★ 本記事は
走る結合定数の計算(1/5):くりこみ概論
の続きです
★ 以下の規約を用います:
Yang-Mills理論における走る結合定数の計算第2回です。
前回はスカラー場の理論を用いて、ごく簡単にくりこみの概論を説明しました。今回はYang-Mills(YM)理論におけるくりこみの方法、および走る結合定数の計算方法を説明します。ただし、ファインマン則の導出やくりこみを詳しく説明することはせず、その手続きを公理として導入し、計算ができることにのみ特化した説明をします。くりこみとは何かの概要を知りたい方は、 前回の記事 をご参照ください。具体的なダイアグラムの計算は第4回で行います。
参考文献はRef.[1]です。ファインマン則はこれと同じものを採用しています。
SU(N)のYang-Mills理論のLagrangianは以下です:
くりこまれた場およびくりこまれた結合定数、ゲージパラメータおよびquark質量を以下のように定義します:
これらのくりこまれた量を用い、Lagrangianを以下の形に変形します:
YM理論のLagrangianを以下の形に変形する:
ここで
ここで
である。
このように、Lagrangianをくりこみに適した形に直しておきます。
一連の記事で行うことは次の(A)(B)です:
(A) ファインマン則を導入する。ダイアグラムを有限にするように、くりこみ定数を決定する
(B) 裸の結合定数が次元正則化で導入されたスケールに依存しないことを要求し、くりこまれた結合定数のrunningを決める
以下(A)(B)について述べます。具体的なダイアグラムの計算は第4回の記事で行います。
まずはファインマン則の導入、およびくりこみ定数の決定法について述べます:
gluon、ghost、quark各粒子の伝播を、以下の線で表現します:
各粒子のpropagator。
これらは自由粒子が伝播する際のGreen関数です。これらの線を以下propagatorと呼びます。各propagatorには青色の式が付随します。各線には4元運動量
さらに粒子は次のような分岐(粒子の生成・消滅)を起こします:
各種vertex
これらの分岐をvertexと呼びます。各vertexには青色の式が付随します。
くりこみでは、全ての可能なダイアグラムを計算する必要はなく、1粒子既約(one particle irreducible (1PI))頂点関数と呼ばれるダイアグラムを計算すればよいです。
くりこみで評価するダイアグラム。これらは1PI頂点関数であり、外に出ているpropagatorは含まないことに注意(vertex因子は含みます)
図3がくりこみで評価する1PI頂点関数です。黒丸は1粒子既約、1PIと呼ばれる一連のダイアグラムであり、「1つの内線を切っても2つの部分に分かれることのないダイアグラム」です。頂点関数では、外に伸びるpropagatorはもぎとり、vertex(および流出入する運動量)のみくっつけます。図3では外にpropagatorが伸びていますが、これは線をつけておかないとどの粒子の伝播を表すかわからないためであり、計算ではvertexだけ残してpropagatorは含めないに注意してください。
図4に1PI頂点関数の例を挙げておきます。緑の線でダイアグラムを切っても2つの部分に分かれないので1PIになっています。
図3に示された1PI頂点関数の例。たとえば緑の線で切っても、ダイアグラムが分離することはない。外線のpropagatorは含まない
これらダイアグラムは一般に無限に存在します。そこで結合定数
$g^2 \ & \ g^4$(それぞれ上図と下図)の2点1PI頂点関数
計算したい摂動の次数における
・「ファインマン則1」に従い、各パーツに付随した式をかけます
・vertexには運動量保存則が課されます。すなわち、あるvertexに入り込む運動量が
・ダイアグラムにループをなす部分がある場合、外線の運動量と運動量保存則では定まらない運動量が存在します。これに関しては積分を行います(違う運動量状態の量子力学的重ね合わせに対応する)。ループと積分の対応は以下です:
各種ループにおける積分のファクター
・対称因子と呼ばれる数をかけます
積分はこのままではill-definedです。そこで積分に以下3つの操作を施します。
・propagatorのpoleを実軸から微小にずらす
・MinkowskiからEuclidに移る: 複素平面上での被積分関数の解析性を用い、運動量積分のゼロ成分(=エネルギー)を
・次元を4次元から
これらの具体的な操作に関しては次の記事で説明します。
ダイアグラムに対応する式を計算し、これを
と書けます。
発散を消すようにくりこみ定数を決めます。そのため、計算したダイアグラムの構造と同じcounter termを足します。counter term (CT)は以下のダイアグラムです。
各種counter term
たとえば摂動の最低次でghostのpropagatorの発散を取り除くなら、図7のように、
ghostの2点1PI頂点関数のくりこみ
これでくりこみ定数を決定することができました。
ひとつ注意です。一連の記事では、摂動の
つぎに走る結合定数の計算の概要について述べます:
走る結合定数は、
(A)の5.で、積分の次元を
として導入します。そして、裸の結合定数
を課します。これはくりこみ群方程式です。
となります。この式にくりこみ操作で計算した
一連の記事では次のような簡略化をします:
以下それぞれの説明です。
1.に関して: 走る結合定数を計算するには、結合定数のくりこみ定数
2.に関して:
を使って求めます。これはすなわち、ghost-gluon vertexのくりこみ定数
3.に関して: すべてのダイアグラムを
本記事ではYang-Mills理論におけるくりこみに関して述べました。ファインマン則を導入し、くりこみ定数の決定法について述べ、走る結合定数を決める計算に関して説明しました。
次回はくりこみに用いる数学公式について述べます。
おしまい。