この記事では, 僕が新しく見つけた連結和によって, 任意の多重ゼータ値が
$$\begin{eqnarray}
R(\bk):=\sum_{0\lt n_1\lt\cdots\lt n_a}\frac{1}{\bn^{\bk}\binom{2n_a}{n_a}}
\end{eqnarray}$$という形の加速級数(以下Multiple R-value, 多重R値と呼ぶ)の線形結合で表せることを証明します. ここで, $\bn^{\bk}:=\prod_{i=1}^an_i^{k_i}$です. 正確に定理の形で述べておきましょう.
任意の多重ゼータ値は, 許容インデックス$\bk$における, $R(\bk)$の値の自然数係数線形結合で表せる.
さて, 具体例を考えて見ましょう, $\arcsin^2 x$のMaclaurin級数により,
$$\begin{eqnarray}
\sum_{0\lt n}\frac{1}{n^2\binom{2n}n}=\frac{\pi^2}{18}=\frac 13\zeta(2)
\end{eqnarray}$$なので,
$$\begin{eqnarray}
\zeta(2)=3R(2)
\end{eqnarray}$$です. さて, weight 3の許容インデックスは, $(3),~(1,2)$ですが,
$$\begin{eqnarray}
R(3)=\sum_{0\lt n}\frac 1{n^3\binom{2n}n}
\end{eqnarray}$$を求めるにはどうすればよいでしょうか, まず思いつくのは$\arcsin^2 x$のMaclaurin級数を積分することです.
$$\begin{eqnarray}
R(3)&=&\sum_{0\lt n}\frac 1{n^3\binom{2n}n}\\
&=&2\int_0^{1/2}\sum_{0\lt n}\frac{2^{2n}x^{2n-1}}{n^2\binom{2n}n}~dx\\
&=&4\int_0^{1/2}\frac{\arcsin^2 x}{x}~dx\\
&=&4\int_0^{\pi/6}x^2\cot x~dx\\
&=&-\frac{\pi^2}{9}\ln 2-8\int_0^{\pi/6}x\ln\sin x~dx
\end{eqnarray}$$となりますが, 最後の積分の計算がなかなか難しそうです. そこで連結和法の出番です. 以下の級数を考えてみましょう. これは双対性の連結和の記事(
https://mathlog.info/articles/405
) で考えた$Z(1;1)$です. $C(n,m):=\frac{n!m!}{(n+m)!}$とします.
$$\begin{eqnarray}
\zeta(2)&=&\sum_{0\lt n,m}\frac{1}{nm}C(n,m)
\end{eqnarray}$$これを調和積的な方法で分解してみましょう,
$$\begin{eqnarray}
\sum_{0\lt n,m}\frac{1}{nm}C(n,m)&=&\sum_{0\lt n\lt m}\frac{1}{nm}C(n,m)+\sum_{0\lt m\lt n}\frac 1{nm}C(n,m)+\sum_{0\lt n=m}\frac{1}{nm}C(n,m)\\
&=&\sum_{0\lt n}\frac 1{n^2}C(n,n)+\sum_{0\lt n}\frac 1{n^2}C(n,n)+\sum_{0\lt n}\frac 1{n^2}C(n,n)\\
&=&3\sum_{0\lt n}\frac 1{n^2\binom{2n}n}
\end{eqnarray}$$となって, $\zeta(2)=3R(2)$が得られました.
つまり, 双対性の連結和において, 調和積的なことを行うと, 多重R値が現れると考えることができます. 以上の考察をもとに連結和の形を考えてみましょう. 調和積の連結和は
$$\begin{eqnarray}
\sum_{\substack{0\lt n_1\lt\cdots\lt n_a=r_1\\0\lt m_1\lt\cdots\lt m_b=r_1\\r_1\lt\cdots\lt r_c}}\frac{1}{\bn^{\bk_{\down}}\bm^{\bl_{\down}}\br^{\bh}},\qquad\sum_{\substack{0=r_0\lt r_1\lt\cdots\lt r_c\\r_c=n_1\lt\cdots\lt n_a\\r_c=m_1\lt\cdots\lt m_b}}\frac{1}{\bn^{{}_{\down}\bk}\bm^{{}_{\down}\bl}\br^{\bh}}
\end{eqnarray}$$の2種類がありますが, (調和積の連結和の記事(
https://mathlog.info/articles/393
) を参照)この場合, 後者の連結和をもちいます. その輸送関係式は, Connectorsにもある通り,
$$\begin{eqnarray}
Z^*({}_{\up}\bk;\bl;\bh)&=&Z^*(\bk;{}_{\up}\bl;\bh)=Z^*(\bk;\bl;\bh_{\up})\\
Z^*({}_{\lf}\bk;{}_{\lf}\bl;\bh)&=&Z^*(\bk;{}_{\lf}\bl;\bh_{\to})+Z^*({}_{\lf}\bk;\bl;\bh_{\to})+Z^*(\bk;\bl;\bh_{\to\up})
\end{eqnarray}$$のようになっています. さて, 今回これをどのようにするかというと, 双対性の連結和と調和積の連結和を合体させる. つまり, 調和積の連結和に$C(n,m)$をつけるのです. すると以下のようになります.
$$\begin{eqnarray}
Z(\bk;\bl;\bh):=\sum_{\substack{0=r_0\lt r_1\lt\cdots\lt r_c\\r_c=n_1\lt\cdots\lt n_a\\r_c=m_1\lt\cdots\lt m_b}}\frac{C(n_a,m_b)}{\bn^{{}_{\down}\bk}\bm^{{}_{\down}\bl}\br^{\bh}}
\end{eqnarray}$$さて, 合体された2つの連結和は連結している部分が違います. つまり, この連結和の輸送関係式は双対性の連結和の輸送関係式と, 調和積の輸送関係式そのままです. 具体的に書くと, この$Z(\bk;\bl;\bh)$は
$$\begin{eqnarray}
Z(\bk_{\to};\bl;\bh)&=&Z(\bk;\bl_{\up};\bh)\\
Z(\bk_{\up};\bl;\bh)&=&Z(\bk;\bl_{\to};\bh)\\
Z({}_{\up}\bk;\bl;\bh)&=&Z(\bk;{}_{\up}\bl;\bh)=Z(\bk;\bl;\bh_{\up})\\
Z({}_{\lf}\bk;{}_{\lf}\bl;\bh)&=&Z(\bk;{}_{\lf}\bl;\bh_{\to})+Z({}_{\lf}\bk;\bl;\bh_{\to})+Z(\bk;\bl;\bh_{\to\up})
\end{eqnarray}$$を満たします. さて, 境界条件を見ていきましょう. 定義から,
$$\begin{eqnarray}
\zeta(\bk)&=&Z({}_{\lf}\bk;1;\varnothing)\\
R(\bh)&=&Z(1;1;\bh)
\end{eqnarray}$$であることが分かります. さて上の4つの輸送関係式をつかうことで$Z({}_{\lf}\bk;1;\varnothing)$から$Z(1;1;\bh)$の形に帰着できればよいです. それは以下のようなアルゴリズムによって達成されます. $\bk,\bl$の対称性から, $\bl$のdepthの方が大きくなったら$\bk$の方が常にdepthが大きいと考えて良いです.
という感じです. このアルゴリズムが定理1の証明を与えています.
具体例でやってみましょう. $\bk=(3)$から始めてみます. $=$の上にどの輸送関係式をつかったかを書いておきます.
$$\begin{eqnarray}
Z(1,3;1;\varnothing)&\overset{2}{=}&Z(1,2;1,1;\varnothing)\\
&\overset{4}{=}&Z(2;1,1;1)+Z(1,2;1;1)+Z(2;1;2)\\
&\overset{2,3}{=}&Z(1,1;2;1)+Z(1,1;1,1;1)+Z(1;1;3)\\
&\overset{2,4}{=}&Z(1,1;1;2)+2Z(1,1;1;1,1)+2Z(1;1;3)\\
&\overset{2}{=}&Z(1;2;2)+2Z(1;2;1,1)+R(3)\\
&\overset{3}{=}&Z(1;1;3)+2Z(1;1;1,2)+2R(3)\\
&=&3R(3)+2R(1,2)
\end{eqnarray}$$よって,
$$\begin{eqnarray}
\zeta(3)=3R(3)+2R(1,2)
\end{eqnarray}$$が分かります. weight輸送なのでなかなか大変でしたね, これも実際に計算するときにはdepth輸送の連結和をもちいた方が速く計算できます. さて, 上の$\zeta(3)$の式のさらなる一般化としては,$$\begin{eqnarray}
\zeta(r)=2\sum_{i=0}^{r-3}R(\{1\}^{i},r-i)+3R(\{1\}^{r-2},2)
\end{eqnarray}$$というリーマンゼータ値の公式を得ることができます.(公式の名前忘れた...)
S. Seki, Connectors, arXiv:2006.09076