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3重根の判別式③ 考察・後編

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$$\newcommand{cdotssym}[0]{\underset{\mathrm{sym}}{\cdots}} \newcommand{disc}[0]{\mathrm{disc}} \newcommand{disp}[0]{\displaystyle} \newcommand{Im}[0]{\mathrm{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\mathrm{Ker}} \newcommand{matab}[2]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \end{pmatrix}} \newcommand{matac}[3]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \end{pmatrix}} \newcommand{matba}[2]{\begin{pmatrix} #1 \\ #2 \end{pmatrix}} \newcommand{matbb}[4]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \end{pmatrix}} \newcommand{matbc}[6]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \\ #4 & #5 & #6 \end{pmatrix}} \newcommand{matca}[3]{\begin{pmatrix} #1 \\ #2 \\ #3 \end{pmatrix}} \newcommand{matcb}[6]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \\ #5 & #6 \end{pmatrix}} \newcommand{matcc}[9]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \\ #4 & #5 & #6 \\ #7 & #8 & #9 \end{pmatrix}} $$

この記事は3本立てとなっております。
①はこちら
②はこちら


 方針3による考察を続けます。$n\geqq 4$の場合は、$n=3$ほど詳しいことは分かっておりません。

$n=4$の場合

 以下の判別式が見付かりました。

$$ D_1=(a_1-a_2)^2(a_3-a_4)^2+(a_1-a_3)^2(a_2-a_4)^2+ (a_1-a_4)^2(a_2-a_3)^2$$
$$ D_2=(a_1-a_2)^2(a_1-a_3)^2(a_2-a_3)^2+(a_1-a_2)^2(a_1-a_4)^2(a_2-a_4)^2+ (a_1-a_3)^2(a_1-a_4)^2(a_3-a_4)^2+(a_2-a_3)^2(a_2-a_4)^2(a_3-a_4)^2$$
は3重根判別式である。

 $a_1,a_2,a_3,a_4$のうちどの3つが等しい場合も$0$になります。確認してみて下さい。$D_2$は、2重根の判別式を4つ足し合わせた形をしています。ちなみに、$D_1,D_2$の添え字には$n=3$の時のような意味は無く、単純に名前をつけただけです。  

 $n=3$の場合と同じように一般化したいところですが、$D_1$についてはやや複雑です。結論だけ述べます。

  1. $g(a_1,a_2,a_3,a_4) \in \mathbb C[a_1,a_2,a_3,a_4]$を、$a_1,a_2$について対称、$a_3,a_4$について対称かつ、「$a_1$$a_3$,$a_2$$a_4$を同時に入れ替える置換」について不変な多項式とすると、
    $$ g(a_1,a_2,a_3,a_4)(a_1-a_2)^2(a_3-a_4)^2+g(a_1,a_3,a_2,a_4)(a_1-a_3)^2(a_2-a_4)^2+g(a_1,a_4,a_2,a_3)(a_1-a_4)^2(a_2-a_3)^2$$
    は3重根判別式である。
  2. $g(a_1,a_2,a_3,a_4) \in \mathbb C[a_1,a_2,a_3,a_4]$を、$a_1,a_2,a_3$について対称な多項式とすると、
    $$ g(a_1,a_2,a_3,a_4)(a_1-a_2)^2(a_1-a_3)^2(a_2-a_3)^2 + (\text{略})$$
    は3重根判別式である。

 すみません、サボりました(笑)。$n=3$の時と同じように、ということで読み取って下さい。読む側にとってもこの方が読みやすいかなと……。(1)の条件を満たす$g$は、例えば$a_1a_2+a_3a_4$などがあります。

 (略)だとちょっとカッコ悪いので、ちゃんと記号を作ります。
$$ f(a_1,\ldots,a_n)+\underset{\mathrm{sym}}{\cdots}$$
と書いて、自然に定まる対称式を表すことにします。


$\underset{\mathrm{sym}}{\cdots}$の厳密な定義

 $f(a_1,\ldots,a_n)$$a_1,\ldots,a_n$の置換を施して得られる多項式全体の集合を$\{f_1,\ldots,f_k\}$としたとき、
$$ f(a_1,\ldots,a_n)+\underset{\mathrm{sym}}{\cdots} = f_1+\cdots+f_k$$
と定義します。扱う文字は文脈で判断します。例えば$a_1,a_2,a_3,a_4$を扱う文脈なら、
$$ a_1a_2a_3+\underset{\mathrm{sym}}{\cdots} = a_1a_2a_3+a_1a_2a_4+a_1a_3a_4+a_2a_3a_4$$
となります。また、
$$ (a_1^2+\underset{\mathrm{sym}}{\cdots})+(a_1a_2 + \underset{\mathrm{sym}}{\cdots} ) = a_1^2+a_2^2+a_3^2+a_4^2+ a_1a_2+a_1a_3 + a_1a_4+a_2a_3+ a_2a_4 + a_3a_4$$
のように、1つの式で複数用いることも許すとします。
$$ a_1+a_2+\underset{\mathrm{sym}}{\cdots}$$
と書いてしまうと$(a_1+a_2)+\cdotssym$$a_1+(a_2+\cdotssym)$か判別できないので、このような書き方はしません。なお、いずれにせよ、最も自然と思われる$a_1+a_2+a_3+a_4$は得られません。他にも混乱が生じるケースがあるかもしれませんが、この記事内では問題の無い使い方をしているつもりです。


 十分な組はまだ見つけられていません。$n=3$の場合の類似で
$$ (a_1-a_2)^2(a_1-a_3)^2(a_2-a_3)^2+\underset{\mathrm{sym}}{\cdots},$$
$$ a_4(a_1-a_2)^2(a_1-a_3)^2(a_2-a_3)^2+\underset{\mathrm{sym}}{\cdots},$$
$$ a_4^2(a_1-a_2)^2(a_1-a_3)^2(a_2-a_3)^2+\underset{\mathrm{sym}}{\cdots}$$
の3つからなる組が十分な組になっているかと思いきや、これらは$a_1=a_2, \ a_3=a_4$としても$0$になるので、十分な組ではありません。より一般に、定理4の(2)の形の式はすべて$a_1=a_2, \ a_3=a_4$のとき$0$になるので、(2)の形の式だけでは十分な組は作れない、と言えます。

 また、$D_1$$0$を除いて最も次数の低い3重根判別式であることが分かりました。

4次多項式の3重根判別式で、3次以下のものは$0$しかない。

3次以下の$a_1,a_2,a_3,a_4$の対称式は、$c_1,\ldots,c_7 \in \mathbb C$を用いて
$$ \begin{eqnarray} &c_1&(a_1^3+a_2^3+a_3^3+a_4^3)+c_2(a_1^2a_2+\cdotssym)+c_3(a_1a_2a_3+\cdotssym)\\ &+&c_4(a_1^2+a_2^2+a_3^2+a_4^2) + c_5(a_1a_2+\cdotssym)+c_6(a_1+a_2+a_3+a_4) + c_7 \end{eqnarray}$$
と表せる。$a_2,a_3$$a_1$で置き換えると
$$ \begin{eqnarray} &c_1&(3a_1^3+a_4^3)+c_2(6a_1^3+3a_1^2a_4+3a_1a_4^2)+c_3(a_1^3+3a_1^2a_4)\\ &+&c_4(3a_1^2+a_4^2) + c_5(3a_1^2+3a_1a_4)+c_6(3a_1+a_4) + c_7 \end{eqnarray}$$
となる。これが多項式として$0$になるには、$a_4^3$の係数に着目すると$c_1=0$が必要と分かる。次に$a_1a_4^2$の係数に着目すると$c_2=0$が必要と分かる。同様に考えていくことにより、$c_1=\cdots=c_7=0$を得る。

 まだなんとかなりましたが、$n$を大きくしていったときに同様の問題を考えると、同じ方針では難しそうです。

 また、次のような予想も持っています。

$\mathcal D_3^{\mathrm{sym}}(4)$の任意の元は、定理2の(1)の形のものと(2)の形のものの和として表せる。

$n=5$の場合

 式が長くなってしまうので、さらに記号を導入します。
$$ \disc (a_1,\ldots,a_n)=\prod_{i< j}(a_i-a_j)^2$$
とおきます。disc は discriminant(判別式) の略です。変数が1つの場合、$\disc (a_1)=1$と約束します。
 さて、以下の判別式が見付かりました。

$$ D_1=(a_1-a_2)^2(a_3-a_4)^2(a_3-a_5)^2(a_4-a_5)^2 + \cdotssym$$
$$ D_2=\disc (a_1,a_2,a_3,a_4)+\cdotssym$$
は3重根判別式である。

 $D_2$$n=3,4$からの流れですぐに見つかりましたが、$D_1$を見つけるのが大変でした。$n=4$$D_1$のようなものが$n=5$でも存在するのではないかと考えた結果、この$D_1$が見つかりました。
 $D_1$が3重根判別式になっていることはおわかり頂けるでしょうか。$a_1,\ldots,a_5$のうち3つが等しいとして、
$$ (a_1-a_2)^2(a_3-a_4)^2(a_3-a_5)^2(a_4-a_5)^2$$
$0$になることを確かめれば十分です。そこで、$a_1,a_2,a_3,a_4,a_5$を2つの組$\{a_1,a_2\}$$\{ a_3,a_4,a_5 \}$に分けて考えます。$a_1,a_2,a_3,a_4,a_5$のうち3つが等しいとすると、その3つのうち少なくとも2つは同じ組に属します(鳩の巣原理)。$\{a_1,a_2\}$に2つ属する場合でも、$\{ a_3,a_4,a_5 \}$に2つ属する場合でも、
$$ (a_1-a_2)^2(a_3-a_4)^2(a_3-a_5)^2(a_4-a_5)^2=0$$
となることが確かめられます。

 定理2と同様に一般化することができますが、割愛します。十分な組については、$n=4$ですらろくな結果が得られていないので、言わずもがなです。

 $n=4$$D_1$については次数の最小性を示しましたが、$n=5$でも成り立つと予想しています。

5次多項式の3重根判別式で、$0$でないものの最小次数は$8$である。

 $D_1$の発見は、一般の$n$の場合を考える上での大きな足がかりとなりました。$D_1$は、以下のようにも表せます。
$$ D_1=\disc (a_1,a_2)\disc (a_3,a_4,a_5) + \cdotssym$$
こうすると、一般の$n$の場合が見えてきます。

一般の$n$の場合

$k$$\disp 1\leqq k\leqq \frac n2$を満たす整数とする。このとき
$$ D_k=\disc(a_1,\ldots,a_k)\disc(a_{k+1},\ldots,a_n)+\cdotssym$$
$n$次多項式の3重根判別式である。

 これまで同様、さらに一般化することもできますが、割愛します。十分な組については言わずもがな。

 $n$が奇数のとき、$D_1,D_2,\ldots,D_{\frac {n-1}2}$のうち次数が最小のものは$D_{\frac {n-1}2}$で、その次数は
$$ {}_{\frac {n-1}2}\mathrm{C}_2 \cdot 2 + {}_{\frac {n+1}2}\mathrm{C}_2 \cdot 2=\frac{(n-1)(n-3)}4+\frac{(n+1)(n-1)}4 = \frac{(n-1)^2}2$$
です。
 $n$が偶数のとき、$D_1,D_2,\ldots,D_{\frac {n}2}$のうち次数が最小のものは$D_{\frac {n}2}$で、その次数は
$$ {}_{\frac {n}2}\mathrm{C}_2 \cdot 2 + {}_{\frac {n}2}\mathrm{C}_2 \cdot 2=\frac{n(n-2)}4+\frac{n(n-2)}4 = \frac{n(n-2)}2$$
です。

  1. $n$が奇数の時、$\mathcal D_3^{\mathrm{sym}}(n)$$0$でない元の最小次数は$\disp \frac{(n-1)^2}2$である。
  2. $n$が偶数の時、$\mathcal D_3^{\mathrm{sym}}(n)$$0$でない元の最小次数は$\disp \frac{n(n-2)}2$である。

方針3による考察は、以上とします。

もうちょっと代数幾何

 最後に、また代数幾何の言葉への言い換えを紹介します。
$$ X_3^{\mathrm{sym}}(n) = \{ (z_1,\ldots,z_n) \in \mathbb C^n \ | \ z_1,\ldots,z_n\text{ のうち3つが等しい } \}$$
とおきます。$X_3^{\mathrm{sym}}(n)$は、$z_i=z_j=z_k \ (i< j< k)$で定まる$n-2$次元の線形部分空間全体の和集合です。線形部分空間はアフィン代数的集合であり、アフィン代数的集合の有限個の和集合はアフィン代数的集合であることが知られているので、$X_3^{\mathrm{sym}}(n)$はアフィン代数的集合です。
 3重根判別イデアルは
$$ \mathcal D_3^{\mathrm{sym}}(n) = I(X_3^{\mathrm{sym}}(n)) \cap \mathbb C[a_1,\ldots,a_n]^{\mathrm{sym}}$$
と表すことが出来ます。方針3で3重根判別式を沢山見つけましたが、それらは$I(X_3^{\mathrm{sym}}(n)) \cap \mathbb C[a_1,\ldots,a_n]^{\mathrm{sym}}$の元であるというわけです。

 前々回の記事で述べた話とは、
$$ \begin{eqnarray} t_1 &\longleftrightarrow& -(a_1+\cdotssym) \\ t_2 &\longleftrightarrow& \ a_1a_2+\cdotssym \\ t_3 &\longleftrightarrow& \ -(a_1a_2a_3+\cdotssym) \\ &\vdots&\\ t_n &\longleftrightarrow& \ (-1)^n a_1a_2\cdots a_n \end{eqnarray}$$
なる対応によって繋がります。これで何か分かる方、いらっしゃいませんか?

投稿日:20231220
更新日:20231220

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koumei
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(2023/11/30)別名義を使ってましたが、OMCでの名義に揃えました。

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