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大学数学基礎解説
文献あり

走る結合定数の計算(3/5): 摂動計算に関する数学公式集

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★ 本記事は 走る結合定数の計算(2/5):Yang-Mills理論のくりこみ の続きです。前回の冒頭に示した表記の規約に従います。


【更新履歴】(左の▶をクリックで表示)
  • 06Aug.2022: 公式4の1.の2つ目の式の積分範囲が間違っていたので修正しました。正しくは
    1A1A2A3=201dx01xdy1(xA1+yA2+(1xy)A3)3
    です


  • 11Aug.2022: 公式の順番を入れ替え、実際の計算手順に沿うようにしました。 ループ計算は

    iϵ処方 次元正則化 Feynman parametrization 積分する変数のうちindexが浮いているものを対称性を用いて消す & 縮約する Wick rotation & 極座標への変換 積分する

    という手順で行うのが一般的かと思いますので、この順番に並べ替えました。説明も変更しています。公式番号も変更しましたのでご注意ください


  • はじめに

    Yang-Mills(YM)理論の走る結合定数を計算する記事の第3回です。

    前回はYM理論におけるくりこみ定数の決定、および走る結合定数の計算に関して説明しました。今回はダイアグラムの計算・くりこみに使う公式をまとめます。ここでは主に次元正則化において用いる公式を示します。Ref.[1]およびRef.[2]を参考にした部分が多いです。証明は概略のみ示しています。

    具体的なダイアグラムの計算は次回行います。

    公式集

    ゲージ群の生成子に関わる公式

    ダイアグラムの評価には、ゲージ群のインデックスに関わる群論的ファクターが現れます。これに関する公式をまとめます。

    ゲージ群の生成子・構造定数に関連する公式
    1. 構造定数fabcは、ゲージ群の生成子Taを用いて
      [Ta,Tb]=ifabcTc
      で定義される。fabcは添字の入れ替えに関し完全反対称。

    2. Tbca:=ifabcはSU(N)の生成子である。すなわちこのTに対して
      [Ta,Tb]=ifabcTc
      が成立する。この表現をadjoint表現と呼ぶ。

    3. ゲージ群の生成子に関する公式:
      tr(TaTb)=δab2,TijaTkla=12(δilδjk1Nδijδkl),(TaTb)ij=CFδij,  CF=N212N

    4. 構造定数に関する公式:
      facdfbcd=δabN,fadefbeffcfd=N2fabc

    5. 生成子に対するJacobi恒等式から導かれる等式:
      fbcdfade+fcadfbde+fabdfcde=0

    • 1.は定義。2.は計算すれば確かめられる。3.の1つ目の式は定義。
    • 3.の上から2番目の式は、生成子の線形独立性から示せる。任意の行列はM=M01+MaTaと書け、trTa=0,tr(TaTb)=δab/2よりM0=trM/2,Ma=2tr(MTa)である。これをM=M01+MaTaに入れて書き換えるとδilδjkMlk=(1Nδijδkl+2TijTkl)Mlkが示せるので求める式が得られる。
      この式とfabcが生成子の表現であることから、3.4.の式が証明できる。
    • 5.はJacobi恒等式:[[Ta,Tb],Tc]+[[Tc,Ta],Tb]+[[Tb,Tc],Ta]=0から従う。

    iϵ処方、Feynman prescription

    ループ積分の被積分関数のpoleを実軸からずらし、積分をwell-definedにします。以下の処方が典型的です。

    iϵ処方

    以下のように、propagatorのpoleを実軸から微小にずらす(ϵは微小な複素数):
    1q2m21q2m2+iϵ
    このようにずらしたpropagatorのフーリエ変換は以下のようになる:
    DF(xy):=d4q(2π)4iq2m2+iϵeiq(xy)={D(xy) for x0>y0D(yx) for x0<y0(2-1)=θ(x0y0)0|ϕ^(x)ϕ^(y)|0+θ(y0x0)0|ϕ^(y)ϕ^(x)|0
    ここで
    (2-2)D(xy):=d3q(2π)312Eqeiq(xy)|q0=Eq=0|ϕ^(x)ϕ^(y)|0,   Eq:=q2+m2
    である。
    演算子T
    Tϕ^(x)ϕ^(y)={ϕ^(x)ϕ^(y)x0>y0ϕ^(y)ϕ^(x)y0>x0
    (このような積をtime ordered productと呼ぶ)
    で定義すれば
    DF(xy)=0|Tϕ^(x)ϕ^(y)|0
    となる。DF(xy)はFeynman propagatorと呼ばれる。

    Feynman propagatorの!FORMULA[32][36705958][0]積分のcontour Feynman propagatorのq0積分のcontour

    ϕ^(x)は正準量子化で量子化された場の演算子であるが、説明を省略する。
    ここではDF(xy)D(xy) (x0>y0)およびD(yx) (x0<y0)となることを示す。
    DF(xy)の定義において、q0積分を実行する。そのために、q0を複素平面に拡張し、留数定理を用いる(図1)。q0平面上の積分経路として、実軸C1:と、極座標における上下半円の経路C2±:(r=+,θ=0±π)を考える。x0y0>0なら、eip(xy)のファクターによりC2の寄与は0なのでC1+C2(青の経路)を、逆ならC1+C2+(オレンジの経路)を採用する。すると、x0y0の正負の違いにより、積分に効く1/(q2m2+iϵ)=1/(q0+Eqiϵ)/(q0Eq+iϵ)のpoleが異なる。これを考慮して計算すれば、Eq(2-2)よりEq.(2-1)を得る。

    このような処方を"Feynman prescription"とか"iϵ処方"と呼びます。
    場の理論の摂動論はFeynman propagatorを使って構成します。

    次元正則化

    次元を4からずらします。YM理論の場合、この操作でループ積分は有限になります。

    次元正則化

    4 dim. D:=42ϵ
    ここでϵは一般に複素数であり、微小なパラメータとして取り扱う。ϵ0D=4の極限。これによりループ積分は
    d4q(2π)4idDq(2π)Di
    となる。

    このような操作は一般に正則化と呼ばれます。次元正則化は理論の様々な対称性を保つため有用です。YMの場合この正則化でゲージ対称性が保たれることが重要です。

    正則化をしたのち、ダイアグラムを計算しϵでLaurent展開して、ϵの負ベキの発散部分をくりこみで除去します。

    被積分関数の分母をまとめる: Feynman parametrization

    ループ積分を実行するため、被積分関数の分母をまとめます。ループ積分には、例えば以下のようなものがあります:
    dDq(2π)Di1q2+iϵ1(qp)2+iϵ
    これは2つの分数関数の積ですが、これを1つにまとめます。

    Feynman parametrization
    1. 被積分関数の分母をまとめる:
      1A1A2=01dx(xA1+(1x)A2)2,1A1A2A3=201dx01xdy1(xA1+yA2+(1xy)A3)3
      下は
      1A1A2A3=201dx01dyy((A1A2)xy+(A2A3)y+A3)3
      とも書ける。積分範囲の違いに注意。

    2. 1/(AαBβ)の分母をまとめる:
      1AαBβ=Γ(α+β)Γ(α)Γ(β)01dxdyxα1yβ1(xA+yB)α+βδ(1xy)

    3. 一般に以下が成立する:
      1A1AN=Γ[N]01dx1dxNδ(1j=1Nxj)1[A1x1++ANxN]N
      これはまた以下のようにも書ける:
      1A1AN=Γ[N]01dx1dxN1x2x32xN1N2[(A1A2)x1xN1+(A2A3)x2xN1++(AN1AN)xN1+AN]N

    • 1.はふつうに積分すれば証明できる。
    • 2.は、まず、公式9の1.(後述)から右辺の積分の係数は(B(α,β))1であることに注意する。右辺でyを積分すれば
      (B(α,β))101dxdyxα1yβ1(xA+yB)α+βδ(1xy)=1AαBβ×(B(α,β))1×γβ01dxxα1(1x)β1{x+γ(1x)}α+β   (γ:=B/A)
      となるが、x=1/(1+t/γ)と変数変換すれば
      =1AαBβ×(B(α,β))10dttβ1(1+t)α+β
      を得る。この積分は公式9の1.よりB(α,β)なので、与えられた式を得る。
    • 3.の上の関係式はAppendixで証明する。下の関係式は公式4の2.を使えば帰納法で証明できる。または上の関係式に変数変換を施しても導ける。

    上に示した例
    dDq(2π)Di1q2+iϵ1(qp)2+iϵ
    の場合、この作業で
    01dxdDq~(2π)Di1(q~2Δ+iϵ)2q~:=qk(1x), Δ:=k2x(1x)
    になります。q~への変数変換ののち、分母はq~2の関数になることは重要です。

    対称性から導かれる公式

    ループ積分において、対称性を用いることで、積分変数のLorentzの足を縮約できる場合があります。

    以下が成立する:

    1. dDq qμ f(q2)=0
    2. dDq qμqν f(q2)=1DgμνdDq q2 f(q2)
    3. dDq qμqνqρ f(q2)=0
    4. dDq qμqνqρqσ f(q2)=1D(D+2)g(μνgρσ)dDq (q2)2f(q2)g(μνgρσ):=gμνgρσ+gμρgνσ+gμσgνρ
    • 1.と3.は積分後μの足をもつLorentz vectorが存在しないことから明らか(時空の回転対称性を破る量がない)。
    • 2.は積分後μ,νの足をもつtensorはgμνしかありえない。よって
      (5-1)dDqqμqνf(q2)=Lgμν
      となる。両辺にgμνをかけると、gμνgμν=Dより
      dDq2f(q2)=DLL=1DdDq2f(q2)
      を得る。
    • 3.は2.と同様。この積分は対称性よりg(μνgρσ)に比例することを用い、2.と同様の計算をすればよい。

    被積分関数のff(q2)であり、引数のqμのindexが自身と縮約されていることに注意してください。qと外線の運動量のindexが縮約されている項が存在する場合(=時空回転の基準が存在する場合)、上の式は成立しません。

    以下は(次元正則化や対称性などより)ゼロになります:

    ゼロとなる積分
    1. dDq(2π)Di1(q2)α=0   (α>0) (次元正則化で成立する式)
    2. dDq(2π)Diqμ(q2)α=0 回転対称性による)
    3. dDq(2π)Diqμqν(q2)α=0   (α>1) 積分はgμνに比例するしかないが、そうすると1.から0になる)

    1.は次元正則化において、ある操作を施すことで正当化される。自明に成立することではないので、定義のようなものだと思えば良い。詳しくは例えばRef.[1]P172参照。

    Feynman parametrizationののち、被積分関数の分母はq~2の関数になります。すると、分子にq~の関数があり、かつそのLorentzのindexが浮いている場合(または外線の運動量と縮約をとっている場合)、公式5を用いることで、その項を消す、またはindexを縮約することができます。これはこの後のWick rotationにおいて重要です。

    虚時間方向への積分路の変更

    次に、q0を虚軸にもっていくことで、Euclid計量での積分に直します()。これにより極座標に移り、積分を実行します。

    Euclid化、Wick rotation

    以下の変数変換: qqE(Euclid化やWick rotationと呼ぶ)を行い、積分を極座標にする:
    q0=iqE0 (qE0:real),  q=qEdDq=idDqE, q2=qE2, qE2=qE02+qE2  dDqE=qED1dqEdΩD
    dΩDD次元における極座標の角度方向の積分測度。
    この操作は、被積分関数のpoleが第1・第3象限になければ正当化される。

    Wick rotation Wick rotation

    被積分関数を(q2)b/(Δq2iϵ)aとする。ここまで説明した操作を施した後、被積分関数はこの類の関数に帰着する。
    複素q0平面において、積分路を虚軸から実軸に移すため、図1の積分路で積分する。積分路内部にはpoleが存在しないこと、また無限遠の1/4円部分が消えることを用いれば
    dq0(2π)idD1q(2π)D1(q2)b(Δ2q2iϵ)a=+iidq0(2π)idD1q(2π)D1(q2)b(Δ2q2iϵ)a
    を得る。qE0:=iq0,qEi:=qi,qE2=(qE0)2+qE2とすれば
    =dqE0(2π)dD1qE(2π)D1(qE02+qE2)b(Δ2+qE02+qE2iϵ)a=dqE0(2π)dD1qE(2π)D1(qE)b(Δ+qE2iϵ)a=dDqE(2π)D(qE)b(Δ+qE2iϵ)a
    あとは積分を極座標にすれば、公式7のWick rotationの操作と一致する。

    D次元の極座標表示

    D次元の極座標への座標変換およびJacobianは以下のようになります:

    • xRDのとき,極座標への変数変換は以下:
      {x1=rcosθ,x2=rsinθcosφ1,x3=rsinθsinφ1cosφ2,xD1=rsinθsinφ1sinφD3sinφD2,xD=rsinθsinφ1sinφD3cosφD2
      各変数の変化域は以下:
      0r+,  0θ,φ1,,φD3π,  0φD22π

    • Jacobianは以下のように書ける:
      rD1sinD2θsinD3φ1sinφD3.
      よって
      idxi=rD1sinD2θsinD3φ1sinφD3drdθdφ1dφD2
      ゆえにdΩD
      dΩD=sinD2θsinD3φ1sinφD3dθdφ1dφD3dφD2

    • dΩDの角度積分(=D次元の半径1の超球の表面積):
      dΩD=0πdθ0πdφ10πdφD302πdφD2sinD2θsinD3φ1sinφD3dθdφ1dφD3dφD2=2πD/2Γ(D/2)

    • dΩDが上で示した形になるのは、例えば帰納法で証明できる(参考: 倭算数理研究所 ) 。D=kのとき上記のdΩDの成立を仮定し、直交座標円柱座標極座標という2段階の変数変換を施すことで、D=k+1でも正しいことが示せる。
    • dΩDの計算は以下のようにする。
      ガウス積分より(ex2dx)D=πD/2であるが、これを極座標で表せば0dr rD1er2×dΩD。ガンマ関数の定義より0dr rD1er2=Γ(D/2)/2であるから、dΩD=2πD/2/Γ(D/2)を得る。

    分母がまとまっている場合のループ積分

    ループ積分の中心的な公式が公式9の2.,3.,4.です。

    1. B関数の性質:
      B(p,q):=01dx xp1(1x)q1=0tp1(1+t)p+qdt=Γ(p)Γ(q)Γ(p+q)

    2. dDqE(2π)D1(qE2+Δ)a=Γ(aD/2)(4π)D/2Γ(a)ΔD/2a

    3. dDqE(2π)DqE2(qE2+Δ)a=D2Γ(aD/21)(4π)D/2Γ(a)ΔD/2a+1

    4. dDqE(2π)D(qE2)2(qE2+Δ)a=14D(D+2)Γ(aD/22)(4π)D/2Γ(a)ΔD/2a+2

    • 1.のB(p,q):=の2行目の1つ目の等式はt=1/(1x)1と変数変換すれば直ちに得られる。
      2つ目の等式はΓ関数の積分表示を用いてΓ(p)Γ(q)=sx1ty1esetdtdsと書いておき、変数変換s=uv,t=u(1v)を施すと、Γ(p)γ(q)=Γ(p+q)B(p,q)を得る。

    • 2.は極座標へ変換したのち、dΩD=2πD/2Γ(D/2)と1.より導ける。

    • 3.,4.は2.と同様。

    D次元における物理量の次元解析

    D次元では、4次元では質量次元0だったgが次元を持ちます。

    gの次元

    次元正則化において、YM理論のgは質量次元ϵをもつ:[g]=Mϵ
    [A]Aの質量次元を表す。Aの質量次元がαであることを[A]=Mαで表す)

    計算する際の前提は以下:

    • xμの質量次元はM1、粒子の質量mの質量次元はM1
    • 作用Sと同じ次元をもつ。自然単位系では[]=M0なので、[S]=M0

    これらより結合定数gの質量次元が計算できる。
    まずゲージ場の運動項より
    dDx μAνμAν
    は次元なし。よって
    [μAνμAν]=MD[A]=M(D2)/2
    つぎにgluonの4点相互作用
    g2A4
    の項を考えると
    [g2A4]=MD[g]=M(D2(D2))/2=M(4D)/2
    D=42ϵとすると
    [g]=Mϵ
    となる。

    ループ積分の公式

    ここまで説明した手法・公式を使うと、以下のループ積分に関する公式が示せます(積分はWick rotationする前の表式です):

    ループ積分の公式1
    1. 分子が1:
      dDq(2π)Di1(q2)α((q+k)2)β=(4π)D/2(k2)D/2αβΓ(α+βD/2)Γ(α)Γ(β)B(D2α,D2β)=(4π)(2ϵ)(k2)(2ϵ)αβΓ(α+β(2ϵ))Γ(α)Γ(β)B((2ϵ)α,(2ϵ)β)

    2. 分子がqμ:
      dDq(2π)Diqμ(q2)α((q+k)2)β=(4π)D/2kμ(k2)D/2αβΓ(α+βD/2)Γ(α)Γ(β)B(D2α+1,D2β)=(4π)(2ϵ)kμ(k2)(2ϵ)αβΓ(α+β(2ϵ))Γ(α)Γ(β)B((2ϵ)α+1,(2ϵ)β)

    3. 分子がqμqν:
      dDq(2π)Diqμqν(q2)α((q+k)2)β=(4π)D/2(k2)D/2αβΓ(α+βD/2)Γ(α)Γ(β)[k2gμνB(D/2α+1,D/2β+1)2(α+β1D/2)+kμkνB(D2α+2,D2β)]=(4π)(2ϵ)(k2)(2ϵ)αβΓ(α+β(2ϵ))Γ(α)Γ(β)[k2gμνB((2ϵ)α+1,(2ϵ)β+1)2(α+β1(2ϵ))+kμkνB((2ϵ)α+2,(2ϵ)β)]

    • 1.は分母をまとめたのち、Wick rotation・極座標に移ることでqに関して積分し、その後x,yに関する積分をB関数で書き直すことで答えを得る。
    • 2.は1.の両辺をkμで微分することで得られる。
    • 3.は2.の両辺をkνで微分することで得られる。

    つぎの公式も有用です(左辺はWick rotationする前の表式):

    ループ積分の公式2
    1. 分子が1
      dDq(2π)Di1(m2+2qpq2)a=Γ(aD/2)(4π)D/2Γ(a)1(m2+p2)aD/2

    2. 分子がq1つ:
      dDq(2π)Diqμ(m2+2qpq2)a=Γ(aD/2)(4π)D/2Γ(a)pμ(m2+p2)aD/2

    3. 分子がq2つ:
      dDq(2π)Diqμqν(m2+2qpq2)a=1(4π)D/2Γ(a)[Γ(aD/2)pμpν(m2+p2)aD/212gμνΓ(a1D/2)1(m2+p2)a1D/2]

    4. 分子がq3つ:
      dDq(2π)Diqμqνqρ(m2+2qpq2)a=1(4π)D/2Γ(a)[Γ(aD/2)pμpνpρ(m2+p2)aD/212g(μνpρ)Γ(a1D/2)1(m2+p2)a1D/2]

    5. 分子がq4つ:
      dDq(2π)Diqμqνqρqσ(m2+2qpq2)a=1(4π)D/2Γ(a)[Γ(aD/2)pμpνpρpσ(m2+p2)aD/212g(μνpρpσ)Γ(a1D/2)1(m2+p2)a1D/2+14g(μνgρσ)Γ(a2D/2)1(m2+p2)a2D/2]

    ただし
    g(μνpρ):=gμνpρ+gνρpμ+gρμpν,g(μνpρpσ):=gμνpρpσ+gμρpνpσ+gμσpνpρ+gνρpμpσ+gνσpμpρ+gρσpμpν,g(μνgρσ):=gμνgρσ+gμρgνσ+gμσgνρ

    • 変数変換し、分母のqpの項を消す
    • 積分変数のうち、浮いたLorentzのindexを持つものを公式5により消す or 縮約をとる
    • 公式9により積分する

    を行えば示せる。

    ベータ関数B(x,y)の性質

    ループ積分にはベータ関数が現れます。その性質をまとめておきます。

    B(x,y)に関する公式
    • B(p,q):=01dx xp1(1x)q1=0tp1(1+t)p+qdt=Γ(p)Γ(q)Γ(p+q)
    • B(x,y)=B(y,x)
    • xB(x,y+1)=yB(x+1,y)
    • (x+y)B(x,y+1)=yB(x,y),   (x+y)B(x+1,y)=xB(x,y)
    • B(x,y+1)=yx+yB(x,y),   B(x+1,y)=xx+yB(x,y)

    一番上の式は公式9の1.で示した。
    残りの式はB関数のΓ関数による表示より導ける。

    余談ですが、走る結合定数の計算では、特殊関数のベータ関数とは関係のない「ベータ(β)関数=結合定数のエネルギースケールによる微分」を扱います。混乱しないようにしてください。

    B関数をB(2ϵ,2ϵ)に書き換える

    以下は一般的に必要な公式ではなく、Ref.[1]で行われる変形に必要なものです。本記事はこれに習います。

    B(2ϵ,2ϵ)に書き変える
    • B(1ϵ,1ϵ)=2(32ϵ)1ϵB(2ϵ,2ϵ)
    • B(3ϵ,1ϵ)=2ϵ1ϵB(2ϵ,2ϵ)
    • B(2ϵ,1ϵ)=32ϵ1ϵB(2ϵ,2ϵ)
    • B(ϵ,1ϵ)=2(32ϵ)(12ϵ)ϵ(1ϵ)B(2ϵ,2ϵ)
    • B(3ϵ,ϵ)=(32ϵ)(2ϵ)ϵ(1ϵ)B(2ϵ,2ϵ)
    • B(2ϵ,ϵ)=2(1ϵ)(32ϵ)ϵ(1ϵ)B(2ϵ,2ϵ)

    書き換えるだけ

    有用な積分の公式

    以下は、ファインマン・ダイアグラムの表式に現れるさまざまな積分を、
    P(k2,ϵ):=(4π)(2ϵ)(k2)ϵΓ(ϵ)32ϵ1ϵB(2ϵ,2ϵ)
    に比例した形で書き直す公式です。次回の記事ではこの表記を用います。

    以下では次のnotationを用います: M(α,β;x):=x(q2)α((q+k)2)β
    たとえば次の例のようになります。
    {M(1,1;1)=1q2(q+k)2,M(1,2;qμ)=qμq2((q+k)2)2,M(2,2;qμqν)=qμqν(q2)((q+k)2)2,M(1,1,;Lμν)=qμkν+qνkν(q2)((q+k)2)2
    ただしLμν:=qμkν+qνkνとします。

    • M(1,1;1)の積分
      dDq(2π)Di1q2(q+k)2=(4π)(2ϵ)(k2)ϵΓ(ϵ)B(ϵ,1ϵ)=(4π)(2ϵ)(k2)ϵ2(32ϵ)1ϵΓ(ϵ)B(2ϵ,2ϵ)=2P(k2,ϵ),

    • M(1,2;1)
      dDq(2π)Di1q2((q+k)2)2=(4π)(2ϵ)(k2)1ϵΓ(ϵ)2(12ϵ)(32ϵ)1ϵB(2ϵ,2ϵ)=2(12ϵ)1k2P(k2,ϵ)

    • M(2,1;1)
      dDq(2π)Di1(q2)2(q+k)2=(4π)(2ϵ)(k2)1ϵΓ(ϵ)2(12ϵ)(32ϵ)1ϵB(2ϵ,2ϵ)=2(12ϵ)1k2P(k2,ϵ)(=dDq(2π)Di1(q2)((q+k)2)2)

    • M(1,1;qμ)
      dDq(2π)Diqμq2(q+k)2=(4π)(2ϵ)kμ(k2)ϵΓ(ϵ)B(2ϵ,1ϵ)=(4π)(2ϵ)kμ(k2)ϵ32ϵ1ϵΓ(ϵ)B(2ϵ,2ϵ)=kμP(k2,ϵ)

    • M(1,2;qμ)
      dDq(2π)Diqμq2((q+k)2)2=(4π)(2ϵ)kμ(k2)1ϵΓ(ϵ)2(32ϵ)(1ϵ)1ϵB(2ϵ,2ϵ)=2(1ϵ)kμk2P(k2,ϵ)

    • M(2,1;qμ)
      dDq(2π)Diqμ(q2)2(q+k)2=(4π)(2ϵ)kμ(k2)1ϵϵΓ(ϵ)2(32ϵ)1ϵB(2ϵ,2ϵ)=2ϵkμk2P(k2,ϵ)

    • M(1,1;qμqν)
      dDq(2π)Diqμqνq2(q+k)2=(4π)(2ϵ)(k2)ϵΓ(ϵ){12k2gμν(2ϵ)kμkν}11ϵB(2ϵ,2ϵ)=132ϵ{12k2gμν(2ϵ)kμkν}P(k2,ϵ)

    • M(1,2;qμqν)
      dDq(2π)Diqμqνq2((q+k)2)2=(4π)(2ϵ)(k2)1ϵΓ(ϵ){12k2gμν(2ϵ)kμkν}32ϵ1ϵB(2ϵ,2ϵ)=1k2{12k2gμν(2ϵ)kμkν}P(k2,ϵ)

    • M(2,1;qμqν)
      dDq(2π)Diqμqν(q2)2(q+k)2=(4π)(2ϵ)(k2)1ϵΓ(ϵ){12k2gμν+ϵkμkν}32ϵ1ϵB(2ϵ,2ϵ)=1k2{12k2gμν+ϵkμkν}P(k2,ϵ)

    • M(2,2;qμqν)
      dDq(2π)Diqμqν(q2)2((q+k)2)2=(4π)(2ϵ)(k2)(2ϵ)Γ(ϵ){ϵk2gμν2kμkν(1ϵ)(1+ϵ)}32ϵ1ϵB(2ϵ,2ϵ)=1(k2)2{ϵk2gμν2kμkν(1ϵ)(1+ϵ)}P(k2,ϵ)

    • M(1,1;Lμν)
      dDq(2π)Diqμkν+qνkμq2(q+k)2=(kμkν+kνkμ)P(k2,ϵ)

    • M(1,2;qρLμν)
      dDq(2π)Diqρ(qμkν+qνkμ)q2((q+k)2)2=1k2[{12k2gρμ(2ϵ)kρkμ}kν+{12k2gρν(2ϵ)kρkν}kμ]P(k2,ϵ)

    • M(2,1;qρLμν)
      dDq(2π)Diqρ(qμkν+qνkμ)(q2)2(q+k)2=1k2[{12k2gρμ+ϵkρkμ}kν+{12k2gρν+ϵkρkν}kμ]P(k2,ϵ)

    • M(2,2;qρLμν)
      dDq(2π)Diqρ(qμkν+qνkμ)(q2)2(q+k)2=1(k2)2[{ϵk2gρμ2(1ϵ2)kρkμ}kν+{ϵk2gρν2(1ϵ2)kρkν}kμ]P(k2,ϵ)

    本記事に示した公式を用いて計算すれば導ける

    Γ関数、B関数の極に関する公式

    くりこみではループ積分のϵによるLaurent展開が必要です。以下にΓ関数、B関数、および前記のP(k2,ϵ)のLaurent展開を示しておきます。

    ϵ1のとき

    1. Γ(ϵ)=1ϵγ+12(γ2+π26)ϵ+O(ϵ2)

    2. Γ(1+ϵ)=1ϵ+(γ1)12(γ22γ+π26+2)ϵ+O(ϵ2)

    3. Γ(N+ϵ)=(1)NN![1ϵ+ψ(N+1)+O(ϵ)]    (N:positive integer)
      ここで
      ψ(x)Γ(x)/Γ(x),ψ(1)=γ,  ψ(N+1)=γ+k=1N1k,γ=Γ(1)=0.5772

    4. Γ(1+ϵ)=1γϵ+k=2(ϵ)kk!ζ(k)

    5. (1ϵ)B(1ϵ,1ϵ)=1+γ+O(ϵ2)

    6. P(k2,ϵ)のLaurent展開:
      P(k2,ϵ):=(4π)(2ϵ)(k2)ϵΓ(ϵ)32ϵ1ϵB(2ϵ,2ϵ)=12(4π)2(1ϵ+log(4πk2)γ+2+O(ϵ))

    Γ関数はRe(z)0では収束しないが、部分積分をくりかえすことにより、Re(z)<0の領域に
    Γ(z)=Γ(z+n+1)z(z+1)(z+n)
    のように解析接続することができる。これよりz=nのまわりでのLaurent展開が計算できる。
    上の式よりΓ関数はz=nで1位の極をもつ。それぞれの留数は
    limzn(z+n)Γ(z)=(1)nn!
    である。

    D次元のDirac行列に関する公式

    quarkのようなFermionはspinorであり、そのループ積分にはDirac行列γμが現れます。これはLorentz変換に対するspinorとvectorの変換性を結ぶものです。この行列に関する性質をまとめておきます。

    D次元Dirac行列に関して

    任意のD次元における公式(Ref.[3]より):

    • {γμ,γν}=2gμν1
    • gμμ=D
    • γμγμ=D1
    • tr(1)=2D/2  ()
    • γμγαγμ=(2D)γα
    • γμγαγβγμ=(D4)γαγβ+4gαβ
    • γμγαγβγδγμ=2γδγβγα(D4)γαγβγδ
    • γμσαβγμ=(D4)σαβ,   σμν:=i2[γμ,γν]
    • γμσμα=i(D1)γα
    • σμαγμ=i(1D)γα
    • 奇数個のγ行列のtraceはゼロ
    • tr(γμγν)=4gμν
    • tr(γμγνγαγβ)=4(gμνgαβgμαgνβ+gμβgνα)
    • 任意次元のγ5に関する公式に関しては、例えばRef.[2]を参照のこと。

    γμの反交換関係:{γμ,γν}=2gμν1(これは定義)、gμνgμν=gμμ=Dtrの巡回置換不変性等から導ける。
    詳細は略。

    D次元のγμは何行何列なんだ?等のことは考えず、抽象的に{γμ,γν}=gμν1を満たすもので、縮約やtr等で足を潰したとき上記公式のようにDへの依存性が現れる量、と解釈してください。

    まとめ

    今回は、次元正則化によるダイアグラムの計算、およびくりこみに必要な公式をまとめました。

    次回は具体的なダイアグラムの計算を行います。

    おしまい。


    次の記事: 走る結合定数の計算(4/5): Yang-Mills理論におけるくりこみの具体的な計算



    () Euclidにおける運動量積分は正当化が難しいため、これをMinkowski時空で行う方法もあります。例えばRef.[2]のP79-を参照のこと。
    () Ref.[3]ではtr(1)=4を採用していますが、tr(1)=2D/2を採用している教科書が多いので、こちらを載せました。


    Appendix: 公式4の2.の証明

    改めて公式4の2.を記しておきます:

    1A1AN=Γ[N]01dx1dxNδ(1j=1Nxj)1[A1x1++ANxN]N

    以下Ref.[4]P86に従い証明します。

    まず
    1AN=(Γ(N))10dt tN1eAt
    であることに注意します。
    Γ関数の定義Γ(N)=0dt tN1etにおいてt=At~と変数変換すると得られる)。

    公式4の2.の右辺
    Γ(N)01dx1dxN δ(1j=1Nxj)1(A1x1++ANxN)N
    は、Eq.(A-1)とδ(1j=1Nxj)=dλ2πeiλ(1j=1Nxj)および01dxi eAixitiλxi=1Aitiλ(eAitiλ1)を用いて
    =0dt tN112πiNdλ2πeiλj1eAjtiλiAjt+λ
    となります。
    以下Aj>0とします(負のAjがあるときは公式4の2.の左辺でマイナスをくくりだし正にして扱う)。このとき、被積分関数のpole λ=iAjtは全て上半平面に存在します。

    下半平面の経路による積分。!FORMULA[308][-402136925][0]は半径無限大の半円の経路。オレンジのバツはpoleの位置。 下半平面の経路による積分。C2は半径無限大の半円の経路。オレンジのバツはpoleの位置。

    ここで被積分関数のeiλ(1eA1tiλ)××eiλ(1eANtiλ)を展開した項のうち、eikλ  (k=1,,N1)がかかる項の積分は、図3のように下半面に積分を閉じたとき、半円C2の寄与は0になります。またC1+C2の中にpoleはないので、結局C1の積分は消えます。故に残る積分は
    eiλj=1NeAjt
    の項のみです。よって
    =0dt tN112πiNdλeiλj=1NeAjt(λitA1)(λitAN)
    この積分を評価するため、次の事実を用います:

    (A-2)dz1(zα1)(zα2)(zαr)=0   (2r<)
    ただし積分経路は全てのpoleを含むように閉じる。

    帰納法を用いる。

    • r=2のとき
      dz1(zα1)(zα2)
      は2つのpoleの寄与が逆符号で大きさが等しいので0。
    • r=kで成立を仮定したとき、r=k+1では
      dz1(zα1)(zαk)(zαk+1)=dz(1(zα1)(zα2)(zαk)1(zα2)(zα3)(zαk+1))1α1αk+1
      となるので、r=kの場合に帰着し0。

    以上より題意は示された。

    定理1よりEq.(A-2)のj=1NeAjt(λitA1)(λitAN)の寄与は消えます。

    ここまでをまとめると
    (公式4の2.の右辺)=0 dt tN112πiNdλeiλ(λitA1)(λitAN)
    が得られました。これを図4の経路で積分します:

    上半平面の経路による積分。!FORMULA[325][-402136987][0]は半径無限大の半円の経路。オレンジのバツはpoleの位置。 上半平面の経路による積分。C2+は半径無限大の半円の経路。オレンジのバツはpoleの位置。

    0 dt tN112πiNdλeiλ(λitA1)(λitAN)=0 dt tN112πiNC1+C2+dλeiλ(λitA1)(λitAN)      (contribution from C2+ vanishes)=0dt tN12πi2πiN[jeiλij(λitAi)|λ=itAj]=0dt tN1(1)N1jetAjij(AjAi)=j(1)N1Ajij(AjAi)

    さらに以下が成立することを用います:

    j=1N1Aj(1)N1ij(AjAi)=1A1AN

    Eq.(A-2)においてα10,α21,,αrANとすると
    dz1z(zA1)(zAN)=0
    これを書き換えれば
    2πi{(1)NA1AN+1A1(A1A2)(A1AN)+1A2(A2A1)(A2AN)+}=0(1)NA1AN+j=1N1Aj1ij(AjAi)=0
    これは定理2と等しい。

    定理2の右辺は「公式4の2.の左辺」です。よって「公式4の2.の右辺=公式4の2.の左辺」が成立し、題意が示されました。

    参考文献

    [1]
    T. Muta, Foundation of Quantum Chromodynamics (Third edition), World Scientific Lecture Notes in Physics, World Scientific, 2009
    [2]
    九後 汰一郎, ゲージ場の量子論 I, 新物理学シリーズ 23, 培風館, 1989
    [4]
    柏 太郎, 演習くり込み群 確かな理解と習得を目指して, 臨時別冊数理科学 SGCライブラリ 61, サイエンス社, 2008
    投稿日:202283
    更新日:2024326
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    2. 公式集
    3. ゲージ群の生成子に関わる公式
    4. iϵ処方、Feynman prescription
    5. 次元正則化
    6. 被積分関数の分母をまとめる: Feynman parametrization
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    8. 虚時間方向への積分路の変更
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    13. ベータ関数B(x,y)の性質
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    16. Γ関数、B関数の極に関する公式
    17. D次元のDirac行列に関する公式
    18. まとめ
    19. Appendix: 公式4の2.の証明
    20. 参考文献