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大学数学基礎解説
文献あり

フィルター基による位相空間論 (3/3)

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$$\newcommand{Bd}[0]{\operatorname{Bd}} \newcommand{Cl}[0]{\operatorname{Cl}} \newcommand{Each}[0]{\operatorname{Each}} \newcommand{Ext}[0]{\operatorname{Ext}} \newcommand{Int}[0]{\operatorname{Int}} \newcommand{Tails}[0]{\operatorname{Tails}\,} $$

フィルターや有向点族との関係

前記事: フィルター基による位相空間論 (1/3) フィルター基による位相空間論 (2/3)
冒頭で述べたように、点列の収束に代わる概念としてはフィルターの収束と有向点族の収束がよく知られている。それらを使った議論とフィルター基の収束とは互いに翻訳できることが多いので、その対応関係を紹介する。

フィルター基とフィルターとの関係

上方集合

$X$ 上の集合族 $\mathcal{B}$上方集合 (upper set) を次のように定める。
$\mathcal{B}^{\uparrow X} := \{ A\subseteq X:\; \exists B\in\mathcal{B}\, (B\subseteq A)\}$

フィルター基の生成するフィルター

$\mathcal{B}$$X$ 上のフィルター基ならばその上方集合 $\mathcal{B}^{\uparrow X}$ はフィルターであり、フィルター基として $\mathcal{B}$ と同値である。これは $\mathcal{B}$ と同値なフィルター基のうち集合として最も大きいものである。

また、フィルター基 $\mathcal{B}_2$$\mathcal{B}_1$ の細分となる必要十分条件は $\mathcal{B}_1^{\uparrow X}\subseteq \mathcal{B}_2^{\uparrow X}$ となることである。

このようにフィルターとの関係はごく簡単である。超フィルター (ultrafilter) などを使った議論もフィルター基の場合にほとんどそのまま使えることが分かる。

有向点族の導入

有向集合

$(I, \leq)$ が空でない擬順序集合 (preordered set) で、任意の $a_1\in I$, $a_2\in I$ に対し $a_3\in I$$a_1\leq a_3$ かつ $a_2\leq a_3$ なるものが存在するとき、 $(I, \leq)$有向集合 (directed set) という。

有向集合の例
  • 自然数の全体 $\mathbb{N}$ は通常の大小関係により有向集合となる。
  • $\mathcal{B}$ がフィルター基であるとき、 $B_1\in\mathcal{B}$, $B_2\in\mathcal{B}$ の大小関係を $B_1\leq B_2 \iff B_1\supseteq B_2$ で定めると有向集合となる。
  • 自明な例として、全ての $a_1\in I$, $a_2\in I$ が同順、つまり $a_1\leq a_2$ かつ $a_1\geq a_2$ であるときも有向集合となる。
有向点族

ある有向集合 $(I, \leq)$ から集合 $X$ への写像 $I\ni a\mapsto x_a$$I$ で添字付けられた $X$ 上の有向点族またはネット (net) といい、 $(x_a)_{a\in I}$ のように表す。

有向点族は点列の直接の一般化であるが、大小関係のない添字や相異なる同順の添字が許されている点が異なる。また添字集合 $I$ はどんなに大きな集合でもよく、従って $X$ 上の有向点族の全体は集合にならない。

部分有向点族

$(x_a)_{a\in I}$$(I, \leq)$ で添字付けられた有向点族とする。別の有向点族 $(J, \preceq)$ と写像 $h:\; J\to I$ があって次の条件を満たすとする。

  1. 単調性 (monotonicity): $b\preceq b' \Rightarrow h(b)\leq h(b')$
  2. 共終性 (cofinality): 任意の $a\in I$ に対し $b\in J$$a\leq h(b)$ なるものが存在する

このとき $(x_{h(b)})_{b\in J}$$(x_a)_{a\in I}$部分有向点族 (subnet) という。

部分有向点族の定義には同値でない複数の流儀がある。ここでは Willard の定義を採用する。

フィルター基と有向点族との関係

有向点族がつくるフィルター基

$X$ 上の有向点族 $(x_a)_{a\in I}$ に対し、 $\{x_{\geq a}\} := \{x_{a'}: a\leq a'\}$, $\Tails (x_a)_{a\in I}:=\{\{x_{\geq a}\}:\; a\in I\}$ と定めると $\Tails (x_a)_{a\in I}$$X$ 上のフィルター基となる。これを $(x_a)_{a\in I}$ がつくるフィルター基と呼ぶことにする。

フィルター基をつくる有向点族

$X$ 上の任意のフィルター基 $\mathcal{B}$ に対し、有向点族 $(x_a)_{a\in I}$$\Tails (x_a)_{a\in I}=\mathcal{B}$ となるものが存在する。(単なる同値でなく集合として一致する。)

添字集合 $I\subseteq \mathcal{B}\times(\bigcup\mathcal{B})$ を次のように定める。
$I := \Each(\mathcal{B}):= \{(B,y):\; y\in B\in\mathcal{B}\}$
$I$ 上の擬順序は次のように定める。
$(B,y)\leq (B',y') \iff B\supseteq B'$
すると $(I, \leq)$ は有向集合となる。そこで $x_{(B,y)}:=y$ と定めることにより $(x_{(B,y)})_{(B,y)\in I}$ は有向点族となり、 $\Tails(x_{(B,y)})_{(B,y)\in I}=\mathcal{B}$ が成り立つ。

ここで構成した添字集合 $\Each(\mathcal{B})$ と有向点族 $(y)_{(B,y)\in\Each(\mathcal{B})}$ は、次のような意味で圏論的な普遍性を持っている (普遍有向点族 (universal net, ultranet) とは無関係)。

有向点族の Each-Tails 標準形

$X$ 上の有向集合 $(J, \preceq)$ と有向点族 $(y_b)_{b\in J}$ に対し、次のように有向集合 $(I, \leq)$ と有向点族 $(x_{(B,z)})_{(B,z)\in I}$ を定める。

  • $I := \Each(\Tails(y_b)_{b\in J}) := \{(B,z):\; z\in B\in\Tails(y_b)_{b\in J}\}$
  • $(B,z)\in I$, $(B',z')\in I$ に対し $(B,z)\leq (B',z') \Leftrightarrow B\supseteq B'$
  • $x_{(B,z)}:=z$
    すると次のことが成り立つ。
  • $(y_b)_{b\in J}$$(x_{(B,z)})_{(B,z)\in I}$ の部分有向点族
  • $\Tails (x_{(B,z)})_{(B,z)\in I}=\Tails (y_b)_{b\in J}$

$(I, \leq)$ が有向集合となり $\Tails(x_{(B,z)})_{(B,z)\in I}=\Tails(y_b)_{b\in J}$ が成り立つことは既に見た通りである。写像 $h:\; J\to I$$h(b):=(\{y_{\geq b}\},y_b)$ で定めればこの対応は単調かつ共終となり、従って $(y_b)=(x_{h(b)})$$(x_{(B,z)})$ の部分有向点族となる。

なお、このときの $h$ について
$h(b)\leq h(b') \iff \{y_{\geq b}\}\supseteq \{y_{\geq b'}\}$
$h(b)=h(b') \iff \{y_{\geq b}\}=\{y_{\geq b'}\},\, y_b=y_{b'}$
が成り立ち、これは $J$ に同値関係と新たな擬順序を定めたものと考えることもできる。

この議論により、大きな添字集合が与えられた有向点族についても、ある意味で添字集合を高々 $P(X)\times X$ の大きさに圧縮することができる。

与えられた有向点族とその部分有向点族のつくるフィルター基については次のことが成り立つ。

部分有向点族がつくるフィルター基

$(x_a)_{a\in I}$$X$ 上の有向点族、 $(x_{h(b)})_{b\in J}$ をその部分有向点族とすると $\Tails (x_{h(b)})$$\Tails (x_a)$ の細分である。

与えられた細分に対応する部分有向点族

$(x_a)_{a\in I}$$X$ 上の有向点族、 $\mathcal{B}$$\Tails (x_a)$ の細分とする。このとき $(x_a)$ の部分有向点族 $(x_{h(b)})_{b\in J}$$\Tails (x_{h(b)})$$\mathcal{B}$ とフィルター基として同値になるものが存在する。

添字集合 $J\subseteq \times\mathcal{B}\times I$ を次のように定める。
$J:= \{(B,a):\; x_a\in B\}$
$J$ 上の擬順序は次のように定める。
$(B,a)\preceq(B',a') \iff B\supseteq B',\, a\leq a',\,$
任意の $(B,a)$, $(B',a')$ に対し $B\cap\{x_{\geq a}\}\cap B'\cap\{x_{\geq a'}\}\supseteq B''$ なる $B''\in\mathcal{B}$ が存在し、そのとき $a''\in B''$ が存在して $a\leq a''$, $a'\leq a''$ であるから、 $J$ は有向集合となる。 $h:\; J\to I$$h((B,a))=a$ で定めれば $(x_{h((B,a))})_{(B,a)\in J}$ は部分有向点族となる。
$C_{(B,a)} := \{x_{h(\succeq(B,a))}\} = \{x_{h(B',a')}:\; (B,a)\preceq(B',a')\}$
とおくと $\Tails(x_{h((B,a))})=\{C_{(B,a)}\}$ である。ここで、
$C_{(B,a)} = \{x_{a'}:\; \exists B'\subseteq B\,(a\leq a',\, x_{a'}\in B')\} = \{x_{\geq a}\}\cap B$
であるから $\Tails(x_{h((B,a))})$$\mathcal{B}$ の細分である。一方、各 $C_{(B,a)}$ に対し $\{x_{\geq a}\}\supseteq B'$ なる $B'$ があって、さらに $B'\cap B\supseteq B''$ なる $B''$ もとれるから、 $C_{(B,a)}\supseteq B''\in\mathcal{B}$ となり、従って $\mathcal{B}$$\Tails(x_{h((B,a))})$ の細分である。従って $(x_{h((B,a)))})_{(B,a)\in J}$ が求める部分有向点族である。

ここまで見てきたように、有向点族はフィルター基よりもかなり情報量が多いので対応はやや複雑になっている。

有向点族を使った極限、収束の表現

フィルター基に従属する有向点族

$\mathcal{B}$$X$ 上のフィルター基、 $(x_a)_{a\in I}$$X$ 上の有向点族とする。本記事では、任意の $B\in\mathcal{B}$ に対し $a\in I$ が存在して任意の $a'\geq a$ に対し $x_{a'}\in B$ が成り立つとき、 $(x_a)_{a\in I}$$\mathcal{B}$従属する と言うことにする。言い換えれば、 $\Tails (x_a)_{a\in I}$$\mathcal{B}$ の細分であるとき $(x_a)_{a\in I}$$\mathcal{B}$ に従属するという。

「従属する」 (be subordinate to) を有向点族とフィルター基の間の関係に使うのは本記事特有の用法で、一般的なものではない。

有向点族の収束

$X$ 上の有向点族 $(x_a)_{a\in I}$ が 点 $x^*\in X$ の開近傍系 $\mathcal{ON}(x^*)$ に従属するとき、 $(x_a)_{a\in I}$$x^*$収束すると言う。

これは点列の収束で使われる $\epsilon-N$ 論法を有向点族に一般化したものになっている。関数の値の極限や連続性については次の事実が基礎になる。

有向点族の像とフィルター基の像の関係

写像 $f :\; X\to Y$$X$ 上の有向点族 $(x_a)_{a\in I}$ 、その像 $(f(x_a))_{a\in I}$ に対して次のことが成り立つ。

  • $\Tails (f(x_a))_{a\in I} = f(\Tails (x_a)_{a\in I})$
  • $\mathcal{B}$, $\mathcal{C}$ をそれぞれ $X$, $Y$ 上のフィルター基とする。 $f(\mathcal{B})$$\mathcal{C}$ の細分となる必要十分条件は、$\mathcal{B}$ に従属する任意の有向点族 $(x_a)_{a\in I}$ に対し $(f(x_a))_{a\in I}$$\mathcal{C}$ に従属することである。

上記の $\mathcal{B}$, $\mathcal{C}$$\mathcal{ON}_X(x)$, $\mathcal{ON}_Y(f(x))$ を代入することで次のことが分かる。

有向点族を用いた連続写像の特徴づけ

$f:\; X\to Y$ が点 $x\in X$ で連続であるための必要十分条件は、 $x$ に収束する任意の有向点族 $(x_a)_{a\in I}$ に対し $(f(x_a))_{a\in I}$$f(x)$ に収束することである。

おわりに

以上、位相空間論としては初歩的な部分をつまみ食いするだけに終わってしまったが、フィルター基を使った直観に訴える議論を味わっていただけたなら幸いである。一様収束や完備性など、他にもフィルター基による定式化と相性の良い話題があるので、興味があれば試してみてほしい。

参考文献

投稿日:2022925
OptHub AI Competition

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