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優しい解説を心掛けるリーマン幾何学0
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それでは本シリーズ始まりです。最初はベクトル空間についてです。
リーマン幾何に限らず微分幾何学をやるときには「ベクトル場」や「テンソル場」と言った概念を主に使います。なので初めはそれらを説明します。
これらを勉強するときにポイントになるのが「成分の変換性」です。まずなぜ成分の変換性を理解する必要があるのかを説明します。
平面上の極座標のように曲線で作られた座標系を曲線座標系といいます。微分幾何では曲線によって作られる座標系、曲線座標系の下で微積分の計算をしたり、幾何学的なことを考えたりすることが多いです。
でも得られた結果が幾何学的に意味を持つためには座標の取り方に依存しない必要があります。例えば、平面上の直線は直交座標$\{x,y\}$に関してパラメータ$s$の1次関数で表されます。
$$ x(s)=as+b,\\ y(x)=cs+d. $$
これに対して、極座標$\{r,\theta\}$に関して1次関数で表される点集合
$$ r(s)=as+b,\\ \theta(x)=cs+d. $$
は一般に直線ではありません。この例から分かるように「座標の1次関数で表される〜」といった発言は特定の座標を固定した上での議論でない限りは幾何学的な意味を持たないと考えられます。
微分幾何をやるためには一般の曲線座標においても正しく意味のある考え方ができる必要があります。いきなり曲線座標での話には入らず、初めはベクトル空間から始めます。
ベクトル空間$V$を幾何学的な対象と見たとき、知りたいのは$V$の元であるベクトルの幾何学的な性質です。例えば、$V$に内積や長さなどが定義されている場合はこれらの情報です。
ベクトル$v\in V$を表すためには、任意に定めた基底$\{e_1,\cdots,e_n\}$を使って、
$$ v=v_1e_1+v_2e_2+\cdots+v_ne_n $$
と表します。このとき、例えば各成分の和
$$ v_1+v_2+\cdots+v_n $$
という量にはあまり幾何学的な意味があるとは思えません。というのもこの量は基底$\{e_1,\cdots,e_n\}$の選び方に明らかに依存しています。
基底の取り方は何でもよいわけですから、ベクトル$v$の幾何学的な情報は基底の取り方には依存しない量であってほしいわけです。例えば$v$の長さの2乗
$$ ||v||^2=(v_1)^2+(v_2)^2+\cdots+(v_n)^2 $$
という量はどんな基底に関する表示で計算しても同じ値になることが予想できます。そして実際今後説明しますが、このことは正当化されます。
ある量が基底の取り方に依存するのか、またはしないのかを判断するためには、基底を取り換えたときにベクトルやテンソルの成分がどんな変換をするのかを十分よく分かっている必要があります。
このような動機から以降では基底の取り換えに対してベクトルの成分がどのような変換を受けるのかを調べていきます。(実は成分の変換性の話をしなくてもリーマン幾何自体は説明する方法はあるのですが、成分による説明の方が分かりやすいだろうと思うのと、発展的な内容として「主束の同伴ベクトル束」という概念があり、これの理解には変換性の理解が必須であるという事情からこのような進め方にしました)
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