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大学数学基礎解説
文献あり

積空間の(パラ)コンパクト性について

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はじめに

位相空間X,Yに対して直積X×Yが定まります.このときXYの位相的性質を直積も持つかどうかは興味ある問題です.この記事では(パラ)コンパクト性を取り上げて,この問題に簡単に触れてみます.

まず,パラコンパクトの定義を復習しておきます.

Xを位相空間とし,A,BP(X)をその部分集合族とする.

  • 任意のxXに対してxの開近傍UXであって
    {AA | UA}
    が有限集合となるものが存在するとき,A局所有限であるという.
  • 任意のAAに対してBBであってABとなるものが存在するとき,AB細分するという.

Xを位相空間とする.Xの任意の開被覆が局所有限な開被覆によって細分されるときXパラコンパクト空間という.

たとえばコンパクト空間はパラコンパクトです.(有限部分被覆は局所有限な細分なので.)

ふたつのパラコンパクト空間の直積はパラコンパクト空間になるとは限らないことが知られています.ところが,一方がコンパクトならば直積はパラコンパクトになります.このことを証明するのが今回の目標です.

今回の目標

Xを位相空間とし,Yをコンパクト空間とする.
(1) Xがコンパクトならば,X×Yもコンパクトである;
(2) Xがパラコンパクトならば,X×Yもパラコンパクトである.

証明の際に鍵になるのは,射影p:X×YXが閉写像になるという事実です.そこでまずは閉写像の性質について見ていくことにします.

閉写像について

準備

f:XYを写像とし,AX,BYとする.このとき
f(Af1(B))=f(A)B
が成り立つ.

(左辺)(右辺)と(左辺)(右辺)をそれぞれ確かめればよい.

f:XYを写像とする.Xの部分集合Aに対して,Yの部分集合f#(A)
f#(A)=Yf(XA)
で定める.

f:XYを写像とし,AX,BYとする.このときf1(B)Aなるための必要十分条件はBf#(A)なることである.

補題2より
f1(B)Af1(B)(XA)=Bf(XA)=Bf#(A)
が成り立つ.

閉写像の特徴づけ

f:XYを写像とする.Xの任意の閉集合Aに対してf(A)Yが閉集合となるとき,f閉写像という.

次の命題が成り立つことは明らかでしょう.

f:XYを写像とする.このとき次は同値である.
(1) fは閉写像である;
(2) Xの任意の開集合Uに対してf#(U)Yは開集合である.

補題3,命題4を用いて次が証明できます.

f:XYを写像とする.このとき次は同値である.
(1) fは閉写像である;
(2) Yの任意の点yf1(y)の任意の開近傍UXに対して,yの開近傍VYであってf1(V)Uとなるものが存在する.

(1)(2). yYとし,UXf1(y)の開近傍とする.f1(y)Uよりyf#(U)となる.いまfは閉写像なのでV:=f#(U)Yyの開近傍でありf1(V)Uが成り立つ.

(2)(1). UXを開集合とする.f#(U)Yが開集合であることを示せばよい.そこでyf#(U)とする.このときf1(y)Uとなるので,仮定よりyの開近傍VYであってf1(V)U,すなわちVf#(U)となるものが存在する.

Tube Lemma

Tube Lemma

Xを位相空間,Yをコンパクト空間とする.このときXの任意の点x{x}×Yの任意の開近傍WX×Yに対して,xの開近傍UXであってU×YWとなるものが存在する.

[2, 補題1] A={x},B=Yとして適用すればよい.

Tube Lemma の主張を命題5と見比べると,次が成り立つことがわかります.

Tube Lemma の言い換え

Xを位相空間,Yをコンパクト空間とする.このとき射影p:X×YXは閉写像である.

定理の証明

今回の目標を再掲します.

再掲

Xを位相空間とし,Yをコンパクト空間とする.
(1) Xがコンパクトならば,X×Yもコンパクトである;
(2) Xがパラコンパクトならば,X×Yもパラコンパクトである.

W={Wλ | λΛ}X×Yの開被覆とする.
xXに対して,Wはコンパクト集合p1(x)の開被覆であるから,有限部分集合ΛxΛであってp1(x)λΛxWλとなるものが存在する.
このとき,Tube Lemma より,xの開近傍UxXであってp1(Ux)λΛxWλとなるものが存在する.
こうしてXの開被覆U={Ux | xX}を得る.
(1) いまXはコンパクトなので,有限個の点x1,,xnXであってX=Ux1Uxnとなるものが存在する.このとき{Wλ | λΛx1Λxn}Wの有限部分被覆である.
(2) いまXはパラコンパクトなので,Xの局所有限な開被覆U={Ux | xX}であって任意のxXに対してUxUxとなるものが存在する(後述).このときW={p1(Ux)Wλ | xX,λΛx}X×Yの局所有限な開被覆であってWを細分することを示す.
(2-1) WWの細分であることは明らか.
(2-2) (x,y)X×Yとする.UXの被覆であるから,xXであってxUxとなるものが存在する.このとき(x,y)p1(Ux)p1(Ux)λΛxWλとなるから,λΛxであって(x,y)Wλとなるものが存在する.したがって(x,y)p1(Ux)WλWとなる.よってWX×Yの開被覆である.
(2-3) (x,y)X×Yとする.Uの局所有限性より,xの開近傍VXであって{xX | VUx}が有限集合となるものが存在する.このとき(x,y)の開近傍p1(V)X×Yを考えると,任意の(x,λ){{x}×Λx | xX}=:Mに対して
p1(V)(p1(Ux)Wλ)VUx
が成り立つことから,有限集合{(x,λ)M | x{xX | VUx}}の部分集合として{(x,λ)M | p1(V)(p1(Ux)Wλ)}は有限集合となることがわかる.よってWは局所有限である.

補遺:局所有限な1:1細分の存在

Xを位相空間,U={Uλ | λΛ}をその開被覆とする.
このとき,Uが局所有限な開被覆V={Vμ | μM}によって細分されるならば,局所有限な開被覆U={Uλ | λΛ}であってUλUλ (λΛ)となるものが存在する.

仮定より写像r:MΛであって,任意のμMに対してVμUr(μ)となるものが存在する.各λΛに対して,Xの開集合Uλ
Uλ={Vμ | μr1(λ)}
で定める.このとき明らかにUλUλが成り立つ.あとは開集合族U={Uλ | λΛ}が局所有限な開被覆であることを示せばよい.

  • xXとする.VXの開被覆であることから,μMであってxVμとなるものが存在する.このときλ=r(μ)Λとおくと,xUλが成り立つ.
  • 一般に任意の部分集合AXに対して
    {λΛ | AUλ}r({μM | AVμ})
    が成り立つことに注意すると,Vの局所有限性からUの局所有限性がしたがうことがわかる.

おわりに:完全写像について

閉写像f:STであって,任意のtTに対してf1(t)がコンパクトとなるものを完全写像といいます.したがって,Yがコンパクトであるときの射影p:X×YXは完全写像の例になっています.じつは今回の定理は一般の完全写像について成り立ちます! 証明は“同様”です.

参考文献

投稿日:2023325
OptHub AI Competition

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うすい
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  1. はじめに
  2. 閉写像について
  3. 準備
  4. 閉写像の特徴づけ
  5. Tube Lemma
  6. 定理の証明
  7. 補遺:局所有限な1:1細分の存在
  8. おわりに:完全写像について
  9. 参考文献