本記事では、量子力学でよく知られたパウリ行列から、成分が全て実数である実パウリ行列と呼ばれる行列の組を定義します。この実パウリ行列と単位行列は二次正方実行列の基底をなします。この基底で表したときの係数によってトレースを解釈します。
パウリ行列
通常のパウリ行列は以下のように定義されます。7shi-pbq
これらはの複素行列であり、以下の関係式を満たします。
実パウリ行列の構成
上記の関係式を出発点とし、この式を実数のみの行列で表現することを考えます。
両辺にを掛けます。
を複素行列であるに作用させます。
は実行列ですが、も実行列となります。
よってすべて実行列の計算となります。
この関係式に着目し、実パウリ行列を以下のように定義します。
この定義では、 は全て実行列であり、以下の関係式を満たします。
の持つ意味
この定義で得られたは、虚数単位の行列表現と見なすことができます。実際、の二乗はに対応します。
また、複素数をベクトルと同一視すれば、をこのベクトルに作用させることは、複素数にを掛ける操作に対応します。
このように、は虚数単位の性質を表現する行列であると言えます。
二次正方実行列の基底
単位行列と実パウリ行列を適切に線形結合することで、任意の二次正方実行列の各成分を表現できます。
まず、 成分のみが 1 で、それ以外の成分が 0 であるような行列をと表記して、実パウリ行列の線形結合で表します。
任意の二次正方実行列は、これらの線形結合として表せます。 を実数とすれば
このことはが二次正方実行列の基底をなすことを示しています。
トレース
実パウリ行列のトレースはです。
これにより、二次正方実行列を単位行列と実パウリ行列の線形結合で表せば、トレースには単位行列の項しか寄与しないことが分かります。
つまり、トレースを取ることで、二次正方実行列から単位行列の成分を抽出することになります。
内積
二次正方実行列を単位行列と実パウリ行列の線形結合で表します。(係数は実数)
を転置すれば、を符号反転することになります。
のトレースを取ります。実パウリ行列の2乗により単位行列が現れるのに注意します。
同じ添え字の係数を掛けて、それらを足した値の2倍が得られました。これは実パウリ行列の係数をベクトルと見なしたときの内積の2倍に相当します。
ベクトルの内積
縦ベクトルの内積が転置との積で与えられることに類似しています。
まとめ
二次正方実行列を単位行列と実パウリ行列の線形結合で表すことで、積のトレースが内積(の2倍)に相当すると解釈できます。