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大学数学基礎解説
文献あり

非自明な零点の推定

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はじめに

 この記事では 前回の記事 の補足としてゼータ関数の非自明な零点の挙動について解説していきます。
 この記事の目標は前回の記事では詳しく触れなかった近似公式

|Im(ρ)|x21|ρ|=O(log2x),||Im(ρ)|>x2xρρ|=O(log2x)
が成り立つ。ただしρはゼータ関数の非自明な零点全体を渡るものとし、特に無限和の場合は虚部の絶対値が小さい順に渡るものとした。

を示すことにあります。
 いま非自明な零点のことを知るためには、素数のことを知るためにπ(x)の挙動を分析したように
N(T)=0<Im(ρ)T1
の挙動を分析するのが効果的になります。そしてπ(x)には(リーマン予想が真のとき)
π(x)=Li(x)+O(xlogx)
という近似式があったようにN(T)にも

N(T)=T2πlogT2πT2π+O(logT)

という近似式があります。ここではまずこの近似式の証明を行っていきます。

証明のあらすじ

ξ(s)=12s(s1)πs2Γ(s2)ζ(s)
とおき、C1±iT,2±iTを頂点とする長方形を反時計回りに回る経路とすると偏角の原理により
2N(T)=12πiCdlogξ(s)dsds=12π[argξ(s)]C
が成り立つ。
 これはξの持つ対称性より経路
L:22+iT12+iT
を用いて
πN(T)=π+[argπs2]L+[argΓ(s2)]L+[argζ(s)]L
と表せることがわかる。
 あとはこれの各項を計算することで
[argπs2]L=12Tlogπ[argΓ(s2)]L=T2logT2π8T2+O(1T)[argζ(s)]L=O(logT)
となることがわかるので
N(T)=T2πlogT2πT2π+O(logT)
が得られることとなる。

補題その1

 先に[argζ(s)]Lを評価する際に使う補題をいくつか示しておく。

 f|zz0|Rにおいて正則で、|zz0|r<Rにおいて少なくともn個の零点(重複度込み)を持つ関数とする。このとき
(Rr)nM|f(z0)|
が成り立つ。ただしM=max|zz0|=R|f(z)|とした。

 適当な平行移動によってz0=0であるものとしてよい。いまf|z|rにおいて持つn個の零点をa1,a2,,anとし
g(z)=f(z)k=1nR2akzR(zak)
とおく。このときg|z|Rにおいて正則であり、|z|=Rにおいて
|g(z)|=|f(z)|k=1n|zzakz|z|(zak)|=|f(z)|
が成り立つので
|g(0)|max|z|R|g(z)|=max|z|=R|g(z)|=M
となる(cf. 最大絶対値の原理)。よって
|f(0)|=|g(0)|k=1n|ak|RM(rR)n
を得る。

(短証明)

  ポアソン・イェンゼンの公式 のVer. 2から
log|f(0)|=α:zeros|α|<Rlog|α|R+12π02πlog|f(Reiθ)|dθα:zeros|α|rlog|α|R+logMnlogrR+logM
とわかる。

補題その2

アーベルの総和公式

 数列{an}C1級関数f(x)についてA(x)=Nnxanとおいたとき、
Nnxanf(n)=A(x)f(x)NxA(t)f(t)dt
が成り立つ。

Nnxanf(n)=Nnxan(f(x)nxf(t)dt)=A(x)f(x)Nx(Nntan)f(t)dt=A(x)f(x)NxA(t)f(t)dt
とわかる。

 xの小数部分をxとおくと、任意のX>1に対し
ζ(s)=1nX1ns+1(s1)Xs1+XXssXxxs+1dx
Re(s)>0において成り立つ。

1nx1=x=xx
に注意するとアーベルの総和公式から
1nX1ns=XXXs+s1Xxxxs+1dx=(1Xs1XXs)+(ss1s(s1)Xs1)s1Xxxs+1dx=ss11(s1)Xs1XXss1Xxxs+1dx()
が成り立つので
ζ(s)=1nX1ns+(1n1ns1nX1ns)=1nX1ns+1(s1)Xs1+XXssXxxs+1dx
を得る。
 またx1に注意するとこの右辺の積分は
|1xxs+1|11xRe(s)+1dx=1Re(s)
Re(s)>0で収束するのでこの等式自体もRe(s)>0で成立することになる(cf. 一致の定理)。

 s=σ+itとおいたとき、σ1/4,t1において
|ζ(s)|<403t34
が成り立つ。

 任意に0<δ<1を取りσδ,t1すると|s|σ+t,|s1|tに注意すれば
|ζ(s)|=|1nX1ns+1(s1)Xs1+XXssXxxs+1dx|1nX1nσ+1tXσ1+1Xσ+(σ+t)X1xσ+1dx1nX1nδ+1Xδ1+1Xδ+(1+tσ)1Xσ0Xdxxδ+X1δ+(2+tδ)1XδX1δ1δ+X1δ+3tδ1Xδ
と評価できるのでX=tとすると
|ζ(s)|<(11δ+1+3δ)t1δ(σδ,t1)
が得られる。
 特にδ=14としたとき
|ζ(s)|<403t34(σ14,t1)
を得る。

N(T)の近似公式

 経路L
L:22+iT12+iT
によって定めると
πN(T)=π+[argπs2]L+[argΓ(s2)]L+[argζ(s)]L
が成り立つ。

 証明のあらすじにて解説したようにC1±iT,2±iTを頂点とする長方形を反時計回りに回る経路とすると
4πN(T)=[argξ(s)]C
が成り立つ。このとき経路Lに対して変換z1z,z,1zを施したものをそれぞれ1L,L,1Lとおくと経路C
C=L(1L)+(1L)L
と表せることに注意する。
 ここでξ(s)=12s(s1)ϕ(s)と分けるとs=0,1Cの内部にあるので
[arg(s(s1))]=4π
と計算でき、またϕϕ(1s)=ϕ(s)およびϕ(s)=ϕ(s)を満たすので
[argϕ(s)]1L=[argϕ(1s)]L=[argϕ(s)]L[argϕ(s)]L1=[argϕ(s)]L=[argϕ(s)]L=[argϕ(s)]L[argϕ(s)]1L=[argϕ(1s)]L=[argϕ(s)]L=[argϕ(s)]L
つまり
[argϕ(s)]C=[argϕ(s)]L[argϕ(s)]1L+[argϕ(s)]1L[argϕ(s)]L=4[argϕ(s)]L
と変形できる。
 したがってϕ(s)=πs2Γ(s2)ζ(s)であったことから
πN(T)=π+[argϕ(s)]L=π+[argπs2]L+[argΓ(s2)]L+[argζ(s)]L
を得る。

[argπs2]L=T2logπ

 argz=Im(logz)に注意すると
[argπs2]L=[Im(s)2logπ]212+iT=T2logπ
と計算できる。

[argΓ(s2)]L=T2logT2T2π8+O(1T)

 ガンマ関数に対するスターリングの公式
logΓ(z)=(z12)logzz+12log2π+O(1|z|)
に注意すると
[argΓ(s2)]L=Im(logΓ(14+iT2))Im(logΓ(1))=Im((14+iT2)log(14+iT2)(14+iT2)+12log2π+O(1T))=T2log|14+iT2|14arg(14+iT2)T2+O(1T)
と評価できる。
 また
log(14+iT2)logiT2=log(1+12iT)=12iT+O(1T2)
つまりこの実部虚部を取ることで
log|14+iT2|=logT2+O(1T2)arg(14+iT2)=π2+O(1T)
が成り立つことに注意すると主張を得る。

[argζ(s)]L=O(logT)

 mを経路L上でRe(ζ(s))0になる回数とし、LRe(ζ(s))=0となるような点で分割したものをL0,L1,,Lmとおくと、各LkにおいてRe(ζ(s))の符号は変わらないので
|[argζ(s)]Lk|π
と評価できる。つまり
|[argζ(s)]L|k=0m|[argζ(s)]Lk|(m+1)π
が成り立つ。また
Re(ζ(2+it))=1+n=2cos(tlogn)n21n=21n2(=2π26=0.355065)11222dxx2=14
なのでRe(ζ(s))は経路22+iT上では0にならず、したがってRe(ζ(s))は経路2+iT12+iT上でm0になることに注意する。
 いま
g(s)=12(ζ(s+iT)+ζ(siT))
とおくと、g12<s<2においてg(s)=Re(ζ(s+iT))となるのでm個の零点を持ち、つまり|s2|32において少なくともm個の零点を持つことになる。またgs=1±iTを除いて正則なのでT>3ならば|s2|74において正則であると言える。よってz0=2,R=74,r=32について補題3が適用でき
(76)mmax|s2|=74|g(s)||g(2)|
がわかる。
 そしてT>3ならば|Im(s)||s2|74においてRe(s)14かつ1<374|Im(s)±T|T+74なので
|ζ(s±iT)|403|Im(s)±T|34403(T+74)34=O(T)
つまり|g(s)|=O(T)と評価でき、また
|g(2)|=|Re(ζ(2+iT))|14
であったので結局
(76)mmax|s2|=74|g(s)||g(2)|=O(T)
即ち
|[argζ]L|(m+1)π=O(logT)
を得る。

まとめ

 以上により
N(T)=1π(π+[argπs2]L+[argΓ(s2)]L+[argζ(s)]L)=1T2πlogπ+(T2πlogT2T2π18+O(1T))+O(logT)=T2πlogT2πT2π+O(logT)
を得る。

零点の挙動

 さて、これからは上で得られた近似公式から一体何が得られるのかを見ていこう。

 任意のh>0に対しN(T+h)N(T)=O(logT)が成り立つ。

P(t)=t2π(logt2π1)
とおくと、平均値の定理よりある0<θ<1が存在して
P(T+h)P(T)=h2πlogT+θh2π=O(logT)
が成り立つので
N(T+h)N(T)=P(T+h)P(T)+O(logT)=O(logT)
を得る。

0<Im(ρ)T1|ρ|=O(log2T),Im(ρ)>T1|ρ|2=O(logTT)
が成り立つ。

sm=m<Im(ρ)m+11|ρ|,sm=m<Im(ρ)m+11|ρ|2
とおいたとき、|z|Im(z)に注意すると定理11から
smN(m+1)N(m)m=O(logm)msmN(m+1)N(m)m2=O(logm)m2
と評価できるので
0<Im(ρ)T1|ρ|0mTsm=O(2mTlogmm)=O(1TlogTxdx)=O(log2T)Im(ρ)>T1|ρ|2m>T1sm=O(m>T1logmm2)=O(T2logxx2dx)=O([1x(logx+1)]T2)=O(logTT)
を得る。

 非自明な零点のうち虚部が正のものをその虚部の小さい順にρ1,ρ2,ρ3,とおくと
|ρn|2πnlogn
が成り立つ。

 γn=Im(ρn)とおくと
N(T)=T2πlogT2πT2π+O(logT)T2πlogT
より
2πN(γn±1)(γn±1)log(γn±1)γnlogγn
が成り立つので
N(γn1)<nN(γn+1)
に注意すると2πnγnlogγnを得る。
 またこれの対数を取ることで
lognlogγn+loglogγnlogγn
が成り立つので
γn2πnlogγn2πnlogn
を得る。
 あとは0<Re(ρn)<1よりγn<|ρn|<γn+1に注意すると
|ρn|γn2πnlogn
を得る。

 ちなみにこの類似としてπ(x)xlogxからpnnlognが得られたりします。

おわりに

 今回の記事では
|Im(ρ)|x21|ρ|=O(log2x2)=O(log2x)
であること(定理12)は示しましたが
||Im(ρ)|>x2xρρ|=O(log2x)
であることまでは示しませんでした。というのも本当はこれについてもこの記事で示すつもりだったのですが、いざその証明と向き合ってみるにその煩雑さとその長さにげんなりしてしまったので一旦諦めることにしました。また気力があれば解読して記事にしたいと思いますがあまり期待はしないでおいてください。興味があれば参考文献のpp.71-80およびp.83を読んでみるといいと思います。
 とりあえず今回の記事はこんなところで。では。

追記

||Im(ρ)|>x2xρρ|=O(log2x)
の証明についておおよその流れは理解できたのでそのことについて簡単に書き散らしておきます。
 まず チェビシェフ関数の素数公式
ψ(x)=12πiσiσ+iζ(s)ζ(s)xssds=xρxρρ12log(1x2)log2π
に注意して次のような積分を考えます。

 Cq±iT,2±iTを頂点とする長方形を反時計回りに回る経路とし
J(q)=Cζ(s)ζ(s)xssds
とおくと
limqJ(q)=x|Im(ρ)|<Txρρ12log(1x2)log2π
が成り立つ。

  チェビシェフ関数の素数公式 の証明から
ζ(s)ζ(s)1s=1s1log2πsρ1ρ(sρ)+n=112n(s+2n)
が成り立っていたので留数定理より主張を得る。

 したがって
|Im(ρ)|>Txρρ=ψ(x)limqJ(q)
が成り立ち、これを
f(s)=ζ(s)ζ(s)xss
の積分の形に表すと2±iT2±i2±iT±iTの部分が残ることとなります(qiTq+iTの部分はqで潰れることは別途わかります)。
 そしてそれらの積分は次のような補題によって評価できることがわかります。

 s=σ+itとおいたとき、σ2, t1/2において
ζ(s)ζ(s)=O(log2|s|)
が成り立つ。

 これを用いると2±iT±iTにおける積分は
|2(f(σ+iT)f(σiT))dσ|Alog2|s||s|2xσdσ=Alog2|s||s|x2logxBlog2TTx2logx
と評価できます。

 c>0,x>0に対し
Δ(x,T)=12πi(cic+iciTc+iT)xssds
とおくとx1において
|Δ(x,T)|<xcπT|logx|<xcπT1+x|1x|
が成り立つ。

ζ(s)ζ(s)=pn=1logppns=n=1Λ(n)ns
(ただしΛ(n)はフォン・マンゴルト関数とした)に注意してこれを用いると2±iT2±iにおける積分は
|12πi(2i2+i2iT2+iT)f(s)ds|=n=1Λ(n)|Δ(xn,T)|<n=1Λ(n)πT(x/n)2|logxlogn|<Cx2T
のように評価できます。
 以上より
||Im(ρ)|>Txρρ|<x2T(Blog2Tlogx+C)
という評価が得られ、T=x2とすることで
||Im(ρ)|>x2xρρ|=O(logx)
がわかります。あれ?
 参考文献ではなぜか
1logx<xx1
という評価を挟んでいるためO(log2x)という結論が出ていますが、より小さくO(logx)と評価できるようにも見えます。何か仮定を見逃しているのでしょうか。
 なにはともあれ大まかな流れは合っているはずなので、詳しいことについては参考文献をご覧ください。

参考文献

[1]
A. E. Ingham, The Distribution of Prime Numbers, Cambridge University Press, 1990, pp.26-27, pp.49-50, pp.68-71
投稿日:2021831
更新日:2024124
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. 証明のあらすじ
  3. 補題その1
  4. 補題その2
  5. $N(T)$の近似公式
  6. 零点の挙動
  7. おわりに
  8. 追記
  9. 参考文献