★この記事は「 ゲージ理論とは何か(4):ゲージ理論の解法の概観 」の続きです。力学の基本的なことに関しては「 力学の形式 」を適宜参照してください。
以下拘束系・ゲージ理論を正準形式において扱う方法を述べます。
前回お話したように、拘束系では、相空間
そこで、パラメータを消去する代わりに、
正準方程式は、物理量
を用いて
と書けます(
は拘束条件
で与えられます。
Dirac括弧を使えば、パラメータを消去せずに、運動に拘束を取り入れることができます。このような拘束系の取り扱いを「Diracの方法」と呼びます。
本記事では、この「Diracの方法」を紹介します。Dirac括弧を作る際の主な論点は、拘束条件をLagrange multiplier(ラグランジュの未定乗数法)の形でHamiltonianに導入し、その未定係数を決定する一般論を展開することです。
ひとつコメントです。以下ではいわゆる「Diracの予想」と呼ばれるものに従った、「
最初に拘束条件を取り扱う手続きを書いておきます。以下のプログラムに従えば、拘束条件つきの運動方程式を得られます:
拘束条件
を見つける。(ゲージ対称性がわかっていれば、ネーターの第2定理から
次のHamiltonian
を作る。すると、Poisson括弧
を用いて、任意の
で記述される。ここで
拘束条件は任意の時間で成立しなくてはならないから、時間発展は弱い意味でゼロでなくてはならない:
この方程式から
上記の3.を新たな拘束が生まれなくなるまで繰り返す。
こうして得られた
を定義する。すべての拘束とPoisson括弧の意味で交換する拘束条件を第1類拘束条件、そうでない拘束条件(1つでも交換しない拘束条件が存在する拘束)を第2類拘束条件とよぶ。
未定係数は(
を手で課す(ゲージ固定条件)。ただしこの条件は
でなくてはならない(そうでなければ
Dirac括弧
を定義すれば、任意の
で表される。ここで
最終的に、次の正準方程式を解けばよい:
以下Ref.[1]と[2]を元に議論します。大部分はRef.[1]に基づきます。名著ですので、場の量子論を勉強したい方はぜひお読みください(数学的には厳密ではないと思うので、数学徒には馴染めないかもしれません)。またDiracの方法に言及しているRef.[3-6]も挙げておきます。
以下のように
ゲージ変換による不変性があるとき、これは系に内在する拘束です。
さて、この拘束条件をLagrange multiplierの方法により取り入れるにはどうしたらいいでしょう。
証明はAppendix (a)に与えることにして答えを言うと、
となります。ここで
また
これらより、任意の
により
と表されます。つまりはフツーに拘束をLagrange multiplierの形でHamiltonianに取り入れればよい、ということですね。
以下、
が成立します。
さて、ここで時間発展と拘束条件が両立する条件を考えます。
実は必ずしもそうではないので、時間発展に関する無矛盾性の条件としてこれを課す必要があります。
となります。よって拘束条件が時間発展と無矛盾になるには
が成立しなくてはなりません。
この条件は次の2つのタイプの方程式にわかれます:
すなわち、
一方、
とかけるはずです。indexがギリシャ文字
一方、indexがアルファベット
が成立します。
もしこれが第1次拘束
一方、もしもこれが第1次拘束の線形結合では書けないのなら、2.の場合のタイプの方程式であり、新たな拘束=2次的拘束を得ます。
この2次的拘束を加え、同様の作業をします。それに対応し、新たに
これを新たな2次的拘束を得なくなるまで繰り返します。
そして最終的には、
すると
と書けることになります。
得られたすべての拘束条件はすでに時間発展に関して無矛盾(弱い等式としてずっとゼロ)になるので
が成立します。
Diracは、力学量
が成立するとき、
すると、
となります。
実は第1類と第2類のそれぞれの拘束条件の数には不定性があります。これに関してはAppendix (b)で述べることにして先にいきます。
まず第2類の拘束条件のみが存在する系の時間発展を考えます。
この場合、時間発展は完全に定まります。
いま
は逆行列を持ちます。ここで
さて、Dirac括弧を以下のように定義します:
このDirac括弧には大変良い性質があります。ある量
となり、またDirac括弧は線形性を持つからです。
このことから、
の任意の元に対して、Dirac括弧は
実は、Dirac括弧は、
と等価です(Appendix (d)で示します)。
です。
このとき
そこでこれを定めるために「ゲージ固定」を行います。ゲージ固定とは
を手で課すことです。
このとき、今まで定まっていなかったLagrange multiplierが定まるような拘束を課さないといけません。
この要請は、ゲージ固定条件が任意の時刻で成り立つという条件
が
を要求します。このとき
となります。これですべての
ということで、これでDiracの方法に基づく一般論を述べ終えました。
ここまでDiracの方法に関して述べてきましたが、正直具体例がないと、なにがなんやら...という感じだと思います。次回およびそれ以降で
に関して述べたいと思います。
おしまい。
☆次の記事: ゲージ対称性とは何か(6): Maxwell理論・U(1)ゲージ理論
まず
これはすなわち
を意味します。
拘束が存在するとき、この変分は
これとEq.(1),(2)を比較すると
ここでE-L eq.を使えば
となります。Poisson括弧を使えば
となります。これらより
を定義すれば、
とかけます。
第1類と第2類の拘束条件は、それらの線形結合をうまくとると、それぞれの拘束条件の数が変わることがあります(第1類、第2類の拘束条件のトータルの数は、それらが線形独立であることから変化しません)。
例えば(Ref.[2]より)
の3つの条件式は
より、すべて第2類拘束条件です(1つでもPoisson括弧が0でないものが存在したら第2類)。
一方、線形結合をとりなおし
とすると、
より
そこで、Diracの方法では、第1類拘束条件の数が最も多くなるように、拘束条件の線形結合をとりなおすようにします。こうすることで、第1類と第2類の条件数の不定性を取り除いておきます。
いま
は逆行列を持ちます。また
です。つまり
ところで行列式はその定義より、
です。一方で
これは上記事実より
でなくてはなりません。
Dirac括弧が実は、
と等価であることを証明します(Ref.[1]より)。
まずLagrange括弧を導入するために、正準2微分形式と呼ばれる2-form
を導入します。この量は座標と独立です。
いま、相空間
を導入します。
と書き直します。この右辺の
となります。ここで、Lagrange括弧はPoisson括弧の逆行列です。すなわち
これは直接計算してみれば確かめられます。そして、Poisson括弧はLagrange括弧の逆行列として特徴づけられます
ここで
が成立します。indexが
となります。