前回: ネットからはじめる位相空間論 第0回・モチベーション
久しぶりのネットです.
当初は毎週日曜日にネットの記事を作る予定でしたが,M1翌日から第1回,となってしまいました.漫才王者が決定する前にシリーズを完結させたかったのですが,のんびり記事を書き進めている内にノルム空間の
それにしても最近寒いですね.
2022/12/24に更新しました.コメントで教えて頂いたアライグマさん,ありがとうございます!
ほかにも不備があるかもしれません.なにかありましたら教えてください.
今回はついにネットを定義します.そして第0回に出てきた
目標:ネット(有向点族)を定義し,第0回のシグマをネットの観点から理解する
・・・と書きましたが,定義!例!終わり!みたいな流れでやっても面白くないし,それだとそもそもネットのありがたみが伝わらなくて「なんかごちゃごちゃ書いてあるけど結局点列でいいんじゃね?てことー」と ヘライザー総統 みたいに愚痴ってしまうのではと思います.
てことで,はじめに点列の限界とその打開案としてのネットを紹介し,その後に有向集合,ネットを定義し,最後にシグマの伏線回収をします.
点列の限界の時に
順序位相の話
絡みの話をします.なんなら「順序位相の話」の続きのようなことも書きます.この記事の前に「順序位相の話」を確認して頂くと,点列の限界の部分が読めると思いますし,そうなるように書いたつもりです(記号をそろえる,などしました).
ある集合の位相を考えるときに点列から攻めると整合性がとれない位相空間の例を紹介します.
なお,「点列から攻めると整合性がとれない」の意味は,以下の距離空間での点列による開集合の特徴づけが閉集合にも適用できてしまうということです.
反例は
順序位相の話
で書いた順序数の集合
この時点で「順序数の集合
この下に書くことは「距離空間での点列を用いた性質が距離化可能とは限らない一般の位相空間ではネットを用いると成り立つ」例だと思って読んでもらえると良いのかなと思います.
因みに,
順序数の集合
ユークリッド空間での点列による開集合の特徴づけにあたるものとしてsequentially openなるものを考えましたが,
ここまでが「順序位相の話」に書いたことで,「あー確かに点列に限界あるかもねー」となると思います.でもだからといって点列を全否定するのはいかがなものかと.
位相空間をじっくり習うまで我々は点列とそれなりにやってきたわけです.中高では勿論のこと(中には中学入試などでもっと前から数列に親しんできている方もいることでしょう),
ほら,大学初年度の内容だけでもパッと思いつくだけでこんなに我々は点列と過ごしてきたのです.腐れ縁です.
それなのに突然点列の弱点を見つけてからガラッと態度を変えて,しまいには「やーめた」というのは筋が通っていない.点列との関係性を見直して付き合い方を変えるタイミングだと思うと前向きになれる感じがします.
今朝久々に低燃費少女ハイジを見ました.そこでハイジが「低燃費ってなーに?」と甲高い声でいろいろな人に聞くのですがー
低燃費って文字通り燃費が低いことだなあと思いながらそれを見ていたんです.
話を点列に戻します.「点列ってなーに?」と思ったら,まず文字通りに理解.点列とは点の列です.初項はどれで,2項目はどれで,3項目はどれで・・・と点の列ができますが,これは自然数全体から点たちへの写像とも言うことができます.
例えば一般項が
1 | 1 |
2 | |
3 |
点列の本質が写像であるならば,「自然数全体から点たちへの写像」を「自然数全体に限らない集合(有向集合)から点たちへの写像」に
収束にあたっては点列らしさ=
『(ある)点の任意の近傍に対し,ある添え字が存在し,その添え字より「大きい」すべての添え字に対してその添え字を持つ点たちが近傍に入る』
を残しつつ
拡張するのは自然です.そしてこの方法で前述の順序数の集合
を定めると,上の(点列と同様の記号で表すと)
でもなんとなく点列の添え字を自然数全体より(濃度の意味で)「でかく」したらより多くの「収束」を考えられる気がしませんか?それがちゃんとやれる方法があって,それがネットなんだ,という風に思ってもらえればこの記事では大丈夫だと思います.
記事作成中にウエストランドM1優勝の知らせをTwitterで見ました.いいともで頑張っていたのが印象的なコンビが天下を取ったようで(生で見ていない),よかったなあと思いました.これから毒のある漫才が主流になっていくのでしょうか?
さてもう一つ,順序位相の話をします.連続関数の特徴づけです.
距離空間では以下の命題が成り立つのでした:
で,やることは先ほど同様,命題2を点列版「関数が連続である」ことの定義(sequentially continuous)にして,連続だがsequentially continuousでない例を
関数
と定めます.
(
(
なので
ところが,「点列」を「ネット」にしたverでは
写像が連続
この2つ目の話から何がわかるか?
位相空間の授業とかで写像の連続について習った後にいきって
「
とか口走ってしまう人がいるわけですが,それは連続の定義に沿った説明ではないし,それがいえない場合もあるし(上に書いてあります)ダメダメなんですね.
2つ目の話から物事を定義通りにおさえる・条件もきちっとおさえることの大切さが学べるのではないでしょうか.
前節をまとめると,「自然数全体に限らない集合(有向集合)から点たちへの写像」に
収束にあたっては点列らしさ=『(ある)点の任意の近傍に対し,ある添え字が存在し,その添え字より「大きい」すべての添え字に対してその添え字を持つ点たちが近傍に入る』
を残したものを前向きに考えたくて,その答えがネットであるということでした.今のところ,ネットの構成要因には有向集合とネット,そしてネットに対する収束があることが察せると思います.がしかし,点列に部分列があったようにネットにも部分ネットがあってー・・・など,他にもいろいろあります.ここでは
の3つを定めます.
☆
☆
参考文献にあげたIvan Khatchatourianさん,(順序位相のはなしの時もお世話になった)Stijn Vermeerenさんの資料には有向集合の定義に反対称的つまり順序集合であることを求めていなかったが,今回はそれも定義に入れることにした(この記事での有向集合は"strong-有向集合"かもしれない).
理由としては参考文献にあげた「泉本」と内田「集合と位相」での定義に従おうと思ったからだ.自分がちゃんと読もうと思っている2冊に追従しただけで,特に深い意味はない.
がしかし未だに反対称的を認めないべきか否かはもやもやしている.この記事の一番のモチベーションは関数解析でネットを扱う時のマニュアルを作りたいということだが,例えばRonald G. Douglas "Banach Algebra Techniques in Operator Theory"(p.3)やGert K. Pedersen "Analysis Now"(p.13)やGerald B. Folland "Real Analysis"(p.125)では反対称的であることを有向集合に求めていない.
とりあえず今は泉先生を信じて"strong-有向集合"でやってみて,今後支障が出たら融通を利かせることにする.
有向集合の例:
この2つ目だけ確かめてみましょう.
(
(
このとき
(
このとき
(
良さそうですね.
有向集合
有向集合を定義域というか添え字にした写像がネットです.
ネットの例:
を得る.
このとき
が成り立ちます.
第0回では「関数の和の定義」が出てきました:
これに近いものが出てきましたね.伏線回収までもうすぐです.
☆上のネット
つまり,
最後に,ネットからはじめる位相空間論 第0回の伏線回数をします.
Follandの演習問題にこんなものがありました:
を得る.
また(M1王者にあやかって)
このとき
☆このときネット
これを解いて終わりにしましょう.
ネット
まず,
実際,
さて
とあわせて
以上より
そして実はこのときネットの極限は一意的(後々扱う)より
以下,
つまり★の確認のためには
任意の
を確かめればよい.これを以下確かめる.
仮定よりある全単射
各
よって
いかがでしょうか?ここで 第0回の記事 を見てみましょう.少しでも理解がクリアになったら幸いです.また理解がクリアになりすぎて第0回の誤植などを見つけてしまったという場合はコメントで教えてください.
ただ上の証明方法はまだやっていないことを使っているあまりよろしくない証明です.次回それを埋め合わせた版の証明から位相空間との関連,あわよくばBanach空間の話をできればと思っております.
点列の限界からネットの必要性をみて,有向集合・ネットとその収束の定義をし,第0回の伏線回収をやりました.
次回はネットと位相空間との関係,Banach空間(関数解析との関係)をやるつもりです.