ここでは円分体$K=\Q(\z)$とその最大実部分体こと実円分体
$$K^+=K\cap\R=\Q(\z+\z^{-1})$$
における有理素数$p$の分解法則について解説する(ただしを表すものとした)。
以下$\z$を$1$の原始$n$乗根、$\vp(n)$をオイラーのトーシェント関数とする。また奇数$n'$に対し$\Q(\z_{2n'})=\Q(\z_{n'})$が成り立つので$n\not\equiv2\pmod4$とする。
このとき以下が成り立つことを示していく。
$n=p^{e_p}n'\ (p\nmid n')$と分解し
$$p^f\equiv1\pmod{n'}$$
なる正整数$f$であって最小のものを$f_p$とおく。
このとき$p$は$\Q(\z)$において
$$p=(\p_1\p_2\cdots\p_{\vp(n')/f_p})^{\vp(p^{e_p})}$$
($\p_i$の惰性次数は$f_p$)と分解され、また$\Q(\z+\z^{-1})$においては
$$p=\l\{\begin{array}{ll}
(\p'_1)^{\vp(p^{e_p})/2}&(n'=1)\\
(\p'_1\p'_2\cdots\p'_{\vp(n')/2f_p})^{\vp(p^{e_p})}
&(2\nmid f_p\quad\mbox{または}\quad p^{f_p/2}\not\equiv-1\pmod{n'})\\
(\p'_1\p'_2\cdots\p'_{\vp(n')/f_p})^{\vp(p^{e_p})}
&(2\mid f_p\quad\mbox{かつ}\phantom{は}\quad p^{f_p/2}\equiv-1\pmod{n'})\\
\end{array}\r.$$
($\p'_i$の惰性次数は上から順に$1,f_p,f_p/2$)と素イデアル分解される。
なおこの記事では デデキント・クンマーの定理 を主軸に考察していきますが、 ヒルベルトの分岐理論 を用いてもこの結果を得ることができます。詳しくは同記事にて解説しています。
円分体の整数環
は$\O_K=\Z[\z]$と表せたので任意の素数$p$について
デデキント・クンマーの定理
を適用することができる。つまり円分多項式$\Phi_n(x)$が$\bmod p$で
$$\Phi_n(x)\equiv(\phi_1(x)\phi_2(x)\cdots\phi_{\vp(n')/f_p}(x))^{\vp(p^{e_p})}\pmod p$$
($\deg\phi_i=f_p$)と既約分解されることを確かめればよい。
$$\Phi_n(x)\equiv\Phi_{n'}(x)^{\vp(p^{e_p})}\pmod p$$
が成り立つ。
$e_p=0$のときは明らか。また$e_p\geq1$のとき
この記事
の補題4から
$$\Phi_n(x)=\frac{\Phi_{n'}(x^{p^{e_p}})}{\Phi_{n'}(x^{p^{e_p-1}})}$$
が成り立っていたので、整数係数多項式$f(x)\in\Z[x]$に対し
$$f(x)^p\equiv f(x^p)\pmod p$$
が成り立つことに注意すると
$$\Phi_n(x)\equiv\frac{\Phi_{n'}(x)^{p^{e_p}}}{\Phi_{n'}(x)^{p^{e_p-1}}}
=\Phi_{n'}(x)^{p^{e_p-1}(p-1)}=\Phi_{n'}(x)^{\vp(p^{e_p-1})}\pmod p$$
を得る。
$\Phi_{n'}(x)$は$\bmod p$において
$$\Phi_{n'}(x)\equiv\phi_1(x)\phi_2(x)\cdots\phi_{\vp(n')/f_p}(x)\pmod p$$
($\deg\phi_i=f_p$)と既約分解される。
$p\nmid n'$に注意すると$f(x)=x^{n'}-1$および$f'(x)=n'x^{n'-1}$は$\bmod p$において共通因子を持たないので$f$は$\bmod p$において分離的であり、したがって$\Phi_{n'}(x)$も分離的となる。
また$q$元体$\F_q$の乗法群$\F_p^\times$は位数$q-1$の巡回群であることに注意すると、$f_p$の取り方から
$$\exists\a\in\F_q,\ \ord\a=n'\iff n'\mid(q-1)\iff\F_{p^{f_p}}\subseteq\F_q$$
が成り立つ。特に$1$の原始$n'$乗根の$\F_p$上の最小多項式の次数は$f_p$となることがわかるので$\Phi_{n'}(x)$は
$$\Phi_{n'}(x)\equiv\phi_1(x)\phi_2(x)\cdots\phi_r(x)\pmod p$$
($\deg\phi_i=f_p$)と既約分解されることになる。
$[\Q(\z):\Q(\z+\z^{-1})]=2$に注意すると$\Q(\z+\z^{-1})$の素イデアル$\p'\mid p$の$\Q(\z)$における分解が
$$\p':\l\{\begin{array}{ll}
\mbox{分岐}&(n'=1)\\
\mbox{分解}&(p^{f_p/2}\not\equiv-1\pmod{n'})\\
\mbox{惰性}&(p^{f_p/2}\equiv-1\pmod{n'})
\end{array}\r.$$
と判別できることを示せばよい。
$\Q(\z)$のイデアルとして
\begin{align}
(p)&=(1-\z)^{\vp(p^{e_p})}&&(n=p^{e_p})\\
(1)&=(1-\z)&&(\mathrm{otherwise.})
\end{align}
が成り立つ。
この記事 の補題4系と補題6からわかる。
$n=p^{e_p}$のとき$\p'$は分岐する。
上の補題および$(\z-\z^{-1})^2\in\Z[\z+\z^{-1}]$に注意すると$\p'\mid p$ならば$\p'\mid(\z-\z^{-1})^2$が成り立つ。
したがって$\t=\z-\z^{-1}$についてデデキント・クンマーの定理を考えると
$$x^2-(\z-\z^{-1})^2\equiv x^2\pmod{\p'}$$
と既約分解できるので、$\p'$は$\Q(\z)$において分岐することがわかる。
$\Q(\z)/\Q(\z+\z^{-1})$における基底$1,\z$の判別式は
$$d(1,\z)=\begin{vmatrix}
1&\z\\
1&\z^{-1}
\end{vmatrix}^2=(\z-\z^{-1})^2$$
と求まるので
デデキントの判別定理
より
$$n\neq p^{e_p}\Longrightarrow\p'\nmid(\z-\z^{-1})^2\Longrightarrow\p':\mbox{不分岐}$$
が成り立つことに注意する。
$n'\neq1$において
\begin{align}
\p'\ \mbox{が惰性する}
&\iff[\F_{p^{f_p}}:\k]=2\\
&\iff\k=\F_{p^{f_p/2}}\\
&\iff\forall\a\in\Z[\z+\z^{-1}],\ \a^{p^{f_p/2}}\equiv\a\pmod{\p'}\\
&\iff(\z+\z^{-1})^{p^{f_p/2}}\equiv\z+\z^{-1}\pmod{\p'}
\end{align}
が成り立つことに注意する。
また$q=p^{f_p/2},\ \a=\z+\z^{-1}$とおくと
\begin{align}
\a^q-\a
&\equiv(\z^q+\z^{-q})-(\z+\z^{-1})\\
&=\z^{-q}(\z^{q+1}-1)(\z^{q-1}-1)\pmod{\p'}
\end{align}
と変形できること、および上の補題から
$$\p'\Z[\z]\mid(1-\z^{q+1})(1-\z^{q-1})\iff q\equiv1\ \mathrm{or}\ -1\pmod{n'}$$
が成り立つことに注意すると主張を得る。