はじめに
この記事は進数を構成する手続きを一般化した理論:離散付値環の理論についてその基本的なところを考察していきます。筆者が最近気になって考えたことのメモのような記事となっているので、そこまで事細かにはやりません。
離散付値
離散付値
体から全順序集合への全射であって、次のような性質を満たすものをの離散付値という。
特にを満たすような離散付値を正規付値と言う。
次の補題によって任意の離散付値は適当な実数倍によって正規化できることがわかる。したがって以下では離散付値と言えば正規付値を指すものとする。
の自明でない離散部分群に対し
とおくと、が集積点を持たないことから
が成り立つ。
いまであるとすると、任意のに対しある整数が存在し
とできるがよりこれはの最小性に反する。よってを得る。
基本的な公式
一、二つ目の式は
に注意するとわかる。
三つ目の式についてはが成り立つことを示せばよい。
そのことはとしたとき
の右辺がとは成り得ないことからがわかり、また明らかになので
を得る。
離散付値環
を体の離散付値とすると、集合
は環をなし、これをの付値環という。
逆に環の分数体に対して適当に離散付値を定めることで、がその付値に関する付値環となるような環のことを総じて離散付値環と呼びます(例えば
Wikipedia
には環が離散付値環であるための必要十分条件が個ほど載っています)。
離散付値環において、が可逆元であることとを満たすことは同値である。
特にを満たすようなを取ると、任意のは
の形に一意的に表せる。
前半の主張についてはに注意するとわかる。
後半の主張についてはが成り立つことからわかる。
離散付値環はでない素イデアルをただ一つしか持たない単項イデアル整域となる。
特にを満たすようなを取ると、の任意のでないイデアルは
の形に表せる。
のでないイデアルに対し
とおくと、は可逆元を含むイデアル、つまりとなるので
を得る。
を離散付値環、をその素イデアルとする。
このときは極大イデアルでもあることからは体を成す。これをの剰余体と言う(やの剰余体とも言う)。
またの生成元をuniformizer(一意化元)と呼ぶことがある(基本的には単に素元と言えばよい)。
完備離散付値環
を体の離散付値とすると任意のに対してノルム
および距離関数
が定まり、この距離に対するの完備化が考えられる。
このときであることとであることは同値であることに注意する。
二つの同値な定義
をによるの完備化とその付値環、を逆極限
とその分数体とすると
が成り立つ。
証明(長いので折りたたみ)
の素イデアルをとおいたとき
が成り立つことを示す。もしこれが示されれば
が得られる。
の証明
自然な準同型を考えたとき、その核は
と求まり、また任意のに対しに収束する内の列を取ると、より十分大きいに対しつまり
となって全射性がわかるので
を得る。
の証明
任意のに対してなら
つまり
と代表元の列はCauchy列となるので環準同型
が考えられるので、これが全単射であることを示せばよい。
全射性についてはであることから明らか。
単射性については
ならば、つまり任意のに対しなるが存在し、このとき
が成り立つことからを得る。
環が完備離散付値環であるとは、離散付値環であって次の同値な条件の一方(すなわち両方)を満たすもののことを言う。
- の分数体が離散付値の定める距離に対して完備である。
- の素イデアルについて、自然な単射は同型写像となる。
冪級数表示
完備離散付値体において級数が収束することとが成り立つことは同値である。
(前者)(後者)は級数のコーシー性よりわかる。
逆にであれば十分大きい任意のに対し
とコーシー性がわかる。(は完備なのでコーシー列は収束する)
を離散付値環、をその素元、を剰余体の代表元集合とすると分数体の任意の元は
の形に一意に表せる。またが完備であるとき、このように表される数は全ての元を定める。
存在性
をと置き換えることでとしてよい。
このときから順に
なるを取っていくと
つまり
と表せることがわかる。
一意性
また二通りの表示
があったとき
より、また
より、...としていくことでとなることがわかるのでこの表示は一意的である。
方程式の可解性
Henselの補題
あるとがを満たすとする。
このときとおくと
を満たすような内の列が存在する。
この記事にて証明した。
なお離散付値環においてはニュートン法
を直接用いることができる。
が完備であるとき、上の補題のようなに対して
を満たすようなが存在する。
上の補題によって得られる数列はに対し
とコーシー性を満たすので、その収束先をとおくと
より
を得る。
また
より
もわかる。
デデキント環の離散付値
デデキント環とは、ざっくり言えばの任意のイデアルが(一意に)素イデアル分解できる整域の事を言います。主な例で言うと単項イデアル整域や代数体の整数環がこれに相当します(詳しくは
この記事
などを参照してください)。
デデキント環のでない素イデアルを任意に一つ取り、の分数体の元に対し写像を単項分数イデアルの素イデアル分解におけるの指数で定めると(ただしとする)、これは離散付値となります。
剰余体の不変性
デデキント環のでない素イデアルが定める離散付値に関する付値環を、その素イデアルをとおくと
が成り立つ。
を
と表したとき、準同型を
によって定めると(はにおける逆元)、明らかにが成り立つので
を得る。
冪級数表示
デデキント環とその素イデアルに対して、の分数体の離散付値による完備化を考えると、の任意の元はの代表元集合と任意のを用いて
の形に一意的に表せる。
命題5の証明と上の命題からの付値環とその素イデアルに対して
は同型となるのでの代表元集合はの代表元集合でもある。
またならばであることから命題7より主張を得る。
と書けることに注意すると単射環準同型
が考えられる。
また任意のに対して上のような表示
を考え
とおくと全射性
がわかるのでを得る。
また命題5の証明よりでもあったので主張を得る。
よく見る形のHenselの補題
ある多項式と元が
を満たすとする。このとき
を満たすようなが存在する。
仮定よりなのでが成り立つ。あとは補題8からわかる。
具体的な完備離散付値環,体の例
進数体
の付値環
整数環と素数について分数体有理数体に対して離散付値、即ち有理数の負の指数を認めた素因数分解における素数の指数を考える。
このときの付値環は
のように書くことができ、定理9系より
であったのでこの同一視によって有理数同士の合同関係が考えられたりする。
進数、進整数
またによるの完備化およびその付値環をそれぞれ進数体・進整数環と呼び、それらの元のことをそれぞれ進数・進整数と呼ぶ。およびの代表元集合をと取ることで任意の進数は
の形に一意に表示することができる。この表示の事をの進展開と呼ぶ。
進展開、進数
ちなみに進数の冪級数表示はであれば何でもよかったのでに対してとおくことで進展開
というのも考えられたりする。ただしこの表示はにおいて一意的であって、の範囲では一意的ではない。
しかし級数を逆極限の元
と解釈すると中国剰余定理から同型
が成り立つので、の元に対しては一意的な進展開
が考えられる。
ちなみに書籍『
天に向かっていく数
(日本評論社)』で紹介されている進数という概念はこの逆極限のことを指しており、進数が整域でないことはこれが直積環と同型であることからわかる。同様にして任意の自然数に対して進数というものが考えられ、それぞれの世界で一意的な進展開が考えられる。
形式的冪級数環
体係数多項式環の素イデアルによる完備化を考えると
であることからは形式的冪級数環
となる。
ちなみに次のような事実が知られています。
を完備離散付値環、をその剰余体とする。このとき分数体との標数が一致すればが成り立つ。
おわりに
なんか諸々が中途半端な気がしますが、後に読み直す私のために書き残しておきたいことはそれとなーく書けたのでこの記事はここら辺で終わりにしておきます。
最近はある定理を理解するためにの整数論、形式的に代数的進整数論とでも言いましょうか、を学ぶ必要が出て来たので遠からず近からずそういった内容の記事を書くかもしれません。勉強する気が失せたら書きません。そこら辺もテキトーです。
まあ今回はこんなところで。では。