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現代数学解説
文献あり

素イデアルの分解法則2:デデキント・クンマーの定理

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{Aut}[0]{\operatorname{Aut}} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{c}[0]{\cdot} \newcommand{d}[0]{\mathfrak{d}} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[4]{{}_2F_1\left(\begin{matrix}#1,#2\\#3\end{matrix};#4\right)} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{FF}[6]{{}_3F_2\left(\begin{matrix}#1,#2,#3\\#4,#5\end{matrix};#6\right)} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{k}[0]{\kappa} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{La}[0]{\Lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{M}[4]{\begin{pmatrix}#1& #2\\#3& #4\end{pmatrix}} \newcommand{mf}[0]{\mathfrak} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{O}[0]{\mathcal{O}} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続き素イデアルの分解法則に関する理論を紹介していきます。
 今回はデデキント・クンマーの定理
\begin{eqnarray} f(x)&\equiv&\vp_1(x)^{e_1}\vp_2(x)^{e_2}\cdots\vp_r(x)^{e_r}\pmod\p\\ &\downarrow&\\ \p B&=&\q_1^{e_1}\q_2^{e_2}\cdots\q_r^{e_r} \end{eqnarray}
について解説していきます。

 $A$をデデキント環、$K$をその分数体、$L$$K$の有限次拡大、$B$$L$における$A$の整閉包とする。
 このような状況設定のことを$AKLB\ setup$あるいは単に$AKLB$と言うことにする。

補題

 本題に入っていく前にまず剰余環に関する基本的な事実を二つ紹介しておく。

 可換環$R$とそのイデアル$I,J$に対し
$$(R/I)/J(R/I)\simeq(R/J)/I(R/J)\quad(\simeq R/(I+J))$$
が成り立つ。

 自然な準同型$R/I,R/J\to R/(I+J)$に対し準同型定理を考えることでわかる。

イデアルの対応定理

 可換環$R$とそのイデアル$I$に対し自然な準同型$R\to R/I$は全単射
$$\{J:I\ \mbox{を含む}\ R\ \mbox{のイデアル}\} \to\{\ol J:R/I\mbox{のイデアル}\}$$
を与える。またこの写像は包含関係や極大イデアル、素イデアルなどの性質を保つ。

 一つ一つの主張を地道に確かめていくだけなので省略。

デデキント・クンマーの定理

導手

 可換環の拡大$S/R$において$R$に含まれる$S$のイデアルであって最大のもの
$$\mf c=\{x\in R\mid xS\subseteq R\}$$
$S$における$R$導手(conductor)と言う。

 $AKLB$において$L/K$を分離拡大とし、$L=K(\t)$なる$\t\in B$を取る。また$\t$の最小多項式を$f\in A[x]$$A[\t]$$B$における導手を$\mf F$とおく。
 このとき$A$の素イデアル$\p$$\mf F$と互いに素(つまり$1\in\p+\mf F$)であれば
$$B/\p B\simeq A[\t]/\p A[\t]\simeq\k[x]/f(x)\k[x]$$
が成り立つ。ただし$\k=A/\p$とおいた。

 一つ目の同型については自然な準同型
$$\phi:A[\t]\to B/\p B$$
を考えたとき、$A[\t]+pB=B$よりこれは全射であり、また
$$\Ker\phi=(\p+\mf F)\Ker\phi\subseteq\p A[\t]+\mf F(\p B)=\p A[\t]$$
から$\Ker\phi=\p A[\t]$が成り立つことに注意するとわかる。
 二つ目の同型については$A[\t]\simeq A/f(x)A$に注意すると補題7からわかる。

デデキント・クンマーの定理

 $f$$(A/\p)[x]$において
$$f(x)\equiv\vp_1(x)^{e_1}\vp_2(x)^{e_2}\cdots\vp_r(x)^{e_r}\pmod\p$$
($\vp_i\in A[x]:$モニック)と既約分解したとき
$$\q_i=\vp_i(\t)B+\p B$$
$B$の素イデアルであり
$$\p B=\q_1^{e_1}\q_2^{e_2}\cdots\q_r^{e_r}$$
が成り立つ。また$\q_i$の惰性次数は$f_i=\deg\vp_i$と求まる。

 いま準同型
$$B\to B/\p B=\k[x]/f(x)\k[x]$$
によるイデアルの対応を考えると、$\k[x]/f(x)\k[x]$の素イデアル$(\ol{\vp_i}(x))$$B$の素イデアル$\q_i=\vp_i(\t)B+\p B$を与え、その相対次数は
$$f_i=\dim_\k(B/\q_i)=\dim_\k(\k[x]/\vp_i(x)\k[x])=\deg\vp_i$$
と求まる。
 また$\q_1^{e_1}\q_2^{e_2}\cdots\q_r^{e_r}$$\k[x]/f(x)\k[x]$における像は$0$となることから
$$\q_1^{e_1}\q_2^{e_2}\cdots\q_r^{e_r}\subseteq\p B$$
が成り立つので$\p B$$\q_1^{e_1}\q_2^{e_2}\cdots\q_r^{e_r}$を割り切る、特に
$$\p B=\q_1^{e'_1}\q_2^{e'_2}\cdots\q_r^{e'_r}\quad(e'_r\leq e_r)$$
と素イデアル分解でき、 基本等式 および$f_i=\deg\vp_i$から
$$[L:K]=\sum^r_{i=1}e'_if_i\leq\sum^r_{i=1}e_if_i=\deg f(x)=[L:K]$$
が成り立つことに注意すると$e'_i=e_i$を得る。

デデキントの判別定理

 ついでにデデキント・クンマーの定理を用いてデデキントの判別定理の特別な場合を示しておこう。

 $AKLB$において$L/K$を分離拡大とし、任意に$L=K(\t)$なる$\t\in B$を取る。
 このとき判別式
$$d=d(1,\t,\t^2,\ldots,\t^{n-1})$$
を割り切らない$A$の素イデアル$\p$は不分岐である。
 特に不分岐な素イデアルは高々有限個しか存在しない。

  この記事 の命題16の証明から
$$dB\subseteq A[\t]$$
が成り立っていたので$B$における$A[\t]$の導手$\mf F$$d$を割り切る。特に$\p$$\mf F$と互いに素となるのでデデキント・クンマーの定理が適用できる。
 いま$\t$の最小多項式を$f\in A[x]$とおくと、$f$$(A/\p)[x]$における判別式$\ol d$
$$\ol d\equiv d\not\equiv0\pmod\p$$
を満たすので$f$$(A/\p)[x]$において分離的となる。したがって$\p$
$$\p B=\q_1\q_2\cdots\q_r$$
と分解される。
 また補題9の証明から$A[\t]\to B/\p B$は全射であったので剰余体の拡大$(B/\q_i)/(A/\p)$は分離的な元$\t\bmod{\q_i}$によって生成される、つまり分離拡大であることがわかる。

 ちなみにデデキントの判別定理とはこの逆も成り立つことを主張するものである。

 判別式全体
$$\{d(\a_1,\a_2,\ldots,\a_n)\mid\a_1,\a_2,\ldots,\a_n\in B\}$$
によって生成される$A$のイデアル$\d_{L/K}$$L/K$判別式と言う。

デデキントの判別定理

 $AKLB$において$L/K$および任意の剰余体の拡大$(B/\q)/(A/\p)$が分離的であるとき、$A$の素イデアル$\p$が分岐することと$\p$が判別式$\d_{L/K}$を割り切ることは同値となる。

 より正確にはもう少し強い主張を含んでいるが、この辺りの話については書くと長くなるので気が向いたときに次々回くらいの記事としてまとめたいと思う。

応用例

 以下$K=\Q$として円分体$L=\Q(\z)$と二次体$L=\Q(\sqrt d)$における素数の分解法則について紹介していく。

円分体の場合

 $\z$$1$の原始$n$乗根とし円分拡大$\Q(\z)/\Q$における素数の分解を考える。
 このとき以下が成り立つ。

 $n=p^{e_p}n'\ (p\nmid n')$と分解し
$$p^f\equiv1\pmod{n'}$$
なる正整数$f$であって最小のものを$f_p$とおくと、$p$$\Q(\z)$において
$$p=(\q_1\q_2\cdots\q_{\vp(n')/f_p})^{\vp(p^{e_p})}$$
($\q_i$の惰性次数は$f_p$)と素イデアル分解される。

  この記事 にて示した。

二次体の場合

 $d\neq0,1$を平方因子を持たない整数とし、二次拡大$\Q(\sqrt d)/\Q$における素数の分解法則を考える。
 二次体の整数環は
$$\O=\l\{\begin{array}{ll} \Z\big[\frac{1+\sqrt d}2\big]&d\equiv1\phantom{,3}\pmod4\\ \Z[\sqrt d]&d\equiv2,3\pmod4 \end{array}\r.$$
と表せることに注意すると$\t=\sqrt d$に関する導手は
$$\mf F=\l\{\begin{array}{rl} 2\O&d\equiv1\phantom{,3}\pmod4\\ \O&d\equiv2,3\pmod4 \end{array}\r.$$
と求まる。したがって
$$f(x)=x^2-d$$
$\Z/p\Z$における分解を考えることで以下が得られる。

 $d\equiv1\pmod4$かつ$p=2$のときを除き以下が成り立つ。

  • $p\mid d$または$p=2$のとき、$p$は分岐する。
  • $d$$p$を法として平方剰余であるとき、$p$は分解する。
  • $d$$p$を法として非平方剰余であるとき、$p$は惰性する。

 また$d\equiv1\pmod4$かつ$p=2$のときは$\t=\frac{1+\sqrt d}2$とし
$$f(x)=x(x+1)+\frac{1-d}4$$
$\Z/p\Z$における分解を考えることで以下が得られる。

  • $d\equiv1\pmod8$のとき、$p=2$は分解する。
  • $d\equiv5\pmod8$のとき、$p=2$は惰性する。

 以上を合わせると$\Q(\sqrt d)/\Q$における素数の分解法則は次のようにして統一的に記述することができる。

クロネッカー記号

 整数$a,n\ (n>0)$に対してクロネッカー記号$(a|n)=(\frac an)$を次のように定める。

  • $\gcd(a,n)\neq1$であれば$(a|n)=0$とする。
  • 奇素数$p$に対しては$(a|n)$をルジャンドル記号、つまり
    $$\l(\frac ap\r)=\l\{\begin{array}{rl} 1&\mathrm{if}\ \exists x,\ x^2\equiv a\pmod p\\ -1&\mathrm{if}\ \forall x,\ x^2\not\equiv a\pmod p \end{array}\r.$$
    とする。
  • $p=2$に対しては
    $$\bigg(\frac a2\bigg)=(-1)^{\frac{a^2-1}8} =\l\{\begin{array}{rl} 1&a\equiv\pm1\pmod8\\ -1&a\equiv\pm3\pmod8 \end{array}\r.$$
    とする。
  • 一般の正整数$n=\prod_{p\mid n}p^{e_p}$に対しては
    $$\bigg(\frac an\bigg)=\prod_{p\mid n}\l(\frac ap\r)^{e_p}$$
    とする。

 $\Q(\sqrt d)$の判別式を
$$D=\l\{\begin{array}{rl} d&d\equiv1\phantom{,3}\pmod4\\ 4d&d\equiv2,3\pmod4 \end{array}\r.$$
とおくと、素数$p$$\Q(\sqrt d)$における分解は
$$\l(\frac Dp\r)=\l\{\begin{array}{rl} 0&(p:\mbox{分岐})\\ 1&(p:\mbox{分解})\\ -1&(p:\mbox{惰性}) \end{array}\r.$$
と判別できる。

参考文献

[1]
J. Neukirch 著, 足立恒雄 監修, 梅垣敦紀 訳, 代数的整数論, 丸善出版, 2012
投稿日:627
更新日:628

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投稿者

子葉
子葉
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197175
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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