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大学数学基礎解説
文献あり

p進数の一般論:完備離散付値体のお話

2000
0
$$\newcommand{A}[0]{\widehat{A}} \newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{bs}[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{p}[0]{\boldsymbol{p}} \newcommand{pp}[0]{\widehat{\boldsymbol{p}}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{wh}[1]{\widehat{#1}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事は$p$進数を構成する手続きを一般化した理論:離散付値環の理論についてその基本的なところを考察していきます。筆者が最近気になって考えたことのメモのような記事となっているので、そこまで事細かにはやりません。

離散付値

離散付値

 体$K$から全順序集合$\Z\cup\{\infty\}$への全射$v$であって、次のような性質を満たすものを$K$離散付値という。

  • $x=0\iff v(x)=\infty$
  • $v(xy)=v(x)+v(y)$
  • $v(x+y)\geq\min\{v(x),v(y)\}$

 $v(x)\neq v(y)$のとき、$v(x+y)=\min\{v(x),v(y)\}$が成り立つ。

 $v(x)< v(y)$であるとすると
$v(x)=v(x+y-y)\geq\min\{v(x+y),v(-y)\}=\min\{v(x+y),v(y)\}$
つまり
$v(x)\geq v(y)$または$v(x)\geq v(x+y)$
となるが、仮定より前者は偽なので
$v(x)\geq v(x+y)\geq\min\{v(x),v(y)\}=v(x)$
すなわち
$v(x+y)=v(x)=\min\{v(x),v(y)\}$
を得る。

離散付値環

 $v$を体$K$の離散付値とすると、集合
$A=\{x\in K\mid v(x)\geq0\}$
は環をなし、これを$v$付値環という。

 逆に環$R$の分数体$K$に対して適当に離散付値を定めることで、$R$がその付値に対する付値環となるような環$R$のことを総じて離散付値環と呼びます(例えば Wikipedia には環が離散付値環であるための必要十分条件が$9$個ほど載っています)。環$R$が離散付値環であるための必要条件として、離散付値環は次のような強い構造を持ちます。

 $v$を体$K$の離散付値、$A$をその付値環とすると$A$は単項イデアル整域であり、$v(\a)=1$なる元$\a\in A$を任意にとると$A$の任意の$0$でないイデアル$\bs a$
$\bs a=(\a^n)=\{x\in K\mid v(x)\geq n\}$
の形に表せる。またイデアル
$\p=(\a)$
$A$の唯一の素イデアルおよび極大イデアルである。

 $\bs a$$A$$0$でないイデアルとし
$\dis n=\min\{v(x)\mid x\in\bs a\}$
とおくと、
$\bs a=\{x\in K\mid v(x)\geq n\}$
が成り立つ。実際任意に$v(x)=n,v(y)\geq n$なる元$x\in\a,y\in K$をとると
$v(yx^{-1})=v(y)-v(x)\geq n-n=0$
なので$yx^{-1}\in A$、つまり$y\in xA\subset\bs a$となって
$\{x\in K\mid v(x)\geq n\}\subset xA\subset\bs a\quad\cdots(*)$
がわかる。また$n$の取り方から
$\bs a\subset\{x\in K\mid v(x)\geq n\}$
なので
$\bs a=\{x\in K\mid v(x)\geq n\}$
を得る。
 また$v(\a^n)=n\cdot v(\a)=n$より包含関係$(*)$において$x=\a^n$とおくことで
$\bs a=\a^nA=(\a^n)$
を得る。

 $A$を離散付値環とする。このとき$A$の唯一の素イデアルを$\p$とおくと$\p$は極大イデアルでもあったので$A/\p$は体となる。これを$A$剰余体という($K$$v$の剰余体ともいう)。また$\p$の生成元(つまり$\p=(\pi)$となるような$\pi\in A$)をuniformizer(一意化元)という。

完備離散付値環

 $v$を体$K$の離散付値とすると任意の$0< c<1$に対して
ノルム:$|x|_v=c^{-v(x)}$
および
距離:$d(x,y)=|x-y|_v=c^{-v(x-y)}$
が定まり、この距離に対する$K$の完備化$K_v$が考えられる。
 このとき$\dis\lim_{n\to\infty}x_n=x$であることと$\dis\lim_{n\to\infty}v(x-x_n)=\infty$であることは同値であることに注意する。

二つの同値な定義

 $v$を体$K$の離散付値、$A$をその付値環とする。このとき
$v$による$K$の完備化とその付値環$K_v,A_v$
逆極限$\dis\varprojlim_n A/\p^n$とその分数体$\wh A,\wh K$は(同型という意味で)一致する。

$\dis\xymatrix@C=36pt{ K\ar[r]^{完備化}\ar@<0.5ex>[d]^{付値環}&\wh K_v\ar[d]^{付値環}&\wh K\ar@{=}[l] \\A\ar@/_10pt/[rr]_{逆極限}\ar@<0.5ex>[u]^{分数体}&A_v\ar@{=}[r]&\wh A\ar[u]_{分数体} }$

 $A,A_v$の唯一の素イデアルを$\p,\pp$とおくと
$A/\bs{p}^n\simeq A_v/\pp^n$つまり$\dis\varprojlim_n A/\p^n\simeq\varprojlim_n A_v/\pp^n$
が成り立つこと、および
$\dis\varprojlim_n A_v/\pp^n\simeq A_v$
が成り立つことを示す。
 命題2に注意すると
$\pp^n\cap A=\p^n$
が成り立つので単射環準同型
$\begin{array}{rcl} f:A/\p^n&\to&\wh A/\pp^n \\x+\p^n&\mapsto&x+\pp^n \end{array}$
が考えられる。また$A_v$の取り方より任意の$x\in A_v$に対して$A$内の列$x_k\to x$があって$v(x-x_k)\to\infty$よりある$k$$v(x-x_k)\geq n$つまり
$x+\pp^n=x_k+\pp^n=f(x_k+\p^n)$
となって全射性もわかり
$A/\bs{p}^n\simeq A_v/\wh{\p}^n$
を得る。
 また任意の$(x_n+\pp^n)_n\in\varprojlim_n A_v/\pp^n$に対して$n>m$なら
$x_n+\pp^m=x_m+\pp^m$
つまり
$v(x_n-x_m)\geq m\to\infty\quad(m,n\to\infty)$
と代表元の列$x_n$はCauchy列となるので環準同型
$\begin{array}{rcl} g:\varprojlim_n A_v/\pp^n&\to&A_v \\(x_n+\pp^n)_n&\mapsto&\dis\lim_{n\to\infty}x_n \end{array}$
が考えられる。また$g((x_n+\pp^n)_n)=0$とすると$v(x_n)\to\infty$よりある$n_k$$n\geq n_k$$v(x_n)\geq k$つまり$n\leq\max\{n_k,k\}$
$x_n+\pp^n=0+\pp^n$
となって単射性
$\Ker g=\{(0+\pp^n)_n\}$
がわかる。そして任意の$x\in A_v$に対して全射性
$g((x+\pp^n))=x$
もわかるので
$\dis\varprojlim_n A_v/\wh{\p}^n\simeq A_v$
を得る。

 環$R$完備離散付値環であるとは、離散付値環$R$であって次の同値な条件の一方(すなわち両方)を満たすもののことを言う。

  • $R$の分数体$K$が離散付値$v$の定める距離に対して完備である。
  • $R$の唯一の素イデアル$\p$について、自然な単射$R\to\varprojlim_n R/\p^n$は同型写像となる。

冪級数表示

 完備離散付値体$K$において級数$\dis\sum^\infty_{n=0}a_n$が収束することと$\dis\lim_{n\to\infty}a_n=0$が成り立つことは同値である。

 (前者)$\Rightarrow$(後者)は級数のコーシー性よりわかる。
 逆に
$\dis\lim_{n\to\infty}a_n=0$
であるとき、任意の$\e$にある$N$があって$n>N$$|a_n|_v<\e$すなわち$n>m>N$
$\dis\l|\sum^n_{k=m}a_k\r|_v\leq\max_{m\leq k\leq n}|a_k|_v<\e$
と級数のコーシー性がわかる。($K$は完備なのでコーシー列は収束する)

 $A$を離散付値環、$\p=(\pi)$をその唯一の素イデアル、$\G$を剰余体$A/\p$の代表元集合とすると分数体$K$の任意の元は
$$x=\sum^\infty_{n=v(x)}a_n\pi^n\quad(a_n\in\G,a_{v(x)}\not\in\p)$$
の形に一意に表せる。また$A$が完備であるとき、このように表される数は全て$K$の元を定める。

 $x\neq0$$x\pi^{-v(x)}$と置き換えることで$x\in A$としてよい。このとき
$x+(\pi)=a_0+(\pi)$
$(x-(a_0+a_1\pi+\cdots a_{n-1}\pi^{n-1}))\pi^{-n}+(\pi)=a_n+(\pi)$
となるような列$a_n\in\G$が一意に取れて、
$\dis x-\sum^n_{k=0}a_k\pi^k\in(\pi^{n+1})$
つまり
$\dis v\l(x-\sum^n_{k=0}a_k\pi^k\r)\geq n+1\to\infty\quad(n\to\infty)$
より
$\dis x=\sum^\infty_{n=0}a_n\pi^n\quad(a_n\in\G)$
という表示が得られる。
 また
$\dis x=\sum^\infty_{n=0}a_n\pi^n=\sum^\infty_{n=0}b_n\pi^n\quad(a_n,b_n\in\G)$
という異なる表示があったとき、$\dis N=\min_{a_n\neq b_n}n$とおくと$v(a_n-b_n)=0$なので
$\dis v\l(\sum^\infty_{n=N+1}(a_n-b_n)\pi^n\r)\geq N+1>N=v((a_n-b_n)\pi^N)$
となって命題1より
$\dis v\l(\sum^\infty_{n=0}(a_n-b_n)\pi^n\r)=v\l(\sum^\infty_{n=N}(a_n-b_n)\pi^n\r)=\min\l\{v\l(\sum^\infty_{n=N+1}(a_n-b_n)\pi^n\r),v((a_n-b_n)\pi^N)\r\}=N$
がわかるが、これは
$\dis \sum^\infty_{n=0}(a_n-b_n)\pi^n=0$
であることに反する。よってこの表示は一意的である。

方程式の可解性

 $A$を離散付値環とし、$A$の唯一の素イデアルを$\p=(\pi)$とおく。
 以下
$x+(\pi^n)=y+(\pi^n)$
であることを
$x\equiv y\pmod{\pi^n}$
と表すこととする。また多項式
$\dis f(x)=\sum^n_{k=0}a_kx^k\in A[x]$
に対し導関数$f'(x)$
$\dis f'(x)=\sum^n_{k=0}k\cdot a_kx^{k-1}$
と定める。

Henselの補題

 ある$f(x)\in A[x]$$x_0\in A$$v(f(x_0))>2v(f'(x_0))$を満たすとする。
 このとき$e_1=v(f(x_0)),e_2=v(f'(x_0))$とおくと
$f(x_n)\equiv0\pmod{\pi^{e_1+n}}$かつ$x_{n+1}\equiv x_n\pmod{\pi^{e_1-e_2+n}}$
を満たすような$A$内の列$\{x_n\}^\infty_{n=0}$が存在する。

$f(x_1)\equiv0\pmod{\pi^{e_1+1}}\quad\cdots(*_1)$
かつ
$x_1\equiv x_0\pmod{\pi^{e_1-e_2}}\quad\cdots(*_2)$
を満たすような$x_1\in A$が存在して
$v(f(x_1))>2v(f'(x_1))\quad\cdots(*_3)$
が成り立つことを示す。
($x_1$$x_0$と同様の仮定を満たすので同様にして$x_1$から$x_2$を、$x_2$から$x_3$$\cdots$と目的の数列を構成できることになる。)

 $f(x),x_0$の取り方より$f(x_0),f'(x_0)\in A$であることに注意する。
$\dis x_1=x_0-\frac{f(x_0)}{f'(x_0)}\in A$
とおくと$v(x_1-x_0)=e_1-e_2$より
$x_1\equiv x_0\pmod{\pi^{e_1-e_2}}\quad\cdots(*_2)$
であり、
$f(x)=f(x_0)+f'(x_0)(x-x_0)+g(x)(x-x_0)^2\quad(\exists g(x)\in A[x])$
とおくと
$v((x_1-x_0)^2)=2(e_1-e_2)=e_1+(e_1-2e_2)\geq e_1+1$
より
$f(x_1)\equiv f(x_0)+f'(x_0)(x_1-x_0)=0\pmod{\pi^{e_1+1}}\quad\cdots(*_1)$
がわかる。
 また$v(x_1-x_0)=e_1-e_2\geq e_2+1$より
$\dis x_1\equiv x_0\pmod{\pi^{e_2+1}}$
つまり
$f'(x_1)\equiv f'(x_0)\not\equiv0\pmod{\pi^{e_2+1}}$
$f'(x_1)\equiv f'(x_0)\equiv0\pmod{\pi^{e_2}}$
となるので$v(f'(x_1))=e_2$が成り立つ。したがって$x_1$$x_0$とおなじ不等式
$v(f(x_1))\geq e_1+1>2e_2=2v(f'(x_1))\quad\cdots(*_3)$
を満たすことがわかる。

 $A$が完備であるとき、補題6のような$f(x),x_0$に対してある$\a\in A$があって$f(\a)=0$かつ$\a\equiv x_0\pmod{\pi^{e_1-e_2}}$が成り立つ。

 補題6によって得られる数列$\{x_n\}^\infty_{n=0}$$n>m$のとき
$x_n\equiv x_m\pmod{\pi^{e_1-e_2+m}}$
つまり
$v(x_n-x_m)\geq e_1-e_2+m\to\infty\quad(m,n\to\infty)$
とコーシー列であることがわかるのでその収束先$\a\in A$が存在して、
$f(x_n)\equiv0\pmod{\pi^{e_1+n}}$
つまり
$v(f(x_n))\geq e_1+n\to\infty\quad(n\to\infty)$
から
$\dis f(\a)=\lim_{n\to\infty}f(x_n)=0$
が成り立つ。
 また
$\dis v(\a-x_0)=\lim_{n\to\infty}v(x_n-x_0)\geq e_1-e_2$
より
$\a\equiv x_0\pmod{\pi^{e_1-e_2}}$
もわかる。

デデキント環の離散付値

 デデキント環$R$とは、ざっくり言えば$R$の任意のイデアルが(一意に)素イデアル分解できる整域の事を言います。主な例で言うと単項イデアル整域や代数体($\Q$の有限次代数拡大体)がこれに相当します。
 デデキント環$R$の素イデアル$\p$を任意に一つ取り、$R$の分数体$K$の元$x$に対し写像$\ord_\p:K\to\Z\cup\{\infty\}$を単項分数イデアル$(x)$の素イデアル分解における$\p$の指数で定める(ただし$v(0)=\infty$とする)と、これは離散付値となります。

剰余体の不変性

 $A$をデデキント環$R$の素イデアル$\p$が定める離散付値$v=\ord_\p$に対する付値環とし、$A$の唯一の素イデアルを$\pp$とおくと
$R/\p\simeq A/\pp$
が成り立つ。

$\p=\{x\in R\mid v(x)\geq1\}$
と書けることに注意すると単射環準同型
$\begin{array}{rcl} f:R/\p&\to&A/\pp \\x+\p&\mapsto&x+\pp \end{array}$
が考えられる。また任意の$x\in A$に対して
$x=y/z\quad(y,z\in R,v(y)\geq0,v(z)=0)$
とおくと、一般にデデキント環の素イデアルは極大イデアルでもあること、つまり$R/\p$は体であることが知られているので、$z+\p\neq0+\p$の逆元$z^{-1}+\p$が考えられ、$v(1-zz^{-1})\geq1$より
$(x-yz^{-1})+\pp=y(1-zz^{-1})/z+\pp=0+\pp$
つまり全射性
$f(yz^{-1}+\p)=x+\pp$
もわかるので
$R/\p\simeq A/\pp$
を得る。

$R$による冪級数表示

 デデキント環$R$とその素イデアル$\p$に対して、$R$の分数体$K$の離散付値$v=\ord_\p$に対する完備化$\wh K$を考えると、$\wh K$の任意の元$x$$R/\p$の代表元集合$\G$と任意の$\pi\in\p\setminus\p^2$を用いて
$\dis x=\sum^\infty_{n=v(x)}a_n\pi^n\quad(a_n\in\G,a_{v(x)}\not\in\p)$
の形に一意的に表せる。

$\xymatrix@R=10pt{ &K\ar[r]^{完備化}\ar[d]^{付値環}&\wh K\ar[d]^{付値環} \\R\ar[ru]^{分数体}&A&\wh A \\R/\p\ar[r]^\simeq&A/\pp\ar[r]^\simeq&\wh A/\wh\pp }$

 命題3,定理4の証明から$\wh K$の付値環$\wh A$とその唯一の素イデアル$\wh\pp$に対して
$\begin{array}{rcl} f:R/\p&\to&\wh A/\wh\pp \\x+\p&\mapsto&x+\wh\pp \end{array}$
は同型となるので$R/\p$の代表元集合は$\wh A/\wh\pp$の代表元集合でもある。
 また$\pi\in\p\setminus\p^2$ならば$v(\pi)=1$であることから命題3系より主張を得る。

剰余環の不変性

 $R/\p^n\simeq A/\pp^n\simeq\wh A/\wh\pp^n$が成り立つ。

$\p^n=\{x\in R\mid v(x)\geq n\}$
と書けることに注意すると単射環準同型
$\begin{array}{rcl} f:R/\p^n&\to&A/\pp^n \\x+\p^n&\mapsto&x+\pp^n \end{array}$
が考えられる。また任意の$x\in A$に対して定理9のような表示
$\dis x=\sum^\infty_{k=0}a_k\pi^k\quad(a_k\in\G\subset R,\pi\in\p)$
を考え、
$\dis x_n=\sum^{n-1}_{k=0}a_k\pi^k$
とおくと$x_n\in R$かつ$v(x-x_n)\geq n$より全射性
$x+\pp^n=x_n+\pp^n=f(x_n+\p)$
がわかり、
$R/\p^n\simeq A/\pp^n$
を得る。また命題3の証明より
$A/\pp^n\simeq\wh A/\wh\pp^n$
でもあったので主張を得る。

よく見る形のHenselの補題

 ある多項式$f(x)\in R[x]$と元$x_0\in R$
$f(x_0)\equiv0\pmod\p$
$f'(x_0)\not\equiv0\pmod\p$
を満たすとする。このときある$\a\in\A$があって$f(\a)=0$かつ$\a\equiv x_0\pmod{\wh\pp}$が成り立つ。

 仮定より$v(f(x_0))\geq1,v(f'(x_0))=0$なので$v(f(x_0))>2v(f'(x_0))$が成り立つ。あとは定理7からわかる。

具体的な完備離散付値環,体の例

$p$進数体$\Q_p$

$\Q$の付値環

 整数環$\Z$と素数$p$について分数体$=$有理数体$\Q$に対して離散付値$v=\ord_p=\ord_{p\Z}$、即ち有理数$r\neq0$の負の指数を認めた素因数分解における素数$p$の指数を考える。
 このとき$\Q$の付値環$\Z_{(p)}$
$\dis\Z_{(p)}=\l\{\frac{b}{a}\;\bigg|\; a,b\in\Z,p\nmid a\r\}$
のように書くことができ、定理9系より
$\ZZ{p^n}\simeq\Z_{(p)}/p^n\Z_{(p)}$
であったのでこの同一視によって有理数同士の合同関係が考えられたりする。

$p$進数、$p$進整数

 また$v$による$\Q$の完備化$\Q_p$およびその付値環$\Z_p$をそれぞれ$p$進数体・$p$進整数環と呼び、それらの元のことをそれぞれ$p$進数・$p$進整数と呼ぶ。$\pi=p$および$\Z/p\Z$の代表元集合を$\G=\{0,1,2,\ldots,p-1\}$と取ることで任意の$p$進数$x$
$\dis x=\sum^\infty_{n=v(x)}a_np^n\quad(a_n\in\{0,1,2,\ldots,p-1\})$
の形に一意に表示することができる。この表示の事を$x$$p$進展開と呼ぶ。

$m$進展開、$m$進数

 ちなみに$p$進数の冪級数表示は$v(\pi)=1$であれば何でもよかったので$p=2,5$に対して$\pi=10$とおくことで$10$進展開
$\dis x=\sum^\infty_{n=v(x)}a_n10^n\in\Q_p\quad(p=2,5)$
というのも考えられたりする。ただしこの表示は$a_n\in\{0,1,2,\ldots,p-1\}$において一意的であって、$a_n\in\G_{10}=\{0,1,2,\ldots,9\}$の範囲では一意的ではない。
 しかし級数$\sum^\infty_{n=0}a_n10^n$$\varprojlim_n\ZZ{10^n}$の元
$\dis\l(\sum^n_{k=0}a_k10^k+10^n\Z\r)_n$
と解釈すると中国剰余定理から同型
$\begin{array}{rcccl} \varprojlim_n\ZZ{10^n}&\simeq&\varprojlim_n\ZZ{2^n}\times\varprojlim_n\ZZ{5^n}&\simeq&\Z_2\times\Z_5 \\(x_n+10^n\Z)_n&\mapsto&((x_n+2^n\Z)_n,(x_n+5^n\Z)_n)&\mapsto&\dis\l(\lim_{n\to\infty}x_n,\lim_{n\to\infty}x_n\r) \end{array}$
が成り立つので、$\Z_2\times\Z_5$の元に対しては一意的な$10$進展開
$\dis(x,y)=\l(\sum^\infty_{n=0}a_n10^n,\sum^\infty_{n=0}a_n10^n\r)\quad(a_n\in\{0,1,2,\ldots,9\})$
が考えられる。
 ちなみに書籍『 天に向かっていく数 (日本評論社)』で紹介されている$10$進数という概念はこの逆極限$\varprojlim_n\ZZ{10^n}$のことを指しており、$10$進数が整域でないことはこれが直積環$\Z_2\times\Z_5$と同型であることからわかる。同様にして任意の自然数$m$に対して$m$進数$\varprojlim_n\ZZ{m^n}\simeq\prod_{p|m}\Z_p$というものが考えられ、それぞれの世界で一意的な$m$進展開が考えられる。

形式的冪級数環$k[[x]]$

 体係数多項式環$k[x]$の素イデアル$(x)$による完備化$k[[x]]$を考えると
$k[x]/(x)\simeq k\quad f(x)+(x)\mapsto f(0)$
であることから$k[[x]]$は形式的冪級数環
$\dis k[[x]]=\l\{\sum^\infty_{n=0}a_nx^n\;\bigg|\;a_n\in k\r\}$
となる。

 $A$を完備離散付値付値環、$k=A/\p$をその剰余体とする。このとき分数体$K$$k$の標数が一致すれば$A\simeq k[[x]]$が成り立つ。

らしいです。

おわりに

 なんか諸々が中途半端な気がしますが、後に読み直す私のために書き残しておきたいことはそれとなーく書けたのでこの記事はここら辺で終わりにしておきます。
 最近はある定理を理解するために$\Q_p$の整数論、形式的に代数的$p$進整数論とでも言いましょうか、を学ぶ必要が出て来たので遠からず近からずそういった内容の記事を書くかもしれません。勉強する気が失せたら書きません。そこら辺もテキトーです。
 まあ今回はこんなところで。では。

参考文献

[1]
加藤和也, 黒川信重, 斎藤毅, 数論2 類体論とは, 岩波講座 現代数学の基礎, 岩波書店, 1998, pp.202-207
投稿日:2022525

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子葉
子葉
875
162409
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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