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大学数学基礎解説
文献あり

Re:パワーな定積分

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はじめに

今回は昔計算した次の積分を,前回とは少し異なる方法で積分しようと思います.今回の方が計算量は少なくなると期待していたのですが,結局あまり変わらない気がします.

前回の記事は コチラからどうぞ

次の定積分を計算せよ.
01dx101dy101dx201dy21{(x2x1)2+(y2y1)2+1}2

解答

唐突な設定 唐突な設定

唐突ですが,
A1={(x,y,z)R3|0x,y1,z=0}
A2={(x,y,z)R3|0x,y1,z=1}
とし,A1,A2の面の向き(単位法線ベクトル)はそれぞれn1=(0,0,1),n2=(0,0,1)であるとします.また,A1内の点は(x1,y1,0)という座標で,A2内の点は(x2,y2,1)という座標で表されるとし,r=(x2x1,y2y1,1)S=|r|=(x2x1)2+(y2y1)2+1とおきます.すると,内積を用いることで
cosθ1=rn1|r||n1|=1S
cosθ2=(r)n2|r||n2|=1S
と計算できます.

このとき,
A1A2cosθ1cosθ2S2dA1dA2=A1A21S4dx1dy1dx2dy2=01dx101dy101dx201dy21{(x2x1)2+(y2y1)2+1}2
となるので,最左辺の面積分が求める値です(実は元々最左辺の面積分があって,それを座標によって書き直したものを問題としていました).以下,この面積分について考えていきます.

A2に関する面積分

またまた唐突ですが,
{P=y2y12S2Q=(x2x1)2S2R=0
というx2,y2を変数に持つ3つの関数P,Q,Rを考えます.すると,実は
A2cosθ1cosθ2S2dA2=CvtdC
が成り立つことが知られています.ここで,CA2の境界,v=(P,Q,R)tCの接ベクトルで,Cの向きはA2の向きと右手系をなす方向です.特に今回の場合Cの向きは正方形A2の周を時計回りに周る方向です.これにより,面積分を線積分に変換することができます.まず,この線積分を求めましょう.そのためにCを次のように分割します.

!FORMULA[29][36709][0]の分割 Cの分割

さて,C1(1x2,0,0)(0x21)と媒介変数表示されるので,特にt=(1,0,0)です.よって線積分は
C1vtdC=01(P|y2=0)dx2=1201y1(x2x1)2+y12+1dx2=y12[1y12+1Arctan(x2x1y12+1)]01=y12y12+1{Arctan(1x1y12+1)+Arctan(x1y12+1)}
と計算できます.ここで, コチラの記事 内にある2次多項式の逆数の積分を用いました.

C2,C3,C4における線積分も少し値が変わるだけで全く同様にできます.結果は次の通りです.
C2vtdC=01(Q|x2=0)dy2=x12x12+1{Arctan(1y1x12+1)+Arctan(y1x12+1)}
C3vtdC=01(P|y2=1)dx2=1y12(1y1)2+1{Arctan(1x1(1y1)2+1)+Arctan(x1(1y1)2+1)}
C4vtdC=01(Q|x2=1)dy2=1x12(1x1)2+1{Arctan(1y1(1x1)2+1)+Arctan(y1(1x1)2+1)}

これより,A2に関する面積分は次のように計算できます.
A2cosθ1cosθ2S2dA2=y12y12+1{Arctan(1x1y12+1)+Arctan(x1y12+1)}(i)+x12x12+1{Arctan(1y1x12+1)+Arctan(y1x12+1)}(ii)+1y12(1y1)2+1{Arctan(1x1(1y1)2+1)+Arctan(x1(1y1)2+1)}(iii)+1x12(1x1)2+1{Arctan(1y1(1x1)2+1)+Arctan(y1(1x1)2+1)}(iv)

A1に関する面積分

ここから先はA1の面積分を普通に逐次積分していきます.関数が多くて大変なように見えますが,どれも似た形をしているので,実は1つ計算すると後は変数変換で同じように計算できます.

まず(i)をy1で積分しましょう.部分積分から
01y1y12+1Arctan(x1y12+1)dy1=[y12+1Arctan(x1y12+1)]01+x101y1y12+x12+1dy1=2Arctan(x12)Arctan(x1)+x1[12log(y12+x12+1)]01=2Arctan(x12)Arctan(x1)+x12logx12+2x12+1
と計算されるので,
01y1y12+1Arctan(1x1y12+1)dy1=2Arctan(1x12)Arctan(1x1)+1x12log(1x1)2+2(1x1)2+1
も分かります.従って,
F(x):=2Arctan(x2)Arctan(x)+x2logx2+2x2+1+2Arctan(1x2)Arctan(1x)+1x2log(1x)2+2(1x)2+1
とおけば,(i)をy1で積分した結果はF(x1)2となります.(ii)は(i)の場合とx1,y1が入れ替わっていることから,(ii)をx1で積分するとF(y1)2となります.更に,任意の関数g(x)に対して等式
01g(x)dx=01g(1x)dx
が成り立つことから,(iii)をy1で積分するとF(x1)2を,(iv)をx1で積分するとF(y1)2を得ることも分かります.従って,次が成り立ちます.
A1A2cosθ1cosθ2S2dA1dA2=12{01F(x1)dx1+01F(y1)dy1+01F(x1)dx1+01F(y1)dy1}=201F(x1)dx1=201{2Arctan(x12)Arctan(x1)+x12logx12+2x12+1}dx1+201{2Arctan(1x12)Arctan(1x1)+1x12log(1x1)2+2(1x1)2+1}dx1=401{2Arctan(x12)Arctan(x1)+x12logx12+2x12+1}dx1
後は各項を積分するだけです.最初の2項は
012Arctan(x12)dx1=[2x1Arctan(x12)log(1+x122)]01=2Arctan(12)log32
01Arctan(x1)dx1=[x1Arctan(x1)12log(1+x12)]01=π412log2
と直ぐに求められます.最後の項は,部分積分から
01x1log(x12+1)dx=[x122log(x12+1)]0101x13x12+1dx1=12log201(x1x1x12+1)dx1=12log212+[12log(x12+1)]01=log212
01x1log(x12+2)dx=[x122log(x12+2)]0101x13x12+2dx1=12log301(x12x1x12+2)dx1=12log312+[log(x12+2)]01=32log3log212
と計算されるので
01x12logx12+2x12+1dx1=1201x1log(x12+2)dx1201x1log(x12+1)dx=34log3log2
となります.以上より,求める値は
4(2Arctan(12)log32π4+12log2+34log3log2)=42Arctan(12)+log43π
となります.これは 前に求めた値 と一致していますね.

背景とからくり

上で出現した面積分
A1A2cosθ1cosθ2S2dA1dA2
は,より一般には「形態係数」という値を求める際に立ちはだかります.そして,参考文献[1]では,A1が向きを持った微小面である場合の値,即ち面積分
A2cosθ1cosθ2S2dA2
を線積分に変換する次のような方法が示されています.

ユークリッド空間R3内で考えます.点A1=(x1,y1,z1)を始点とするベクトルn1を考え,A2は有限の面積A2と向きを持つ曲面とします.但し,点A1A2上にないとします.A2内の点を(x2,y2,z2)という座標で表し,r=(x2x1,y2y1,z2z1)とおきます.また,S=|r|とおきます.rn1がなす角をθ1A2内の点(x2,y2,z2)におけるA2の単位法線ベクトルn2がなす角をθ2とすると,上でやったように内積を用いることで
cosθ1=rn1|r||n1|=rn1S
cosθ2=(r)n2|r||n2|=rn2S
と計算できます.

このとき次の面積分を考えます.
A2cosθ1cosθ2S2dA2=A2rn1S4((r)n2)dA2=A2(fr)n2dA2
但し,f=rn1S4とおいています.ここで,x2,y2,z2を変数に持つ関数P,Q,Rを考え,これらを成分に持つベクトルvrotv=frを満たすように定めることができたとします.即ち,
{Ry2Qz2=(x1x2)fPz2Rx2=(y1y2)fQx2Py2=(z1z2)f
を満たすようなx2,y2,z2の関数P,Q,Rが見つかったとします.すると,ストークスの定理から
A2cosθ1cosθ2S2dA2=A2(fr)n2dA2=CvtdC
が成り立ちます.ここでCA2の境界であり,その向きはA2の向きと右手系をなすように定められているとします.また,tCの接ベクトルを表します.これにより面積分を線積分に変換することができます.

ただ,そのためには上の関係を満たすP,Q,Rを探さなければなりません.参考文献[1]には,そのようなP,Q,Rとして次の形のものが示されていました.ここでn1=(α1,β1,γ1)とおいています.
{P=β1(z2z1)+γ1(y2y1)2S2Q=α1(z2z1)γ1(x2x1)2S2R=α1(y2y1)+β1(x2x1)2S2
これらを上の偏微分方程式から求める方法は載っていなかった(し,自分でも思いつかない)ので分かりませんが,これらがその偏微分方程式を満たすことは計算すれば分かります.

上の計算で唐突に姿を現したP,Q,Rは,この事実から計算されていたのです.

さいごに

面積分より線積分の方が楽だろうと思っていたのですが,積分する項が増えてしまったので見た目の作業量に変化は無い気がしますね.線積分に変換する恩恵をもっと受けられる面積分を考えていきたいです.

今回の記事は以上です.
お読み頂きありがとうございました.

参考文献

[1]
Siegel, R. and Howell, J. R., Thermal Radiation Heat Transfer, p178-181
投稿日:202279
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