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大学数学基礎解説
文献あり

ゲージ対称性とは何か(4): ゲージ理論の解法の概観

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この記事は
ゲージ対称性とは何か(3):ネーターの定理まとめ&コメント
の続きです。

いかにゲージ理論を解くか

これまで見たように、ゲージ理論には一意的な時間発展が存在しません。

これは物理学の理論としては困りものです。
初期条件を与えたらその後の時間発展は定まってもらわないと困ります。

そこで以下のように考えることにします:

内在する拘束以外に、更に拘束条件を手で課すことで、ゲージ理論の時間発展を1つに定める。
このとき、手で与えた拘束条件に依存しない量のみが観測される。

「拘束条件に依存しない量」を、「ゲージ不変量」とか「観測量」と言うことにしましょう。

拘束を手で加えることで系の時間発展は一意になります。
このとき拘束の仕方にq,pの時間変化は依存してしまいます。
しかし観測量の時間発展は、その拘束の仕方に依りません。
観測量でない量の時間発展が拘束に依存しても問題ありません。

というか、そうなってないと、ゲージ理論が自然を記述することはありえません。

電磁場の時間発展を記述するU(1)ゲージ理論は、世の中で実現されているゲージ理論のひとつです。この理論ではもちろん上記のことが成り立っています。そのうち扱います。

参考文献としてRef.[1][2]を挙げておきます。

「時間発展が定まらない」の意味

もうすこし「時間発展が定まらない」ということに関して説明を加えておきます。

qi(i=1,,N)で書かれているラグランジアン
L=L(q1,,qN,q˙1,,q˙N)
があるとします。あるうまい変換
qq
が存在し、この新たな座標q(i=1,,N)を使うと、ラグランジアンが
L=L(q1,,qNR,q˙1,,q˙NR)
と書けることがあります。すなわちこの系は実はNRコの自由度で書ける系だということです。全自由度を残す書き方をすれば
L=L(q1,,qNR,qNR+1=0,,qN=0,q˙1,,q˙NR,q˙NR+1=0,,q˙N=0)
となる場合があります。

ゲージ対称性が存在するとき、このような事態が起きます。

結局、そもそもこの系はN自由度すべての時間発展を記述していないのです。
うまい変換qqがわかればそれが明らかになります。

ヘス行列の階数が自由度分だけ存在しない場合、変数変換して、ラグランジアンに現れない自由度を捨てれば、時間発展は一意的になります。
または同じことですが、内的拘束条件を用いて要らない変数を消去し、残った変数でラグランジアンを書いてもよいです。

「時間発展が一意的でない」のは、すべてのq,pの自由度を扱う立場からの話です。

しかし上のようなうまい変換qqがいつでも見つかるとは限らないし、拘束条件から変数を消すのもなかなかに面倒な作業です。
また、このような方法では、一般論を展開しにくいです。
なのでゲージ理論の時間発展を求める際には

q,pで張られた2N次元の空間全体を扱い、拘束によりR次元だけ縮減された2NR次元の空間に運動を制限する(変数を消去しない)

ことを行います。
そしてこれはのちに見るように系統的に行うことが可能です(多少面倒ですが)。

拘束系を具体例から学ぶ

前章のステートメントを、具体例で確認しましょう。

以下の例を考えます(Ref[1]P528):

L=12(xy˙x˙yx2+y2)2

この系は以下のゲージ不変性を持ちます:
(1){xx=x+ϵ(t)xx2+y2,yy=y+ϵ(t)yx2+y2

ϵ(t)は時間の任意の関数です。
実際この変換で
{x2+y2(x2+y2+ϵ)2,xy˙x˙y(xy˙x˙y)(x2+y2+ϵ)2x2+y2
となるので、上記不変性は明らかです。

これは一見複雑な変換にも見えますが、極座標に移れば明らかです。極座標におけるラグランジアンは
L(θ,θ˙)=12θ˙2
です。全自由度を残す書き方をすれば
L(θ,θ˙,r=0,r˙=0)=12θ˙2
とも書けます。このことからrr+ϵ(t)に対する系の不変性がわかります。

結局、この系はrの運動を記述しておらず、x2+y2で記述される自由度は任意になります。
よってx,yで書かれた系の運動は一意的でないことがわかります。
この理論が世界を記述するなら、θ方向の1次元運動のみが世界の真実です。
rまで含めた空間を考えたとしたら、r方向にどのような運動をしていても知ったことではありません。
これは、x,y座標において、x-y平面を俯瞰するのではなく、平面の原点に立ちその平面内で点粒子の運動を眺めているようなものです。
点粒子は遠近感がわからないため、角速度θ˙が等しい運動はこの観測者には見分けがつきません。

このように、ゲージ理論では、座標(=観測者のみる立場)をうまくとると系の運動の本質のみ抜き出せます。
これはまた
「ゲージ変換に対する同値関係による同値類の商空間を考える」
ことが、ゲージ理論を取り扱う際に重要であることを示します。

さて、このような観測者にはr方向の運動がどうであろうと同じにみえるのですから、
そちらの軌道は適当に決めてやりましょう。いわば上記商空間の代表元をとってくるようなものです。
r=1として円上の軌道を取るのが最も簡単です。
でも、もっとほかの軌道r(θ)=0でもいいです。
これを決めてやれば、ラグランジュ方程式を解いてθ(t)を求めれば、r(θ(t))も定まります。こうしてx,y座標でも運動が一意に定まります。
これがゲージ固定です。
ちなみにθ(t)の時間発展は簡単に求められ
θ(t)=at+b   (a,b)
となります。

ネーターの第2法則を確かめる

ここで以前導出したネーターの第2法則を前章の具体例で確認しておきましょう。

ここでは以前の記事と表記を一緒にするため
xq1, yq2
とします。指数と上付きindexが判別しづらいですがご容赦ください(指数の方が上に書かれる)。

Eq.(1)より
{δq1(t)=ϵ(t)ϕ1(q),δq2(t)=ϵ(t)ϕ2(q),ϕ1(q)=q1q12+q22,  ϕ2(q)=q2q12+q22,ψ,τ=0,ζ,η=0
です。以前導き出したネーターの第2定理のひとつの式
piϕαiταEζα+[L]iψαi0
に上記を入れると
p1ϕ1+p2ϕ20
となり、これは
(2)p1q1+p2q20   
を導きます。

一方、具体的な計算をすると、p1,p2
(p1p2)=1q12+q22(q22q1q2q1q2q12)(q˙1q˙2)
左から(q1q2)をかけると
p1q1+p2q2=0
がわかります。これはEq.(2)です。
ということで、ネーターの第2定理が確かめられました。

拘束系の解析は正準形式がわかりやすい

今後、拘束系・ゲージ理論を正準形式によって扱うことにします。

今まで主に扱ってきたLagrange形式は、q,q˙を用いて話が展開されています。E-L eqs.はこれらの微分が含まれるので、q¨を含みます。この2階微分方程式を解くことで時間発展が求まります。
次元がd, 粒子数がnならば、粒子の自由度はd×nであり、これらの連立方程式を解くことになります。

これに対し正準形式は、自由度を倍化します。座標と運動量q,pを独立変数だとみなし、そのかわり運動方程式も倍にします。具体的には、q,pの運動は正準方程式

正準方程式

q˙=H(q,p)p,p˙=H(q,p)q

に従います。H(q,p)はハミルトニアンと呼ばれる量で、系のエネルギーをq,pで書いたものです。
Lagrange formalismでは自由度がd×nでしたが、canonical formalismでは2×d×nです。

この形式の良い点のひとつは、方程式の左辺にしか時間の1階微分が現れないことです。
右辺に微分は現れません。
しかも左辺はq˙=,p˙=という、大変扱いやすい形になっています。
このことにより非常に見通しのよい議論を展開することができます。

すべての変数を残して議論を展開する

最初の方でも述べましたが、一般にはqのような座標を見つけたり、または拘束条件から変数を消したりするのは見通しがよくありません。特に変数を消すと対称性も見えにくくなったりします。
そもそも一般論を展開しにくいです。

そこで、このような作業を、具体的な座標変換に依存せずに議論していきます。
そのために、変数を消すのではなく、Lagrangeの未定乗数法を用いて拘束を取り入れます
運動の原理も極小問題であることから、Lagrangeの未定乗数法が使えます。

ここで、非常に大雑把に、正準理論におけるゲージ理論・拘束系の取り扱いを述べておきます:

正準形式における拘束系・ゲージ理論の取り扱いダイジェスト (HE形式)
  1. q,pに関する拘束条件ϕα(q,p)=0(第1次拘束条件と呼ばれる)を見つけ、ハミルトニアンにラグランジュの未定係数法によりこれら拘束を付加する。
  2. 時間発展で拘束条件が保たれる条件を計算する。新たに拘束が導かれる場合はそれもハミルトニアンに取り入れる。
  3. 新たな拘束条件が生まれなくなるまで2.をくりかえす。
  4. 拘束を見つけ尽くしたうえで、すべての未定係数が決定しきらない場合、それが定まるように拘束条件を手で加える。
  5. すべての未定係数が定まれば、すべての力学変数の運動が定まる。手続き終わり。

という感じです。ちなみにこれは、「第1次拘束条件だけでなく、それらの時間発展との整合性から導かれる拘束条件(第2次拘束条件)も同等に扱ってよい」という「Diracの予想」に基づいた方法の概要です。これらの拘束をLagrangeの未定乗数法でハミルトニアンに加えたものをHEと書き、この形式のことを「HE形式」と呼んだりします。

次回予告

長くなるので、今回はここまでにしておきます。
次は拘束系・ゲージ理論を扱う一般論である「Diracの方法」に関して話そうと思います。

☆次の記事: ゲージ対称性とは何か(5): Diracの方法

参考文献

[1]
山本義隆、中村孔一, 解析力学 II, 朝倉物理学大系, 朝倉書店, 1998
[2]
菅野 礼司, ゲージ理論の解析力学, 吉岡書店, 2007
投稿日:20211229
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  1. いかにゲージ理論を解くか
  2. 「時間発展が定まらない」の意味
  3. 拘束系を具体例から学ぶ
  4. ネーターの第2法則を確かめる
  5. 拘束系の解析は正準形式がわかりやすい
  6. すべての変数を残して議論を展開する
  7. 次回予告
  8. 参考文献