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大学数学基礎解説
文献あり

モジュラー方程式

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{M}[4]{\begin{pmatrix}#1& #2\\#3& #4\end{pmatrix}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{O}[0]{\Omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事ではモジュラー方程式という方程式について解説していきます。 前回の記事 の内容をフルに使うので予め目を通しておいてください。

定義

モジュラー方程式

 モジュラー$\la$関数と奇素数$p$に対して、方程式
$$W_p(x)[\tau]=(x-\la(p\tau))\prod^{p-1}_{j=0}(x-\la\l(\frac{\tau+2j}p\r))=0$$
$p$次のモジュラー方程式という。

 簡単のため 前回の記事 の命題5で定めた変換
$$A_p=\M p001,\;A_j=\M1{2j}0p\quad(j\neq p)$$
に対して$\la_j=\la(A_j\tau)$、つまり
$$\la_p=\la\l(p\tau\r),\;\la_j=\la\l(\frac{\tau+2j}p\r)$$
とおきます。
 $W_p$における$x^j$の係数は$\la_j$についての対称式となるので 前回の記事 の命題6からそれらは$\tau$についての$\L$-モジュラー関数であることがわかります。

補題

$$\prod^p_{j=0}\la_j=\la^{p+1}$$
が成り立つ。

  前の記事 で紹介した公式
$$\la(\tau)=16q\prod^\infty_{n=1}\l(\frac{1+q^{2n}}{1+q^{2n-1}}\r)^8\quad(q=e^{\pi i\tau})$$
および$\z_p=e^{2\pi i/p}$に対し
$$\prod^{p-1}_{j=0}(1+\z_p^{aj}x) =\l\{\begin{array}{cl}1+x^p&p\nmid a\\(1+x)^p&p\mid a\end{array}\r.$$
が成り立つことに注意すると
\begin{eqnarray} \prod^p_{j=0}\la_j &=&16^{p+1}q^{p+\sum^{p-1}_{j=0}1/p}\z_p^{\sum^{p-1}_{j=0}j} \prod^\infty_{n=1}\l(\frac{1+q^{2np}}{1+q^{(2n-1)p}}\r)^8 \prod^\infty_{n=1}\prod^{p-1}_{j=0} \l(\frac{1+\z_p^{2nj}q^{2n/p}}{1+\z_p^{(2n-1)j}q^{(2n-1)/p}}\r)^8 \\&=&(16q)^{p+1} \prod^\infty_{m=1}\l(\frac{1+q^{2mp}}{1+q^{(2m-1)p}}\r)^8 \frac{\prod_{2n\neq 2mp}(1+q^{2n})}{\prod_{2n-1\neq(2m-1)p}(1+q^{2n-1})} \prod^\infty_{m=0}\l(\frac{1+q^{2mp/p}}{1+q^{(2m-1)p/p}}\r)^{8p} \\&=&\l(16q\prod^\infty_{n=1}\l(\frac{1+q^{2n}}{1+q^{2n-1}}\r)^8\r)^{p+1}=\la^{p+1} \end{eqnarray}
とわかる。

$$\ol W_p(y)[\tau]=\prod^p_{j=0}\l(y-\frac{16}{\la_j}\r)$$
とおくとこれは$y$$\ol\la=16/\la$についての整数係数多項式となる。

 $\ol W_p$における$y^j$の係数を$s_j$とし、$s_j$$\ol\la$の整数係数多項式であることを示す。$s_j$$\ol\la_j=16/\la_j$についての対称式となるので$\L$-モジュラー関数となることに注意する。
 いま
$$\frac{16}{\la(\tau)}=\frac1q\prod^\infty_{n=1}\l(\frac{1+q^{2n-1}}{1+q^{2n}}\r)^8$$
であることから
$$\ol\la=\frac1q+\sum^\infty_{n=0}a_nq^n\quad(a_n\in\Z)$$
$q$-展開できるので
$$\ol\la_j=\frac1{\z_p^jq^{1/p}}+\sum^\infty_{n=0}a_n\z_p^{jn}q^{n/p}\quad(j\neq p)$$
$$\ol\la_p=\frac1{q^p}+\sum^\infty_{n=0}a_nq^{pn}$$
が成り立つ。$s_j$$\ol\la_j$の対称式であったことに注意すると、その$q$-展開
$$s_j=\sum^\infty_{n=-(p+1)}c_nq^n$$
における係数$c_n$は整数となることがわかる(cf.補題9)。このとき
$$s_j-c_{-(p+1)}\ol\la^{p+1}=\sum^\infty_{n=-p}c'_nq^n$$
$$s_j-(c_{-(p+1)}\ol\la^{p+1}+c'_{-p}\ol\la^p)=\sum^\infty_{n=-(p-1)}c''_nq^n$$
としていくことで
$$s_j-P(\ol\la)=\sum^\infty_{n=1}d_nq^n$$
となるような整数係数多項式$P$が取れる(特に$\deg P\leq p+1$であることもわかる)。
 $p$は奇数であったことに注意すると 前回の記事 の命題12系より$\ol\la$および$\ol\la_j$$(\L\backslash\H)\cup\{-1,0,i\infty\}$上で$\tau=i\infty$のみを極に持つが、$s_j-P(\ol\la)$$\tau=i\infty$において極を取らないのでこれは$(\L\backslash\H)\cup\{-1,0,i\infty\}$正則となり、 前回の記事 の命題3から定数関数でなければならないことがわかる。特にその$q$-展開から$s_j-P(\ol\la)=0$を得る。

 補題1に注意すると
$$W_p(x)[\tau]=\frac{x^{p+1}\la^{p+1}}{16^{p+1}}\ol W_p\l(\frac{16}x\r)[\tau]$$
が成り立つので、$\ol W_p$$\ol\la$についての次数は$p+1$であったことに注意すると$W_p$$x,\la$についての有理数係数多項式となることがわかります。
 以下これらを多項式として$W_p=W_p(x,\la),\;\ol W_p=\ol W_p(y,\ol\la)$と書くことにします。

モジュラー方程式の性質

 $W_p(x,\la)$は関数体$\C(\la)$における$\la_j$の最小多項式である。

 $\la_p$$\C(\la)$上の最小多項式$f(x,\la)$を考える。
 $f(x,\la)$$\L$の作用に対して不変なので任意の$\g\in\L$に対して$x=\la(A_p\g\tau)$を根に持つ。
 いま
\begin{eqnarray} A_p\M1{\frac{p^2-1}2}2{p^2}&=&\M1{\frac{p^2-1}2}2p A_0 \\A_0\M1{2j}01&=&A_j \end{eqnarray}
に注意すると各$j$に対してある$\g,\g'\in\L$があって$A_p\g=\g'A_j$が成り立つので$f(x,\la)$$x=\la(A_p\g\tau)=\la(A_j\tau)=\la_j$を根に持つ。よって主張を得る。

$W_p(x,\la)=W_p(\la,x)$
および
$\dis W_p(x,\la)=x^{p+1}\la^{p+1}W_p\l(\frac1x,\frac1\la\r)$
が成り立つ。

$\dis W_p(\la(\tau/p),\la(\tau))=0$
であったことから$W_p(\la,x)$は少なくとも$x=\la(p\tau)=\la_p$を根に持つ。よって$W_p(\la,x)$$\la_p$$\C(\la)$上の最小多項式である$W_p(x,\la)$で割り切れ、$W_p(\la,x)$$x$についての次数は$p+1$であったことに注意するとある$A\in\C(\la)$があって
$W_p(\la,x)=AW_p(x,\la)$
が成り立つが、$A\neq1$なら$W_p(x,\la)$$x=\la$を根に持つことになり矛盾するので$A=1$を得る。
 また 前回の記事 の命題9より$S=\M10{-1}1$に対して
$$\la(S\tau)=\la\l(\frac\tau{1-\tau}\r)=\frac1{\la(\tau)}$$
が成り立つことおよび
$$SA_0S=\M 10{-(p+1)}p=\M 10{-(p+1)}1\M100p\in\L A_0$$
に注意すると、
$$W_p\l(\frac1x,\frac1{\la(\tau)}\r)=W_p\l(\frac1x,\la(S\tau)\r)$$
は少なくとも
$$\dis x=\frac1{\la(A_0S\tau)}=\la(SA_0S\tau)=\la(A_0\tau)=\la_0$$
を根に持つ。よって
$$x^{p+1}\la^{p+1}W_p\l(\frac1x,\frac1\la\r)=AW_p(x,\la)$$
が成り立ち、両辺の$x^{p+1}$の係数を比較することで$A=1$を得る。

 $W_p(x,\la)$$x,\la$についての整数係数多項式となる。

\begin{eqnarray} W_p(x,\la)&=&\sum^{p+1}_{i,j=0}c_{i,j}x^i\la^j \\\ol W_p(x,\la)&=&\sum^{p+1}_{i,j=0}\ol c_{p+1-i,p+1-j}\l(\frac{16}x\r)^i\l(\frac{16}\la\r)^j \end{eqnarray}
とおくと、
\begin{eqnarray} W_p(x,\la)&=&x^{p+1}\la^{p+1}W_p\l(\frac1x,\frac1\la\r) \\&=&\frac{x^{p+1}\la^{p+1}}{16^{p+1}}\ol W_p(x,\la) \end{eqnarray}
より
\begin{eqnarray} &&c_{i,j}&=&c_{p+1-i,p+1-j} \\&=&16^{p+1-(i+j)}\ol c_{i,j} &=&16^{i+j-(p+1)}\ol c_{p+1-i,p+1-j} \end{eqnarray}
が成り立つので$\ol c_{i,j}$は整数であったことから$c_{i,j}$も整数となることがわかる。

 また最後の式から以下の主張が得られます。

命題5

 $16^{|p+1-(i+j)|}\mid c_{i,j}$が成り立つ。

 この命題から$p$が増加することに$W_p$の係数は指数関数的に増加していくことがわかります。

$W_p(x,1)=(x-1)^{p+1}$
$W_p(x,0)=x^{p+1}$
が成り立つ。

 $p$は奇数なので 前回の記事 の命題12系より$\tau=0$において$\la_j=1$$\tau=i\infty$において$\la_j=0$となることからわかる。

 $5$次のモジュラー方程式は$\C(\la)$において非可解である。

 ここで方程式$f(x)=0$が体$K$において非可解であるとは、その解が$K$の元の四則演算とルート$\sqrt[n]{\;\cdot\;}$によって表すことができないことを言います。体論的に言えば$f(x)$の最小分解体$L$はいかなる冪根拡大$M/K$にも含まれないことを言い、それは$\Gal(L/K)$が非可解群であることと同値であることがよく知られています。

 $W_5(x,\la)$$K=\C(\la)$における最小分解体$\C(\la_0,\la_1,\ldots,\la_5)$$L$とおいたとき、$\s\in\Gal(L/K)$$\{\la_0,\la_1,\ldots,\la_5\}$への作用から$6$次対称群$S_6$への単射準同型$\Gal(L/K)\to S_6$が引き起こされる。
 また$\g\in\L$$L$への作用$\la(A_j\tau)\mapsto\la(A_j\g\tau)$$K$上の同型写像を引き起こすので、この作用によって自然な準同型$\L\to\Gal(L/K)\to S_6$が得られる。
 ここで
$$S=\M1201,T=\M1021$$
とおくと、これは$S_6$において巡回置換
$$s=(4\ 3\ 2\ 1\ 0),t=(1\ 3\ 2\ 4\ 5)$$
に写ることがわかる(実際$\la(A_jT\tau)=\la(A_{t(j)}\tau)$が成り立つことが確かめれられる)。
 $s,t$がなす$S_6$の部分群は非可解群であることがわかるので、$\Gal(L/K)$は非可解な部分群を持つことがわかる。よって「可解群の部分群は可解群である」という事実と合わせて主張を得る。
 ちなみに$5$次対称群への写像
$$s\mapsto(a\ b\ c\ d\ e),t\mapsto(c\ b\ d\ a\ e)$$
は(恐らく)準同型写像を定め、これによって$\langle s,t\rangle\simeq A_5$が成り立つことがわかります(多分)。

 この証明からも察しが付くように$S,T$のなす置換群は大体非可解となるので一般にモジュラー方程式は四則演算と冪根によって解くことはできません。

$p=2$のモジュラー方程式

 $p=2$のとき$\C(\la)$において$\la(2\tau)$の最小多項式$f(x,\la)$があるとすれば
\begin{eqnarray} \la\l(2(\tau+2)\r)&=&\la(2\tau) \\\la\l(2\cdot\frac\tau{2\tau+1}\r)&=&\frac1{\la(2\tau)} \end{eqnarray}
より$f(x,\la)$
$$(x-\la(2\tau))(x-\la(2\tau)^{-1}) =x^2-(\la(2\tau)+\la(2\tau)^{-1})x+1$$
で割り切れなければならない。
 いまこの$x$の係数$\la(2\tau)+\la(2\tau)^{-1}$$\tau=0,1$において極を持たない$\L$-モジュラー関数なので補題2と同様にして$16/\la$の多項式として書ける。具体的には
\begin{eqnarray} \frac{16}{\la(\tau)}&=&\frac1q+8+20q+O(q^2) \\\l(\frac{16}{\la(\tau)}\r)^2&=&\frac1{q^2}+\frac{16}q+104+O(q) \end{eqnarray}
に注意すると
$$\la(2\tau)+\frac1{\la(2\tau)}=\frac{16}{\la(\tau)^2}-\frac{16}{\la(\tau)}+2$$
が成り立つことがわかる。

 ちなみに 前の記事 で紹介した公式
\begin{eqnarray} 2\t_3(\tau)^2&=&\t_3(\tau)^2+\t_4(\tau)^2 \\2\t_2(\tau)^2&=&\t_3(\tau)^2-\t_4(\tau)^2 \\\t_4(\tau)^4&=&\t_3(\tau)^4-\t_2(\tau)^4 \end{eqnarray}
を使うと
\begin{eqnarray} \la(2\tau)+\frac1{\la(2\tau)} &=&\frac{\t_2(2\tau)^8+\t_3(2\tau)^8}{(\t_3(2\tau)\t_2(2\tau))^4} \\&=&\frac{2(\t_3(\tau)^8+6\t_3(\tau)^4\t_4(\tau)^4+\t_4(\tau)^8)}{(\t_3(\tau)^4-\t_4(\tau)^4)^2} \\&=&\frac{2(8\t_3(\tau)^8-8\t_3(\tau)^4\t_2(\tau)^4+\t_2(\tau)^4)}{\t_2(\tau)^8} \\&=&\frac{16-16\la(\tau)+2\la(\tau)^2}{\la(\tau)^2} \end{eqnarray}
と直接確かめることもできます。

 よって$\C(\la)$における$\la(2\tau)$の最小多項式$f(x,\la)$
$$f(x,\la)=x^2-\l(\frac{16}{\la^2}-\frac{16}\la+2\r)x+1$$
であり、これを整理すると$p=2$におけるモジュラー方程式は以下のように定められます。

$$W_2(x,\la)=(1-x)^2\la^2+16(\la-1)x$$
とおくと$W_2(\la(2\tau),\la(\tau))=0$が成り立つ。

 また$x=l^2,\;\la=k^2$とおくと
$$W_2(l^2,k^2)=((1-l)^2k^2+4l)((1+l)^2k^2-4l)$$
と因数分解できるので$k(2)=-k(0)=-1$に注意すると$l=k(2\tau)$を解に持つ方程式
$$(1+l)^2k^2-4l=0$$
$2$次のモジュラー方程式ということが多いです。

モジュラー方程式の具体例

 $\la$$q$-展開からモジュラー方程式を求める場合、以下の恒等式を使うと計算が多少楽になります。

ニュートンの恒等式

 $x_1,x_2,\ldots,x_n$についての$k$次基本対称式を$e_k$、べき乗和を$p_k=\sum^n_{j=1}x_j^k$とおくと
$$e_k=\frac1k\sum^k_{j=1}(-1)^{j-1}e_{k-j}p_j$$
が成り立つ。

 いま$\ol\la^k=(16/\la)^k$$q$-展開を
$$\ol\la^k=\sum^{p^2}_{n=-k}a_{n,k}q^n+O(q^{p^2+1})$$
とおいたとき、$x_j=\ol\la_j\;(j< p)$についてのべき乗和$p_k\;(k< p)$
$$p_k=\sum^{p-1}_{j=0}\sum^\infty_{n=-k}a_{n,k}(\z_p^jq^{1/p})^n =\sum^p_{n=0}pa_{pn,k}q^n+O(q^{p+1})$$
となります。これとニュートンの恒等式による漸化式を用いて$x_j\;(j< p)$についての基本対称式を
$$e_k=\sum^p_{n=0}C_{n,k}q^n+O(q^{p+1})$$
$q$-展開すれば$\ol W_p(y,\ol\la)$における$y^{p-k}$の係数$s_{p-k}$
\begin{eqnarray} (-1)^{k+1}s_{p-k}&=&e_{k+1}+\ol\la_p e_k \\&=&\sum^\infty_{n=0}C_{n,k+1}q^n +\l(\frac1{q^p}+\sum^\infty_{n=0}a_{n,0}q^{pn}\r)\l(\sum^\infty_{n=0}C_{n,k}q^n\r) \\&=&C_{0,k+1}+C_{0,k}a_{0,0}+\sum^p_{n=0}C_{n,k}q^{n-p}+O(q) \\&=&C_{0,k+1}+8C_{0,k}+\sum^p_{n=0}C_{n,k}q^{n-p}+O(q) \end{eqnarray}
$q$-展開できます。また多項式$P_k(\ol\la)$
$$P_k(\ol\la)=\ol\la^k-\sum^{k-1}_{n=0}a_{-n,k}P_n(\ol\la)$$
によって定めると$P_k=q^{-k}+O(q)$が成り立つので
$$(-1)^{k+1}s_{p-k}=C_{0,k+1}+8C_{0,k}+\sum^p_{n=0}C_{n,k}P_{p-n}(\ol\la)$$
$\ol W_p(y,\ol\la)$が求まります(係数の対称性から$0\leq k\leq(p-1)/2$で考えれば十分です)。
 このようにして$p=3,5,7,11,13$のモジュラー方程式を求めると以下のようになります。

$3$次モジュラー方程式

\begin{array}{|c|r|r|r|r|r|} \hline&x^{4}&x^{3}&x^{2}&x^{1}&1 \\\hline\la^{4}&\phantom{-762}&\phantom{-762}&\phantom{-762}&\phantom{-762}&1 \\\hline\la^{3}&\phantom{-762}&-256&384&-132&\phantom{-762} \\\hline\la^{2}&\phantom{-762}&384&-762&384&\phantom{-762} \\\hline\la^{1}&\phantom{-762}&-132&384&-256&\phantom{-762} \\\hline1&1&\phantom{-762}&\phantom{-762}&\phantom{-762}&\phantom{-762} \\\hline \end{array}

$5$次モジュラー方程式

\begin{array}{|c|r|r|r|r|r|r|r|} \hline&x^{6}&x^{5}&x^{4}&x^{3}&x^{2}&x^{1}&1 \\\hline\la^{6}&\phantom{691180}&\phantom{691180}&\phantom{691180}&\phantom{691180}&\phantom{691180}&\phantom{691180}&1 \\\hline\la^{5}&\phantom{691180}&-65536&163840&-138240&43520&-3590&\phantom{691180} \\\hline\la^{4}&\phantom{691180}&163840&-133120&-207360&133135&43520&\phantom{691180} \\\hline\la^{3}&\phantom{691180}&-138240&-207360&691180&-207360&-138240&\phantom{691180} \\\hline\la^{2}&\phantom{691180}&43520&133135&-207360&-133120&163840&\phantom{691180} \\\hline\la^{1}&\phantom{691180}&-3590&43520&-138240&163840&-65536&\phantom{691180} \\\hline1&1&\phantom{691180}&\phantom{691180}&\phantom{691180}&\phantom{691180}&\phantom{691180}&\phantom{691180} \\\hline \end{array}

$7$次モジュラー方程式

\begin{array}{|c|r|r|r|r|r|r|r|r|r|} \hline&x^{8}&x^{7}&x^{6}&x^{5}&x^{4}&x^{3}&x^{2}&x^{1}&1 \\\hline\la^{8}&\phantom{-7639890874}&\phantom{-7639890874}&\phantom{-7639890874}&\phantom{-7639890874}&\phantom{-7639890874}&\phantom{-7639890874}&\phantom{-7639890874}&\phantom{-7639890874}&1 \\\hline\la^{7}&\phantom{-7639890874}&-16777216&58720256&-78905344&50462720&-15307264&1858304&-51464&\phantom{-7639890874} \\\hline\la^{6}&\phantom{-7639890874}&58720256&-499580928&1158348800&-916944896&63926016&133672476&1858304&\phantom{-7639890874} \\\hline\la^{5}&\phantom{-7639890874}&-78905344&1158348800&-3908889600&4686427648&-1905600312&63926016&-15307264&\phantom{-7639890874} \\\hline\la^{4}&\phantom{-7639890874}&50462720&-916944896&4686427648&-7639890874&4686427648&-916944896&50462720&\phantom{-7639890874} \\\hline\la^{3}&\phantom{-7639890874}&-15307264&63926016&-1905600312&4686427648&-3908889600&1158348800&-78905344&\phantom{-7639890874} \\\hline\la^{2}&\phantom{-7639890874}&1858304&133672476&63926016&-916944896&1158348800&-499580928&58720256&\phantom{-7639890874} \\\hline\la^{1}&\phantom{-7639890874}&-51464&1858304&-15307264&50462720&-78905344&58720256&-16777216&\phantom{-7639890874} \\\hline1&1&\phantom{-7639890874}&\phantom{-7639890874}&\phantom{-7639890874}&\phantom{-7639890874}&\phantom{-7639890874}&\phantom{-7639890874}&\phantom{-7639890874}&\phantom{-7639890874} \\\hline \end{array}

$11$次モジュラー方程式

\begin{array}{|c|r|r|r|r|r|r|r|r|r|r|r|r|r|} \hline&x^{12}&x^{11}&x^{10}&x^{9}&x^{8}&x^{7}&x^{6}&x^{5}&x^{4}&x^{3}&x^{2}&x^{1}&1 \\\hline\la^{12}&&&&&&&&&&&&&1 \\\hline\la^{11}&&-1099511627776&6047313952768&-14173392076800&18425409699840&-14480113139712&7026348392448&-2060464947200&341344256000&-27750015744&819426432&-3920268& \\\hline\la^{10}&&6047313952768&-211750477627392&970404910858240&-1331291953823744&-355258102448128&2300002096578560&-1734167675863040&258817245108224&95646048800896&1549775037250&819426432& \\\hline\la^{9}&&-14173392076800&970404910858240&-10714288448602112&33699253373108224&-54942671982297088&60198222421753856&-47405182875685888&23191973779380736&-5079156085224540&95646048800896&-27750015744& \\\hline\la^{8}&&18425409699840&-1331291953823744&33699253373108224&-150301607954612224&327887136290897920&-422042304700487680&324702643817136640&-136083386650663441&23191973779380736&258817245108224&341344256000& \\\hline\la^{7}&&-14480113139712&-355258102448128&-54942671982297088&327887136290897920&-826261791829889536&1115177335411760896&-837051502475525656&324702643817136640&-47405182875685888&-1734167675863040&-2060464947200& \\\hline\la^{6}&&7026348392448&2300002096578560&60198222421753856&-422042304700487680&1115177335411760896&-1511280563155995236&1115177335411760896&-422042304700487680&60198222421753856&2300002096578560&7026348392448& \\\hline\la^{5}&&-2060464947200&-1734167675863040&-47405182875685888&324702643817136640&-837051502475525656&1115177335411760896&-826261791829889536&327887136290897920&-54942671982297088&-355258102448128&-14480113139712& \\\hline\la^{4}&&341344256000&258817245108224&23191973779380736&-136083386650663441&324702643817136640&-422042304700487680&327887136290897920&-150301607954612224&33699253373108224&-1331291953823744&18425409699840& \\\hline\la^{3}&&-27750015744&95646048800896&-5079156085224540&23191973779380736&-47405182875685888&60198222421753856&-54942671982297088&33699253373108224&-10714288448602112&970404910858240&-14173392076800& \\\hline\la^{2}&&819426432&1549775037250&95646048800896&258817245108224&-1734167675863040&2300002096578560&-355258102448128&-1331291953823744&970404910858240&-211750477627392&6047313952768& \\\hline\la^{1}&&-3920268&819426432&-27750015744&341344256000&-2060464947200&7026348392448&-14480113139712&18425409699840&-14173392076800&6047313952768&-1099511627776& \\\hline1&1&&&&&&&&&&&& \\\hline \end{array}

$13$次モジュラー方程式

\begin{array}{|c|r|r|r|r|r|r|r|r|r|r|r|r|r|r|r|} \hline&x^{14}&x^{13}&x^{12}&x^{11}&x^{10}&x^{9}&x^{8}&x^{7}&x^{6}&x^{5}&x^{4}&x^{3}&x^{2}&x^{1}&1 \\\hline\la^{14}&&&&&&&&&&&&&&&1 \\\hline\la^{13}&&-281474976710656&1829587348619264&-5202889022636032&8490428789686272&-8762789845794816&5942529635647488&-2663946083368960&774086183616512&-138935435591680&14072916901888&-680644410368&11159190016&-25148942& \\\hline\la^{12}&&1829587348619264&106001717010628608&-673545430012788736&957116728721014784&1479607467443748864&-5540697130508746752&5708696105114402816&-1938557699700031488&-362216599920148480&247472387963394048&14218217740826112&74637639891035&11159190016& \\\hline\la^{11}&&-5202889022636032&-673545430012788736&-6715569374641520640&53832816786063491072&-188129080009914580992&392439932907606245376&-497857926081743159296&375859028285919985664&-160893431095093152768&35239288743640690176&-3110529379898989932&14218217740826112&-680644410368& \\\hline\la^{10}&&8490428789686272&957116728721014784&53832816786063491072&-214387675678254301184&470353720899736174592&-1029427754232739004416&1796099365526148087808&-1892620680379097210880&1100382933913407226368&-320685109197296149527&35239288743640690688&247472387963394048&14072916901888& \\\hline\la^{9}&&-8762789845794816&1479607467443748864&-188129080009914580992&470353720899736174592&80968143543682596864&-824837412083500122112&-542162755726837659648&2779192732113961313280&-2715983340697684011474&1100382933913407193088&-160893431095093166080&-362216599920148480&-138935435591680& \\\hline\la^{8}&&5942529635647488&-5540697130508746752&392439932907606245376&-1029427754232739004416&-824837412083500122112&5480875218500213575680&-6184746217569382794240&910737690671407528891&2779192732113961484288&-1892620680379097153536&375859028285919985664&-1938557699700031488&774086183616512& \\\hline\la^{7}&&-2663946083368960&5708696105114402816&-497857926081743159296&1796099365526147956736&-542162755726837678080&-6184746217569382301696&10845923003385568979608&-6184746217569382794240&-542162755726837659648&1796099365526148087808&-497857926081743159296&5708696105114402816&-2663946083368960& \\\hline\la^{6}&&774086183616512&-1938557699700031488&375859028285919985664&-1892620680379097153536&2779192732113961484288&910737690671407528891&-6184746217569382794240&5480875218500213575680&-824837412083500122112&-1029427754232739004416&392439932907606245376&-5540697130508746752&5942529635647488& \\\hline\la^{5}&&-138935435591680&-362216599920148480&-160893431095093166080&1100382933913407193088&-2715983340697684011474&2779192732113961313280&-542162755726837659648&-824837412083500122112&80968143543682596864&470353720899736174592&-188129080009914580992&1479607467443748864&-8762789845794816& \\\hline\la^{4}&&14072916901888&247472387963394048&35239288743640690688&-320685109197296149527&1100382933913407226368&-1892620680379097210880&1796099365526148087808&-1029427754232739004416&470353720899736174592&-214387675678254301184&53832816786063491072&957116728721014784&8490428789686272& \\\hline\la^{3}&&-680644410368&14218217740826112&-3110529379898989932&35239288743640690176&-160893431095093152768&375859028285919985664&-497857926081743159296&392439932907606245376&-188129080009914580992&53832816786063491072&-6715569374641520640&-673545430012788736&-5202889022636032& \\\hline\la^{2}&&11159190016&74637639891035&14218217740826112&247472387963394048&-362216599920148480&-1938557699700031488&5708696105114402816&-5540697130508746752&1479607467443748864&957116728721014784&-673545430012788736&106001717010628608&1829587348619264& \\\hline\la^{1}&&-25148942&11159190016&-680644410368&14072916901888&-138935435591680&774086183616512&-2663946083368960&5942529635647488&-8762789845794816&8490428789686272&-5202889022636032&1829587348619264&-281474976710656& \\\hline1&1&&&&&&&&&&&&&& \\\hline \end{array}

おわりに

 はい。
 方程式が可解とか非可解とか以前に$W_p(x,\la)$が煩雑すぎてそれどころではないですね。
 ちなみに$j$-不変量についてのモジュラー方程式
$$F_p(x,j)=(x-j(p\tau))\prod^{p-1}_{k=0}(x-j\l(\frac{\tau+k}p\r))=0$$
というものもありますが、こちらは$p=11$のときに
$$2^{92}3^{19}5^{20}11^253\times42821\times632656051599247797378930904953999820460266043$$
という係数が現れることが知られているように$\la$のモジュラー方程式より圧倒的に速くその係数を増大させます。
 こう聞くと「モジュラー方程式ってなんかデカくて怖いなあ」と思ってしまうかもしれませんが、$\la$のモジュラー方程式に関しては従来より遥かに簡単な形に書き換えることができ、例えば$p=3,5$のときは
\begin{eqnarray} 0&=&u^4-v^4+2uv(1-u^2v^2) \\0&=&u^6-v^6+5u^2v^2(u^2-v^2)+4uv(1-u^2v^2) \end{eqnarray}
といった方程式に帰着できます。めちゃめちゃ簡単。
 この話については 次回の記事 で解説するのでモジュラー方程式のデカさに怯える必要はありません。
 とりあえず今回はこんなところで。
 では。

参考文献

[1]
J. M. Borwein, P. B. Borwein, Pi and the AGM: A Study in Analytic Number Theory and Computational Complexity, Wiley-Interscience, 1987, pp. 121-136
投稿日:2022124
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投稿者

子葉
子葉
994
232121
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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