はじめに
この記事では
前回の記事
に引き続き素イデアルの分解法則に関する理論を紹介していきます。
今回はデデキント・クンマーの定理
について解説していきます。
をデデキント環、をその分数体、をの有限次拡大、をにおけるの整閉包とする。
このような状況設定のことをあるいは単にと言うことにする。
補題
本題に入っていく前にまず剰余環に関する基本的な事実を二つ紹介しておく。
自然な準同型に対し準同型定理を考えることでわかる。
イデアルの対応定理
可換環とそのイデアルに対し自然な準同型は全単射
を与える。またこの写像は包含関係や極大イデアル、素イデアルなどの性質を保つ。
一つ一つの主張を地道に確かめていくだけなので省略。
デデキント・クンマーの定理
導手
可換環の拡大においてに含まれるのイデアルであって最大のもの
をにおけるの導手(conductor)と言う。
においてを分離拡大とし、なるを取る。またの最小多項式を、のにおける導手をとおく。
このときの素イデアルがと互いに素(つまり)であれば
が成り立つ。ただしとおいた。
一つ目の同型については自然な準同型
を考えたとき、よりこれは全射であり、また
からが成り立つことに注意するとわかる。
二つ目の同型についてはに注意すると補題7からわかる。
デデキント・クンマーの定理
をにおいて
(モニック)と既約分解したとき
はの素イデアルであり
が成り立つ。またの惰性次数はと求まる。
いま準同型
によるイデアルの対応を考えると、の素イデアルはの素イデアルを与え、その相対次数は
と求まる。
またのにおける像はとなることから
が成り立つのではを割り切る、特に
と素イデアル分解でき、
基本等式
およびから
が成り立つことに注意するとを得る。
デデキントの判別定理
ついでにデデキント・クンマーの定理を用いてデデキントの判別定理の特別な場合を示しておこう。
においてを分離拡大とし、任意になるを取る。
このとき判別式
を割り切らないの素イデアルは不分岐である。
特に不分岐な素イデアルは高々有限個しか存在しない。
この記事
の命題16の証明から
が成り立っていたのでにおけるの導手はを割り切る。特にはと互いに素となるのでデデキント・クンマーの定理が適用できる。
いまの最小多項式をとおくと、のにおける判別式は
を満たすのではにおいて分離的となる。したがっては
と分解される。
また補題9の証明からは全射であったので剰余体の拡大は分離的な元によって生成される、つまり分離拡大であることがわかる。
ちなみにデデキントの判別定理とはこの逆も成り立つことを主張するものである。
判別式全体
によって生成されるのイデアルをの判別式と言う。
デデキントの判別定理
においておよび任意の剰余体の拡大が分離的であるとき、の素イデアルが分岐することとが判別式を割り切ることは同値となる。
より正確にはもう少し強い主張を含んでいるが、この辺りの話については書くと長くなるので気が向いたときに次々回くらいの記事としてまとめたいと思う。
応用例
以下として円分体と二次体における素数の分解法則について紹介していく。
円分体の場合
をの原始乗根とし円分拡大における素数の分解を考える。
このとき以下が成り立つ。
と分解し
なる正整数であって最小のものをとおくと、はにおいて
(の惰性次数は)と素イデアル分解される。
二次体の場合
を平方因子を持たない整数とし、二次拡大における素数の分解法則を考える。
二次体の整数環は
と表せることに注意するとに関する導手は
と求まる。したがって
のにおける分解を考えることで以下が得られる。
かつのときを除き以下が成り立つ。
- またはのとき、は分岐する。
- がを法として平方剰余であるとき、は分解する。
- がを法として非平方剰余であるとき、は惰性する。
またかつのときはとし
のにおける分解を考えることで以下が得られる。
以上を合わせるとにおける素数の分解法則は次のようにして統一的に記述することができる。
クロネッカー記号
整数に対してクロネッカー記号を次のように定める。
- であればとする。
- 奇素数に対してはをルジャンドル記号、つまり
とする。 - に対しては
とする。 - 一般の正整数に対しては
とする。
の判別式を
とおくと、素数のにおける分解は
と判別できる。