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大学数学基礎解説
文献あり

楕円関数の変換の代数的な解とモジュラー方程式

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事は 前回の記事 に続いて楕円関数の変換について考察していきます。
 前回の記事ではこのような問題を考えたのでした。

楕円関数の変換

 微分方程式
$$\frac{dy}{\sqrt{(1-y^2)(1-l^2y^2)}}=\frac{dx}{M\sqrt{(1-x^2)(1-k^2x^2)}}\quad(Mは定数)$$
を満たすような有理関数
$$y=\frac{U(x)}{V(x)}\quad(\max\{\deg U,\deg V\}=p)$$
を考える問題を$p$次の楕円関数の変換と呼ぶ。またこの定数$M$のことを乗法子(Multiplier)と言う。

 今回は前回の結果を利用してこれを代数的に解いていくことを考えます。

楕円関数の変換の求め方

 さて前回楕円関数の変換を解析的に解いたとき、明に暗に次のような仮定をしていたのでした。
$y(0)=0,\;y(1)=1$
$$y\l(\frac1{kx}\r)=\l\{\begin{array}{lc}1/ly(x)&p:奇数\\y(x)&p:偶数\end{array}\r.$$
そして
$p$が奇数のとき$\deg U=p\phantom{{}-1},\;\deg V=p-1$
$p$が偶数のとき$\deg U=p-1,\;\deg V=p$
ということもわかっています。
 このことから楕円関数の変換を求めることができます。

$p$が奇数のとき

 まず$y(\pm1)=\pm1,y(1/kx)=1/ly(x)$から
$1-y=(1-x)A/V,\quad1-ly=(1-kx)C/V$
$1+y=(1+x)B/V,\quad1+ly=(1+kx)D/V$
なる多項式$A,B,C,D$があることがわかります。
 このとき
$$\frac{dy}{\sqrt{(1-y^2)(1-l^2y^2)}} =\frac{dx}{\sqrt{(1-x^2)(1-k^2x^2)}}\frac{U'V-UV'}{\sqrt{ABCD}}$$
が成り立つので
$$\frac{U'V-UV'}{\sqrt{ABCD}}=\frac1M$$
特に$ABCD$はある多項式の二乗とならなければなりません。
 また$A,B,C,D$のいずれか二つ、例えば$A,B$が共通因子$f(x)$を持ったとすると
$$y=\frac{(1+y)-(1-y)}2=\frac UV$$
$$1=\frac{(1+y)+(1-y)}2=\frac{(1-x)A+(1+x)B}V$$
より$U,V$$f(x)$を因数に持つことになり、$U,V$は互いに素であったことに矛盾します。
 よって$A,B,C,D$は互いに素であり、それぞれがある多項式の二乗として表せることになります。したがって
$1-y=(1-x)A^2/V,\quad1-ly=(1-kx)C^2/V$
$1+y=(1+x)B^2/V,\quad1+ly=(1+kx)D^2/V$
とおき直します。

 いま$A$の奇数項と偶数項を分けて
$A=P-xQ\quad$($P,Q$$x^2$についての多項式)
とおくと$B(x)=A(-x)$より
$B=P+xQ$
が成り立ちます。よって$A,B$の定義式の商を取ることで
$$\frac{1-y}{1+y}=\frac{1-x}{1+x}\l(\frac{P-xQ}{P+xQ}\r)^2\quad(=:R)$$
という式が得られ、これを$y$について解くことで
$$y=\frac{1-R}{1+R}=x\frac{P^2+2\phantom{x^2}PQ+x^2Q^2}{P^2+2x^2PQ+x^2Q^2}$$
つまり
\begin{eqnarray} U&=&x(P^2+2PQ+x^2Q^2) \\V&=&P^2+2x^2PQ+x^2Q^2 \end{eqnarray}
がわかります。

 ここで
$$y\l(\frac1{kx}\r)=\frac{(kx)^pU(1/kx)}{(kx)^pV(1/kx)}=\frac{V(x)}{lU(x)}=\frac1{ly}$$
よりある定数$a$があって
$$(kx)^pU(1/kx)=aV(x),\;(kx)^pV(1/kx)=alU(x)$$
が成り立ち、この式を再び$x\mapsto1/kx$とすることで
$$\frac1{x^p}U(x)=aV(1/kx)=\frac{a^2l}{(kx)^p}U(x)$$
つまり
$$a=\sqrt{\frac{k^p}{l}}$$
がわかります。

 以上より得られた関係式
\begin{eqnarray} U&=&x(P^2+2PQ+x^2Q^2) \\V&=&P^2+2x^2PQ+x^2Q^2 \\(kx)^{p-1}V\l(\frac1{kx}\r)&=&\frac{al}k\frac{U(x)}x=\sqrt{\frac lk}k^{\frac{p-1}2}\frac{U(x)}x \end{eqnarray}
$P,Q$の係数と$l$についての方程式
$$(P^2+2x^2PQ+x^2Q^2)^*=\sqrt{\frac lk}k^{\frac{p-1}2}(P^2+2PQ+x^2Q^2)$$
として解くことで$p$次の変換が得られることになります。ただし多項式$f$に対し
$$f^*(x)=(kx)^df(1/kx)\quad(d=\deg f)$$
と定めるものとしました。
 実際$\deg A=(p-1)/2$に注意すると、$P(0)=1$とすることで$A=P-xQ$の係数の不定元は$(p-1)/2$個、$l$と合わせて$(p+1)/2$個であり、方程式
$$(P^2+2x^2PQ+x^2Q^2)^*=\sqrt{\frac lk}k^{\frac{p-1}2}(P^2+2PQ+x^2Q^2)$$
の両辺は奇数項を持たない$p-1$次多項式なので方程式の本数は$(p+1)/2$本となり不定元と方程式の本数が一致することがわかります。
 また$Q(0)=\a$とおくと
$$\frac{dy}{dx}(0)=\frac1M=1+2\a$$
より
$$M=\frac1{1+2\a}$$
と計算できます。

 まとめると以下のようになります。

 $\max\{\deg P,\deg Q+1\}=(p-1)/2$次となるような$x^2$についての多項式$P,Q$をその係数と$l$についての方程式
$$(P^2+2x^2PQ+x^2Q^2)^*=\sqrt{\frac lk}k^{\frac{p-1}2}(P^2+2PQ+x^2Q^2)$$
によって定めると$p$次の変換
$$y=x\frac{P^2+2\phantom{x^2}PQ+x^2Q^2}{P^2+2x^2PQ+x^2Q^2}$$
が得られる。また$P(0)=1,Q(0)=\a$とおくと
$$M=\frac1{1+2\a}$$
が成り立つ。

$p$が偶数のとき

 $p$が奇数のときと同様にして$y(\pm1)=\pm1,y(1/kx)=y(x)$より
$1-y=(1-x)(1-kx)A^2/V,\quad1-ly=C^2/V$
$1+y=(1+x)(1+kx)B^2/V,\quad1+ly=D^2/V$
が成り立つので
$A=P-xQ,\;B=P+xQ$
とおくと
$$\frac{1-y}{1+y}=\frac{1-x}{1+x}\frac{1-kx}{1+kx}\l(\frac{P-xQ}{P+xQ}\r)^2$$
が得られます。これを$y$について解くことで
$$y=x\frac{(1+k\phantom{x^2})(P^2+x^2Q^2)+2(1+kx^2)PQ}{(1+kx^2)(P^2+x^2Q^2)+2(1+k\phantom{x^2})PQ}$$
つまり
\begin{eqnarray} U&=&x((1+k)(P^2+x^2Q^2)+2(1+kx^2)PQ) \\V&=&(1+kx^2)(P^2+x^2Q^2)+2(1+k)PQ \end{eqnarray}
となるので$P,Q$の係数についての方程式
$$(kx)^pU(1/kx)=k^{\frac p2}U(x),\;(kx)^pV(1/kx)=k^{\frac p2}V(x)$$
つまり
\begin{eqnarray} ((1+k)(P^2+x^2Q^2)+2(1+kx^2)PQ)^*&=&k^{\frac p2-1}((1+k)(P^2+x^2Q^2)+2(1+kx^2)PQ) \\((1+kx^2)(P^2+x^2Q^2)+2(1+k)PQ)^*&=&k^{\frac p2}(1+kx^2)(P^2+x^2Q^2)+2(1+k)PQ \end{eqnarray}
を解くことで$p$次の変換が得られます。
 ただ、考えなければいけない方程式が$p$が奇数のときの変換に比べて煩雑なので$p=2^rp'$と因数分解して$p'$次の変換$y_{p'}$$2$次の変換
$$f_2(x,k)=\frac{(1+k)x}{1+kx^2}$$
を合成したほうが早いと思います。

具体例

$3$次の変換

 $P,Q$の次数に注意して$P=1,Q=\a$とおくと
\begin{eqnarray} &&(P^2+2x^2PQ+x^2Q^2)^*&=&k^2x^2+2\a+\a^2 \\&=&\sqrt{\frac lk}k(P^2+2PQ+x^2Q^2)&=&\sqrt{\frac lk}k(1+2\a+\a^2x^2) \end{eqnarray}
つまり
\begin{eqnarray} k^2&=&\sqrt{\frac lk}k\a^2 \\2\a+\a^2&=&\sqrt{\frac lk}k(1+2\a) \end{eqnarray}
を解いていくことになります。
 この比を取ることで
$$k^2=\frac{\a^3(2+\a)}{2\a+1}$$
がわかり、また第一式から
$$l^2=\frac{k^6}{\a^8}=\frac{\a(2+\a)^3}{(2\a+1)^3}$$
もわかので
\begin{eqnarray} k'^2&=&1-k^2=\frac{(1-\a)(1+\a)^3}{2\a+1} \\l'^2&=&1-l^2=\frac{(1+\a)(1-\a)^3}{(2\a+1)^3} \end{eqnarray}
と合わせて
$$\sqrt{kl}+\sqrt{k'l'} =\frac{\a(2+\a)}{2\a+1}+\frac{(1+\a)(1-\a)}{2\a+1}=1$$
が得られます。この$k,l$についての関係式
$$\sqrt{kl}+\sqrt{k'l'}=1\quad(\mathrm{Legendre})$$
$3$次モジュラー方程式といいます。
 またこれを満たす$l$に対し$u=\sqrt[4]k,v=\sqrt[4]l$とおくと
$$\a=\sqrt[4]{\frac{k^3}l}=\frac{u^3}v,\;M=\frac1{1+2\a}=\frac v{v+2u^3}$$
$3$次の変換が求まります。

$5$次の変換

 $P=1+\b x^2,Q=\a$とおいて
$$k^4x^4+(\a^2+2\a+2\b)k^2x^2+2\a\b+\b^2 =\sqrt{\frac lk}k^2(1+2\a+(\a^2+2\a\b+2\b)x^2+\b^2x^4)$$
つまり
\begin{eqnarray} k^4&=&\sqrt{\frac lk}k^2\b^2 \\k^2(\a^2+2\a+2\b)&=&\sqrt{\frac lk}k^2(\a^2+2\a\b+2\b) \\2\a\b+\b^2&=&\sqrt{\frac lk}k^2(1+2\a) \end{eqnarray}
を解きます。
 $u=\sqrt[4]k,v=\sqrt[4]l$とおくと第一式から
$$\b=\frac{u^5}{v}$$
第三式から
$$2\a\frac{u^5}v+\frac{u^{10}}{v^2}=u^6v^2(1+2\a) \quad\therefore \a=\frac{u(v^4-u^4)}{2v(1-uv^3)}$$
そして第二式を頑張って整理することで
$$u^6-v^6+5u^2v^2(u^2-v^2)+4uv(1-u^4v^4)=0$$
が得られます(多分)。この関係式も$5$次モジュラー方程式と言います。
 このとき
$$M=\frac1{1+2\a}=\frac{v(1-uv^3)}{v-u^5}$$
$5$次の変換が求まります。

$7$次の変換

 $P=1+\b x^2,Q=\a+\g x^2$とおいて
\begin{eqnarray} k^6&=&\sqrt{\frac lk}k^3\g^2 \\k^4(\a^2+2\a+2\b)&=&\sqrt{\frac lk}k^3(\b^2+2\a\g+2\b\g) \\k^2(\b^2+2\a\b+2\a\g+2\g)&=&\sqrt{\frac lk}k^3(\a^2+2\a\b+2\b+2\g) \\\g^2+2\b\g&=&\sqrt{\frac lk}k^3(1+2\a) \end{eqnarray}
を解きます。...やっぱめんどくさいのでやめときます。
 真面目に計算すれば$7$次モジュラー方程式
$$\sqrt[4]{kl}+\sqrt[4]{k'l'}=1\quad(\mathrm{Guetzlaff})$$
あたりが得られるんじゃないかと思います。

おわりに

 はい。
 本当は楕円関数の変換を代数的に考察することで $u-v$形式のモジュラー方程式 が導出できる!という話になるつもりでした。確かに手計算を考えると$u(\tau)$$q$-展開を比較したり$u(\tau)$の特殊値から線形方程式を解いたりするより現実的な計算で導出はできますが、それでも面倒なものは面倒なようです。
 まあ今回はこんなところで。
 では。

参考文献

[1]
Jacobi, 高瀬正仁 訳, ヤコビ楕円関数原論, 講談社, 2012
[2]
A. G. Greenhill, The applications of elliptic functions, Dover, New York, 1959, pp. 305-328
[3]
J. M. Borwein, P. B. Borwein, Pi and the AGM: A Study in Analytic Number Theory and Computational Complexity, Wiley-Interscience, 1987, pp. 102-106
投稿日:20221224

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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