1
大学数学基礎解説
文献あり

ゲージ対称性とは何か(5): Diracの方法

995
0
$$\newcommand{all}[1]{\left\langle#1\right\rangle} \newcommand{blr}[1]{\left[#1\right]} \newcommand{car}[1]{\left\{#1\right\}} \newcommand{di}[0]{\displaystyle} \newcommand{fr}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{lr}[1]{\left(#1\right)} \newcommand{ma}[1]{\(\di{#1}\)} $$

正準形式における拘束系の取り扱いの一般論

★この記事は「 ゲージ理論とは何か(4):ゲージ理論の解法の概観 」の続きです。力学の基本的なことに関しては「 力学の形式 」を適宜参照してください。


以下拘束系・ゲージ理論を正準形式において扱う方法を述べます。

前回お話したように、拘束系では、相空間 $\Gamma: (q^i,p_i)$に拘束$\phi_A(q,p)=0\ (A=1,\ldots,N)$を課して幾つかのパラメータを消去し、独立な変数のみに限った空間$\Gamma^*: (q^{*i},p^{*i})$において運動を論ずればよいです。しかし、パラメータを消去すること自体が自明に行えることではないし、一般論を展開しにくいし、またそうしてしまうと対称性が見えにくくなるという欠点もあります。

そこで、パラメータを消去する代わりに、$\Gamma^*$における"Poisson括弧"である「Dirac括弧」を作ります

正準方程式は、物理量$F(q,p), G(q,p)$に対するPoisson括弧$\{F,G\}_P$:
$$ \{F,G\}_P:=\frac{\partial F}{\partial q^i}\frac{\partial G}{\partial p_i}-\frac{\partial F}{\partial p_i}\frac{\partial G}{\partial q^i} $$
を用いて
$$ \begin{align*} \dot q^i&=\{q^i,H\}_P,\\ \dot p_i&=\{p_i,H\}_P \end{align*} $$
と書けます($H$はHamiltonian)。これはすべての変数の相空間$\Gamma$における方程式です。これに対し、のちに定義するDirac括弧$\{\cdot,\cdot\}_D$による運動方程式
$$ \begin{align*} \dot q^i&=\{q^i,H\}_D,\\ \dot p_i&=\{p_i,H\}_D \end{align*} $$
は拘束条件$\phi_A=0$により制限された空間$\Gamma^*$での運動方程式を与えます。一般に、$q,p$に依存する物理量$F(q,p)$に拘束$\phi_A=0$で拘束をかけたときの$F$の運動方程式は
$$ \dot F = \{F,H\}_D $$
で与えられます。

Dirac括弧を使えば、パラメータを消去せずに、運動に拘束を取り入れることができます。このような拘束系の取り扱いを「Diracの方法」と呼びます。

本記事では、この「Diracの方法」を紹介します。Dirac括弧を作る際の主な論点は、拘束条件をLagrange multiplier(ラグランジュの未定乗数法)の形でHamiltonianに導入し、その未定係数を決定する一般論を展開することです。

ひとつコメントです。以下ではいわゆる「Diracの予想」と呼ばれるものに従った、「$H_E$形式」に則って拘束条件の取り扱いを述べます。「Diracの予想」とは、第1類拘束条件と呼ばれる拘束条件すべてをHamiltonianに未定係数を用いて拘束として取り入れて議論してもよい、という予想です。以下の議論で出てくる$\tilde H$と書くHamiltonianは、一般にはextended Hamiltonian $H_E$と書かれるものです($\tilde H$はRef.[1]の記法に則っています)。これだけでは何を言っているかわからないと思うので、「Diracの予想」と、なぜそれに基づく$H_E$形式を使うのかについては今後の記事のどこかで書くことにします。ここではこの形式に基づいて話をすすめているということだけ覚えておいてください。

Diracの方法の手順

最初に拘束条件を取り扱う手続きを書いておきます。以下のプログラムに従えば、拘束条件つきの運動方程式を得られます:

拘束系の取り扱い(Diracの方法、$H_E$形式)
  1. 拘束条件
    $$ \phi_\alpha(q,p)=0 $$
    を見つける。(ゲージ対称性がわかっていれば、ネーターの第2定理から$\phi_\alpha(q,p)$を導けます)

  2. 次のHamiltonian
    $$ \tilde H=H+\lambda^\alpha\phi_\alpha $$
    を作る。すると、Poisson括弧
    $$ \{F,G\}_P:=\frac{\partial F}{\partial q^i}\frac{\partial G}{\partial p_i} -\frac{\partial F}{\partial p_i}\frac{\partial G}{\partial q^i} $$
    を用いて、任意の$q,p$に依存する量$F$の時間発展は
    $$ \dot F\approx\{F,\tilde H\}_P $$
    で記述される。ここで$\approx$は弱い等式と言われ、拘束条件を満たす$q,p$の組に対して成立する等号である。
    拘束条件は任意の時間で成立しなくてはならないから、時間発展は弱い意味でゼロでなくてはならない:
    $$ \begin{align} \dot \phi_\alpha =\{\phi_\alpha,\tilde H\}_P=\{\phi_A,H\}_P+\{\phi_A,\phi_B\}_P\lambda^B\approx 0 \ \ \ (\star) \end{align} $$
    この方程式から$\lambda$が抜け落ち新たな拘束を生むとき、その拘束を新たに$\phi_\alpha$に加え、Hamiltonianにもその拘束をmultiplierをかけて加え、それを再び$\tilde H$と定義しなおす。

  3. 上記の3.を新たな拘束が生まれなくなるまで繰り返す。

  4. こうして得られた$\phi_\alpha \ \ \ (\alpha=1,\ldots,M)$に対し、行列
    $$ C:=\{\phi_\alpha,\phi_\beta\} $$
    を定義する。すべての拘束とPoisson括弧の意味で交換する拘束条件を第1類拘束条件、そうでない拘束条件(1つでも交換しない拘束条件が存在する拘束)を第2類拘束条件とよぶ。
    未定係数は($\star$)によって決定されるが、第1類拘束条件が存在すると、$C$に逆が存在しない。よってこのとき、すべての$\lambda$を決定することができない。そこで第1類拘束条件の数だけ勝手な条件
    $$ \chi_a(q,p)=0 \ \ \ (a=1,\cdots,M-2m) $$
    を手で課す(ゲージ固定条件)。ただしこの条件は
    $$ \text{det}\{\chi_a,\phi_b\}\not\approx 0 $$
    でなくてはならない(そうでなければ$\lambda$が決定できない)。ゲージ固定をすることで、すべての拘束条件が第2類になる。これで拘束の時間発展に対する無矛盾性より$\lambda$を決定できて、運動が定まる。

  5. Dirac括弧
    $$ \{F,G\}_D:=\{F,G\}_P-\{F,\phi_\alpha\}_P (C^{-1})^{\alpha\beta}\{\phi_\beta,G\}_P $$
    を定義すれば、任意の$F(q,p)$の時間発展は
    $$ \dot F=\{F,H\}_D $$
    で表される。ここで$H$は本来のHamiltonian。
    最終的に、次の正準方程式を解けばよい:
    $$ \begin{align} \dot q^i&=\{q^i,H\}_D,\\ \dot p_i&=\{p_i,H\}_D \end{align} $$

Diracの方法の解説

以下Ref.[1]と[2]を元に議論します。大部分はRef.[1]に基づきます。名著ですので、場の量子論を勉強したい方はぜひお読みください(数学的には厳密ではないと思うので、数学徒には馴染めないかもしれません)。またDiracの方法に言及しているRef.[3-6]も挙げておきます。

以下のように$q,p$に拘束が課されているとします:
$$ \phi_A(q,p)=0 \ \ (A=1,2,\ldots, M_1\le N, \ \ \ Nは座標変数の数) $$
ゲージ変換による不変性があるとき、これは系に内在する拘束です。$\phi$の具体例に関しては、本シリーズでいくつか見てきました。この拘束条件を第1次拘束条件(primary constraint)と呼びます。

さて、この拘束条件をLagrange multiplierの方法により取り入れるにはどうしたらいいでしょう。

証明はAppendix (a)に与えることにして答えを言うと、$\phi_A$の拘束の下での$q^i, p_i$に対する正準方程式は
$$ \begin{align} \dot q^i=\{q^i,H\}_P+\{q^i,\phi_A\}_P\lambda^A,\\ \dot p_i=\{p_i,H\}_P+\{p^i,\phi_A\}_P\lambda^A, \end{align} $$
となります。ここで$\{\ldots\}_P$はPoisson括弧と呼ばれ以下で定義されます:
$$ \{F,G\}_P:=\frac{\partial F}{\partial q^i}\frac{\partial G}{\partial p_i}-\frac{\partial F}{\partial p_i}\frac{\partial G}{\partial q^i} $$
また$\lambda^A$は拘束$\phi_A=0$を取り入れるためのLagrange multiplierです。
これらより、任意の$q,p$の関数$F(q,p)$の時間発展は、Hamiltonianに上記拘束条件を取り入れた
$$ \tilde H:=H+\phi_A\lambda^A $$
により
$$ \dot F=\{F,\tilde H\}_P-\{F,\lambda^A\}\phi_A $$
と表されます。つまりはフツーに拘束をLagrange multiplierの形でHamiltonianに取り入れればよい、ということですね。

以下、$\phi_A(q,p)=0$を課したときに成立する等式には、等号に$\approx$を使うことにします。これを弱い等式と呼びます。これより
$$ \dot F\approx\{F,\tilde H\}_P $$
が成立します。

さて、ここで時間発展と拘束条件が両立する条件を考えます。
$\phi_A(q,p)=0$は各時刻の$q(t),p(t)$に対し成立しなければなりませんが、この条件$\phi_A(q(t),p(t))=0$は任意の$t$で自動的にずっと満たされるのでしょうか?
実は必ずしもそうではないので、時間発展に関する無矛盾性の条件としてこれを課す必要があります。

$\phi_A(q(t),p(t))$自身の時間発展は上記公式から
$$ \dot \phi_A=\{\phi_A,H\}_P+\{\phi_A,\phi_B\}_P\lambda^B $$
となります。よって拘束条件が時間発展と無矛盾になるには
$$ \begin{align} \dot \phi_A=\{\phi_A,H\}_P+\{\phi_A,\phi_B\}_P\lambda^B\approx 0 \end{align} $$
が成立しなくてはなりません。

この条件は次の2つのタイプの方程式にわかれます:

  1. $\lambda$を決定する方程式
  2. $\lambda$が抜け落ち、新たな拘束を導く方程式

すなわち、$\lambda$は拘束条件が時間発展と無矛盾(つまりはずっとゼロ)であることから定めるのですが、2.のように、完全には定まらない場合があります。2.により出現した拘束条件を、ここでは2次的拘束条件と呼ぶことにします。

$\lambda$の係数である$\{\phi_A,\phi_B\}_P$ ($A,B=1,\ldots,M_1< N$)の行列のランクが$M_1$なら、上記方程式を逆に解いて、$\lambda$がすべて決定されます。このとき、すべての方程式が1.のタイプであり、方程式の解は完全に決定されます。

一方、$\text{rank}[\{\phi_A,\phi_B\}_P]< M_1$なら、拘束条件の線形結合を適当に取ることにより
$$ [\{\phi_A,\phi_B\}_P]= \begin{pmatrix} \{\phi_\alpha,\phi_\beta\}_P & \{\phi_\alpha,\phi_b\}_P\\ \{\phi_a,\phi_\beta\}_P & \{\phi_a,\phi_b\}_P \end{pmatrix} \approx \begin{pmatrix} C_{\alpha\beta} & 0\\ 0 & 0 \end{pmatrix} $$
とかけるはずです。indexがギリシャ文字$\alpha$の場合($\alpha=1,\cdots,r_1$)、$\lambda^\alpha$が以下のように決定されます($\text{det}(C)\neq 0$):
$$ \lambda^\alpha=-(C^{-1})^{\alpha\beta}\{\phi_\beta,H\}_P. $$

一方、indexがアルファベット$a$の場合($r_1=r_1+1,\ldots,M_1$)、Eq.(6)の第2項は抜け落ちるので
$$ \{\phi_a,H\}_P\approx 0 $$
が成立します。
もしこれが第1次拘束$\phi_A$の線形結合で書けるなら、これは新たな拘束を与えません。
一方、もしもこれが第1次拘束の線形結合では書けないのなら、2.の場合のタイプの方程式であり、新たな拘束=2次的拘束を得ます。

この2次的拘束を加え、同様の作業をします。それに対応し、新たに$\lambda$が付け加えられます。そうするなかで、定まる$\lambda$もあれば、さらに新たに2次的拘束条件が得られる場合もあります。

これを新たな2次的拘束を得なくなるまで繰り返します。

そして最終的には、$M$コの拘束$\phi_A$が得られたとします。このうち$r$コの$\lambda^\alpha$は決定されたとします。そして、あとの$M-r$コの$\lambda^a$は不定で残ったとします。
すると
$$ \begin{align} \tilde H&=H'+\phi_a\lambda^a,\\ H'&:=H-\phi_\alpha(C^{-1})^{\alpha\beta}\{\phi_\beta,H\}_P \end{align} $$
と書けることになります。
得られたすべての拘束条件はすでに時間発展に関して無矛盾(弱い等式としてずっとゼロ)になるので
$$ \{\phi_A ,\tilde H\}_P=c_A^{\ B}\phi_B $$
が成立します。

Diracは、力学量$R(q,p)$が、すべての拘束$\phi_A$と、そのPoisson括弧が弱い等式としてゼロ
$$ \{R,\phi_A\}_P\approx 0 $$
が成立するとき、$R$を第1類、そうでないとき(=1つでも交換しない拘束が存在するとき)第2類と呼びました。
すると、

  • $\tilde H$は第1類
  • $\phi_\alpha \ \ \ (\alpha=1,\ldots,r)$は第2類
  • $\phi_a \ \ \ (a=r+1,\ldots, M)$は第1類

となります。

実は第1類と第2類のそれぞれの拘束条件の数には不定性があります。これに関してはAppendix (b)で述べることにして先にいきます。

第2類拘束条件のみ存在する系の時間発展

まず第2類の拘束条件のみが存在する系の時間発展を考えます。
この場合、時間発展は完全に定まります。

いま$\phi_\alpha \ \ \ (\alpha=1,\ldots,r)$が第2類拘束条件であれば
$$ C_{\alpha\beta}=\{\phi_\alpha,\phi_\beta\}_P $$
は逆行列を持ちます。ここで$r$は偶数です(Appendix (c)で示します)。

さて、Dirac括弧を以下のように定義します:
$$ \{F,G\}_D:=\{F,G\}_P-\{F,\phi_\alpha\}_P(C^{-1})^{\alpha\beta}\{\phi_\beta,G\}_P $$
このDirac括弧には大変良い性質があります。ある量$A$$A\approx 0$を満たしていたとしても、Poisson括弧の場合、任意の量に対し$\{A,X\}_P\approx 0$とはなりません。しかしDirac括弧は$A\approx 0$なら$\{A,X\}_D\approx 0$です。なぜなら、$A\approx 0$なら$A$$\phi_\alpha$の線形結合で書けますが、任意の拘束条件$\phi_\gamma$に関して
$$ \{\phi_\gamma,X\}_D=\{\phi_\gamma,X\}_P-C_{\gamma\alpha} (C^{-1})^{\alpha\beta}\{\phi_\beta,X\}_P=0 $$
となり、またDirac括弧は線形性を持つからです。

このことから、$\phi_\alpha=0 \ \ \ (\alpha=1,2,\ldots,2m)$で定義される$(2N-2m)$次元部分相空間$\Gamma^*$上で一致するような物理量の類(class)
$$ \hat F:=\{F|F-F_0=c^\alpha\phi_\alpha\}, \ \ \ F_0\text{は代表元} $$
の任意の元に対して、Dirac括弧は$\Gamma^*$上で同一の値を与えます。

実は、Dirac括弧は、$\phi_\alpha=0$で指定される部分相空間$\Gamma^*$内で、その正準座標$q^{*I},p^*_I \ \ (1\le I\le N-m)$によって定義されるPoisson括弧
$$ \{F,G\}_P=\frac{\partial F}{\partial q^{*I}}\frac{\partial G}{\partial p_I^*}-\frac{\partial F}{\partial p^*_I}\frac{\partial G}{\partial q^{I*}} $$
と等価です(Appendix (d)で示します)。

$\Gamma^*$上での$F$に対する運動方程式は
\begin{align} \dot F&=\{F,H\}_P-\{F,\phi_\alpha\}_P(C^{-1})^{\alpha\beta}\{\phi_\beta,H\}_P\\ &=\{F,H\}_D\approx\{F,H'\}_D \end{align}
です。

第1類拘束条件が存在する系の時間発展

このとき$\lambda_A$には定まらないものが存在します。これは、第1類拘束条件が生み出すゲージ変換の方向には運動が定まらないことと関係します。
そこでこれを定めるために「ゲージ固定」を行います。ゲージ固定とは
$$ \chi_a(q,p)=0 (a=1,\ldots,M-2m) $$
手で課すことです。

このとき、今まで定まっていなかったLagrange multiplierが定まるような拘束を課さないといけません。
この要請は、ゲージ固定条件が任意の時刻で成り立つという条件
$$ \dot \chi_a\approx\{\chi_a,H'\}_P+\{\chi_a,\phi_b\}_P\lambda^b $$
$\lambda^a$を決定しなければならないので、
$$ \det \{\chi_a,\phi_b\}\not\approx 0 $$
を要求します。このとき$\{\phi_a,\phi_b\}_P\approx 0$をもちいると
$$ \det \begin{vmatrix} \{\chi_a,\chi_c\}_P&\{\chi_a,\chi_d\}_P\\ \{\chi_b,\chi_c\}_P&\{\chi_b,\chi_d\}_P\\ \end{vmatrix} \approx {\det}^2|\{\chi_a,\phi_b\}_P|\not \approx 0 $$
となります。これですべての$\lambda^a$が決定しました。よってすべての拘束条件が第2類に落ちました。あとは上記の「第2類拘束条件のみ存在する系の時間発展」で記した方法(Dirac括弧)により拘束を取り入れた運動方程式を得ることができます。

ということで、これでDiracの方法に基づく一般論を述べ終えました。

次回予告

ここまでDiracの方法に関して述べてきましたが、正直具体例がないと、なにがなんやら...という感じだと思います。次回およびそれ以降で

  1. 具体的な系におけるDiracの方法の計算(たぶんU(1)ゲージ理論)
  2. Diracの予想とはなにか。なぜ$H_E$形式を採用するのか。

に関して述べたいと思います。

おしまい。

☆次の記事: ゲージ対称性とは何か(6): Maxwell理論・U(1)ゲージ理論


Appendix

(a) 拘束をHamiltonianに取り入れる方法

まず$\delta H$は以下のように$\delta\dot q^i$に依存しません:
\begin{align} \delta H &= \delta p_i\dot q^i + p_i \delta \dot q^i -(\partial L/\partial \dot q^i)\delta \dot q^i-(\partial L/\delta q^i)\delta q^i\\ &=\delta p_i\dot q^i-(\partial L/\partial q^i)\delta q^i \tag{1} \end{align}
これはすなわち
$$ \delta H = \delta p_i(\partial/\partial p_i)H+(\partial H/\partial q^i)\delta q^i \tag{2} $$
を意味します。
拘束が存在するとき、この変分は$\phi_A(q,p)=0$を満たすものでなければなりません。よって
$$ \delta p_i(\partial/\partial p_i)\phi_A+(\partial\phi_A/\partial q^i)\delta q^i=0 $$
これとEq.(1),(2)を比較すると
$$ \begin{align*} \delta p_i\dot q^i-(\partial L/\partial q^i)\delta q^i&=\delta p_i(\partial/\partial p_i)H+(\partial H/\partial q^i)\delta q^i+\lambda^A(\delta p_i(\partial/\partial p_i)\phi_A+(\partial\phi_A/\partial q^i)\delta q^i)\\ \therefore \dot q^i&=(\partial/\partial p_i)H+\lambda^A(\partial/\partial p_i)\phi_A,\\ -(\partial L/\partial q^i)&=(\partial H/\partial q^i)+\lambda^A(\partial\phi_A/\partial q^i) \end{align*} $$
ここでE-L eq.を使えば
$$ \dot p_i=-\partial H/\partial q^i -(\partial\phi_A/\partial q^i)\lambda^A $$
となります。Poisson括弧を使えば
\begin{align} \dot q^i = \{q^i,H\}_P+\{q^i,\phi_A\}_P\lambda^A,\\ \dot p_i=\{p_i,H\}_P+\{p_i,\phi_A\}_P\lambda^A \end{align}
となります。これらより
$$ \tilde H=H+\phi_A\lambda^A $$
を定義すれば、$F$を任意の$q,p$の関数$F(q,p)$として、$F$の時間発展は
$$ \dot F\approx\{F,\tilde H\}_P $$
とかけます。${}_\blacksquare$

(b) 第1類と第2類それぞれの条件式の数の任意性に関して

第1類と第2類の拘束条件は、それらの線形結合をうまくとると、それぞれの拘束条件の数が変わることがあります(第1類、第2類の拘束条件のトータルの数は、それらが線形独立であることから変化しません)。
例えば(Ref.[2]より)
$$ p_1\approx 0, p_2+q^1\approx 0, q^1\approx 0 $$
の3つの条件式は
$$ \{p_1,p_2+q^1\}=-1, \{p_1,q^1\}=-1 $$
より、すべて第2類拘束条件です(1つでもPoisson括弧が0でないものが存在したら第2類)。
一方、線形結合をとりなおし
$$ p_1\approx 0, p_2\approx 0, q^1\approx0 $$
とすると、
$$ \{p_2,q_1\}\approx 0, \{p_2,p_1\}\approx 0 $$
より$p_2\approx 0$は第1類拘束条件になります。

そこで、Diracの方法では、第1類拘束条件の数が最も多くなるように、拘束条件の線形結合をとりなおすようにします。こうすることで、第1類と第2類の条件数の不定性を取り除いておきます。${}_\blacksquare$

(c) 第2類拘束条件の数は偶数

いま$\phi_\alpha \ \ \ (\alpha=1,\ldots,r)$が第2類拘束条件であれば
$$ C_{\alpha\beta}=\{\phi_\alpha,\phi_\beta\}_P $$
は逆行列を持ちます。また
$$ C_{\beta\alpha}=\{\phi_\beta,\phi_\alpha\}_P=-\{\phi_\alpha,\phi_\beta\}_P $$
です。つまり$C$は反対称行列です。
ところで行列式はその定義より、
$$ \text{det}(C^T)=\text{det}(C) $$
です。一方で$C$が反対称行列だから
$$ \text{det}(C^T)=\text{det}(-C)=(-1)^r\text{det}(C) $$
これは上記事実より$\text{det}(C)$ですが、また$\text{det}{C}\neq 0$であるためには、
$r$は偶数
でなくてはなりません。${}_\blacksquare$

(d) $\Gamma^*$上のPoisson括弧とDirac括弧の等価性

Dirac括弧が実は、$\phi_\alpha=0$で指定される部分相空間$\Gamma^*$内で、その正準座標$q^{*I},p^*_I \ \ (1\le I\le N-m)$によって定義されるPoisson括弧
$$ \{F,G\}_P=\frac{\partial F}{\partial q^{*I}}\frac{\partial G}{\partial p_I^*}-\frac{\partial F}{\partial p^*_I}\frac{\partial G}{\partial q^{I*}} $$
と等価であることを証明します(Ref.[1]より)。

まずLagrange括弧を導入するために、正準2微分形式と呼ばれる2-form
$$ d\alpha:=dq^i\wedge dp_i $$
を導入します。この量は座標と独立です。

いま、相空間$\Gamma$に、$q,p$からできる任意の座標
$$ z_\mu(q,p) \ \ \ (\mu=1,2,\ldots,2N) $$
を導入します。$dq^i=(\partial q^i/\partial z_\nu)dz_\mu, dp_i=(\partial p_i/\partial z_\nu)dz_\mu$より
$$ d\alpha=\frac{1}{2}\sum_{\mu,\nu=1}^{2N}(z_\mu,z_\nu)dz_\mu\wedge dz_\nu $$
と書き直します。この右辺の$(\cdot,\cdot)$はLagrange括弧と呼ばれ、
$$ (z_\mu,z_\nu):=\frac{\partial q^i}{\partial z_\mu}\frac{\partial p_i}{\partial z_\nu} -\frac{\partial q^i}{\partial z_\nu}\frac{\partial p_i}{\partial z_\mu} $$
となります。ここで、Lagrange括弧はPoisson括弧の逆行列です。すなわち
$$ \sum_{\mu=1}^{2N}(z_\mu,z_\nu)\{z_\mu,z_\rho\}_P=\delta_{\nu\rho} $$
これは直接計算してみれば確かめられます。そして、Poisson括弧はLagrange括弧の逆行列として特徴づけられます

ここで$z$として、最後の$2m$個を第2類拘束$\phi_\alpha \ (\alpha=1,\ldots,2m)$としてみます。こうすると、最初の$(2N-2m)$個のパラメータが、$\Gamma^*$における座標となります。そして重要なのは、この最初の$2N-2m$個のパラメータに対するLagrange括弧は、Dirac括弧の逆行列になっていることです。すなわち$1\le l,m,n\le 1,2,\ldots, 2N-2m$とすると
$$ \sum_m (z_m,z_l)\{z_m,z_n\}_D=\delta_{ln} $$
が成立します。indexが$2N-2m+1$から$2N$までの場合、$z$には拘束条件がセットされています。ところが任意の拘束条件と任意の物理量とのDirac括弧はゼロになるので、和を取る足を$1$から$2N$に拡張できます。すると
\begin{align} \sum_m (z_m,z_l)\{z_m,z_n\}_D&=\sum^{2N}_{\mu=1} (z_\mu,z_l)\{z_\mu,z_n\}_D\\&=\delta_{\nu\rho}-\sum_{\alpha,\beta=1}^{2m}\delta_{\nu,2N-2m+\alpha}C^{-1\alpha\beta} \{z_{2N-2m+\beta},z_\rho\}_P\\ &=\delta_{\nu\rho} \end{align}
となります。
$z_l\ \ (1\le l\le 2N-2m)$$\Gamma^*$における変数だから、このLagrange括弧は、$\Gamma^*$におけるLagrange括弧です。その逆行列は$\Gamma^*$におけるPoisson括弧に等しいので、結局Dirac括弧は$\Gamma^*$におけるPoisson括弧になっています。${}_\blacksquare$

参考文献

[1]
Marc Henneaux and Claudio Teitelboim, Quantization of Gauge Systems, Princeton University Press, 1991
[2]
内山龍雄, 一般ゲージ場論序説, 岩波書店, 1987
[3]
山本義隆、中村孔一, 解析力学 II, 朝倉物理学大系, 朝倉書店, 1998
[4]
菅野 礼司, ゲージ理論の解析力学, 吉岡書店, 2007
[5]
九後汰一郎, ゲージ場の量子論 I, 新物理学シリーズ 23, 培風館, 1989
[6]
木村利栄、菅野礼司, 微分形式による解析力学(改訂増補版), 吉岡書店, 1996
投稿日:2022112

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

bisaitama
bisaitama
115
45084

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中