この記事は「 ゲージ対称性とは何か(9):なぜ「Diracの予想」を"信奉"するのか? 」の続きです。
Notationをまとめておきます:
次のLagrangianに従う系を考えます(Ref.[1]):
後述しますが、この系は、磁場中の荷電粒子の運動に対応します。
まずはDiracの方法に則った正しい正準形式の議論を展開します。次に、この系では無闇に拘束を使うと間違った答えを導くことを述べます。
その後「第1類拘束条件はゲージ変換の生成子」であることに言及し、最後に物理的背景を述べて終わりにします。
最初にE-L eq.を導いておきます:
これは正しい運動方程式です。
拘束の取り扱いに悩んだら、Lagrange形式に戻りましょう。
次に正準形式で議論します。
まずは拘束系の取り扱いに基づいて議論します。
拘束条件とHamiltonianを導きます。canonical momentumは
です。この2式は位置の時間微分
とします。
Hamiltonianはcanonical momentumを用いて
となります。
拘束条件間のPoisson bracketは
よってこれらは第2類拘束条件です。
いま
とすると
ここで
以上から未定係数は
と定まります。これはまた、
この系には第1次拘束しか存在しないので、
となります。
下2つの運動方程式は、
Dirac bracketを計算しておきましょう。
つぎに
さらに
よってDirac bracketsは以下のようになります:
以上より、Dirac bracketsから導かれるEoMは
となります。
Dirac bracketの中では、弱い等式を強い等式として扱ってよい(つまりは拘束をゼロにしてよい)ので、
これらのEoMは、これまで導いたEoMとconsistentです。
ここで、
これは、拘束を使わなければ0だし、拘束を使うと
となり、おかしな結果を導きます。
となりおかしいです。
このような混乱を起こさないためには、拘束を用いて変数を書き換えるようなことをせず、
ところで、この系にはゲージ対称性は存在しません。
実際探してみると無さそうのはわかります。
しかし具体的に探さなくても、存在しないことが言えます。
それは、この系の拘束
であり、第1類拘束条件ではないからです。
なぜゲージ対称性は第1類拘束に関わるかというと、
ここで
ですが、
の方向には運動が定まりません(これらPoisson bracketは一般にはゼロではない)。
つまり、系はこれら変換の係数
これはゲージ対称性に他なりません。
2次元内の荷電粒子が磁場中に存在するとき、Lagrangianは以下のように書けます(Ref.[3]):
磁場が
とすると、磁場
となります。確かに
この
を得ます。
ここで、この系では磁場が非常に強く、運動項
(anti-harmonic potential)とします(図2参照)。あとは
外的ポテンシャルの形
この系の運動方程式をLagrange形式で書くと
でしたが、これの解は円運動です:
このように
これらは、相空間で2つ、位置・速度空間で1つの拘束が存在することを表しています。
上記の運動は、粒子の初期位置を通り、ポテンシャルの原点を中心とする円運動です。つまり初期位置のみで運動が定まります。
この事情は、運動項を無視すると、E-L eq.は力の釣り合いの式になることに由来します。
粒子に働く力はLorentz力
力の釣り合いと速度の方向
この運動は、サイクロトロン運動のような「自然に起こる円運動」とは違うように思います。
物理的には、実際に起こる運動というより、
「この系の運動としてconsistentなのは、上記の円運動だ」
程度に解釈したほうがよいように思います。
今回は磁場中の荷電粒子に対応するLagrangianを考察しました。
まとめると
という感じです。
最後に、この系が拘束系である原因は、時間微分と位置座標がカップルした
(
おしまい。
☆次の記事: ゲージ対称性とは何か(11):経路積分量子化におけるFaddeev-Popovの方法
Eq.(2)からE-L eq.を導いてみます:
ただし、
さて、磁場中の荷電粒子が受けるLorentz力は、時刻
です。「Lorentz力は、速度と磁場の方向に垂直である」というやつですね。
これは
と書けます。よって、Eq.(A1)は
なので、EoMは
となります。確かに磁場中(および外的ポテンシャル中)の荷電粒子の運動方程式と一致しています。