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大学数学基礎解説
文献あり

リーマン予想と同値な等式

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はじめに

 この記事ではリーマン予想と同値な等式
012112t2(1+4t2)3log|ζ(σ+it)|dσdt=π(3γ)32
について解説していきます。ただしγはオイラー定数γ=limn(k=1n1klogn)としました。

リーマン予想を数式で表すカラクリ

 そもそもどうやって「ゼータ関数の非自明な零点の虚部は全て12である」という主張が数式に言い換えれるのでしょうか。そのカラクリは不等式の等号成立条件にあります。
 具体的には
ρRe(ρ)|ρ|2
という級数を考えたとき、リーマン予想が真であるとすると
ρRe(ρ)|ρ|2=ρ12|ρ|2
が成り立ちます。実は逆にリーマン予想が偽であるとき
ρRe(ρ)|ρ|2<ρ12|ρ|2
が成り立つことがわかるのでこの間に等号が成り立つこととリーマン予想が真であることが同値になるのです。
 とは言ってもこのままだといまいちパッとしません。どうしてこんな級数を考えるのか、その理由はゼータ関数の因数分解公式
ζ(s)=1s1exp(logπ+γ2slog2)ρ(1sρ)n=1(1+s2n)es2n
にあります。この公式を対数微分しs=0を代入することで
ζ(0)ζ(0)=1+logπ+γ2ρ1ρ
という式が得られます。この左辺の値は別途log2πとなることがわかるので
ρ1ρ=1+γ2log4π2
というように求めることができるというのです。また
ρ1ρ=12(ρ1ρ+ρ1ρ)=ρρ+ρ2|ρ|2=ρRe(ρ)|ρ|2
と変形できるので
ρ1|ρ|2=2+γlog4π
が成り立つこととリーマン予想が真であることが同値になります。
 そして
ρ12|ρ|2=0N(t)32t(4t2+1)2dt
と表せることや
N(T)=1T2πlogπ+1πImlogΓ(14+iT2)+1πargζ(12+iT)
が成り立つことを使ってなんやかんやすることで
012112t2(1+4t2)3log|ζ(σ+it)|dσdt=π(3γ)32
が成り立つこととリーマン予想が真であることが同値だということがわかる。といった具合になります。
 では、以下で詳細な証明を見ていきましょう。

不等式の証明

 まず
リーマン予想が真ρRe(ρ)|ρ|2=ρ12|ρ|2
を示す。これについては
ρRe(ρ)|ρ|2=Im(ρ)>0(Re(ρ)|ρ|2+Re(1ρ)|1ρ|2)
であることから
Re(ρ)|ρ|2+Re(1ρ)|1ρ|212|ρ|2+12|1ρ|2
すなわち以下の不等式を示せば十分である。

 0x1において
xx2+y2+1x(1x)2+y212x2+y2+12(1x)2+y2
が成り立つ。ただし等号成立条件はx=12である。

対称性(x1x)より0x12としてよい。このときx1xに注意すると
(右辺)(左辺)=(12x)(1x2+y21(1x)2+y2)(12x)(1(1x)2+y21(1x)2+y2)=0
がわかる。ただし等号成立条件はx=1x、つまりx=12である。

 ただ以下での議論ではもう少し強い主張
リーマン予想が真ρRe(ρ)|ρ|2=ρ12122+Im(ρ)2
を示す必要がある。これについては以下の不等式を示せば十分である。

 0x1,|y|>1において
xx2+y2+1x(1x)2+y2212122+y2
が成り立つ。ただし等号成立条件はx=12である。

f(x)=xx2+y2
と置いたとき
f(x)=y2x2(x2+y2)2f(x)=2x(x2+y2)+4x(y2x2)(x2+y2)3=2x(3y2x2)(x2+y2)3
なので3y2x2>31>0よりf(x)<0となる。
 またF(x)=f(x)+f(1x)とおいたとき、F(x)=f(x)+f(1x)<0なので以下の増減表により主張を得る。
x0121F(x)f(1)2f(12)f(1)F(x)+0

 ちなみにminρ|Im(ρ)|=14.1347(出典)なので|y|>1という条件は特に気にする必要はない。

級数の変形

 以上より
リーマン予想が真ρRe(ρ)|ρ|2=ρ24Im(ρ)2+1
が示された。次にこの右の命題の両辺を変形していく。

ρRe(ρ)|ρ|2=1+γ2log2logπ2

  この記事 の補題10として示した。

N(T)=0<Im(ρ)T1
とおくと
ρ24Im(ρ)2+1=0N(t)32t(4t2+1)2dt
が成り立つ。

ρ24Im(ρ)2+1=Im(ρ)>0(24Im(ρ)2+1+24Im(ρ)2+1)=Im(ρ)>044Im(ρ)2+1=Im(ρ)>0[44t2+1]t=Im(ρ)t==Im(ρ)>0Im(ρ)32t(4t2+1)2dt=0(0<Im(ρ)t1)32t(4t2+1)2dt=0N(t)32t(4t2+1)2dt
とわかる。

積分の計算

 いま この記事 で紹介したように
N(T)=1T2πlogπ+1πImlogΓ(14+iT2)+1πargζ(12+iT)
が成り立っていたので
0N(t)32t(4t2+1)2dt
における各項を計算していく。

1,2項の計算

0(1t2πlogπ)32t(4t2+1)2dt=4logπ2

0(1t2πlogπ)32t(4t2+1)2dt=[(1t2πlogπ)44t2+1]0logπ2π044t2+1dt=4logπ2π[2arctan(2t)]0=4logπ2
とわかる。

3項の計算

 まず部分積分する。
Im(0logΓ(14+it2)32t4t2+1dt)=Im([logΓ(14+it2)44t2+1]0+i20Γ(14+it2)Γ(14+it2)44t2+1dt)=Re(0Γ(14+it2)Γ(14+it2)24t2+1dt)
ここでガンマ関数の因数分解公式
1Γ(s)=seγsn=1(1+sn)esn
を対数微分することで
Γ(s)Γ(s)=γ1sn=1(1s+n1n)
がわかるのでこの各項を積分していく。

024t2+1dt=π2

024t2+1dt=[arctan(2t)]0=π2
とわかる。

0114+it224t2+1dt=π2i

02(14+it2)(4t2+1)dt=20(24t2+12(2ti)2)dt=2[arctan(2t)+12ti]0=π2i
とわかる。

02(14+it2+n)(4t2+1)dt=π2n+1log(4n+1)2n(2n+1)i

02(14+it2+n)(4t2+1)dt=1n(2n+1)0(12it+4n+1+2it4n14t2+1)dt=1n(2n+1)[12ilog(2it+4n+1)+i4log(4t2+1)4n+12arctan(2t)]0=1n(2n+1)([14ilog((2it+4n+1)24t2+1)]04n+14π)=14n(2n+1)(1i(iπ2log(4n+1))(4n+1)π)=π2n+1log(4n+1)2n(2n+1)i
とわかる。

 以上より
Re(0Γ(14+it2)Γ(14+it2)24t2+1dt)=γπ2πn=1(π2n+1π2n)=π(γ2+n=1(1)n1n)=π(γ2+log2)
を得る。

4項の計算

 まず部分積分する。
0argζ(12+it)32t(4t2+1)2dt=320(0targζ(12+is)ds)112t2(4t2+1)3dt
ここで出てきた
S1(T)=0Targζ(12+it)dt
を次の補題を使って変形していく。

 Re(z)=α,βおよびIm(z)=0,Tによって囲まれる長方形Sの周上で正則な関数ϕ(z)について、SRe(z)>σにおけるϕ(z)の(重複度込みの)零点の個数と極の個数の差をν(σ)とおくと
Slogϕ(z)dz=2πiαβν(σ)dσ
が成り立つ。

Slogϕ(z)dz=(αβ+ββ+iT+β+iTα+iT+α+iTα)logϕ(z)dz=αβ(logϕ(σ)logϕ(σ+iT))dσ+0T(logϕ(β+it)logϕ(α+it))idt
において、この二項目は
0Tαβϕ(σ+it)ϕ(σ+it)dσidt=αβσσ+iTϕ(z)ϕ(z)dzdσ
と変形でき、更に偏角の原理より
(σβ+ββ+iT+β+iTσ+iT+σ+iTσ)ϕ(z)ϕ(z)dz=2πiν(σ)
つまり
σσ+iTϕ(z)ϕ(z)dz=(σβ+ββ+iTσ+iTβ+iT)ϕ(z)ϕ(z)dz2πiν(σ)=logϕ(σ+iT)logϕ(σ)2πiν(σ)
がわかるので
Slogϕ(z)dz=αβ(logϕ(σ)logϕ(σ+iT))dσ+αβ(logϕ(σ+iT)logϕ(σ)2πiν(σ))dσ=2πiαβν(σ)dσ
を得る。

0S1(t)112t2(4t2+1)3dt=012112t2(4t2+1)3log|ζ(σ+it)|dσdt

 上の補題においてϕ(z)=ζ(z),α=12として両辺の実部を取ることで
12β(log|ζ(σ)|log|ζ(σ+iT)|)dσ0T(argζ(β+it)argζ(12+it))dt=0
つまり
S1(T)=12β(log|ζ(σ+iT)|log|ζ(σ)|)dσ+0Targζ(β+it)dt
が成り立つ。そしてβにおいてargζ(β+it)arg1=0に注意すると
S1(T)=12(log|ζ(σ+iT)|log|ζ(σ)|)dσ
と表せる。
 さらに
012112t2(4t2+1)3log|ζ(σ)|dσdt=12[t(4t2+1)2]0log|ζ(σ)|dσ=0
に注意すると
0S(t)112t2(4t2+1)3dt=012112t2(4t2+1)3log|ζ(σ+it)|dσdt
を得る。

まとめ

 以上により
0N(t)32t(4t2+1)2dt=(4logπ2)(γ2+log2)32π012112t2(4t2+1)3log|ζ(σ+it)|dσdt
がわかり、そしてこれを整理すると
1+γ2log2logπ2=4γ2log2logπ232π012112t2(4t2+1)3log|ζ(σ+it)|dσdt3γ=32π012112t2(4t2+1)3log|ζ(σ+it)|dσdtπ(3γ)32=012112t2(4t2+1)3log|ζ(σ+it)|dσdt
となるので以下の主張を得る。

(Volchkov)

012112t2(1+4t2)3log|ζ(σ+it)|dσdt=π(3γ)32
が成り立つこととリーマン予想が真であることは同値である。

参考文献

[1]
V. V. Volchkov, On an equality equivalent to the Riemann hypothesis, Ukrainian Mathematical Journal, 1995, pp.491-493
[2]
E. C. Titchmarsh, The Theory Of The Riemann Zeta-Function, Oxford University Press, 1987, pp.220-221
投稿日:2021922
更新日:2024124
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. リーマン予想を数式で表すカラクリ
  3. 不等式の証明
  4. 級数の変形
  5. 積分の計算
  6. $1,2$項の計算
  7. $3$項の計算
  8. $4$項の計算
  9. まとめ
  10. 参考文献