はじめに
この記事では
前回の記事
の最後に紹介した形式のモジュラー方程式というものについて解説していきます。大まかな流れは
前回の記事
のアナロジーとなっているので、よろしく目を通しておくといいと思います。
形式のモジュラー方程式
前回の記事
で見たようにモジュラー方程式の係数は少なくとも程度の速さで大きくなっていくので、極めて煩雑な式になってしまいます。そこでより簡単な方程式に帰着させることを考えます。
形式のモジュラー方程式
についての関数
と奇素数に対して方程式
を形式のモジュラー方程式という。
以下、簡単のため
とおくこととします。
は-モジュラー関数ではありませんが、
が成り立つので以下のような保型性を持ちます。
とおくと
前々回の記事
の命題1
と
から
を示せばよい。
そのことは
と確かめられる。
の性質
はについての整数係数多項式となる。
またはにおけるの最小多項式となる。
整数係数モニック多項式はを根に持つのでの上の最小多項式は整数係数モニックであることがわかる。また
なのでのについての次数はであることもわかる。
あとはに対してあるなるがあってによってが成り立つことを示せばよい。
いま任意の奇数に対して
が成り立つことに注意すると
が成り立つのでこの変換によって
つまりと移り変わる。
よって
と合わせて主張を得る。
の解はで尽くされるので
が成り立ちます。このことからの係数は少なくとも程度の速さで大きくなることが推測できます(またはについて次であることもわかります)。
さらには次のような性質を持つことからよりよっぽど簡単な形の多項式であることがわかります。
のの係数はの形で表せる。
ただしはなる自然数であって最小のものとした(のときはとする)。
が成り立つことおよびとおいたとき不定方程式
の整数解はで尽くされることに注意する。
まずについての次基本対称式をとおいたとき
が成り立つことを数学的帰納法により示す。のときはより明らか。
のときの-展開を
とし、についての乗和をとおくと
つまり
が成り立つことに注意するとニュートンの恒等式(
前回の記事
の補題9)より
が成り立つことがわかる。
いまにおけるの係数をの多項式で表したとき、その展開を比較することでの形でなければならないことがわかる。
のときから、およびに対し
がわかるので
を得る。
後半部分は
(cf.
前回の記事
の補題1)よりにおけるの係数はであることに注意して
前回の記事
の補題4と同様に示す。
から
が成り立つので、の係数に注意することで
がわかる。
またに対してが成り立つことに注意すると
から
が成り立つので、の係数に注意することで
がわかる。
の具体例
形式のモジュラー方程式はの-展開を比較することでも求められますが、形式ならではの比較的簡単な計算方法があります。
命題3からのの係数は
という形をしていたのでした。そしてその次数はにおいて高々次なので、は高々個の項からなることがわかります。例えばのときなので
と書けます。
よって個の適当なに対しておよびの近似値を計算し、についての線形方程式を解くことでそのだいたいの値がわかります。は整数だったのでその解を整数に均すことで厳密解が得られることになります。
のとき、つまりのときはの値(命題4)から即座にモジュラー方程式が得られます。
それではにおける形式のモジュラー方程式を見ていきましょう。
3次モジュラー方程式
5次モジュラー方程式
7次モジュラー方程式
11次モジュラー方程式
13次モジュラー方程式
17次モジュラー方程式
19次モジュラー方程式
23次モジュラー方程式
29次モジュラー方程式
おわりに
はい。
というわけで形式にすることでモジュラー方程式をだいぶ簡単にすることができたわけですが、実は、場合によってはさらに簡単にすることができます。
例えば次モジュラー方程式
は
と変形できます。ここでとおくと
という方程式に帰着させることができます。
また次モジュラー方程式も同様に
から
という方程式に帰着できます。
これについても何回か後の記事で解説しようと思います。
とりあえず今回はこんなところで。
では。