この記事では最も有名な数学の未解決問題の一つ、だけどみなさん知ってるようで知らない「結局、リーマン予想って何なの?」という話について紹介していきます。
なおこの記事は前半部分では「リーマン予想から何がわかるのか」という話を、具体的にどういう操作によって色々な事実が取り出されるのかに重点を置いて多少端折りながら紹介し、後半部分では前半で端折った部分の補足や余談など詳細な解説をする感じの構成になっています。
まずリーマン予想とは次のような主張のことを言うのでした。
リーマンゼータ関数
これがどういうことなのか、ということについては先人たちが良い解説動画や記事を数多く残しているので皆さんも大方理解していることでしょうし、ここでは大分端折りながら説明します。
リーマンゼータ関数
と定義されます。しかしこの級数による表示では
のような表示があります(正則という条件によりこの右辺はそれぞれ同じ関数を定めることになります)。
ただし
としました(この関数
ゼータ関数は素因数分解によるオイラー積表示
によって
によって
こうして得られる零点
リーマン予想はこの非自明な零点の実部が全て
ちなみにこの非自明な領域
これは個人的な感覚なのですが、ゼータ関数は
という
リーマン予想の主張を見ただけでは「で、この妙な関数の零点が一直線に並んでるとして、何なの?」と思うことかと思います。それでもってまた「リーマン予想は素数の分布を明らかにする」だとか「素数の法則を示す」だとかいった話も耳にしたことがあると思います。そうして出てくる「一体何がどうなってあの妙な関数の零点が素数なんてものに繋がるんだ?!」という疑問の真相を以下で解き明かしていこうと思います。
ゼータ関数と素数の関係を語るうえでまず次の式は紹介しなくてはなりません。
この式はゼータ関数のオイラー積表示と言って、ゼータ関数が素数の関数の積に分解されているのが見て取れます。この式は上でも見たように素因数分解のアイデアから容易に導かれるシンプルな式ではあるのですが、実はこの式がゼータ関数と素数の関係の全てを物語っています。しかしこのままではその関係がはっきりとは見えないので少し変形していきましょう。
まず積のままでは扱いにくいので対数を取って和の形に分解して色々変形していきます。
まあまあややこしい見た目になりましたが
とおくことで
と書き換えることができます。これはゼータ関数から素数の情報を抜き出すために非常に重要な式となっています。と言われても、この式を見ただけじゃゼータ関数が依然として素数の関数を使って表されているのはわかっても、全然素数の情報を抜き出せる気がしません。一体どういうことなのでしょうか。
とりあえず先の式の積分を少し変形してみましょう。
ちょっとややこしいですが、この右辺は
という形になっています。見たことある人はあると思いますが、これはフーリエ変換と言って
となるとさっきの積分からは
大分らしくなってきましたね。こうしてゼータ関数から素数の情報を引き出す式が作れましたが、この式ではゼータ関数の
多項式
(ただし
ちょっとごちゃごちゃしていますが
と表すと少しすっきりするでしょうか。何はともあれこの式によって零点の情報からゼータ関数の情報を引き出せることがわかりました。そしてこの式と先の
さて上で示した
の形に分解されることになります。そしてそのそれぞれの因数はこの積分によって次のように変換されます。
ただし
としました。つまるところ
が成り立つというわけです。これがかのリーマンの素数公式というやつです。こうしてようやく素数とゼータ関数の零点が結びつきました!この式からリーマン予想が成り立つとなると、・・・?どうなるんでしょう。結局よくわかりませんね。この式とリーマン予想から一体何がわかるのか、もう少し議論が必要みたいです。とうことで以下でリーマン予想と
リーマンの素数公式から、ゼータ関数の非自明な零点の挙動がわかればその分
これを言い換えると、ある定数
が成り立つ。ということになります。つまるところ
ここで
(これを素数定理と言うのはまた後で話します)というのを暗黙の了解としてのことだったのですが、このことは
が成り立つことからさっきの不等式と合わせて
とわかります(なんと、リーマン予想から素数定理が示された!)。
人によっては「なんだ、それだけ?」と思う方もいるかもしれませんが、素数という非常に非自明な対象がこのような初等的で簡潔な法則を持つというのはかなり強く、また美しい主張なのではないかと思います。そしてこの近似式の興味深いところはそれだけではなく、この近似が成り立てばリーマン予想も成り立つという結果が知られていることにもあります。より正確に言うと、非自明な零点の実部が常に
が成り立つことは同値となります。それは一体どういうことなのか、以下で見ていくことにしましょう。
なお
リーマンの素数公式において最後の二項は
と非常に小さいので第一項
ここで
と近似できるので第二項は
と評価できます。このとき複雑な議論によって
が成り立つことがわかるので結局
ということになります。特にリーマン予想が成り立つときは
が成り立つというわけです。
少し話は遡りますが、
という式があったのでした。そしてまた
という関係をひっくりかえすことで
がわかります。これをさっきの式から引くと
という式が得られます。
ここで
となるような
と
以上により
また「
さてリーマン予想がどのようにして素数と関わっているのか、そしてリーマン予想は素数分布の挙動の解明に大きな役割を果たしているのだということは実感していただけたでしょうか。とはいっても上で見てもらった通りリーマン予想から素数についてわかることは(素数の持つ深さに比べて)とても多いというわけではないので、それによって素数の全てが解明されてRSA暗号が危うくなる!なんてことはないことも理解していただけたと思います。
とりあえず「リーマン予想から何がわかるのか」を紹介するというこの記事の目的は達成したので話は一旦終わりになりますが、余談として以下にもう少しお話が続きます。
上での議論により
よく知られている説によるとその関心は素数定理を示すことにあったと言われています。ここで素数定理とは
つまり
が成り立つことを言うのでした。ただ、素数定理の証明にはリーマン予想のような強い仮定は必要なく
とはいっても話は単純で
なので
となる。といった感じです。ただこの級数と極限の交換は正当化できないので厳密には少し工夫する必要があります。
リーマン予想からは
任意の
が成り立ち、またある
が成り立つ。
この定理からわかるのは誤差項
が成り立つことになりますが、リトルウッドの定理からはいかなる実数
は成り立たないということになります。このことからリーマン予想から得られる近似式はそれなりに精度が高い(気がする)こともわかるので中々に面白いですね。
またリーマン予想からわかる近似式
における
が成り立つことが知られています。つまるところ誤差項の大きさ、というより振幅は
上では
チェビシェフ関数とは
と定義される関数であり、素数計数関数
またこれはゼータ関数と
という関係を持ち、これを逆メリン変換することで
という素数公式が得られます。
と比べてみても非常に扱いやすい形となっていることがわかりますね。
リーマン予想と同値な近似式
はチェビシェフ関数
となります。この近似式もやはりリーマン予想と同値になります。
同値性については
において
が成り立ち、逆にこれが成り立てば
の右辺は
この記事では単に「リーマン予想からなにがわかるのか」を示すだけではなくて、「どうして」「どのようにして」その点と点が繋がっていくのかまで紹介することに重点を置いていた(つもりな)のですが、かといって内容が難しすぎても仕方がないので複素解析周りの議論は極力はぐらかしつつ、かといって謎を謎のまま放り投げるのも後味が悪いからあれも書こうこれも書こうと色々詰め込んだ結果、初心者向きというにはやや小難しくてまたなんだか長い記事になってしまいました。でも書きたいことは書けたので、まあいっかなと思います。自己満足のついでに誰かの役に立ってたら嬉しいなという感じで。
あと途中で「複雑な議論によって」とはぐらかしたところについては後日詳細な解説記事を書く予定です。リーマンの素数公式やゼータ関数の因数分解の導出について詳しく知りたい人は私の過去の記事などをご覧ください。
では