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ガロア理論⑩ 分解体の存在

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はじめに

前回までは,あらかじめ与えられた拡大体の中で議論をしてきました。では,その「与えられる」拡大体がよい性質をもっていたら嬉しいと思いませんか。思いますよね。
今回は,そのような拡大体が存在することを証明します。

目次

1.分解体の存在
2.最小分解体

分解体の存在

Kを体とする。K上の多項式fの根がすべてKのある拡大体L内にあるとき,Lf分解体という。

定義は,次のようにも言い換えられる。すなわち,Lf分解体であるとは,fL上で1次式の積に分解できることである。


分解体の存在

Kを任意の体とする。K上の1次以上の任意の多項式f分解体をもつ。すなわち,fはあるL/Kの中にすべての根をもつ。

証明の流れを先に述べておこう。
Kと同型な体Kとその拡大体Mをうまく用意し,Mの部分集合KKに置き換えた集合Nを考える。このとき,実は適当な演算によりNKの拡大体となることが示される。

分解体の存在

多項式の次数n1による数学的帰納法により示す。
n=1のときは明らかである。

n2として,1deggn1であるような任意の体K上の任意の多項式gが分解体をもつとする。

fK[x]を次数nの多項式とし,f=f1f2frfK上の既約分解とする。このとき,f1K上既約であるからK[x]/(f1)は体1である。ゆえに自然な準同型φ:KK[x]/(f1)2が存在し,M=K[x]/(f1),K=Imφとおくと,KK3

ここで,Mの部分集合KKに置き換えた集合N(=(MK)K)は以下で定義する演算によりKの拡大体となる:

演算の定義

ψ:NMK上ではφに一致し,NK上では恒等写像に一致する写像として定める。すなわち,
ψ(a)={φ(a)K(aK)aMK(aNK)
a,bNに対し

  • a+b=b+a:=ψ1(ψ(a)+ψ(b))
  • ab=ba:=ψ1(ψ(a)ψ(b))
    として和と積を定める(この演算はwell-definedかつ,この演算に関してNKの拡大体である。それを示すことは難しくない)。
ψを介すことで一旦M/Kの世界で演算をし,その結果をNの世界に引き戻していると考えられる。
注意

上の定義式は,a,bKに対しては恒等式である。つまり,上の演算を導入してもKの代数的構造は変わらない。このことから,いま,Kの構造を保ったままその拡大体Nがつくられたことになる。

次に,xNf1の根であることを示そう。f1(x)=c0+c1x++cnxnとする。Mの定義からf1(x)=0Kであることに注意すると,
f1(x)=c0+c1x++cnxn
=c0+c1x++cnxn
=c0+ψ1(ψ(c1)ψ(x))++ψ1(ψ(cn)ψ(xn))
=c0+c1x++cnxn
=ψ1(ψ(c0)+ψ(c1x)++ψ(cnxn))
=ψ1(c0+c1x++cnxn)
=ψ1(c0+c1x++cnxn)
=ψ1(f1(x))
=ψ1(0)
=0

ゆえにx=αとおくと,f1(x)=(xα)g1(x)(g1N[x])
よってf(x)=(xα)g1(x)f2(x)fr(x)とかける。h=g1f2frN[x]であり,1deghn1であるから,帰納法の仮定よりhの分解体L/Nが存在する。
したがって,fはこのL上にすべての根をもつ。▢

1 ガロア理論③ 命題2系を参照せよ。

2φ:aa である。

3:体の全射準同型は同型写像である。 ガロア理論① を参照せよ。

体の埋め込み

実は,いまの議論は次のように簡略化できる。

実際KKであるからKMの部分体K同一視できる(とくに,aKaKを同じものとして扱う)。
f1(x)=c0+c1x++cnxnとすると,
f1(x)=c0+c1x++cnxn
=c0+c1x++cnxn
=c0+c1x++cnxn
=f1(x)
=0
xMf1の根である。よってf1xMを根にもつ。

このように,準同型を介してMKの拡大体とみなすといった議論がしばしばある( ガロア理論① 体の埋め込み)。実は,先ほどの議論はこの同一視を正当化するために行ったものである(適当な演算のもとでMNだから,M/Kと考えてよい[1])。

今後,議論を簡略化して体を埋め込むことがある。その場合,背景に先ほどの手続きがあることを暗に仮定している。

最後にある特別な分解体を定義しておこう。

最小分解体

最小分解体

Kを体とし,fK[x]とする。fの分解体のうち,拡大次数が最小の体をf最小分解体という。

  • [x]/((x2+1))上多項式x2+1の最小分解体である。
  • L/Kとする。fKLの中にすべての根をもつとき(すなわちLfK[x]の分解体であるとき),その根をα1,α2,,αnとすると,K(α1,α2,,αn)fの最小分解体である。

1つ目の例について,たとえば
(a+bx)(c+dx)=(a+bx)(c+dx)=acbd+(ad+bc)x
この結果は
(a+bi)(c+di)=acbd+(ad+bc)i
に対応している。


次回は,体の同型の性質を扱います。ここから,最小分解体の一意性も示されます。



[1]: 同型写像ψ:NMによって移り合う元同士を同一視することでM/Kと見なすわけだが,もしψが非自明な写像なら,これは困難である。この場合ψK上でφに一致し,NK上で恒等写像になるから,M/Kに自然に演算が入るのである。
投稿日:2023323
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Qualtagh
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数学徒 じゅけんせいのすがた 扱う分野:位相空間論 群論 環論 体論 位相幾何

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