はじめに
この記事ではモジュラー方程式という方程式について解説していきます。
前回の記事
の内容をフルに使うので予め目を通しておいてください。
定義
モジュラー方程式
モジュラー関数と奇素数に対して、方程式
を次のモジュラー方程式という。
簡単のため
前回の記事
の命題5で定めた変換
に対して、つまり
とおきます。
におけるの係数はについての対称式となるので
前回の記事
の命題6からそれらはについての-モジュラー関数であることがわかります。
補題
前の記事
で紹介した公式
およびに対し
が成り立つことに注意すると
とわかる。
におけるの係数をとし、がの整数係数多項式であることを示す。はについての対称式となるので-モジュラー関数となることに注意する。
いま
であることから
と-展開できるので
が成り立つ。はの対称式であったことに注意すると、その-展開
における係数は整数となることがわかる(cf.補題9)。このとき
としていくことで
となるような整数係数多項式が取れる(特にであることもわかる)。
は奇数であったことに注意すると
前回の記事
の命題12系よりおよびは上でのみを極に持つが、はにおいて極を取らないのでこれは正則となり、
前回の記事
の命題3から定数関数でなければならないことがわかる。特にその-展開からを得る。
補題1に注意すると
が成り立つので、のについての次数はであったことに注意するとはについての有理数係数多項式となることがわかります。
以下これらを多項式としてと書くことにします。
モジュラー方程式の性質
の上の最小多項式を考える。
はの作用に対して不変なので任意のに対してを根に持つ。
いま
に注意すると各に対してあるがあってが成り立つのではを根に持つ。よって主張を得る。
であったことからは少なくともを根に持つ。よってはの上の最小多項式であるで割り切れ、のについての次数はであったことに注意するとあるがあって
が成り立つが、ならはを根に持つことになり矛盾するのでを得る。
また
前回の記事
の命題9よりに対して
が成り立つことおよび
に注意すると、
は少なくとも
を根に持つ。よって
が成り立ち、両辺のの係数を比較することでを得る。
とおくと、
より
が成り立つのでは整数であったことからも整数となることがわかる。
また最後の式から以下の主張が得られます。
この命題からが増加することにの係数は指数関数的に増加していくことがわかります。
は奇数なので
前回の記事
の命題12系よりにおいて、においてとなることからわかる。
ここで方程式が体において非可解であるとは、その解がの元の四則演算とルートによって表すことができないことを言います。体論的に言えばの最小分解体はいかなる冪根拡大にも含まれないことを言い、それはが非可解群であることと同値であることがよく知られています。
のにおける最小分解体をとおいたとき、のへの作用から次対称群への単射準同型が引き起こされる。
またのへの作用は上の同型写像を引き起こすので、この作用によって自然な準同型が得られる。
ここで
とおくと、これはにおいて巡回置換
に写ることがわかる(実際が成り立つことが確かめれられる)。
がなすの部分群は非可解群であることがわかるので、は非可解な部分群を持つことがわかる。よって「可解群の部分群は可解群である」という事実と合わせて主張を得る。
ちなみに次対称群への写像
は(恐らく)準同型写像を定め、これによってが成り立つことがわかります(多分)。
この証明からも察しが付くようにのなす置換群は大体非可解となるので一般にモジュラー方程式は四則演算と冪根によって解くことはできません。
のモジュラー方程式
のときにおいての最小多項式があるとすれば
よりは
で割り切れなければならない。
いまこのの係数はにおいて極を持たない-モジュラー関数なので補題2と同様にしての多項式として書ける。具体的には
に注意すると
が成り立つことがわかる。
ちなみに
前の記事
で紹介した公式
を使うと
と直接確かめることもできます。
よってにおけるの最小多項式は
であり、これを整理するとにおけるモジュラー方程式は以下のように定められます。
またとおくと
と因数分解できるのでに注意するとを解に持つ方程式
を次のモジュラー方程式ということが多いです。
モジュラー方程式の具体例
の-展開からモジュラー方程式を求める場合、以下の恒等式を使うと計算が多少楽になります。
ニュートンの恒等式
についての次基本対称式を、べき乗和をとおくと
が成り立つ。
いまの-展開を
とおいたとき、についてのべき乗和は
となります。これとニュートンの恒等式による漸化式を用いてについての基本対称式を
と-展開すればにおけるの係数は
と-展開できます。また多項式を
によって定めるとが成り立つので
とが求まります(係数の対称性からで考えれば十分です)。
このようにしてのモジュラー方程式を求めると以下のようになります。
次モジュラー方程式
次モジュラー方程式
次モジュラー方程式
次モジュラー方程式
次モジュラー方程式
おわりに
はい。
方程式が可解とか非可解とか以前にが煩雑すぎてそれどころではないですね。
ちなみに-不変量についてのモジュラー方程式
というものもありますが、こちらはのときに
という係数が現れることが知られているようにのモジュラー方程式より圧倒的に速くその係数を増大させます。
こう聞くと「モジュラー方程式ってなんかデカくて怖いなあ」と思ってしまうかもしれませんが、のモジュラー方程式に関しては従来より遥かに簡単な形に書き換えることができ、例えばのときは
といった方程式に帰着できます。めちゃめちゃ簡単。
この話については
次回の記事
で解説するのでモジュラー方程式のデカさに怯える必要はありません。
とりあえず今回はこんなところで。
では。