の次数は最大でもなのでであり
となる.したがって
である.後半は明らか.
誤差評価の例
の近似値を求めよう.数表により,近似値
が分かっているとする.このとき,点に関する補間多項式はである.よって
となる.
sin(πx/180)とp(x)の比較
この近似の妥当性を考える.定理4,および
により
である.これは利用した近似値の有効数字である桁よりも十分に小さいので,は有効数字桁で正しいと考えられる.実際,なので,確かに有効数字桁で正しい値が得られている.また,有効数字桁の数表に基づく限り,補間多項式の次数をこれ以上増やす必要は無いことも分かる.
[1]
堀之内 總一 and 酒井 幸吉 and 榎園 茂, Cによる数値計算法入門, 森北出版, 2015
[2]
金谷 健一, 数値で学ぶ計算と解析, 共立出版, 2010
[3]
菊地 文雄, 数値解析の原理: 現象の解明をめざして, 岩波数学叢書, 岩波書店, 2016
[4]
高橋 大輔, 数値計算, 理工系の基礎数学;8, 岩波書店, 2018