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現代数学解説
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素イデアルの分解法則3:ヒルベルトの分岐理論

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はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続き素イデアルの分解法則に関する理論を紹介していきます。

 Aをデデキント環、Kをその分数体、LKの有限次拡大、BLにおけるAの整閉包とする。
 このような状況設定のことをAKLB setupあるいは単にAKLBと言うことにする。

ガロア拡大における分解

 AKLBにおいてL/Kをガロア拡大とし、Aの素イデアルpBにおいて
pB=q1e1q2e2qgeg
と分解されるとする。このときGal(L/K){q1,q2,,qg}に対し推移的に作用する。

 pBを割り切る素イデアルq,qであって任意のσGal(L/K)に対しqσ(q)を満たすようなものが存在するとして矛盾を導く。
 いま中国剰余定理より
x0(modq),x1(modσ(q))(σGal(L/K))
を満たすようなxAが取れるが、このとき
xq,σ(x)q(σGal(L/K))
よりxのノルムNL/K(x)=σGσ(x)
NL/K(x)qA=p,NL/K(x)qA=p
を満たすことになり矛盾。よって主張を得る。

命題1

 q1,q2,,qgの分岐指数eと惰性次数fは全て等しい。特に[L:K]=efgが成り立つ。

 分岐指数についてはσ(pB)=pBに注意するとqepBσ(q)epBが成り立つことからわかる。
 惰性次数についてはσ(B/q)=B/σ(q)が成り立つことからわかる。
 またL/Kは分離拡大であったので 基本等式 より[L:K]=efgを得る。

分解群と惰性群

 AKLBにおいてL/Kをガロア拡大とする。このときBの素イデアルqに対し
Dq(L/K)={σGal(L/K)σ(q)=q}Iq(L/K)={σGal(L/K)σ(x)x(modq)(xB)}
と定められる群をそれぞれq分解群惰性群と言う。
 また対応する不変体LDq,LIqをそれぞれ分解体惰性体と言う。

 ちなみにこのD,Iはそれぞれ分解、惰性を意味する英語Decomposition, Inertiaの頭文字を取っている。なおドイツ語ではZersetzung, Trägheitと言うことからZq,Tqと書くこともある。

 以下pqの下にある素イデアル(つまりp=qA)とし、また簡単のため
G=Gal(L/K),κ=A/p,λ=B/q
とおく。

 λ/κは正規拡大である。

 任意のαλに対しそのκ上の最小多項式ϕ(x)λにおいて一次式の積に分解されることを示す。
 いまαの代表元αBに対しそのA上の最小多項式をf(x)とおくとこれはBにおいて一次式の積に分解されるので、そのλにおける像f(x)も一次式の積に分解される。またϕ(x)f(x)を割ることに注意すると主張を得る。

 Dq/IqAutκ(λ)が成り立つ。

証明(長いので折り畳み)

方針

 σDqに対しσ:x+qσ(x)+qを対応させる写像は準同型
DqAutκ(λ),σσ
を引き起こし、その核はIqとなるのでこれが全射となることを示せばよい。
 またκ/λの分離閉包Fに対し制限写像
Autκ(λ)Gal(F/κ)
は同型を定めることに注意すると
DqAutκ(λ)Gal(F/κ)
が全射となることを示せばよい。

証明

 いまF=κ(α)なるαFに対し中国剰余定理より
αα(modq),α0(modσ(q))(σGDq)
を満たすようなαBを取り、またα,αの最小多項式をf(x),ϕ(x)とおく。
 このとき任意のτGal(F/κ)に対しτ(α)ϕ(x)の根、特にf(x)の根であることからあるσGal(L/K)が存在して
σ(α)τ(α)(modq)
が成り立ち、αの取り方からσDqであれば
σ(α)0(modq)
が成り立つのでそれはσDqでなければならない。
 したがってσ(α)=τ(α)つまりσ=τを満たすようなσDqが存在することが示された。

 qの分岐指数、惰性次数をそれぞれe,fとおくと
|Dq|=ef,|Iq|=e[λ:κ]i
が成り立つ。特にλ/κが分離的であれば
e=|Iq|,f=|Dq/Iq|,g=|G:Dq|
が成り立つ。

|G|=[L:K]=efg,|Dq/Iq|=|Autκ(λ)|=[λ:κ]s
であったので
|G:Dq|=g
となることを示せばよいが、それはDqが定める左剰余類が
{σGσ(q)=qi}(i=1,2,,g)
g通りで尽くされることからわかる。

 分解体、惰性体においてqの下にある素イデアルをそれぞれqD,qI、つまり
qD=qLDq,qI=qLIq
とおくと以下が成り立つ。

  • K上でqDの分岐指数と惰性次数は共に1となる。
  • LDq上でqの分岐指数はe、惰性次数はfとなる。特にqDB=qeが成り立つ。

またλ/κが分離的であれば

  • LDq上でqIの分岐指数は1、惰性次数はfとなる。特にqDBI=qIが成り立つ(BI=BLIqとした)。
  • LIq上でqの分岐指数はe、惰性次数は1となる。特にqIB=qeが成り立つ。

KgLDqfLIqeLp分解pqDqD惰性qI分岐qe

 前半の主張:K上のqDの分岐指数と惰性次数をe,fとおくとLDq上のqの分岐指数を惰性次数はe/e,f/fとなり、また
[L:LDq]=ef/ef=|Dq|=ef
であることからe=f=1を得る。
 後半の主張:Gal(L/LIq)=IqよりqIB=qeがわかり、また上と同様にするなどしてqDBI=qIもわかる。

一般の拡大について

 群Gとその部分群U,Vに対し同値関係
στσ=uτv(uU,vV)
によって定まる同値類UσVのことを両側剰余類と言い、両側剰余類全体のなす集合をUG/Vと表す。

 AKLBにおいてL/Kが分離的であり、Aの素イデアルp
pB=q1e1q2e2qgeg
と分解されているとする。
 このときN/Lを任意のガロア拡大、Ppの上にある素イデアルの一つとし
G=Gal(N/K),H=Gal(N/L),DP=DP(N/K)
とおくと
HG/DP{q1,q2,,qg},HσDPσ(P)L
は全単射となる。

 なおN/Kにおける剰余体の拡大が分離的であればq=PLの分岐指数は
e=|IP(N/K)|/|IP(N/L)|
と求まる。

 省略。

フロベニウス元

フロベニウス自己同型

 有限体の有限次拡大Fq/Fqにおいてそのガロア群は
σq(x)=xq
なる自己同型によって生成される巡回群となる。この自己同型のことフロベニウス自己同型と言う。

フロベニウス元

 κが有限体であり、またpが不分岐(つまりe=1)であるときDqGal(λ/κ)より
σ(x)x#κ(modq)
を満たすようなσGが(ただ一つ)存在し、分解群Dqはこの元によって生成される巡回群となる。
 この生成元σのことをL/Kにおけるqフロベニウス自己同型Dqフロベニウス元などと言い[L/Kq]と表す。

 pの上にある素イデアルq,qに対し[L/Kq],[L/Kq]G上共役である。

 τ(q)=qなるτGは同型B/qB/qを引き起こすことに注意すると
(τ[L/Kq]τ1)(x)τ(τ1(x)#κ)=x#κ(modq)
つまり
τ[L/Kq]τ1=[L/Kq]
が成り立つことがわかる。

アルティン記号

 L/Kがアーベル拡大であるとき、qpに関するフロベニウス元はqの取り方に依らず同じ写像を定める。その写像を単に(L/Kp)と表す。
 中国剰余定理よりこれは
σ(x)x#κ(modpB)
を満たすようなσGal(L/K)として特徴付けられる。 

 ちなみにL/K上で不分岐なKの素イデアルによって生成される分数イデアルの群JKに対して
(L/K):JKGal(L/K),i=1rpieii=1r(L/Kpi)ei
と定められる準同型のことをアルティン写像と言う。
 アルティンの相互法則(の一部)としてアルティン写像は全射となることが知られているが、ここでは特に解説しない。

応用例

 以下K=Qとして円分体L=Q(ζ)と二次体L=Q(d)における素数の分解法則について紹介していく。
 これはどちらもL/Kがアーベル拡大であることに注意する。

円分体の場合

 ζ1の原始n乗根とし円分拡大Q(ζ)/Qにおける素数の分解を考える。
 なおn=2n(2n)と表せるときはQ(ζn)=Q(ζn)が成り立つのでnは奇数であるか4の倍数であるとしてよい。

 素数pQ(ζ)/Qにおいて分岐することとpnを割り切ることは同値である。

 円分体の判別式
D=(1)φ(n)2nφ(n)p|npφ(n)p1
と求まることとデデキントの判別定理に注意するとわかる。

 nと互いに素な素数pに関するフロベニウス元は
σp(ζ)=ζp
によって定まる写像σpGal(Q(ζ)/Q)に等しい。

 円分体の整数環Z[ζ]と表せること、および整数aに対し
aap(modp)
が成り立つことに注意すると、任意の
x=iaiζiZ[ζ]
に対しσp
σp(x)=iaiζpiiaipζpi(iaiζi)p=xp(modpZ[ζ])
を満たし、このような写像の一意性からこれはフロベニウス元であることがわかる。

 nと互いに素な素数pに対し
pf1(modn)
なる正整数fであって最小のものをfpとおくとpQ(ζ)において
p=p1p2pn/fp
と分解される。

 σpの位数がfpであることを示せばよいが、それは
Gal(Q(ζ)/Q)(Z/nZ)×,(σk:ζζk)(kmodn)
という同型があったことに注意するとわかる。

 n=pepn(pn)と分解し
pf1(modn)
なる正整数fであって最小のものをfpとおくとpQ(ζ)において
p=(p1p2pn/fp)φ(pep)
と分解される。

 円分多項式
Φpep(x)=xpep1xpep11=m=1pmpep1(xζpepm)
においてx=1とすることで
pZ[ζ]=m=1pmpep1(xζpepm)=(1ζpep)φ(pep)
が成り立つのでpの上にある素イデアルの分岐指数はφ(pep)以上であることがわかる。
 またpQ(ζn)において
p=p1p2pn/fp
と分解されていたこと、および
[Q(ζ):Q(ζn)]=φ(n)/φ(n)=φ(pep)
に注意すると各piQ(ζ)においてpi=piφ(pep)と分岐し、結果
p=(p1p2pn/fp)φ(pep)
となることがわかる。

二次体の場合

 d0,1を平方因子を持たない整数とし二次拡大Q(d)/Qにおける素数の分解を考える。

D={dd1,3(mod4)4dd2,3(mod4)
とおいたとき、素数pQ(d)において分岐することとpDを割り切ることは同値となる。

 デデキントの判別定理からわかる。

クロネッカー記号

 整数a,n (n>0)に対してクロネッカー記号(a|n)=(an)を次のように定める。

  • gcd(a,n)1であれば(a|n)=0とする。
  • 奇素数pに対しては(a|n)をルジャンドル記号、つまり
    (ap)={1if x, x2a(modp)1if x, x2a(modp)
    とする。
  • p=2に対しては
    (a2)=(1)a218={1a±1(mod8)1a±3(mod8)
    とする。
  • 一般の正整数n=pnpepに対しては
    (an)=pn(ap)ep
    とする。

 位数2の群としてGal(Q(d)/Q){±1}を同一視すると、Dと互いに素な素数pに対し
(Q(d)/Qp)=(Dp)
が成り立つ。

 簡単のためQ(d)の整数環をOとおいておく。
 奇素数pのフロベニウス元σ=±1に対し
σ(D)=σD(D)p(modpO)
が成り立つのでオイラーの基準から
σDp12(Dp)(modpO)
つまりσ=(Dp)を得る。
 またD1(mod4)のとき
D1(mod2O)
に注意すると、p=2のフロベニウス元σ=±1に対し
σ(1+D2)(1+D2)2=σ12DD141σ2D140(mod2O)
が成り立つので
σ={1D1(mod8)1D5(mod8)}=(D2)
を得る。

 素数pQ(d)における分解は
(Dp)={0(p:分岐)1(p:分解)1(p:惰性)
と判別できる。

参考文献

[1]
J. Neukirch 著, 足立恒雄 監修, 梅垣敦紀 訳, 代数的整数論, 丸善出版, 2012
投稿日:2024627
更新日:2024628
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. ガロア拡大における分解
  3. 分解群と惰性群
  4. 一般の拡大について
  5. フロベニウス元
  6. 応用例
  7. 円分体の場合
  8. 二次体の場合
  9. 参考文献