はじめに
この記事では
前回の記事
に引き続き素イデアルの分解法則に関する理論を紹介していきます。
をデデキント環、をその分数体、をの有限次拡大、をにおけるの整閉包とする。
このような状況設定のことをあるいは単にと言うことにする。
ガロア拡大における分解
においてをガロア拡大とし、の素イデアルがにおいて
と分解されるとする。このときはに対し推移的に作用する。
を割り切る素イデアルであって任意のに対しを満たすようなものが存在するとして矛盾を導く。
いま中国剰余定理より
を満たすようなが取れるが、このとき
よりのノルムは
を満たすことになり矛盾。よって主張を得る。
命題1
の分岐指数と惰性次数は全て等しい。特にが成り立つ。
分岐指数についてはに注意するとが成り立つことからわかる。
惰性次数についてはが成り立つことからわかる。
または分離拡大であったので
基本等式
よりを得る。
分解群と惰性群
においてをガロア拡大とする。このときの素イデアルに対し
と定められる群をそれぞれの分解群、惰性群と言う。
また対応する不変体をそれぞれ分解体、惰性体と言う。
ちなみにこのはそれぞれ分解、惰性を意味する英語Decomposition, Inertiaの頭文字を取っている。なおドイツ語ではZersetzung, Trägheitと言うことからと書くこともある。
以下をの下にある素イデアル(つまり)とし、また簡単のため
とおく。
任意のに対しその上の最小多項式がにおいて一次式の積に分解されることを示す。
いまの代表元に対しその上の最小多項式をとおくとこれはにおいて一次式の積に分解されるので、そのにおける像も一次式の積に分解される。またはを割ることに注意すると主張を得る。
証明(長いので折り畳み)
方針
に対しを対応させる写像は準同型
を引き起こし、その核はとなるのでこれが全射となることを示せばよい。
またの分離閉包に対し制限写像
は同型を定めることに注意すると
が全射となることを示せばよい。
証明
いまなるに対し中国剰余定理より
を満たすようなを取り、またの最小多項式をとおく。
このとき任意のに対しはの根、特にの根であることからあるが存在して
が成り立ち、の取り方からであれば
が成り立つのでそれはでなければならない。
したがってつまりを満たすようなが存在することが示された。
の分岐指数、惰性次数をそれぞれとおくと
が成り立つ。特にが分離的であれば
が成り立つ。
であったので
となることを示せばよいが、それはが定める左剰余類が
の通りで尽くされることからわかる。
分解体、惰性体においての下にある素イデアルをそれぞれ、つまり
とおくと以下が成り立つ。
- 上での分岐指数と惰性次数は共にとなる。
- 上での分岐指数は、惰性次数はとなる。特にが成り立つ。
またが分離的であれば
- 上での分岐指数は、惰性次数はとなる。特にが成り立つ(とした)。
- 上での分岐指数は、惰性次数はとなる。特にが成り立つ。
前半の主張:上のの分岐指数と惰性次数をとおくと上のの分岐指数を惰性次数はとなり、また
であることからを得る。
後半の主張:よりがわかり、また上と同様にするなどしてもわかる。
一般の拡大について
群とその部分群に対し同値関係
によって定まる同値類のことを両側剰余類と言い、両側剰余類全体のなす集合をと表す。
においてが分離的であり、の素イデアルが
と分解されているとする。
このときを任意のガロア拡大、をの上にある素イデアルの一つとし
とおくと
は全単射となる。
なおにおける剰余体の拡大が分離的であればの分岐指数は
と求まる。
フロベニウス元
フロベニウス自己同型
有限体の有限次拡大においてそのガロア群は
なる自己同型によって生成される巡回群となる。この自己同型のことフロベニウス自己同型と言う。
フロベニウス元
が有限体であり、またが不分岐(つまり)であるときより
を満たすようなが(ただ一つ)存在し、分解群はこの元によって生成される巡回群となる。
この生成元のことをにおけるのフロベニウス自己同型やのフロベニウス元などと言いと表す。
なるは同型を引き起こすことに注意すると
つまり
が成り立つことがわかる。
アルティン記号
がアーベル拡大であるとき、に関するフロベニウス元はの取り方に依らず同じ写像を定める。その写像を単にと表す。
中国剰余定理よりこれは
を満たすようなとして特徴付けられる。
ちなみに上で不分岐なの素イデアルによって生成される分数イデアルの群に対して
と定められる準同型のことをアルティン写像と言う。
アルティンの相互法則(の一部)としてアルティン写像は全射となることが知られているが、ここでは特に解説しない。
応用例
以下として円分体と二次体における素数の分解法則について紹介していく。
これはどちらもがアーベル拡大であることに注意する。
円分体の場合
をの原始乗根とし円分拡大における素数の分解を考える。
なおと表せるときはが成り立つのでは奇数であるかの倍数であるとしてよい。
素数がにおいて分岐することとがを割り切ることは同値である。
円分体の判別式は
と求まることとデデキントの判別定理に注意するとわかる。
と互いに素な素数に関するフロベニウス元は
によって定まる写像に等しい。
円分体の整数環はと表せること、および整数に対し
が成り立つことに注意すると、任意の
に対しは
を満たし、このような写像の一意性からこれはフロベニウス元であることがわかる。
と互いに素な素数に対し
なる正整数であって最小のものをとおくとはにおいて
と分解される。
の位数がであることを示せばよいが、それは
という同型があったことに注意するとわかる。
と分解し
なる正整数であって最小のものをとおくとはにおいて
と分解される。
円分多項式
においてとすることで
が成り立つのでの上にある素イデアルの分岐指数は以上であることがわかる。
またはにおいて
と分解されていたこと、および
に注意すると各はにおいてと分岐し、結果
となることがわかる。
二次体の場合
を平方因子を持たない整数とし二次拡大における素数の分解を考える。
とおいたとき、素数がにおいて分岐することとがを割り切ることは同値となる。
クロネッカー記号
整数に対してクロネッカー記号を次のように定める。
- であればとする。
- 奇素数に対してはをルジャンドル記号、つまり
とする。 - に対しては
とする。 - 一般の正整数に対しては
とする。
位数の群としてとを同一視すると、と互いに素な素数に対し
が成り立つ。
簡単のための整数環をとおいておく。
奇素数のフロベニウス元に対し
が成り立つのでオイラーの基準から
つまりを得る。
またのとき
に注意すると、のフロベニウス元に対し
が成り立つので
を得る。