目次
本稿は「5. 補遺」に当たります.なお,本稿はこの
PDF版
を元に,Mathlogの仕様に合わせて一部の文言・体裁を変更したものです.内容は変わりません.
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はじめに
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補間多項式
- ラグランジュ補間
- ニュートン補間
- 補間多項式による近似の誤差
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数値微分
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数値積分
- ニュートン・コーツの公式
- ガウス・ルジャンドル公式
- 補遺
- ルンゲ現象
- 補間多項式とテイラー多項式の関係
ルンゲ現象
定理1.4
の状況で,のときを考える.
とおき,を点に関する補間多項式としたとき,その様子は下図のようになる.
ルンゲ現象
図によれば,補間多項式が通るべき点の個数を増やすほど,はからかけ離れている.その様子は特に付近で顕著である.このような現象をルンゲ現象という.
ルンゲ現象により,ニュートン・コーツの公式においてただ次数を増やしても,積分の近似値は改良されないと考えられる.複合台形則,複合シンプソン則などが利用されるのはこのためである.
ルンゲ現象を回避するには,補間多項式が通るべき点の座標をチェビシェフノード
にすると良いことが知られている[1].このとき,の下で補間多項式は下図のようになる.確かに付近における振動が抑制されていることが分かる.
チェビシェフノードを利用した補間多項式
補間多項式とテイラー多項式の関係
この節では,補間多項式がテイラー多項式の近似と見なせることを述べる.
点のまわりで階微分可能な関数に対して,次の多項式を次のテイラー多項式という.
関数が点のまわりでテイラー展開可能であるとは,定義域における任意ので
が成立することをいい,この級数で元の関数を表現することをテイラー展開という.
一般には,関数が何回でも微分可能であってもテイラー展開可能とは限らない.しかし,実用上よく表れる関数はしばしばテイラー展開可能である.たとえば,関数は定義域における任意の点でテイラー展開可能である.
まずのときについて考える.次のテイラー多項式
について,この式に表れる微分係数を
のように,十分小さなで近似することを考える.この近似は次のように書き換えられる.
すると,これをに代入すれば
となり,さらに,が十分小さければであるので
である.
定理1.3
により,右辺は点に関する補間多項式である.
以下では一般のについても,補間多項式がテイラー多項式の近似と見なせることを示す.
差商に対する平均値の定理
実数はどの2つも相異なるとし,の中で最小のものを,最大のものをとおく.また,関数は区間で階微分可能であるとする.このとき,次式を満たすが存在する.
点に関する補間多項式をとおくと,関数はを零点に持つ.したがって,
補題1.5
によりを満たすが存在する.ここで,は
定理1.3
により
と表せる.よってであり
が成立する.
なお,関数の零点とはを満たす値のことである.
関数はある開区間で階微分可能かつ,次導関数はで連続とする.をある定数とし,実数はを満たすとする.とおく.個の実数はすべての関数であり,任意のについてはどの2つも相異なるものとする.
点に関する補間多項式をとおくと,は
と書ける.定理1により,各に対して
を満たすが存在する.
関数は閉区間で連続なので,における最小値,最大値が存在する.また,はで連続なのでである.よって,はさみうちの原理により
が成り立つ.したがって,任意の実数について
である.これによりであるので,とが十分に近ければであり,補間多項式をテイラー多項式の近似と見なせることが確かめられた.
[1]
堀之内 總一 and 酒井 幸吉 and 榎園 茂, Cによる数値計算法入門, 森北出版, 2015
[2]
金谷 健一, 数値で学ぶ計算と解析, 共立出版, 2010
[3]
菊地 文雄, 数値解析の原理: 現象の解明をめざして, 岩波数学叢書, 岩波書店, 2016
[4]
高橋 大輔, 数値計算, 理工系の基礎数学;8, 岩波書店, 2018