本記事は
私が3年前に書いた記事
および
私が10ヶ月前に書いた記事
の続編となります。これらを読まなくても、以下の内容を理解するうえで支障はないです。読みたければ上のリンクからどうぞ。
また、文献をあまり調べていないため、既知の結果が含まれている可能性を否定できません。
毎度おなじみ[要出典]、「いかなる指摘や非難も受けつける」という目的のためだけに初心者設定をしていない実質初心者こと、
匿(Tock)
でございます。今回も根性とともに色々な二重根号を見ていきましょう。
今来た一行
という形の、外れる二重根号を探します(はいずれも整数)。メインは後半。
研究の経緯
以前、私は
二重根号に関する3つの不思議な公式(+それらの公式から得られる多数の等式)
なる記事を書きました。ここで紹介した二重根号の等式を抜き出し、
Wikipedia
で紹介されているそれと比較してみましょう。
非自明であるという点においては、双方とも大差ありませんね。根号内の美しさではWikipedia側に軍配が上がりそうですが。
とはいえ、もっと根本を見つめ直しましょう。じーっ……。
「私の記事、平方根しか出てこないな?」
ということで。今回は立方根を登場させます。立方根の絡んだ二重根号について、いい感じの公式を探索します。
ただし、という形の二重根号()は様々な論文で既に研究されており、例えば
Denesting certain nested radicals of depth two
ではという汎用性しかない公式が紹介されています。
ゆえに、少しでもオリジナリティを出すべく、別の形を想定します。具体的には、のような形をした二重根号を研究対象に選びます(はいずれも整数)。
探索の手法
いくら根性を用意したとしても、時間と数学力には限りがあります。
例えば、任意に数値を代入してという二重根号を得たとしましょう。当然、こう言いたくなります。
「これ、外せるか……?」
そう、ディネスティング(重根号を重以下の根号に書き換えること)可能か否かなど、一瞥だけで判るはずがありませんね。結論を言うと、物凄く頑張ればと外せるのですが、このような作業をすべての代入に対して実施したら人類滅亡のほうが先に来てしまいます。
ですから、すべてを見つけることは諦めます。手の届く範囲で「外せる二重根号の生成公式」を探索し、そこに値を代入してこういった非自明な等式を得る、と、逆方向からアプローチします。
人は補題なしに生きられない
それでは、「外せる二重根号の生成公式」とやらを作ってみましょう。まず、誰が見ても明らかな補題を2つ用意します。
どちらの補題も、結論が(多項式)×(多項式)=(多項式中のにを代入した式)という形をしています。この事実を胸に留めておいてください。
続いて、以下の補題を考えます。
補題1.3
を整数次多項式とする。のとき、有理数係数整数次多項式を用いてと定めると、を展開した式に現れる根号の種類は高々の3種である。
言い換えると、ある整数次多項式が存在して、
と表せる。
補題1.3の証明
と計算できる。はいずれも整数次の多項式であるから、の展開に以外の根号は含まれない。
生成メソッドは非常に簡単
準備が整いました。この補題1.3に補題1.1の式を代入してみると、
を満足する多項式が存在するといえます。の左辺を根性で展開し、とを計算します。
まずに注目しましょう。もしもが成り立つならば、の両辺の平方根をとると
となって、二重根号を含まない式(左辺)と型の二重根号(右辺)がイコールで結ばれます。
このとき明らかにですから、上の式は以下のように整理されます。
虚数単位を登場させてしまいましたが、確かに目的通り「外せる二重根号の生成公式」を作れました。
実際、任意の値、例えばなどをに代入すると、
といった式を生成できて、公式の威力を実感できます(左辺を2乗すると右辺の根号内の式になる)。
手法の応用
前節では、のとなるケースを考えました。の代わりにのケースを考えれば、どうなるでしょうか。既にを計算しているので、今回はとすればよいですね。整理すれば、
と書けます。おしまい。
報われる人は努力しているらしい
論点チェンジ。今度は補題1.3に補題1.2の式を代入します。
心が折れそうですね。耐えましょう。ちなみに代入が変わったので~の中身も変わっています。
先程と同様に展開し、を求めます。
心が折れましたね。それでも耐えましょう。
のときです。したがって、以下の生成公式が導かれます。
……ええ、生成公式です。誰がなんと言おうと、これは外せる二重根号の生成公式です。
それを確かめるため、例えばのときを考えましょう(どんな値でも構いません)。このときですから、ひたすら計算すると
が出てきます。確かに生成できましたね。万歳。
【余談】天才っぽく振る舞う方法
もしも「の左辺をもっと非自明に表記して天才になった気分を味わいたい!」とお考えであれば、から導かれる
を利用しましょう。実際に利用すれば以下のようになります。良いですね(主観)。
次。でのケースです。同様の手順で、以下の生成公式に還元されます。←説明が面倒になりつつある
ここで一旦IQを30ほど上げてみると、あることに気がつきます。
「の左辺にを代入して倍すれば、の左辺と一致するね?」
はい、その通りです。2つの生成公式を導いたつもりでしたが、事実上これらは1つだったのです。無念……。
ここから探索難易度が跳ね上がる
型の二重根号で外れるものを探す、という目的で始まった本記事ですが、今のところの場合しか探索できていません。もっと探したいですね。
序盤で登場したを覚えていますか? 今思えば、これはの場合に相当します。ですから、の場合くらいは頑張りましょう。
補題2.1の証明
と計算できるため、補題1.2より従う。我ながらをどうやって見つけたのだろう。
ついてきていますか? 割と大変な計算をしましたよ。
の場合には、補題1.3の代わりに以下の補題2.2を用います。
補題2.2
を整数次多項式とする。のとき、と定めると、を展開した式に現れる根号の種類は高々の3種である。
言い換えると、ある整数次多項式が存在して、
と表せる。
補題2.2の証明
と計算できる。はいずれも整数次の多項式であるから、の展開に以外の根号は含まれない。
補題2.2に補題2.1の式を代入してみると、以下の式が成り立ちます(は何らかの整数次多項式)。
以降はの場合と同様です。のとを求めましょう(ここの計算は省略します)。
のときは不適なので()、およびといえますね。
それぞれをに代入すれば、以下の生成公式を得ます。
いずれも型の「外れる二重根号」を生成する式になっていますね。目標達成です。
ところで、とをよく見比べてみると、あることに気がつきます。
「の左辺にを掛ければ、の左辺と一致するね?」
はい、その通りです。2つの生成公式を導いたつもりでしたが、事実上これらは1つだったのです。天丼……。
【ここまでのまとめ】
の公式を用いれば、型の「外れる二重根号」を作れる。
理想の代入
改めて、発見できた生成公式を列挙します(1行に収めるため少々変形しています)。
これらに任意の数値を代入すれば、型二重根号のディネスティング問題を一瞬で作れます。不定期でディネスティング問題を出題している私自身としましては有難いことこの上ないですね。
具体的に見てみましょう。適当にあたりを選び公式3へと代入すれば、以下の式が得られます。「こんなものを出題したら各位から怒られるよ……。」
つい本音が漏れてしまいました。まあ、確かに当初の目的である「型の二重根号を外す」は達成できているわけですが、係数を見ると、その……ね?(同意を求めるポーズ)
数学的には何ら問題なくとも、出題者の観点で考えればこれは由々しき事態。
「の二重根号を外しなさい」
など、誰も解いてくれません。もう少し、例えばで見たのように平易な係数でなければ……。
と、そういう経緯で、ここからはプログラムを走らせて根号内の数値が簡単になる代入を探索した結果となります。労力的にはここからが本番です。
【公式1から得られる等式】 に様々な数を代入します。
左辺根号内のは固定で登場し、立方根の項のみが変動していますね。
公式1の左辺を展開すれば、こうなる理由が判明します。計算しておいてください。
【公式2から得られる等式】 公式1と異なり、固定で登場する項がありません。ディネスティング問題として見れば、既にかなりの難問をマニュファクチュアできているのではないでしょうか。
【公式3から得られる等式】 の範囲の整数を全部代入し、におけるが小さくなったものを列挙しました。
公式2よりも自由度が高いため、たくさん見つかりますね。特にのとき、綺麗な二重根号を生成しやすいようです。
IQを20ほど上げて考えてみればこれは当然で、公式3にを代入して倍すれば、次数の低い公式2とほぼ同じ式が得られるからです(特にのときは完全に一致します、計算してみましょう)。実際、公式2にを代入するととなり、左辺だけ見れば公式3にを代入した場合と同一になっています。整数しか代入してこなかったため、見落としていたのですね。
【公式4から得られる等式】 こちらはと仮定し、の範囲の自然数を代入して探索しました。しましたが……、ご覧の通り、が1桁の範囲でしかは小さくなりませんでした。
左辺にが登場する場合、右辺に(1の3乗根)を掛けた数式も「外したあとの形」になりえます。
これまでに紹介した3つの公式と比較すれば、根号の中身がやや複雑になっていることを見てとれます。出題者視点では悲しい現実です。
しかしながら、いくつかの代入で、少々の単純化を図れます。事実、やを代入した式は、という表現が可能です。型の二重根号になり、より非自明さが増しましたね。
以上、4つの公式を使ってみました。根性がそろそろ尽きそうです……。
数式は全部手打ちしたので入力ミスがあるかもしれません。あればコメントでご指摘ください。
余計な問題
内に示されたヒントをもとに、以下の二重根号を外しなさい。
型の外せる二重根号の生成公式を作るにあたって、ここまででの場合との場合を見てきた。いずれもほぼ同様の生成メソッドで公式を得られたが、実はこの方法だとの場合に必ずしも公式を作れるとは限らない(恐らく作れない)。これはどうしてか、多項式の次数に注目して説明しなさい。
雑談が結語
上記の問題2にて、の場合に型のディネスティング問題を作る難しさを紹介しました。万能に思えた従来の手法が使えず、そもそも「外せる二重根号」が無限に存在するかも怪しい状況です。
私も大量の計算を試しましたが、現時点で発見できたのは以下の1種類のみです……。 これ以外で型()の「外せる二重根号」を見つけられた方はご連絡ください。讃えますので。
【本記事のまとめ】
型の二重根号について、の場合には、外せる二重根号の生成公式が存在する。
公式1、公式2、公式3はの場合に、公式4はの場合に、それぞれ使える生成公式である。
の場合や、一般的な型二重根号の外し方については、今後の研究課題とする。
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