前回 は次の定理を示しました.(記号を変えています.)
$B$を位相空間とし,$F$をコンパクト空間とする.
(1) $B$がコンパクトならば,$B \times F$もコンパクトである;
(2) $B$がパラコンパクトならば,$B \times F$もパラコンパクトである.
唐突ですが,ここでひとつ定義を紹介します.
$\pi \colon E \to B$を連続写像,$F$を位相空間とする.
任意の$b \in B$に対して,$b$の開近傍$U \subset B$と同相写像$\varphi \colon \pi^{-1}(U) \to U \times F$が存在して
$$ \pi(\varphi^{-1}(b, y)) = b,\ (b, y) \in U \times F $$
が成り立つとき,組$(E, \pi, B, F)$をファイバー束という.$E$を全空間,$\pi$を射影,$B$を底空間,$F$をファイバーという.
$B, F$を位相空間とする.$\pi \colon B \times F \to B$を(第一成分への)射影とすると,組$(B \times F, \pi, B, F)$はファイバー束である.実際,任意の$b \in B$に対して$U$として$B$が,$\varphi$として恒等写像が取れる.このファイバー束を自明束という.
すると定理1は「ファイバーがコンパクトな自明束について,射影$\pi \colon B \times F \to B$によって底空間$B$の(パラ)コンパクト性が全空間$B \times F$に伝わった」と見ることができます.このように見たとき,定理1と同様のことがファイバーがコンパクトなファイバー束についても成り立つのかが気になるところですが,その疑問に肯定的に答えることが今回の目標です.
コンパクト空間$F$をファイバーとするファイバー束$(E, \pi, B, F)$に対して次が成り立つ.
(1) $B$がコンパクトならば,$E$もコンパクトである;
(2) $B$がパラコンパクトならば,$E$もパラコンパクトである.
鍵となるのは(前回と同様)射影$\pi \colon E \to B$が完全写像になるという事実です.
写像$f \colon X \to Y$と部分集合$B \subset Y$に対して,写像$f^{-1}(B) \to B, x \mapsto f(x)$を$f^{B}$で表わすことにする.
$f \colon X \to Y$を写像とし,$\mathcal{V}$を$Y$の開被覆とする.
任意の$V \in \mathcal{V}$に対して$f^{V} \colon f^{-1}(V) \to V$が閉写像ならば,$f$は閉写像である.
$C \subset X$を閉集合とする.
各$V \in \mathcal{V}$に対して$C \cap f^{-1}(V)$は$f^{-1}(V)$の閉集合なので
$$ f(C) \cap V = f(C \cap f^{-1}(V)) = f^{V}(C \cap f^{-1}(V))$$
は$V$の閉集合である.
いま$\mathcal{V}$は$Y$の開被覆であったから,$f(C)$は$Y$の閉集合である.
前回の最後 に注意したことから次が成り立ちます.
$f \colon X \to Y$を完全写像とする.
(1) $Y$がコンパクトならば,$X$もコンパクトである.
(2) $Y$がパラコンパクトならば,$X$もパラコンパクトである.
$(E, \pi, B, F)$をファイバー束とする.
このとき,ファイバー$F$がコンパクトならば,射影$\pi \colon E \to B$は完全写像である.
この補題は [3, Problem 10-19] に示唆を得たものです.
各$b \in B$に対して$b$の開近傍$U_{b} \subset B$と同相写像$\varphi_{b} \colon \pi^{-1}(U_{b}) \to U_{b} \times F$であって
$$ \pi(\varphi_{b}^{-1}(x,y)) = x,\ (x,y) \in U_{b} \times F$$
となるものが存在する.
このとき$\{U_{b}\ |\ b \in B\}$は$B$の開被覆であり,任意の$b \in B$に対して$\pi^{U_{b}} \colon \pi^{-1}(U_{b}) \to U_{b}$は閉写像の合成$ \pi^{-1}(U_{b}) \approx U_{b} \times F \to U_{b}$に一致するので閉写像である.したがって,補題3より$\pi \colon E \to B$は閉写像である.
また,$\varphi_{b}$によって$\pi^{-1}(b) \approx \{b\} \times F$はコンパクトであることがわかる.
よって$\pi$は完全写像である.
今回の目標を再掲します.
コンパクト空間$F$をファイバーとするファイバー束$(E, \pi, B, F)$に対して次が成り立つ.
(1) $B$がコンパクトならば,$E$もコンパクトである;
(2) $B$がパラコンパクトならば,$E$もパラコンパクトである.
この定理が成り立つことはもはや明らかでしょう.
(パラ)コンパクト性の定義にハウスドルフ性を課す流儀があります.
ファイバー束の底空間とファイバーがともにハウスドルフならば,全空間もハウスドルフであることを示せ.
写像$f \colon X \to Y$であって,任意のコンパクト集合$K \subset Y$に対して$f^{-1}(K)$がコンパクトとなるものを固有写像といいます.
$f \colon X \to Y$が閉写像ならば,任意の部分集合$B \subset Y$に対して$f^{B} \colon f^{-1}(B) \to B$もまた閉写像となることに注意すると,命題4と合わせて次が成り立つことがわかります.
完全写像は固有写像である.