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大学数学基礎解説
文献あり

高校数学から始める数値計算(3):ルンゲ現象・補間多項式とテイラー多項式の関係

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目次

本稿は「5. 補遺」に当たります.なお,本稿はこの PDF版 を元に,Mathlogの仕様に合わせて一部の文言・体裁を変更したものです.内容は変わりません.

  1. はじめに
  2. 補間多項式
    1. ラグランジュ補間
    2. ニュートン補間
    3. 補間多項式による近似の誤差
  3. 数値微分
  4. 数値積分
    1. ニュートン・コーツの公式
    2. ガウス・ルジャンドル公式
  5. 補遺
    1. ルンゲ現象
    2. 補間多項式とテイラー多項式の関係

ルンゲ現象

定理1.4 の状況で,f(x)=(25x2+1)1のときを考える.
xi=1+2i1n1(i=1,,n)
とおき,pn(x)を点(x1,f(x1)),,(xn,f(xn))に関する補間多項式としたとき,その様子は下図のようになる.

ルンゲ現象 ルンゲ現象

図によれば,補間多項式が通るべき点の個数nを増やすほど,pn(x)f(x)からかけ離れている.その様子は特にx=±1付近で顕著である.このような現象をルンゲ現象という.

ルンゲ現象により,ニュートン・コーツの公式においてただ次数を増やしても,積分の近似値は改良されないと考えられる.複合台形則,複合シンプソン則などが利用されるのはこのためである.

ルンゲ現象を回避するには,補間多項式が通るべき点のx座標をチェビシェフノード
xi=cos(2i12nπ)(i=1,,n)
にすると良いことが知られている[1].このとき,n=9の下で補間多項式p(x)は下図のようになる.確かにx=±1付近における振動が抑制されていることが分かる.

チェビシェフノードを利用した補間多項式 チェビシェフノードを利用した補間多項式

補間多項式とテイラー多項式の関係

この節では,補間多項式がテイラー多項式の近似と見なせることを述べる.

tのまわりでn階微分可能な関数f(x)に対して,次の多項式をn次のテイラー多項式という.
pn(x)=k=0nf(k)(t)k!(xt)k=f(t)+f(t)(xt)++f(n)(t)n!(xt)n

関数f(x)が点tのまわりでテイラー展開可能であるとは,定義域における任意のx
f(x)=limnpn(x)=n=0f(n)(t)n!(xt)n
が成立することをいい,この級数で元の関数を表現することをテイラー展開という.

一般には,関数が何回でも微分可能であってもテイラー展開可能とは限らない.しかし,実用上よく表れる関数はしばしばテイラー展開可能である.たとえば,関数cosx,sinx,exは定義域における任意の点でテイラー展開可能である.

まずn=2のときについて考える.2次のテイラー多項式
p2(x)=f(t)+f(t)(xt)+f(t)2(xt)2
について,この式に表れる微分係数を
f(t)f(t+h)f(t)h,f(t)(f(t+h)f(t))h1(f(t)f(th))h1h
のように,十分小さなhで近似することを考える.この近似は次のように書き換えられる.
f(t)f[t+h,t],f(t)2f[t+h,t]f[t,th](t+h)(th)=2f[t+h,t,th]

すると,これをp2(x)に代入すれば
p2(x)f(t)+f[t,th](xt)+f[t+h,t,th](xt)2
となり,さらに,hが十分小さければx(t+h)xtであるので
p2(x)f(t)+f[t+h,t](x(t+h))+f[t+h,t,th](x(t+h))(xt)
である. 定理1.3 により,右辺は点(th,f(th)),(t,f(t)),(t+h,f(t+h))に関する補間多項式である.

以下では一般のnについても,補間多項式がテイラー多項式の近似と見なせることを示す.

差商に対する平均値の定理

実数x1,,xn+1はどの2つも相異なるとし,x1,,xn+1の中で最小のものをm,最大のものをMとおく.また,関数f(x)は区間I=[m,M]n階微分可能であるとする.このとき,次式を満たすξ(m,M)が存在する.
f[x1,,xn+1]=f(n)(ξ)n!

(x1,f(x1)),,(xn+1,f(xn+1))に関する補間多項式をp(x)とおくと,関数g(x)=f(x)p(x)x1,,xn+1を零点に持つ.したがって, 補題1.5 によりg(n)(ξ)=0を満たすξ(m,M)が存在する.ここで,p(x) 定理1.3 により
p(x)=f(x1)+k=1nf[x1,,xk+1](xx1)(xxk)
と表せる.よってp(n)(x)=f[x1,,xn+1]n!であり
f(n)(ξ)f[x1,,xn+1]n!=0f[x1,,xn+1]=f(n)(ξ)n!
が成立する.

なお,関数f(x)の零点とはf(α)=0を満たす値αのことである.

関数f(x)はある開区間I˚n階微分可能かつ,n次導関数f(n)(x)I˚で連続とする.t=xn+1I˚をある定数とし,実数s=x1I˚s<tを満たすとする.J=[s,t]とおく.n個の実数x1,,xnJはすべてsの関数であり,任意のsについてx1,,xn+1はどの2つも相異なるものとする.

(x1,f(x1)),,(xn+1,f(xn+1))に関する補間多項式をp(x)とおくと,p(x)
p(x)=f(x1)+k=1nf[x1,,xk+1](xx1)(xxk)
と書ける.定理1により,各f[x1,,xk+1]に対して
f[x1,,xk+1]=f(k)(ξk)k!
を満たすξkJが存在する.

関数f(k)(x)は閉区間Jで連続なので,Jにおける最小値mk,最大値Mkが存在する.また,f(k)(x)I˚で連続なのでmk,Mkf(k)(t)(st0)である.よって,はさみうちの原理により
f[x1,,xk+1]f(k)(t)k!(st0)
が成り立つ.したがって,任意の実数xについて
p(x)=f(x1)+k=1nf[x1,,xk+1](xx1)(xxk)f(t)+k=1nf(k)(t)k!(xt)k(st0)
である.これによりp(x)pn(x)(st0)であるので,stが十分に近ければp(x)pn(x)であり,補間多項式をテイラー多項式の近似と見なせることが確かめられた.

参考文献

[1]
堀之内 總一 and 酒井 幸吉 and 榎園 茂, Cによる数値計算法入門, 森北出版, 2015
[2]
金谷 健一, 数値で学ぶ計算と解析, 共立出版, 2010
[3]
菊地 文雄, 数値解析の原理: 現象の解明をめざして, 岩波数学叢書, 岩波書店, 2016
[4]
高橋 大輔, 数値計算, 理工系の基礎数学;8, 岩波書店, 2018
投稿日:2021511
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数学、特に応用数学が好きです。Mathlogでは主に、数学とプログラミングを絡めたようなことを書けたらいいなと思っています。

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