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大学数学基礎解説
文献あり

u-v形式のモジュラー方程式

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はじめに

 この記事では 前回の記事 の最後に紹介したuv形式のモジュラー方程式というものについて解説していきます。大まかな流れは 前回の記事 のアナロジーとなっているので、よろしく目を通しておくといいと思います。

uv形式のモジュラー方程式

  前回の記事 で見たようにモジュラー方程式Wp(x,λ)の係数は少なくとも16p程度の速さで大きくなっていくので、極めて煩雑な式になってしまいます。そこでより簡単な方程式に帰着させることを考えます。

uv形式のモジュラー方程式

 τについての関数
u(τ)=λ(τ)18=2q18n=11+q2n1+q2n1(q=eπiτ)
と奇素数pに対して方程式
Ωp(v,u)=(v(1)p218u(pτ))j=0p1(xu(τ+2jp))=0
uv形式のモジュラー方程式という。

 以下、簡単のため
Ap=(p001),Aj=(116j0p)
up=(1)p218u(Apτ),uj=u(Ajτ)
とおくこととします。
 uΛ-モジュラー関数ではありませんが、
u(τ+2)=ζ8u(τ)(ζ8=e2πi8)u(τ2τ+1)=u(τ)
が成り立つので以下のような保型性を持ちます。

 写像ϕ:ΛZ/8Z
ϕ((abcd))bd2+d212(mod8)
によって定めると、任意のγΛに対し
u(γτ)=ζ8ϕ(γ)u(τ)
が成り立つ。

γ=(abcd),S=(1201),T=(1021)
とおくと 前々回の記事 の命題1
Λ=S,T

u(Sτ)=ζ8u(τ),u(Tτ)=u(τ)
から
ϕ(±I)=0,ϕ(Sγ)=ϕ(γ)+1,ϕ(Tγ)=ϕ(γ)
を示せばよい。
 そのことは
ϕ(±I)0(mod8)ϕ(Sγ)(b+2d)d2+d212=ϕ(γ)+d2ϕ(γ)+1(mod8)ϕ(Tγ)b(d+2b)2+(d+2b)212=ϕ(γ)+b2+2bd+2b2ϕ(γ)+b(b+2)ϕ(γ)(mod8)
と確かめられる。

Ωp(v,u)の性質

 Ωp(v,u)u,vについての整数係数多項式となる。
 またΩp(v,u)C(u)におけるujの最小多項式となる。

 整数係数モニック多項式Wp(v8,u8)v=ujを根に持つのでupQ(u)上の最小多項式f(v,u)は整数係数モニックであることがわかる。また
[Q(up):Q(u)]=[Q(up):Q(λp)][Q(λp):Q(λ)][Q(u):Q(λ)]=8(p+1)8=p+1
なのでfvについての次数はp+1であることもわかる。
 あとはj=0,1,,p1に対してあるϕ(γ)=0なるγΛがあってτγτによってupujが成り立つことを示せばよい。
 いま任意の奇数nに対して
n41(mod16)
n81(mod32)
が成り立つことに注意すると
Ap(p6p8122p2)=(p7p8122p)A0
が成り立つのでこの変換によって
u(Apτ)ζ8p212u0=(1)p218u0
つまりupu0と移り変わる。
 よって
A0(116j01)=Aj
と合わせて主張を得る。

 Wp(v8,u8)=0の解はv=ζ8iujで尽くされるので
W(v8,u8)=j=18Ωp(v,ζ8ju)
が成り立ちます。このことからΩpの係数は少なくとも(16p)18=2p2程度の速さで大きくなることが推測できます(またΩp(v,u)uについてp+1次であることもわかります)。
 さらにΩpは次のような性質を持つことからWpよりよっぽど簡単な形の多項式であることがわかります。

 Ωp(v,u)vp+1kの係数はupkF(u8)の形で表せる。
 ただしnnn(mod8)なる自然数であって最小のものとした(n=0のときはn=0とする)。

u=2qn=11+q16n1+q8(2n1)=qf(q8)(q=eπiτ/8)
が成り立つことおよびp2=8a+1とおいたとき不定方程式
8n+k=pm
の整数解は(n,m)=(pl+ak,8l+pk)で尽くされることに注意する。
 まずxj=ujについてのk次基本対称式をekとおいたとき
ek=qpkfk(q8)
が成り立つことを数学的帰納法により示す。k=0のときはe0=1より明らか。
 k1のときukq-展開を
uk=qkn=0cn,kq8n
とし、ujについてのk乗和をpkとおくと
j=0p1ujk=n=0(j=0p1ζp(8n+k)j)cn,kq(8n+k)/p=m=8l+pk>0pcpl+ak,kqm=qpkhk(q8)
つまり
pk=(1)p218kqpkn=0cn,kq8pn+qpkhk(q8)=qpkgk(q8)
が成り立つことに注意するとニュートンの恒等式( 前回の記事 の補題9)より
ek=1kj=1k(1)j1ekjpj=1kj=1k(1)j1qp(kj)+pjfkj(q8)gj(q8)=qpkfk(q8)
が成り立つことがわかる。
 いまΩp(v,u)におけるvp+1kの係数(1)kekuの多項式で表したとき、そのq展開を比較することでupkF(u8)の形でなければならないことがわかる。

命題3

 Ωp(v,u)=Ωp(v,u)が成り立つ。

 (u,v)(u,v)において
vp+1kupkf(u8)(1)p+1k+pkvp+1kupkf(u8)=vp+1kupkf(u8)
となることから命題2と合わせてわかる。

 ±1=(1)p218とおくと
Ωp(v,1)=(v1)p(v1)
Ωp(v,u)=±Ωp(u,±v)=±vp+1up+1Ω(1v,1u)
が成り立つ。

 τ=0のときu(0)=1からu0=1,up=±1、およびj0,pに対し
uj=u(16jp)=u((16jp)0)=ζ8p212u(0)=(1)p218=±1
がわかるので
Ωp(v,1)=(v1)p(v1)
を得る。
 後半部分は
j=0pu(Ajτ)=u(τ)p+1
(cf. 前回の記事 の補題1)よりΩp(v,u)におけるup+1の係数は±1であることに注意して 前回の記事 の補題4と同様に示す。
Ωp(u0,u)=Ω(u(τ/p),u(τ))=0
から
Ωp(u(τ),u(pτ))=Ωp(u,±up)=0
が成り立つので、vp+1の係数に注意することで
Ωp(v,u)=±Ωp(u,±v)
がわかる。
 またS=(1011)に対してu(Sτ)=1/u(τ)が成り立つことに注意すると
SA0S=(10(p+1)1)A0
から
Ωp(1u0,1u)=0
が成り立つので、vp+1の係数に注意することで
Ωp(v,u)=±vp+1up+1Ω(1v,1u)
がわかる。

Ωp(v,u)の具体例

 uv形式のモジュラー方程式はuq-展開を比較することでも求められますが、uv形式ならではの比較的簡単な計算方法があります。
 命題3からΩp(v,u)vp+1kの係数Fk(u)
Fk(u)=upk(a+bu8+cu16+)
という形をしていたのでした。そしてその次数はkp+1において高々p次なので、Fk(u)は高々n=p8+1個の項からなることがわかります。例えばp=37,k=5のときn=5,pk1(mod8)なので
F5(u)=au+bu9+cu17+du25+eu33
と書けます。
 よってn個の適当なτΛHに対してuおよびFk(u)の近似値を計算し、a,b,c,についての線形方程式を解くことでそのだいたいの値がわかります。a,b,c,は整数だったのでその解を整数に均すことで厳密解が得られることになります。
 d=1のとき、つまりp=3,5,7のときはτ=0の値(命題4)から即座にモジュラー方程式が得られます。
 それでは3p29におけるuv形式のモジュラー方程式を見ていきましょう。

3次モジュラー方程式

v4v3v2v11u422221u322222u222222u122222112222

5次モジュラー方程式

v6v5v4v3v2v11u65555551u55455555u45555555u35555555u25555555u1555554511555555

7次モジュラー方程式

v8v7v6v5v4v3v2v11u80565656565656561u756856565656565656u6565628565656565656u5565656565656565656u4565656567056565656u3565656565656565656u2565656565656285656u15656565656565685611565656565656560

11次モジュラー方程式

v12v11v10v9v8v7v6v5v4v3v2v11u1216516516516501651651651651651651651u111653216516516516516516516522165165165u1016516516516516516544165165165165165165u91651651658816516516516516516516522165u80165165165165165165165165165165165165u7165165165165165132165165165165165165165u61651654416516516516516516516544165165u5165165165165165165165132165165165165165u41651651651651651651651651651651651650u31652216516516516516516516588165165165u216516516516516516544165165165165165165u11651651652216516516516516516516532165111651651651651651651650165165165165

13次モジュラー方程式

v14v13v12v11v10v9v8v7v6v5v4v3v2v11u1452052052052052052005205205205205205205201u135206452052052052052052052052520520520520520u12520520520520052052052052052052052065520520u11520520520520520520520208520520520520520520520u105205200520520520520520520520429520520520520u952052052052052052052052052052052052052052520u80520520520520520520520429520520520520520520u7520520520208520520520520520520520208520520520u65205205205205205204295205205205205205205200u552052520520520520520520520520520520520520520u45205205205204295205205205205205205200520520u3520520520520520520520208520520520520520520520u2520520655205205205205205205200520520520520u15205205205205205252052052052052052052064520115205205205205205205200520520520520520520

17次モジュラー方程式

v18v17v16v15v14v13v12v11v10v9v8v7v6v5v4v3v2v11u18001u1725627234u160272425u1516322448u1440807140u13489613464u12408022644u11163233456u10272440300u927249164272u8044030272u7334561632u6226444080u5134644896u471404080u324481632u24252720u1342722561100

19次モジュラー方程式

v20v19v18v17v16v15v14v13v12v11v10v9v8v7v6v5v4v3v2v11u20001u19512608114u1824322584u1724323344114u16039526859u1554722280u142432104882584u13255362280u123952212420u11608207483344u101048810488u9334420748608u80212423952u7228025536u62584104882432u522805472u4685939520u311433442432u225842432u11146085121100

23次モジュラー方程式

v24v23v22v21v20v19v18v17v16v15v14v13v12v11v10v9v8v7v6v5v4v3v2v11u240001u2320482944920u2201324813524u21235527507253544u205299212475282386u1913836814940853544u1833414421307213524u17712448367264920u16011592004237290u1529441677712367264u14132482187576213072u13750722720624149408u121247522953660124752u11149408272062475072u10213072218757613248u936726416777122944u8042372911592000u7920367264712448u613524213072334144u553544149408138368u48238612475252992u3535447507223552u213524132480u19202944204811000

29次モジュラー方程式

v30v29v28v27v26v25v24v23v22v21v20v19v18v17v16v15v14v13v12v11v10v9v8v7v6v5v4v3v2v11u300001u291638429696148481508u281187843860482663361305u2711878401896832712240u2611878414328321587808293857u25181145658649611314641508u240244249632628481176617u23118784011321601742320712240u222442496165926435145970u2129696108390457049961131464u20143283225798411439485266336u191132160174417601742320u18386048257984182424211587808u1758649622274320570499614848u1601659264146169573262848u15189683217441760174417601896832u1432628481461695716592640u1314848570499622274320586496u12158780818242421257984386048u111742320174417601132160u10266336114394852579841432832u911314645704996108390429696u80351459716592642442496u7712240174232011321601187840u61176617326284824424960u5150811314645864961811456u429385715878081432832118784u371224018968321187840u21305266336386048118784u1150814848296961638411000

おわりに

 はい。
 というわけでuv形式にすることでモジュラー方程式をだいぶ簡単にすることができたわけですが、実は、場合によってはさらに簡単にすることができます。
 例えば3次モジュラー方程式
Ω3(v,u)=v4u4+2uv(u2v21)=0

4u2v2(u2v21)2=(u4v4)24u6v66u4v4+4u2v2=u8+v8(u2v21)4=(1u8)(1v8)
と変形できます。ここでk=u4,k=1k2,l=v4,l=1l2とおくと
kl+kl=1
という方程式に帰着させることができます。
 また7次モジュラー方程式も同様に
Ω7(v,u)=v88u7v7+8uv+u8=(uv1)8(1u8)(1v8)=0
から
kl4+kl4=1
という方程式に帰着できます。
 これについても何回か後の記事で解説しようと思います。
 とりあえず今回はこんなところで。
 では。

参考文献

[1]
J. M. Borwein, P. B. Borwein, Pi and the AGM: A Study in Analytic Number Theory and Computational Complexity, Wiley-Interscience, 1987, pp. 126-136
投稿日:20221212
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子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. $u-v$形式のモジュラー方程式
  3. $\O_p(v,u)$の性質
  4. $\O_p(v,u)$の具体例
  5. おわりに
  6. 参考文献