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大学数学基礎解説
文献あり

離散付値環の基本性質

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はじめに

 この記事はp進数を構成する手続きを一般化した理論:離散付値環の理論についてその基本的なところを考察していきます。筆者が最近気になって考えたことのメモのような記事となっているので、そこまで事細かにはやりません。

離散付値

離散付値

 体Kから全順序集合R{}への全射vであって、次のような性質を満たすものをK離散付値という。

  • x=0v(x)=
  • v(xy)=v(x)+v(y)
  • v(x+y)min{v(x),v(y)}
  • v(K×)Rの自明でない離散部分群である

 特にv(K×)=Zを満たすような離散付値を正規付値と言う。
 次の補題によって任意の離散付値は適当な実数倍によって正規化できることがわかる。したがって以下では離散付値と言えば正規付値を指すものとする。

 Rの加法に関する離散部分群はαZ(αR)と表せるものに限る。

 Rの自明でない離散部分群Gに対し
α=inf{xGx>0}
とおくと、Gが集積点を持たないことから
α=min{xGx>0}G
が成り立つ。
 いまGαZであるとすると、任意のβGαZに対しある整数kが存在し
|βαk|<α
とできるがβαkGよりこれはαの最小性に反する。よってG=αZを得る。

基本的な公式

 離散付値vに対し以下が成り立つ。

  • v(1)=v(1)=0
  • x0に対しv(x1)=v(x)
  • v(x)v(y)のときv(x+y)=min{v(x),v(y)}

 一、二つ目の式は
v(12)=v(1),v((1)2)=v(1),v(xx1)=v(1)
に注意するとわかる。
 三つ目の式についてはmin{v(x),x(y)}v(x+y)が成り立つことを示せばよい。
 そのことはv(x)<v(y)としたとき
v(x)=v(x+yy)min{v(x+y),v(y)}
の右辺がv(y)とは成り得ないことからv(x+y)v(x)がわかり、また明らかにv(x+y)v(x)なので
v(x+y)=v(x)=min{v(x),x(y)}
を得る。

離散付値環

 vを体Kの離散付値とすると、集合
A={xKv(x)0}
は環をなし、これをv付値環という。

 逆に環Rの分数体Kに対して適当に離散付値を定めることで、Rがその付値に関する付値環となるような環Rのことを総じて離散付値環と呼びます(例えば Wikipedia には環が離散付値環であるための必要十分条件が9個ほど載っています)。

 離散付値環Rにおいて、xAが可逆元であることとv(x)=0を満たすことは同値である。
 特にv(π)=1を満たすようなπAを取ると、任意のxK×
x=επn(εA×, nZ)
の形に一意的に表せる。

 前半の主張についてはv(x1)=v(x)に注意するとわかる。
 後半の主張についてはv(xπv(x))=0が成り立つことからわかる。

 離散付値環A0でない素イデアルをただ一つしか持たない単項イデアル整域となる。
 特にv(π)=1を満たすようなπAを取ると、Aの任意の0でないイデアルa
a=(πn)={xKv(x)n}
の形に表せる。

 A0でないイデアルaに対し
n=min{v(x)xa},b=πna
とおくと、bは可逆元を含むイデアル、つまりAとなるので
a=πnb=(πn)
を得る。

 Aを離散付値環、p=(π)をその素イデアルとする。
 このときpは極大イデアルでもあることからA/pは体を成す。これをA剰余体と言う(Kvの剰余体とも言う)。
 またpの生成元πuniformizer(一意化元)と呼ぶことがある(基本的には単に素元と言えばよい)。

完備離散付値環

 vを体Kの離散付値とすると任意の0<c<1に対してノルム
|x|v=cv(x)
および距離関数
d(x,y)=|xy|v=cv(xy)
が定まり、この距離に対するKの完備化Kvが考えられる。
 このときlimnxn=xであることとlimnv(xxn)=であることは同値であることに注意する。

二つの同値な定義

 Kv,AvvによるKの完備化とその付値環、A^,K^を逆極限
A^=limnA/pn
とその分数体とすると
AvA^,KvK^
が成り立つ。

KK^vK^AAvA^

証明(長いので折りたたみ)

 A,Avの素イデアルをp,p^とおいたとき
A/pnAv/p^n,limnAv/p^nAv
が成り立つことを示す。もしこれが示されれば
A^=limnA/pnlimnAv/p^nAv
が得られる。

A/pnAv/p^nの証明

 自然な準同型f:AAv/p^nを考えたとき、その核は
Kerf=p^nA={xAvv(x)n}A={xAv(x)n}=pn
と求まり、また任意のxAvに対しxに収束するA内の列{xk}kを取ると、v(xxk)より十分大きいkに対しv(xxk)nつまり
x+p^n=xk+p^n=f(xk+pn)
となって全射性がわかるので
A/pnAv/p^n
を得る。

limnAv/p^nAvの証明

 任意の(xn+p^n)nlimnAv/p^nに対してn>mなら
xn+p^m=xm+p^m
つまり
v(xnxm)m(m,n)
と代表元の列xnはCauchy列となるので環準同型
g:limnAv/p^nAv(xn+p^n)nlimnxn
が考えられるので、これが全単射であることを示せばよい。
 全射性についてはg((x+p^n)n)=xであることから明らか。
 単射性については
g((xn+p^n)n)=0
ならばv(xn)、つまり任意のnに対しnv(xN)なるNnが存在し、このとき
xn+p^n=xN+p^n=0+p^n
が成り立つことから(xn+p^n)n=(0+p^n)nを得る。

 環R完備離散付値環であるとは、離散付値環Rであって次の同値な条件の一方(すなわち両方)を満たすもののことを言う。

  • Rの分数体Kが離散付値vの定める距離に対して完備である。
  • Rの素イデアルpについて、自然な単射RlimnR/pnは同型写像となる。

冪級数表示

 完備離散付値体Kにおいて級数n=0anが収束することとlimnan=0が成り立つことは同値である。

 (前者)(後者)は級数のコーシー性よりわかる。
 逆にan0であれば十分大きい任意のm<nに対し
|k=mnak|vmaxmkn|ak|v<ε
とコーシー性がわかる。(Kは完備なのでコーシー列は収束する)

 Aを離散付値環、πをその素元、Γを剰余体A/(π)の代表元集合とすると分数体Kの任意の元は
x=n=v(x)anπn(anΓ,av(x)p)
の形に一意に表せる。またAが完備であるとき、このように表される数は全てKの元を定める。

存在性

 x0xπv(x)と置き換えることでxAとしてよい。
 このときn=0から順に
x(a0+a1π+an1πn1)πnan(modπ)
なるanΓを取っていくと
v(xk=0nakπk)n+1(n)
つまり
x=n=0anπn(anΓ)
と表せることがわかる。

一意性

 また二通りの表示
x=n=0anπn=n=0bnπn(an,bnΓ)
があったとき
xa0b0(modπ)
よりa0=b0、また
xa0πa1b1(modπ)
よりa1=b1、...としていくことでan=bnとなることがわかるのでこの表示は一意的である。

方程式の可解性

Henselの補題

 あるf(x)A[x]x0Av(f(x0))>2v(f(x0))を満たすとする。
 このときe1=v(f(x0)),e2=v(f(x0))とおくと
f(xn)0(modπe1+n),xn+1xn(modπe1e2+n)
を満たすようなA内の列{xn}n=0が存在する。

 この記事にて証明した。
 なお離散付値環においてはニュートン法
xn+1=xnf(xn)f(xn)
を直接用いることができる。

 Aが完備であるとき、上の補題のようなf(x),x0に対して
f(α)=0かつαx0(modπe1e2)
を満たすようなαAが存在する。

 上の補題によって得られる数列{xn}n=0n>mに対し
v(xnxm)e1e2+m(m,n)
とコーシー性を満たすので、その収束先をαとおくと
v(f(xn))e1+n(n)
より
f(α)=limnf(xn)=0
を得る。
 また
v(αx0)=limnv(xnx0)e1e2
より
αx0(modπe1e2)
もわかる。

デデキント環の離散付値

 デデキント環Aとは、ざっくり言えばAの任意のイデアルが(一意に)素イデアル分解できる整域の事を言います。主な例で言うと単項イデアル整域や代数体の整数環がこれに相当します(詳しくは この記事 などを参照してください)。
 デデキント環A0でない素イデアルpを任意に一つ取り、Aの分数体Kの元xに対し写像ordp:KZ{}を単項分数イデアル(x)の素イデアル分解におけるpの指数で定めると(ただしv(0)=とする)、これは離散付値となります。

剰余体の不変性

 デデキント環A0でない素イデアルpが定める離散付値v=ordpに関する付値環をAp、その素イデアルをp^とおくと
A/pAp/p^
が成り立つ。

 xAp
x=yz(y,zA,v(y)0,v(z)=0)
と表したとき、準同型f:ApA/p
x=y/zyz1+p
によって定めると(z1A/pにおける逆元)、明らかにKerf=p^, Imf=A/pが成り立つので
Ap/p^A/p
を得る。

冪級数表示

 デデキント環Aとその素イデアルpに対して、Aの分数体Kの離散付値v=ordpによる完備化K^を考えると、K^の任意の元xA/pの代表元集合Γと任意のπpp2を用いて
x=n=v(x)anπn(anΓ,av(x)p)
の形に一意的に表せる。

KK^AApA^A/pAp/p^A^/p^^

 命題5の証明と上の命題からK^の付値環A^とその素イデアルp^^に対して
f:R/pA^/p^^x+px+p^^
は同型となるのでR/pの代表元集合はA^/p^^の代表元集合でもある。
 またπpp2ならばv(π)=1であることから命題7より主張を得る。

剰余環の不変性

 A/pnAp/p^nA^/p^^nが成り立つ。

pn={xAv(x)n}
と書けることに注意すると単射環準同型
f:A/pnAp/p^nx+pnx+p^n
が考えられる。
 また任意のxAに対して上のような表示
x=k=0akπk(akΓA,πp)
を考え
xn=k=0n1akπkA
とおくと全射性
xf(xn)(modp^n)
がわかるのでA/pnAp/p^nを得る。
 また命題5の証明よりAp/p^nA^/p^^nでもあったので主張を得る。

よく見る形のHenselの補題

 ある多項式f(x)A[x]と元x0A
f(x0)0(modp),f(x0)0(modp)
を満たすとする。このとき
f(α)=0かつαx0(modp^^)
を満たすようなαA^が存在する。

 仮定よりv(f(x0))1,v(f(x0))=0なのでv(f(x0))>2v(f(x0))が成り立つ。あとは補題8からわかる。

具体的な完備離散付値環,体の例

p進数体Qp

Qの付値環

 整数環Zと素数pについて分数体=有理数体Qに対して離散付値v=ordp=ordpZ、即ち有理数r0の負の指数を認めた素因数分解における素数pの指数を考える。
 このときQの付値環Z(p)
Z(p)={ba|a,bZ,pa}
のように書くことができ、定理9系より
Z/pnZZ(p)/pnZ(p)
であったのでこの同一視によって有理数同士の合同関係が考えられたりする。

p進数、p進整数

 またvによるQの完備化Qpおよびその付値環Zpをそれぞれp進数体・p進整数環と呼び、それらの元のことをそれぞれp進数・p進整数と呼ぶ。π=pおよびZ/pZの代表元集合をΓ={0,1,2,,p1}と取ることで任意のp進数x
x=n=v(x)anpn(an{0,1,2,,p1})
の形に一意に表示することができる。この表示の事をxp進展開と呼ぶ。

m進展開、m進数

 ちなみにp進数の冪級数表示はv(π)=1であれば何でもよかったのでp=2,5に対してπ=10とおくことで10進展開
x=n=v(x)an10nQp(p=2,5)
というのも考えられたりする。ただしこの表示はan{0,1,2,,p1}において一意的であって、anΓ10={0,1,2,,9}の範囲では一意的ではない。
 しかし級数n=0an10nを逆極限limnZ/10nZの元
(k=0nak10k+10nZ)n
と解釈すると中国剰余定理から同型
limnZ/10nZlimnZ/2nZ×limnZ/5nZZ2×Z5(xn+10nZ)n((xn+2nZ)n,(xn+5nZ)n)(limnxn,limnxn)
が成り立つので、Z2×Z5の元に対しては一意的な10進展開
(x,y)=(n=0an10n,n=0an10n)(an{0,1,2,,9})
が考えられる。
 ちなみに書籍『 天に向かっていく数 (日本評論社)』で紹介されている10進数という概念はこの逆極限limnZ/10nZのことを指しており、10進数が整域でないことはこれが直積環Z2×Z5と同型であることからわかる。同様にして任意の自然数mに対してm進数limnZ/mnZp|mZpというものが考えられ、それぞれの世界で一意的なm進展開が考えられる。

形式的冪級数環k[[x]]

 体係数多項式環k[x]の素イデアル(x)による完備化k[[x]]を考えると
k[x]/(x)kf(x)+(x)f(0)
であることからk[[x]]は形式的冪級数環
k[[x]]={n=0anxn|ank}
となる。
 ちなみに次のような事実が知られています。

 Aを完備離散付値環、k=A/(π)をその剰余体とする。このとき分数体Kkの標数が一致すればAk[[x]]が成り立つ。

おわりに

 なんか諸々が中途半端な気がしますが、後に読み直す私のために書き残しておきたいことはそれとなーく書けたのでこの記事はここら辺で終わりにしておきます。
 最近はある定理を理解するためにQpの整数論、形式的に代数的p進整数論とでも言いましょうか、を学ぶ必要が出て来たので遠からず近からずそういった内容の記事を書くかもしれません。勉強する気が失せたら書きません。そこら辺もテキトーです。
 まあ今回はこんなところで。では。

参考文献

[1]
加藤和也, 黒川信重, 斎藤毅, 数論2 類体論とは, 岩波講座 現代数学の基礎, 岩波書店, 1998, pp.202-207
投稿日:2022525
更新日:202477
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. 離散付値
  3. 離散付値環
  4. 完備離散付値環
  5. 二つの同値な定義
  6. 冪級数表示
  7. 方程式の可解性
  8. デデキント環の離散付値
  9. 具体的な完備離散付値環,体の例
  10. $p$進数体$\Q_p$
  11. 形式的冪級数環$k[[x]]$
  12. おわりに
  13. 参考文献