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大学数学基礎解説
文献あり

フィボナッチ数列の研究まとめ4

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フィボナッチ数列の研究まとめの続きです. フィボナッチ数列を群論の視点で扱うことで素数で割った余りの周期がわかるという話を書いていきます.

前提知識
  • 数2Bまでの知識
  • 集合, 写像についての記法, 用語が一通りわかる
  • 群論についてある程度(正規部分群, ラグランジュの定理など. 赤雪江2章くらいまで)
  • 線形代数を少し使う

また, 前回の記事 を先に読むことを推奨します.

前回までのまとめ

フィボナッチ数列

数列{Fn}n=F0=0,F1=1,Fn+2=Fn+1+Fn(nZ)で定め, フィボナッチ数列と呼ぶ. この集合に登場する整数をフィボナッチ数と呼ぶ.

加法定理

任意のn,mZに対しFn+m+1=FnFm+Fn+1Fm+1が成立する.

乗法定理

任意のn,mZに対しFn+mFnm=Fn2(1)n+mFm2が成立する.

最近気づいたのですが, 加法定理が沿え字の加法について言及しているのに乗法定理はフィボナッチ数自体の乗法について言及していて一貫性がないですね. まあ添え字の整数倍の計算に便利なのでいいでしょう(適当).

周期関数

正整数nに対して関数l,L:Z>0Z>0を以下のように定める:
l(n)=min{kZ>0Fk0(modn)}
L(n)=min{kZ>0Fk0(modn)Fk+11(modn)}

これらはそれぞれ, フィボナッチ数をnで割った余りを考えたときに何個周期で0が出てくるか, 何個周期で余りが循環するか, ということを表しています( まとめ2 参照).

前前回と前回の主定理のまとめ

任意の正整数nに対してL(n)/l(n)の値は1,2,4のいずれかになる. 特にp2,5以外の素数としたときL(p)/l(p)の値は以下の表で与えられる.
!FORMULA[19][-498813063][0]の値 L(p)/l(p)の値

フィボナッチ数を群論的に捉えたい!

群の定義

pを素数とする.
(Z/pZ)2に以下のような演算を入れると可換モノイド(アーベル群の公理から逆元の存在を除いたもの)になる.
(x,y)(z,w):=(xw+yzxz,xz+yw)

やるだけ

閉じていること, 可換性

自明.

単位元の存在

(0,1)が単位元である.

結合性

((a,b)(c,d))(e,f)=(a,b)((c,d)(e,f))
=((adf+bcf+bde)(bce+ade+acf)+2ace,(bce+ade+acf)ace+bdf)
よりok.

また, 以下の補題よりここから群を構成できます.

Mをモノイドとする. このとき, Mの加逆元全体は群構造を持つ.

結合性, 単位元の存在は明らか.
閉じていることはx,yMが可逆のときxy(y1x1)=eなのでok.
可逆性はxMが可逆のときxx1の逆元なのでok.

p-フィボナッチ群

定義3のモノイドに補題を適用して構成された群をp-フィボナッチ群と呼ぶことにし, Fpと書く.

(0,0)Fpです. (前々回思い付きでGFi(p)とか適当に記号作ってて発狂しそう. あとで別の表記に直します. )

p-フィボナッチ群の性質

さて, 前の章でいきなり非自明な演算を出されていきなり結合性が成り立つことが示されいきなりフィボナッチ数の名を借りて命名され意味が分からないと思うのでこれがフィボナッチ数列とどう関係あるか書きます. 以下Z/pZの元xを単にxと書きます. また, 以下(Z/pZ)2の演算は特に断りのない限りp-フィボナッチ群での演算です.

p-フィボナッチ群の性質1

n,mZに対して
(Fn,Fn+1)(Fm,Fm+1)=(Fn+m,Fn+m+1)
である.

加法定理を使って計算していけば示せる(詳細略).

p-フィボナッチ群の性質2

(Fn,Fn+1)として取り得るもの全体はFpの巡回部分群になる. さらに位数はL(p)である.

命題5より(F1,F2)=(1,1)と一致する. 位数はL(p)の定義より明らか.

p-フィボナッチ群の性質3(位数)

|Fp|={p22p+1p1,4(mod5)p21p2,3(mod5)p2pp=5
である.

|(Z/pZ)2|=p2なのでこの中で非可逆元の個数を数え上げればよい.
(0,1)=(x,y)(z,w):=(xw+yzxz,xz+yw)において(x,y)を固定し逆元の存在を考える.
(yxxxy)(zy)=(01)
となり
|yxxxy|=y2xyx2であるので, これがZ/pZ0になることと逆元を持たないことは同値である(Z/pZが体になることから実数のように行列演算ができる). p5でない奇素数のとき, x0を固定すると
y=x2(1±5)となることから, p1,4(mod5)のとき2つずつ非可逆元が存在し, p2,3(mod5)のときは存在せず, p=5のときは1つずつ非可逆元が存在する(感覚的な書き方をしているが厳密には平方完成して平方剰余を考えればok). x=0のときはいずれの場合もy=0のみ逆元を持たない. さらに, p=2のときも逆元は持たないことを併せて主張は示された.

これらの話からなんとなく周期を考えられそうなことが分かると思います.
また, 実はp2,3(mod5)のときは(0,0)を加えて成分ごとの加法を入れると体になり, x(0,x)を同一視することによってZ/pZ代数と見ることができます. この演算は成分ごとに(Z/pZ)×の元倍していることと同じ演算になっています.

周期を考える

以下p5でない素数とします.

GFiの再命名

前々回のGFi(p), すなわちZ/pZ上のフィボナッチ数列における0の後に登場しうる元に群構造を入れたものをEpと書くことにする.

任意のx,y(Z/pZ)×についてx(1,1)y(1,1)が共通の元を持つときそれらは一致し, かつxEp=yEpが必要十分である.

概略

一致することは一般の群の剰余類の議論よりok.
十分性はうまく整数kをとり((1,1)l(p))kを掛けることで示される.
必要性は第一成分が0の元であるという性質は(0,x)をかける操作によって保たれることからわかる.

(Z/pZ)×(1,1)Fpの部分群であり, これをHpとおく.

一般にH1,H2をアーベル群Gの部分群としたときH1H2Gの部分群になるのでよい.

p=13でのイメージ図です.

!FORMULA[105][-286450272][0]のイメージ F13のイメージ

周期の性質

p1,4(mod5)のときl(p)|p1,L(p)|p1
p2,3(mod5)のときl(p)|p+1,L(p)|2(p+1)

p1,4(mod5)のとき

今回の内容でもp2,3(mod5)のときのようにできる. が, この場合は前回の命題10みたいにZ/pZϕをとって
Fn=15(ϕn(1)nϕn)
として, Fermatの小定理からFp1=0,Fp=1とすることもできる.

p2,3(mod5)のとき

|Hp|=L(p)|(Z/pZ)×/Ep|=(p1)l(p)である. HpFpとラグランジュの定理, 命題7より |Hp|p21の約数, 従ってl(p)p+1の約数. また, まとめ2の主定理よりL(p)/l(p)=1,2,4となる. L(p)/l(p)=4のとき前回の補題7よりl(p)は奇数, 特にl(p)|(p+1)/2であるので, いずれにしてもL(p)|2(p+1)である.

おわりに

群論の視点で考えると周期が分かるというお話でした!急いで書いたのでミスがあったら教えてください. あとp2,3(mod5)のときに標数p位数p2の有限体になることからもう少し色々言えそうな気もしています. 今後の課題です.
フィボナッチ数の研究まとめもあと3回くらいでひと段落すると思います. 最後まで読んでいただきありがとうございます!次回はもう少し競技数学っぽい視点で書こうと思っています.

参考文献

[1]
雪江明彦, 代数学1 群論入門
投稿日:20221219
更新日:2023111
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  1. 前回までのまとめ
  2. フィボナッチ数を群論的に捉えたい!
  3. 群の定義
  4. p-フィボナッチ群の性質
  5. 周期を考える
  6. おわりに
  7. 参考文献