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大学数学基礎解説
文献あり

離散付値環の基本性質

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$$\newcommand{A}[0]{\widehat{A}} \newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{bs}[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{p}[0]{\boldsymbol{p}} \newcommand{pp}[0]{\widehat{\boldsymbol{p}}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{wh}[1]{\widehat{#1}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事は$p$進数を構成する手続きを一般化した理論:離散付値環の理論についてその基本的なところを考察していきます。筆者が最近気になって考えたことのメモのような記事となっているので、そこまで事細かにはやりません。

離散付値

離散付値

 体$K$から全順序集合$\R\cup\{\infty\}$への全射$v$であって、次のような性質を満たすものを$K$離散付値という。

  • $x=0\iff v(x)=\infty$
  • $v(xy)=v(x)+v(y)$
  • $v(x+y)\geq\min\{v(x),v(y)\}$
  • $v(K^\times)$$\R$の自明でない離散部分群である

 特に$v(K^\times)=\Z$を満たすような離散付値を正規付値と言う。
 次の補題によって任意の離散付値は適当な実数倍によって正規化できることがわかる。したがって以下では離散付値と言えば正規付値を指すものとする。

 $\R$の加法に関する離散部分群は$\a\Z\;(\a\in\R)$と表せるものに限る。

 $\R$の自明でない離散部分群$G$に対し
$$\a=\inf\{x\in G\mid x>0\}$$
とおくと、$G$が集積点を持たないことから
$$\a=\min\{x\in G\mid x>0\}\in G$$
が成り立つ。
 いま$G\neq\a\Z$であるとすると、任意の$\b\in G\setminus\a\Z$に対しある整数$k$が存在し
$$|\b-\a k|<\a$$
とできるが$\b-\a k\in G$よりこれは$\a$の最小性に反する。よって$G=\a\Z$を得る。

基本的な公式

 離散付値$v$に対し以下が成り立つ。

  • $v(1)=v(-1)=0$
  • $x\neq0$に対し$v(x^{-1})=-v(x)$
  • $v(x)\neq v(y)$のとき$v(x+y)=\min\{v(x),v(y)\}$

 一、二つ目の式は
$$v(1^2)=v(1),\quad v((-1)^2)=v(1),\quad v(xx^{-1})=v(1)$$
に注意するとわかる。
 三つ目の式については$\min\{v(x),x(y)\}\geq v(x+y)$が成り立つことを示せばよい。
 そのことは$v(x)< v(y)$としたとき
$$v(x)=v(x+y-y)\geq\min\{v(x+y),v(y)\}$$
の右辺が$v(y)$とは成り得ないことから$v(x+y)\leq v(x)$がわかり、また明らかに$v(x+y)\geq v(x)$なので
$$v(x+y)=v(x)=\min\{v(x),x(y)\}$$
を得る。

離散付値環

 $v$を体$K$の離散付値とすると、集合
$$A=\{x\in K\mid v(x)\geq0\}$$
は環をなし、これを$v$付値環という。

 逆に環$R$の分数体$K$に対して適当に離散付値を定めることで、$R$がその付値に関する付値環となるような環$R$のことを総じて離散付値環と呼びます(例えば Wikipedia には環が離散付値環であるための必要十分条件が$9$個ほど載っています)。

 離散付値環$R$において、$x\in A$が可逆元であることと$v(x)=0$を満たすことは同値である。
 特に$v(\pi)=1$を満たすような$\pi\in A$を取ると、任意の$x\in K^\times$
$$x=\e\pi^n\quad(\e\in A^\times,\ n\in\Z)$$
の形に一意的に表せる。

 前半の主張については$v(x^{-1})=-v(x)$に注意するとわかる。
 後半の主張については$v(x\pi^{-v(x)})=0$が成り立つことからわかる。

 離散付値環$A$$0$でない素イデアルをただ一つしか持たない単項イデアル整域となる。
 特に$v(\pi)=1$を満たすような$\pi\in A$を取ると、$A$の任意の$0$でないイデアル$\bs a$
$$\bs a=(\pi^n)=\{x\in K\mid v(x)\geq n\}$$
の形に表せる。

 $A$$0$でないイデアル$\bs a$に対し
$$n=\min\{v(x)\mid x\in\bs a\},\quad\bs b=\pi^{-n}\bs a$$
とおくと、$\bs b$は可逆元を含むイデアル、つまり$A$となるので
$$\bs a=\pi^n\bs b=(\pi^n)$$
を得る。

 $A$を離散付値環、$\p=(\pi)$をその素イデアルとする。
 このとき$\p$は極大イデアルでもあることから$A/\p$は体を成す。これを$A$剰余体と言う($K$$v$の剰余体とも言う)。
 また$\p$の生成元$\pi$uniformizer(一意化元)と呼ぶことがある(基本的には単に素元と言えばよい)。

完備離散付値環

 $v$を体$K$の離散付値とすると任意の$0< c<1$に対してノルム
$$|x|_v=c^{-v(x)}$$
および距離関数
$$d(x,y)=|x-y|_v=c^{-v(x-y)}$$
が定まり、この距離に対する$K$の完備化$K_v$が考えられる。
 このとき$\dis\lim_{n\to\infty}x_n=x$であることと$\dis\lim_{n\to\infty}v(x-x_n)=\infty$であることは同値であることに注意する。

二つの同値な定義

 $K_v,A_v$$v$による$K$の完備化とその付値環、$\wh A,\wh K$を逆極限
$$\wh A=\varprojlim_n A/\p^n$$
とその分数体とすると
$$A_v\simeq\wh A,\quad K_v\simeq\wh K$$
が成り立つ。

$\dis\xymatrix@C=36pt{ K\ar[r]^{完備化}\ar@<0.5ex>[d]^{付値環}&\wh K_v\ar[d]^{付値環}&\wh K\ar@{=}[l] \\A\ar@/_10pt/[rr]_{逆極限}\ar@<0.5ex>[u]^{分数体}&A_v\ar@{=}[r]&\wh A\ar[u]_{分数体} }$

証明(長いので折りたたみ)

 $A,A_v$の素イデアルを$\p,\pp$とおいたとき
$$A/\bs{p}^n\simeq A_v/\pp^n,\quad \varprojlim_n A_v/\pp^n\simeq A_v$$
が成り立つことを示す。もしこれが示されれば
$$\wh A=\varprojlim_n A/\p^n\simeq\varprojlim_n A_v/\pp^n\simeq A_v$$
が得られる。

$A/\bs{p}^n\simeq A_v/\pp^n$の証明

 自然な準同型$f:A\to A_v/\pp^n$を考えたとき、その核は
\begin{align} \Ker f&=\pp^n\cap A\\ &=\{x\in A_v\mid v(x)\geq n\}\cap A\\ &=\{x\in A\mid v(x)\geq n\}\\ &=\p^n \end{align}
と求まり、また任意の$x\in A_v$に対し$x$に収束する$A$内の列$\{x_k\}_k$を取ると、$v(x-x_k)\to\infty$より十分大きい$k$に対し$v(x-x_k)\geq n$つまり
$$x+\pp^n=x_k+\pp^n=f(x_k+\p^n)$$
となって全射性がわかるので
$$A/\bs{p}^n\simeq A_v/\wh{\p}^n$$
を得る。

$\lim_n A_v/\pp^n\simeq A_v$の証明

 任意の$(x_n+\pp^n)_n\in\varprojlim_n A_v/\pp^n$に対して$n>m$なら
$$x_n+\pp^m=x_m+\pp^m$$
つまり
$$v(x_n-x_m)\geq m\to\infty\quad(m,n\to\infty)$$
と代表元の列$x_n$はCauchy列となるので環準同型
$$\begin{array}{rcl} g:\varprojlim_n A_v/\pp^n&\to&A_v \\(x_n+\pp^n)_n&\mapsto&\dis\lim_{n\to\infty}x_n \end{array}$$
が考えられるので、これが全単射であることを示せばよい。
 全射性については$g((x+\pp^n)_n)=x$であることから明らか。
 単射性については
$$g((x_n+\pp^n)_n)=0$$
ならば$v(x_n)\to\infty$、つまり任意の$n$に対し$n\leq v(x_N)$なる$N\geq n$が存在し、このとき
$$x_n+\pp^n=x_N+\pp^n=0+\pp^n$$
が成り立つことから$(x_n+\pp^n)_n=(0+\pp^n)_n$を得る。

 環$R$完備離散付値環であるとは、離散付値環$R$であって次の同値な条件の一方(すなわち両方)を満たすもののことを言う。

  • $R$の分数体$K$が離散付値$v$の定める距離に対して完備である。
  • $R$の素イデアル$\p$について、自然な単射$R\to\varprojlim_n R/\p^n$は同型写像となる。

冪級数表示

 完備離散付値体$K$において級数$\dis\sum^\infty_{n=0}a_n$が収束することと$\dis\lim_{n\to\infty}a_n=0$が成り立つことは同値である。

 (前者)$\Rightarrow$(後者)は級数のコーシー性よりわかる。
 逆に$a_n\to0$であれば十分大きい任意の$m< n$に対し
$$\l|\sum^n_{k=m}a_k\r|_v\leq\max_{m\leq k\leq n}|a_k|_v<\e$$
とコーシー性がわかる。($K$は完備なのでコーシー列は収束する)

 $A$を離散付値環、$\pi$をその素元、$\G$を剰余体$A/(\pi)$の代表元集合とすると分数体$K$の任意の元は
$$x=\sum^\infty_{n=v(x)}a_n\pi^n\quad(a_n\in\G,a_{v(x)}\not\in\p)$$
の形に一意に表せる。また$A$が完備であるとき、このように表される数は全て$K$の元を定める。

存在性

 $x\neq0$$x\pi^{-v(x)}$と置き換えることで$x\in A$としてよい。
 このとき$n=0$から順に
$$\frac{x-(a_0+a_1\pi+\cdots a_{n-1}\pi^{n-1})}{\pi^n}\equiv a_n\pmod\pi$$
なる$a_n\in\G$を取っていくと
$$v\l(x-\sum^n_{k=0}a_k\pi^k\r)\geq n+1\to\infty\quad(n\to\infty)$$
つまり
$$x=\sum^\infty_{n=0}a_n\pi^n\quad(a_n\in\G)$$
と表せることがわかる。

一意性

 また二通りの表示
$$x=\sum^\infty_{n=0}a_n\pi^n=\sum^\infty_{n=0}b_n\pi^n\quad(a_n,b_n\in\G)$$
があったとき
$$x\equiv a_0\equiv b_0\pmod\pi$$
より$a_0=b_0$、また
$$\frac{x-a_0}\pi\equiv a_1\equiv b_1\pmod\pi$$
より$a_1=b_1$、...としていくことで$a_n=b_n$となることがわかるのでこの表示は一意的である。

方程式の可解性

Henselの補題

 ある$f(x)\in A[x]$$x_0\in A$$v(f(x_0))>2v(f'(x_0))$を満たすとする。
 このとき$e_1=v(f(x_0)),e_2=v(f'(x_0))$とおくと
$$f(x_n)\equiv0\pmod{\pi^{e_1+n}},\quad x_{n+1}\equiv x_n\pmod{\pi^{e_1-e_2+n}}$$
を満たすような$A$内の列$\{x_n\}^\infty_{n=0}$が存在する。

 この記事にて証明した。
 なお離散付値環においてはニュートン法
$$x_{n+1}=x_n-\frac{f(x_n)}{f'(x_n)}$$
を直接用いることができる。

 $A$が完備であるとき、上の補題のような$f(x),x_0$に対して
$$f(\a)=0\quad\mbox{かつ}\quad\a\equiv x_0\pmod{\pi^{e_1-e_2}}$$
を満たすような$\a\in A$が存在する。

 上の補題によって得られる数列$\{x_n\}^\infty_{n=0}$$n>m$に対し
$$v(x_n-x_m)\geq e_1-e_2+m\to\infty\quad(m,n\to\infty)$$
とコーシー性を満たすので、その収束先を$\a$とおくと
$$v(f(x_n))\geq e_1+n\to\infty\quad(n\to\infty)$$
より
$$f(\a)=\lim_{n\to\infty}f(x_n)=0$$
を得る。
 また
$$v(\a-x_0)=\lim_{n\to\infty}v(x_n-x_0)\geq e_1-e_2$$
より
$$\a\equiv x_0\pmod{\pi^{e_1-e_2}}$$
もわかる。

デデキント環の離散付値

 デデキント環$A$とは、ざっくり言えば$A$の任意のイデアルが(一意に)素イデアル分解できる整域の事を言います。主な例で言うと単項イデアル整域や代数体の整数環がこれに相当します(詳しくは この記事 などを参照してください)。
 デデキント環$A$$0$でない素イデアル$\p$を任意に一つ取り、$A$の分数体$K$の元$x$に対し写像$\ord_\p:K\to\Z\cup\{\infty\}$を単項分数イデアル$(x)$の素イデアル分解における$\p$の指数で定めると(ただし$v(0)=\infty$とする)、これは離散付値となります。

剰余体の不変性

 デデキント環$A$$0$でない素イデアル$\p$が定める離散付値$v=\ord_\p$に関する付値環を$A_\p$、その素イデアルを$\pp$とおくと
$$A/\p\simeq A_\p/\pp$$
が成り立つ。

 $x\in A_\p$
$$x=\frac yz\quad(y,z\in A,v(y)\geq0,v(z)=0)$$
と表したとき、準同型$f:A_\p\to A/\p$
$$x=y/z\mapsto yz^{-1}+\p$$
によって定めると($z^{-1}$$A/\p$における逆元)、明らかに$\Ker f=\pp,\ \Im f=A/\p$が成り立つので
$$A_\p/\pp\simeq A/\p$$
を得る。

冪級数表示

 デデキント環$A$とその素イデアル$\p$に対して、$A$の分数体$K$の離散付値$v=\ord_\p$による完備化$\wh K$を考えると、$\wh K$の任意の元$x$$A/\p$の代表元集合$\G$と任意の$\pi\in\p\setminus\p^2$を用いて
$$x=\sum^\infty_{n=v(x)}a_n\pi^n\quad(a_n\in\G,a_{v(x)}\not\in\p)$$
の形に一意的に表せる。

$\xymatrix@R=10pt{ &K\ar[r]^{完備化}\ar[d]^{付値環}&\wh K\ar[d]^{付値環} \\A\ar[ru]^{分数体}&A_\p&\wh A \\A/\p\ar[r]^\simeq&A_\p/\pp\ar[r]^\simeq&\wh A/\wh\pp }$

 命題5の証明と上の命題から$\wh K$の付値環$\wh A$とその素イデアル$\wh\pp$に対して
$$\begin{array}{rcl} f:R/\p&\to&\wh A/\wh\pp \\x+\p&\mapsto&x+\wh\pp \end{array}$$
は同型となるので$R/\p$の代表元集合は$\wh A/\wh\pp$の代表元集合でもある。
 また$\pi\in\p\setminus\p^2$ならば$v(\pi)=1$であることから命題7より主張を得る。

剰余環の不変性

 $A/\p^n\simeq A_\p/\pp^n\simeq\wh A/\wh\pp^n$が成り立つ。

$$\p^n=\{x\in A\mid v(x)\geq n\}$$
と書けることに注意すると単射環準同型
$$\begin{array}{rcl} f:A/\p^n&\to&A_\p/\pp^n \\x+\p^n&\mapsto&x+\pp^n \end{array}$$
が考えられる。
 また任意の$x\in A$に対して上のような表示
$$x=\sum^\infty_{k=0}a_k\pi^k\quad(a_k\in\G\subseteq A,\pi\in\p)$$
を考え
$$x_n=\sum^{n-1}_{k=0}a_k\pi^k\in A$$
とおくと全射性
$$x\equiv f(x_n)\pmod{\pp^n}$$
がわかるので$A/\p^n\simeq A_\p/\pp^n$を得る。
 また命題5の証明より$A_\p/\pp^n\simeq\wh A/\wh\pp^n$でもあったので主張を得る。

よく見る形のHenselの補題

 ある多項式$f(x)\in A[x]$と元$x_0\in A$
$$f(x_0)\equiv0\pmod\p,\quad f'(x_0)\not\equiv0\pmod\p$$
を満たすとする。このとき
$$f(\a)=0\quad\mbox{かつ}\quad\a\equiv x_0\pmod{\wh\pp}$$
を満たすような$\a\in\A$が存在する。

 仮定より$v(f(x_0))\geq1,v(f'(x_0))=0$なので$v(f(x_0))>2v(f'(x_0))$が成り立つ。あとは補題8からわかる。

具体的な完備離散付値環,体の例

$p$進数体$\Q_p$

$\Q$の付値環

 整数環$\Z$と素数$p$について分数体$=$有理数体$\Q$に対して離散付値$v=\ord_p=\ord_{p\Z}$、即ち有理数$r\neq0$の負の指数を認めた素因数分解における素数$p$の指数を考える。
 このとき$\Q$の付値環$\Z_{(p)}$
$$\Z_{(p)}=\l\{\frac{b}{a}\;\bigg|\; a,b\in\Z,p\nmid a\r\}$$
のように書くことができ、定理9系より
$$\ZZ{p^n}\simeq\Z_{(p)}/p^n\Z_{(p)}$$
であったのでこの同一視によって有理数同士の合同関係が考えられたりする。

$p$進数、$p$進整数

 また$v$による$\Q$の完備化$\Q_p$およびその付値環$\Z_p$をそれぞれ$p$進数体・$p$進整数環と呼び、それらの元のことをそれぞれ$p$進数・$p$進整数と呼ぶ。$\pi=p$および$\Z/p\Z$の代表元集合を$\G=\{0,1,2,\ldots,p-1\}$と取ることで任意の$p$進数$x$
$$\dis x=\sum^\infty_{n=v(x)}a_np^n\quad(a_n\in\{0,1,2,\ldots,p-1\})$$
の形に一意に表示することができる。この表示の事を$x$$p$進展開と呼ぶ。

$m$進展開、$m$進数

 ちなみに$p$進数の冪級数表示は$v(\pi)=1$であれば何でもよかったので$p=2,5$に対して$\pi=10$とおくことで$10$進展開
$$x=\sum^\infty_{n=v(x)}a_n10^n\in\Q_p\quad(p=2,5)$$
というのも考えられたりする。ただしこの表示は$a_n\in\{0,1,2,\ldots,p-1\}$において一意的であって、$a_n\in\G_{10}=\{0,1,2,\ldots,9\}$の範囲では一意的ではない。
 しかし級数$\sum^\infty_{n=0}a_n10^n$を逆極限$\varprojlim_n\ZZ{10^n}$の元
$$\l(\sum^n_{k=0}a_k10^k+10^n\Z\r)_n$$
と解釈すると中国剰余定理から同型
$$\begin{array}{rcccl} \varprojlim_n\ZZ{10^n}&\simeq&\varprojlim_n\ZZ{2^n}\times\varprojlim_n\ZZ{5^n}&\simeq&\Z_2\times\Z_5 \\(x_n+10^n\Z)_n&\mapsto&((x_n+2^n\Z)_n,(x_n+5^n\Z)_n)&\mapsto&\dis\l(\lim_{n\to\infty}x_n,\lim_{n\to\infty}x_n\r) \end{array}$$
が成り立つので、$\Z_2\times\Z_5$の元に対しては一意的な$10$進展開
$$(x,y)=\l(\sum^\infty_{n=0}a_n10^n,\sum^\infty_{n=0}a_n10^n\r)\quad(a_n\in\{0,1,2,\ldots,9\})$$
が考えられる。
 ちなみに書籍『 天に向かっていく数 (日本評論社)』で紹介されている$10$進数という概念はこの逆極限$\varprojlim_n\ZZ{10^n}$のことを指しており、$10$進数が整域でないことはこれが直積環$\Z_2\times\Z_5$と同型であることからわかる。同様にして任意の自然数$m$に対して$m$進数$\varprojlim_n\ZZ{m^n}\simeq\prod_{p|m}\Z_p$というものが考えられ、それぞれの世界で一意的な$m$進展開が考えられる。

形式的冪級数環$k[[x]]$

 体係数多項式環$k[x]$の素イデアル$(x)$による完備化$k[[x]]$を考えると
$$k[x]/(x)\simeq k\quad f(x)+(x)\mapsto f(0)$$
であることから$k[[x]]$は形式的冪級数環
$$k[[x]]=\l\{\sum^\infty_{n=0}a_nx^n\;\bigg|\;a_n\in k\r\}$$
となる。
 ちなみに次のような事実が知られています。

 $A$を完備離散付値環、$k=A/(\pi)$をその剰余体とする。このとき分数体$K$$k$の標数が一致すれば$A\simeq k[[x]]$が成り立つ。

おわりに

 なんか諸々が中途半端な気がしますが、後に読み直す私のために書き残しておきたいことはそれとなーく書けたのでこの記事はここら辺で終わりにしておきます。
 最近はある定理を理解するために$\Q_p$の整数論、形式的に代数的$p$進整数論とでも言いましょうか、を学ぶ必要が出て来たので遠からず近からずそういった内容の記事を書くかもしれません。勉強する気が失せたら書きません。そこら辺もテキトーです。
 まあ今回はこんなところで。では。

参考文献

[1]
加藤和也, 黒川信重, 斎藤毅, 数論2 類体論とは, 岩波講座 現代数学の基礎, 岩波書店, 1998, pp.202-207
投稿日:2022525
更新日:77
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投稿者

子葉
子葉
989
229052
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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