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大学数学基礎解説
文献あり

楕円関数の変換の代数的な解とモジュラー方程式

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はじめに

 この記事は 前回の記事 に続いて楕円関数の変換について考察していきます。
 前回の記事ではこのような問題を考えたのでした。

楕円関数の変換

 微分方程式
dy(1y2)(1l2y2)=dxM(1x2)(1k2x2)(M)
を満たすような有理関数
y=U(x)V(x)(max{degU,degV}=p)
を考える問題をp次の楕円関数の変換と呼ぶ。またこの定数Mのことを乗法子(Multiplier)と言う。

 今回は前回の結果を利用してこれを代数的に解いていくことを考えます。

楕円関数の変換の求め方

 さて前回楕円関数の変換を解析的に解いたとき、明に暗に次のような仮定をしていたのでした。
y(0)=0,y(1)=1
y(1kx)={1/ly(x)p:y(x)p:
そして
pが奇数のときdegU=p1,degV=p1
pが偶数のときdegU=p1,degV=p
ということもわかっています。
 このことから楕円関数の変換を求めることができます。

pが奇数のとき

 まずy(±1)=±1,y(1/kx)=1/ly(x)から
1y=(1x)A/V,1ly=(1kx)C/V
1+y=(1+x)B/V,1+ly=(1+kx)D/V
なる多項式A,B,C,Dがあることがわかります。
 このとき
dy(1y2)(1l2y2)=dx(1x2)(1k2x2)UVUVABCD
が成り立つので
UVUVABCD=1M
特にABCDはある多項式の二乗とならなければなりません。
 またA,B,C,Dのいずれか二つ、例えばA,Bが共通因子f(x)を持ったとすると
y=(1+y)(1y)2=UV
1=(1+y)+(1y)2=(1x)A+(1+x)BV
よりU,Vf(x)を因数に持つことになり、U,Vは互いに素であったことに矛盾します。
 よってA,B,C,Dは互いに素であり、それぞれがある多項式の二乗として表せることになります。したがって
1y=(1x)A2/V,1ly=(1kx)C2/V
1+y=(1+x)B2/V,1+ly=(1+kx)D2/V
とおき直します。

 いまAの奇数項と偶数項を分けて
A=PxQ(P,Qx2についての多項式)
とおくとB(x)=A(x)より
B=P+xQ
が成り立ちます。よってA,Bの定義式の商を取ることで
1y1+y=1x1+x(PxQP+xQ)2(=:R)
という式が得られ、これをyについて解くことで
y=1R1+R=xP2+2x2PQ+x2Q2P2+2x2PQ+x2Q2
つまり
U=x(P2+2PQ+x2Q2)V=P2+2x2PQ+x2Q2
がわかります。

 ここで
y(1kx)=(kx)pU(1/kx)(kx)pV(1/kx)=V(x)lU(x)=1ly
よりある定数aがあって
(kx)pU(1/kx)=aV(x),(kx)pV(1/kx)=alU(x)
が成り立ち、この式を再びx1/kxとすることで
1xpU(x)=aV(1/kx)=a2l(kx)pU(x)
つまり
a=kpl
がわかります。

 以上より得られた関係式
U=x(P2+2PQ+x2Q2)V=P2+2x2PQ+x2Q2(kx)p1V(1kx)=alkU(x)x=lkkp12U(x)x
P,Qの係数とlについての方程式
(P2+2x2PQ+x2Q2)=lkkp12(P2+2PQ+x2Q2)
として解くことでp次の変換が得られることになります。ただし多項式fに対し
f(x)=(kx)df(1/kx)(d=degf)
と定めるものとしました。
 実際degA=(p1)/2に注意すると、P(0)=1とすることでA=PxQの係数の不定元は(p1)/2個、lと合わせて(p+1)/2個であり、方程式
(P2+2x2PQ+x2Q2)=lkkp12(P2+2PQ+x2Q2)
の両辺は奇数項を持たないp1次多項式なので方程式の本数は(p+1)/2本となり不定元と方程式の本数が一致することがわかります。
 またQ(0)=αとおくと
dydx(0)=1M=1+2α
より
M=11+2α
と計算できます。

 まとめると以下のようになります。

 max{degP,degQ+1}=(p1)/2次となるようなx2についての多項式P,Qをその係数とlについての方程式
(P2+2x2PQ+x2Q2)=lkkp12(P2+2PQ+x2Q2)
によって定めるとp次の変換
y=xP2+2x2PQ+x2Q2P2+2x2PQ+x2Q2
が得られる。またP(0)=1,Q(0)=αとおくと
M=11+2α
が成り立つ。

pが偶数のとき

 pが奇数のときと同様にしてy(±1)=±1,y(1/kx)=y(x)より
1y=(1x)(1kx)A2/V,1ly=C2/V
1+y=(1+x)(1+kx)B2/V,1+ly=D2/V
が成り立つので
A=PxQ,B=P+xQ
とおくと
1y1+y=1x1+x1kx1+kx(PxQP+xQ)2
が得られます。これをyについて解くことで
y=x(1+kx2)(P2+x2Q2)+2(1+kx2)PQ(1+kx2)(P2+x2Q2)+2(1+kx2)PQ
つまり
U=x((1+k)(P2+x2Q2)+2(1+kx2)PQ)V=(1+kx2)(P2+x2Q2)+2(1+k)PQ
となるのでP,Qの係数についての方程式
(kx)pU(1/kx)=kp2U(x),(kx)pV(1/kx)=kp2V(x)
つまり
((1+k)(P2+x2Q2)+2(1+kx2)PQ)=kp21((1+k)(P2+x2Q2)+2(1+kx2)PQ)((1+kx2)(P2+x2Q2)+2(1+k)PQ)=kp2(1+kx2)(P2+x2Q2)+2(1+k)PQ
を解くことでp次の変換が得られます。
 ただ、考えなければいけない方程式がpが奇数のときの変換に比べて煩雑なのでp=2rpと因数分解してp次の変換yp2次の変換
f2(x,k)=(1+k)x1+kx2
を合成したほうが早いと思います。

具体例

3次の変換

 P,Qの次数に注意してP=1,Q=αとおくと
(P2+2x2PQ+x2Q2)=k2x2+2α+α2=lkk(P2+2PQ+x2Q2)=lkk(1+2α+α2x2)
つまり
k2=lkkα22α+α2=lkk(1+2α)
を解いていくことになります。
 この比を取ることで
k2=α3(2+α)2α+1
がわかり、また第一式から
l2=k6α8=α(2+α)3(2α+1)3
もわかので
k2=1k2=(1α)(1+α)32α+1l2=1l2=(1+α)(1α)3(2α+1)3
と合わせて
kl+kl=α(2+α)2α+1+(1+α)(1α)2α+1=1
が得られます。このk,lについての関係式
kl+kl=1(Legendre)
3次モジュラー方程式といいます。
 またこれを満たすlに対しu=k4,v=l4とおくと
α=k3l4=u3v,M=11+2α=vv+2u3
3次の変換が求まります。

5次の変換

 P=1+βx2,Q=αとおいて
k4x4+(α2+2α+2β)k2x2+2αβ+β2=lkk2(1+2α+(α2+2αβ+2β)x2+β2x4)
つまり
k4=lkk2β2k2(α2+2α+2β)=lkk2(α2+2αβ+2β)2αβ+β2=lkk2(1+2α)
を解きます。
 u=k4,v=l4とおくと第一式から
β=u5v
第三式から
2αu5v+u10v2=u6v2(1+2α)α=u(v4u4)2v(1uv3)
そして第二式を頑張って整理することで
u6v6+5u2v2(u2v2)+4uv(1u4v4)=0
が得られます(多分)。この関係式も5次モジュラー方程式と言います。
 このとき
M=11+2α=v(1uv3)vu5
5次の変換が求まります。

7次の変換

 P=1+βx2,Q=α+γx2とおいて
k6=lkk3γ2k4(α2+2α+2β)=lkk3(β2+2αγ+2βγ)k2(β2+2αβ+2αγ+2γ)=lkk3(α2+2αβ+2β+2γ)γ2+2βγ=lkk3(1+2α)
を解きます。...やっぱめんどくさいのでやめときます。
 真面目に計算すれば7次モジュラー方程式
kl4+kl4=1(Guetzlaff)
あたりが得られるんじゃないかと思います。

おわりに

 はい。
 本当は楕円関数の変換を代数的に考察することで uv形式のモジュラー方程式 が導出できる!という話になるつもりでした。確かに手計算を考えるとu(τ)q-展開を比較したりu(τ)の特殊値から線形方程式を解いたりするより現実的な計算で導出はできますが、それでも面倒なものは面倒なようです。
 まあ今回はこんなところで。
 では。

参考文献

[1]
Jacobi, 高瀬正仁 訳, ヤコビ楕円関数原論, 講談社, 2012
[2]
A. G. Greenhill, The applications of elliptic functions, Dover, New York, 1959, pp. 305-328
[3]
J. M. Borwein, P. B. Borwein, Pi and the AGM: A Study in Analytic Number Theory and Computational Complexity, Wiley-Interscience, 1987, pp. 102-106
投稿日:20221224
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. 楕円関数の変換の求め方
  3. pが奇数のとき
  4. pが偶数のとき
  5. 具体例
  6. 3次の変換
  7. 5次の変換
  8. 7次の変換
  9. おわりに
  10. 参考文献