16Aug.2022: 「まとめ」の章の
★ 本記事は
走る結合定数の計算(3/5):摂動計算に関する数学公式集
の続きです。
★ 本記事で用いる表記の規約に関しては
走る結合定数の計算(2/5):Yang-Mills理論のくりこみ
の冒頭をご参照ください。
★ 本記事はRef.[1]を元に書かれています。
★ 計算の正しさについて: 各くりこみ定数はRef.[1]の結果と一致しています。細かい計算に関しては文献との比較はしておりませんのでご了承ください。
★ 計算の一部は、微分幾何学におけるテンソル算のMathematicaライブラリ
xAct
、および場の量子論計算用Mathematicaライブラリ
FeynCalc
(Ref.[2-4])を使用しています。
★ 「公式」とは基本的に
前回記事
の公式を指します
Yang-Mills(YM)理論における走る結合定数の計算の第4回です。
今回は具体的な計算を実行します。前々回の記事のFeynman則、および前回の記事で示した公式を使いますので、適宜参照してください。Feynman則は本記事のAppendixにも掲載しておきます。
第2回で述べたとおり、走る結合定数の計算には、結合定数の繰り込み定数
「
です。
これを計算する方法は4つほどありますが、そのうち
ただし
を用います。ここで改めて用語を説明しおくと
です。よって、たとえば「ghost-ghost-gluon3点1PI頂点関数」とは 「ghostの外線が2つ、gluonの外線がひとつ出ている1PIダイアグラムから外線をもぎとったダイアグラム」です。
本記事では
結合定数の2次のオーダーで
上から
です。
ghost loop
まずは簡単な図3のghost loopのダイアグラム
図3はFeynman則より
となります。すでに次元正則化が施してあり、また
前回示した公式15を使うとこの計算はすぐできるのですが、このダイアグラムのみ計算過程を示しておきます。この積分は以下のように計算されます:
分母をまとめる:
対称性を用いて被積分関数を
Wick rotationを施す:
極座標にして積分を実行する:
これを前回の記事で定義した
で書き下せば、最終的に
を得ます。これに
以上より図3のダイアグラムの寄与は以下です:
一方で、公式15を使うと
になり、上記計算と一致します。
tadpole loop
図4のダイアグラム
です。ここで
ちょっとした計算ののち、
であることがわかります。公式5の2.より
です。よって
gluon loop
図5のダイアグラム
を得ます。
上の表式において下線が引いてある項は、前回の公式5・6により消えます。
上記積分の計算を進めます:
これを公式15で示した
まとめると以下を得ます:
quark loop
図6
のように分母が運動量の1次であること、またガンマ行列が存在することから、gluonのようなBosonの計算とは少し異なります。ここで
こうすると、形式的に分母の行列が"払えて"、逆行列が計算できます。
Feynman則より、計算すべき式は以下になります:
あとは他のダイアグラムと同じように計算すればよいです:
ここで
です。
以上より
counter term
Counter termは以下:
図2の寄与を全て足し合わせると、以下のようになります:
ただし
となります。
次にこの結果を
上記表式を
になります。これがゼロになるように
を得ます。
次に図8のghostの2点1PI頂点関数を計算します。これは簡単です。
ghost self energy
Feynman則より図9のghost self energy
公式15における
となります。
公式15を使い
を得ます。
counter term
図10のcounter termは以下:
となります。ゆえにMS schemeで
となります。
最後に図11のghost-ghost-gluon 3点1PI頂点関数を計算します。
1つめのダイアグラム。propagatorの両端のゲージ群のindexはデルタ関数により一致することを考慮している
図12のダイアグラム
ゲージ群のファクターを計算し、整理すれば
となります。
ここでは
このうち
(Appendixには上記5つの積分の計算結果を示しておきます)
分母をまとめたのち、公式12を用いて計算すると
このうち
ここでは発散項、つまり
を得ます。
Eq.(2)における★の係数は
となります。ここで
2つめのダイアグラム。図12と同様、propagatorの両端のゲージ群のindexは一致させている
図13のダイアグラムはFeynman則より以下のようになります:
このダイアグラムも発散部のみ計算することにします。
次の記号を定義します:
この記号を使って上記積分を書きなおすと、以下のようになります:
これを計算するには、以下の積分が求まればよいです:
発散項は、分母の
よって
を得ます。
counter term
counter termは以下
以上より、図11のダイアグラムの発散部分は以下のように評価できます:
MS schemeで
以上で
を
となります。
今回は結合定数に関するくりこみ定数
により計算しました。
結果をまとめると以下のようになります:
次回はこの
おしまい。
u: 2-3MeV, d: 4-5MeV, s: 100MeV, c: 1.3GeV, b:4GeV, t: 173GeV
程度です。結合定数を測るエネルギースケールより重いquarkは基本的に無視します。走る結合定数(running coupling constant)に関しては
Particle Daga Group (PDG)のQCDに関する記述
に詳しいです。
以下に本記事で用いたFeynman則を記しておきます。Ref.[1]のFeynman則を採用しています。青字がダイアグラムに対応する式です。
Propagator
PropagatorのFeynman則
Vertex。運動量保存則を各vertexに課すことに注意。
VertexのFeynman則。上図がgluon、下図がghost-gluonおよびquark-gluon vertex。各vertexで運動量保存則を課す
ループ積分
ループ積分因子
Counter terms
Counter term
対称因子
対称因子。上記2つのダイアグラム以外にこの因子は現れない。
本文では発散項に必要な積分のみ計算しました。
ここでは、