この記事では 前回の記事 に引き続き離散付値環の理論について勉強していきます。
以下$A$を離散付値環、$K,\ \p,\ v$をその分数体、素イデアル、加法付値とする。また任意に実数$0< c<1$を取り$K$の乗法付値$|\,\cdot\,|$を
$$|x|=c^{v(x)}$$
によって定める。このとき
\begin{align}
A&=\{x\in K:|x|\leq1\}\\
\p&=\{x\in K:|x|<1\}
\end{align}
と表せることに注意する。
また$K$上の多項式$f=\sum_ka_kx^k$に対し、そのノルム$\|f\|$を
$$\|f\|=\max_k|a_k|_\p$$
によって定める。
離散付値環は整閉整域である。
任意の$x\in K$に対し$x\in A$または$x^{-1}\in A$が成り立つことに注意する。
いまある$x\in K\setminus A$が$A$上整であるとし、$x$が満たす方程式を
$$x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x+a_0=0\qquad(a_i\in A)$$
とおくと$x^{-1}\in A$より
$$x=-a_{n-1}-\cdots-a_1x^{-(n-2)}-a_0x^{-(n-1)}\in A$$
となって矛盾。よって主張を得る。
以下$A$は完備であるものとする。
$K$上の既約多項式$f=\sum^n_{k=0}a_kx^k$に対し
$$\|f\|=\max\{|a_0|,|a_n|\}$$
が成り立つ。特に$a_0,a_n\in A$であれば$f\in A[x]$となる。
適当な元で割ることで$\|f\|=1$、特に$f\in A[x]$としてよい。
このとき$|a_0|,|a_n|<1$とすると
$$a_0,a_n\equiv0\pmod\p$$
より$f$は$A/\p$において
$$f\equiv x^d\cdot\ol h\pmod\p\quad(1\leq d< n,\;\ol h(0)\neq0)$$
のように因数分解できる。したがって
Henselの補題
より非自明な因数分解
$$f=gh\quad(\deg g=d)$$
が得られることになり$f$の既約性に矛盾する。
よって$\max\{|a_0|,|a_n|\}=1=\|f\|$を得る。
有限次拡大$L/K$において$\a\in L$が$A$上整であることと$N_{L/K}(\a)\in A$が成り立つことは同値である。
(前者)$\Rightarrow$(後者)は明らかなので、その逆を示す。
いま$n=[L:K],\ e=[L:K(\a)]$とおいたとき、$\a$の$K$における最小多項式$f$について
$$N_{L/K}(\a)=(-1)^nf(0)^e\in A$$
が成り立つ。特に$x=f(0)$は方程式
$$x^e-(-1)^nN_{L/K}(\a)=0$$
を満たすので$A$上整であり、また$f(0)\in K$および$A$の整閉性から$f(0)\in A$が成り立つ。
よって($f$はモニックであることに注意すると)上の補題より$f(x)\in A[x]$、つまり$\a$は$A$上整であることがわかる。
$K$上の乗法付値$|\,\cdot\,|$は任意の有限次拡大体$L$上に一意的に延長でき、$L$はその付値に関して完備となる。
特に$n=[L:K]$とおくとその付値は
$$|x|=|N_{L/K}(x)|^{1/n}$$
によって定まる。
一意性、完備性については
この記事
の補題4として示していたので、あとは存在性、つまり
$$|x|_L:=|N_{L/K}(x)|^{1/n}$$
が$L$の乗法付値を定めることを示せばよい(これが$|\,\cdot\,|$の延長となっていることは明らか)。
いま
$$|x|_L=0\iff x=0,\quad|xy|_L=|x|_L|y|_L$$
については明らかなので
$$|x+y|_L\leq\max\{|x|_L,|y|_L\}$$
特に
$$|z|_L\leq1\Longrightarrow|z+1|_L\leq1$$
が成り立つことを示せばよい。
これは$L$における$A$の整閉包を$B$とおいたとき命題3から
$$N_{L/K}(\a)\in A\iff\a\in B$$
が成り立つことに注意すると
\begin{align}
|z|_L\leq1
&\iff|N_{L/K}(z)|\leq1\\
&\iff N_{L/K}(z)\in A\\
&\iff z\in B\\
&\iff z+1\in B\\
&\iff|z+1|_L\leq1
\end{align}
とわかる。
$L$における$A$の整閉包$B$は完備離散付値環となる。
上の命題より
$$w(x)=\frac1nv(N_{L/K}(x))$$
とおくとこれは$L$の離散付値となり、また命題3より
$$x\in B\iff N_{L/K}(x)\in A\iff w(x)\geq0$$
であったので$B$はその付値環
$$B=\{x\in L:w(x)\geq0\}$$
となることがわかる。
上の命題より乗法付値$|\,\cdot\,|$は$K$の代数閉体$\ol K$上へ
$$|\a|=|N_{K(\a)/K}(\a)|^{1/n}\quad(n=[K(\a):K])$$
によって(一意的に)延長できることに注意する。
任意の$\a\in\ol K$および$\s\in\operatorname{Aut}_K(\ol K)$に対し$|\a|=|\s(\a)|$が成り立つ。
$\a$の$K$における最小多項式を$f(x)$とおくと
$$|\a|=|N_{K(\a)/K}(\a)|^{1/n}=|f(0)|^{1/n}$$
と表せ、また$f(x)$は$\s(\a)$の最小多項式でもあるので
$$|\a|=|f(0)|^{1/n}=|\s(\a)|$$
を得る。
$\a,\b\in\ol K$について$\b$が$\a$に属すとは、$\s(\a)\neq\a$なる任意の$\s\in\operatorname{Aut}_K(\ol K)$に対し
$$|\b-\a|<|\b-\s(\a)|$$
が成り立つことを言う。
$\b$が$\a$に属すことと、
$$|\b-\a|<\min_{\s(\a)\neq\a}|\a-\s(\a)|$$
が成り立つことは同値である。
$$|\b-\a|<|\b-\s(\a)|\iff|\b-\a|<|\a-\s(\a)|$$
が成り立つこと、より一般に
$$|x|<|y|\iff|x|<|x-y|$$
が成り立つことを示せばよいが、それは
\begin{align}
|y|&\leq\max\{|x|,|x-y|\}\\
|x-y|&\leq\max\{|x|,|y|\}
\end{align}
に注意するとわかる。
$\b$が$\a$に属し、また$\a$が$K$上分離的であれば$K(\a)\subseteq K(\b)$が成り立つ。
$\a\not\in K(\b)$として矛盾を導く。
このとき$K(\a,\b)/K(\b)$は非自明な分離拡大であるので$\s(\a)\neq\a$なる$\s\in\operatorname{Aut}_{K(\b)}(\ol K/K(\b))$が取れるが、補題6より
$$|\b-\a|=|\s(\b-\a)|=|\b-\s(\a)|$$
となって$\b$が$\a$に属すことに矛盾。
よって$\a\in K(\b)$であり、$K(\a)\subseteq K(\b)$を得る。
モニック多項式$f\in K[x]$とその根$\a$に対して$|\a|\leq\|f\|$が成り立つ。
$|\a|\leq1$のときは$f$がモニック、特に$\|f\|\geq1$が成り立つことから明らかであり、また$|\a|>1$のときは
$$f(x)=x^n+\sum^{n-1}_{k=0}a_kx^k$$
とおくと
\begin{align}
0=|f(\a)|
&=\l|\a^n+\sum^{n-1}_{k=0}a_k\a^k\r|\\
&\geq|\a|^n-\l|\sum^{n-1}_{k=0}a_k\a^k\r|\\
&\geq|\a|^n-\max_{0\leq k< n}|a_k|\cdot|\a|^k\\
&\geq|\a|^n-\|f\|\cdot|\a|^{n-1}\\
&=|\a|^{n-1}(|\a|-\|f\|)
\end{align}
が成り立つことからわかる。
モニックな既約分離多項式$f(x)\in K[x]$に対しある定数$\d$が存在して以下が成り立つ。
$f,g$のモニック性より最高次数の係数を考えると、$\d\leq1$であれば$\|f-g\|<\d$において$\deg f=\deg g$が成り立つことに注意する。
いま
$$f(x)=\prod^n_{i=1}(x-\a_i)=\sum^n_{k=0}a_kx^k$$
に対し
$$\e=\min(\{|\a_i-\a_j|:i\neq j\}\cup\{1\}),\quad
\d=\l(\frac\e{\|f\|}\r)^n$$
とおく。これは$0<\e\leq1,\ \|f\|\geq1$より$0<\d\leq1$を満たす。
このとき$\|f-g\|<\d$なるモニック多項式$g=\sum^n_{k=0}b_kx^k$の根$\b$に対し、上の補題より
$$|\b|
\leq\|g\|
\leq\max\{\|f\|,\|g-f\|\}
=\|f\|$$
と評価できるので
\begin{align}
|f(\b)|&=|f(\b)-0|=|f(\b)-g(\b)|\\
&\leq\max_{0\leq k\leq n}\{|a_k-b_k|\cdot|\b|^k\}\\
&\leq\|f-g\|\cdot\|f\|^n\\
&<\d\|f\|^n=\e^n
\end{align}
が成り立つ。特に
$$|f(\b)|=\prod^n_{i=1}|\b-\a_i|<\e^n$$
に注意するとある$\a=\a_i$について
$$|\b-\a|<\e\leq\min_{\s(\a)\neq\a}|\a-\s(\a)|$$
が成り立つ、つまり$\b$は$\a$に属すことになる。
また仮定より$\a$は分離的なのでKrasnerの補題より$K(\a)\subseteq K(\b)$であり、$\deg f=\deg g=n$に注意すると
$$[K(\b):K]\leq n=[K(\a):K]$$
つまり$[K(\b):K(\a)]=1$がわかるので$K(\b)=K(\a)$を得る。