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フィルター基による位相空間論 (1/3)
ここからフィルター基を使って収束、連続などの位相的な性質を議論する。これまで証明抜きで定式化を進めてきたが、ここからは要所で証明を交えて様々な概念の使い方を見ていく。
位相空間 $(X,\mathcal{O})$ 上のフィルター基 $\mathcal{B}$ と点 $x$ について、 $x\in U$ なる任意の開集合 $U\in\mathcal{O}$ に対し $\mathcal{B}$ が $U$ にやがて含まれるとき、 $\mathcal{B}$ は $x$ に収束する (converge) という。言い換えれば、 $\mathcal{B}$ が開近傍系 $\mathcal{ON}(x)$ の細分であるとき $\mathcal{B}$ は $x$ に収束するという。
$x$ に収束するフィルター基の細分は再び $x$ に収束する。また1点集合1つだけからなるフィルター基 $\{\{x\}\}$ はどのような位相のもとでも $x$ に収束する。
一般にはフィルター基が異なる複数の点に同時に収束することもあり得る。収束先が存在すれば1点に限られるような位相空間をハウスドルフ空間 (Hausdorff space) という。
位相空間 $(X, \mathcal{O})$ と集合 $U\subseteq X$ について、次の条件は同値である。
同様に集合 $F\subseteq X$ について、次の条件は同値である。
点列と開近傍系が同じように扱えるというフィルター基の長所がこのあたりから現れてくる。
位相空間 $(X, \mathcal{O})$ 上の集合 $K$ と開集合の族 $\{U_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$ があって $K\subseteq\bigcup_{\lambda\in\Lambda} U_\lambda $ を満たすとき、 $\{U_\lambda\}$ を $K$ の開被覆という。
$K$ のどのような開被覆 $\{U_\lambda\}$ をとってもそこから有限個を選んで $K\subseteq U_{\lambda(1)}\cup\dots\cup U_{\lambda(n)}$ と被覆できるとき、 $K$ はコンパクト (compact) であるという。特に $K=X$ であるとき $(X,\mathcal{O})$ はコンパクトな空間であるという。
普通の平面 $\mathbb{R}^2$ 上の集合 $K$ について、次の3つは同値であることが知られている。
上の例で、 3. $\Rightarrow$ 2. は一般の位相空間でも成り立つが逆は必ずしも成り立たない。しかし点列に替えてフィルター基の収束を考えれば同値になる。
位相空間 $(X, \mathcal{O})$ 上の集合 $K$ がコンパクトであるための必要十分条件は、 $K$ 上の任意のフィルター基 $\mathcal{B}$ が $K$ の点に収束する細分を持つことである。
[必要性] 点 $x\in K$ があって $\mathcal{B}$ が任意の $V\in\mathcal{ON}(x)$ とかみ合うならば、
$\mathcal{B}_1:=\{B\cap V :\; B\in\mathcal{B},\; V\in\mathcal{ON}(x) \}$
が求める細分である。そうでないとき、開集合の族 $\mathcal{U}\subseteq\mathcal{O}$ を次の条件:
$U\in\mathcal{U}$ $\iff$ $\mathcal{B}$ は $X\setminus U$ にやがて含まれる
で定めると $\mathcal{U}$ は $K$ の開被覆となる。$K$ がコンパクトならば $\mathcal{U}$ から有限個を選んで被覆できる。それを $\{U_1,\dots,U_n\}$ とすると、 $\mathcal{U}$ の定義から $B_k\in\mathcal{B}$ で $B_k\subseteq X\setminus U_k$ なるものが存在する。フィルター基の定義から $B_1\cap\dots\cap B_n \neq\emptyset$ であるが、これは $\{U_k\}$ が $K$ の被覆であることに反する。
[十分性] $K$ がコンパクトでないとき、 $K$ の開被覆 $\mathcal{U}\subseteq\mathcal{O}$ でどんな有限個 $\{U_1,\dots,U_n\}$ をとっても $K$ を被覆できないものが存在する。そこで集合族 $\mathcal{B}$ を
$\mathcal{B} := \{ K\setminus(U_1\cup\dots\cup U_n) :\; U_k\in\mathcal{U} \}$
で定めると $\mathcal{B}$ は $K$ 上のフィルター基となる。任意の点 $x\in K$ に対し $x\in U_x$ なる $U_x\in\mathcal{U}$ が存在し、 $\mathcal{B}$ は $K\setminus U_x$ にやがて含まれるから $\mathcal{B}$ のどんな細分も $x$ に収束することはない。従って $K$ 上のフィルター基で $K$ の点に収束する細分を持たないものが存在する。
性質のよい位相空間では点列についても似たような議論が可能であるが、それよりもずっと簡明である。
写像 $f :\; X\to Y$ と $X$ 上のフィルター基 $\mathcal{B}$ に対し、像 (image) $f(\mathcal{B})$ を次のように定めると $Y$ 上のフィルター基となる。。
$f(\mathcal{B}) := \{f(B):\; B\in\mathcal{B}\}$
また $Y$ 上のフィルター基 $\mathcal{C}$ が値域 $f(X)$ とかみ合うとき、逆像 (inverse image) $f^{-1}(\mathcal{C})$ を次のように定めると $X$ 上のフィルター基となる。
$f^{-1}(\mathcal{C}) := \{f^{-1}(C):\; C\in\mathcal{C}\}$
$f:\; X\to Y$ とする。 $X$ 上のフィルター基 $\mathcal{B}_2$ が $\mathcal{B}_1$ の細分ならば $f(\mathcal{B}_2)$ は $f(\mathcal{B}_1)$ の細分である。また $Y$ 上のフィルター基 $\mathcal{C}_2$ が $\mathcal{C}_1$ の細分で、かつ値域 $f(X)$ とかみ合うならば、 $f^{-1}(\mathcal{C}_2)$ は $f^{-1}(\mathcal{C}_1)$ の細分である。
$f$ を位相空間 $(X,\mathcal{O}_X)$ から $(Y,\mathcal{O}_Y)$ への写像とする。点 $x\in X$ について、 $f(x)\in U$ なる任意の $U\in\mathcal{O}_Y$ に対し $x$ が $f^{-1}(U)$ の内点であるとき、 $f$ は $x$ で連続 (continuous) であるという。
$f:\; X\to Y$ が点 $x\in X$ で連続であるための必要十分条件は、 $x$ に収束する任意のフィルター基 $\mathcal{B}$ に対し $f(\mathcal{B})$ が $f(x)$ に収束することである。
[必要性] $\mathcal{ON}_Y(f(x))$ は $f(X)$ とかみ合うから逆像がフィルター基となる。 $f$ が連続ならば $\mathcal{ON}_X(x)$ は $f^{-1}(\mathcal{ON}_Y(f(x)))$ の細分である。従って $x$ に収束する任意のフィルター基 $\mathcal{B}$ は $f^{-1}(\mathcal{ON}_Y(f(x)))$ の細分である。 $Y$ に写すと $f(\mathcal{B})$ は $\mathcal{ON}_Y(f(x))|_{f(X)}$ の細分となり、従って $f(x)$ に収束する。
[十分性] $f$ が連続でないとき、 $U\in\mathcal{ON}_Y(f(x))$ で $x$ が $f^{-1}(U)$ の境界点となるものが存在する。すると $\mathcal{B}:=\mathcal{ON}_X(x)|_{X\setminus f^{-1}(U)}$ は $x$ に収束する $X\setminus f^{-1}(U)$ 上のフィルター基となる。 $f(\mathcal{B})$ は閉集合 $Y\setminus U$ にやがて含まれるから $f(x)$ には収束しない。
このあたりは通常の開集合を使った定式化とほとんど同じである。
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フィルター基による位相空間論 (3/3)