この記事は3本立てとなっております。
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①はこちら
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③はこちら
前回立てた方針を元に考察していきます。まずは方針2から。
多項式$f(x)$が2重根を持つことは、$f(x),f'(x)$が共通根を持つことと同値でした。同様に、
多項式$f(x) \in \mathbb C[x]$が3重根を持つことは、$f(x),f'(x),f''(x)$が共通根を持つことと同値。
が成り立ちます。証明は2重根の場合と同様なので省略します。
3つの多項式が共通根を持つための条件については
英語版 Wikipedia のこちらの記事
に記載があったので、それを参考に考察してみます。なお、このリンク先を読まなくても、以降の内容を読むぶんには問題ありません。また、もし他に良い判別方法をご存じであれば、ご教示いただければ幸いです。
$A$を可換環とし(可換環を知らない方は下の補足を参照)、2つの多項式$f,g \in A [x]$ に対し、その終結式を$R_x(f,g)$で表すことにします。
$f,g$が単なる$\mathbb C$係数多項式の場合だけでなく、$x^2+t_1x+t_2$のように係数に文字を含む場合も扱いたい、というためだけにこのような書き方をしています。なので、係数に文字を含む場合もある、ということだけ注意していただければ大丈夫です。
この記事では、終結式については以下の性質のみ知っていれば十分です。定義やより詳しい性質が知りたい方は、例えば こちら を参照して下さい。
$A$を可換環とする。2つの多項式$f,g \in A[x]$に対し、
(1) $f,g$が$\mathbb C$係数なら「$f,g$が共通根を持つ $\Longleftrightarrow R_x(f,g)=0$」が成り立つ。
(2) $R_x(f,g)$は、$f,g$の係数についての整数係数多項式である。
さて、3つの多項式$f,g,h \in \mathbb C[x]$に対してはどのように考えれば良いでしょうか。まず、次が成り立ちます。
3つの多項式$f,g,h \in \mathbb C[x]$に対し、
$$ f,g,h \text{ が共通根を持つ } \Longleftrightarrow \text{ 任意の複素数 }u,v \text{ に対して }f \text{ と } ug+vh \text{ が共通根を持つ }$$
$\Longrightarrow$は明らか。
$\Longleftarrow$を示す。任意の正の整数$k$に対し、$f$と$g+kh$は共通根を持つ。その共通根を1つ選び、$a_k$とおく。$a_k$は$f$の根であるから、$a_k$としてあり得る値は有限個である。したがって、数列$a_1,a_2,\ldots$には同じものが2回現れる。
$a_k=a_l=a \quad (k\neq l)$とおく。このとき
$$ f(a)=g(a)+kh(a)=g(a)+lh(a)=0$$
である。ここで
$$ g(a)+kh(a)=0$$
$$ g(a)+lh(a)=0$$
を連立方程式と見なして解けば、$g(a)=h(a)=0$を得る。したがって、$a$は$f,g,h$の共通根である。
$u,v$を変数と見なせば、多項式$f,g,h \in \mathbb C[x]$に対して$R_x(f,ug+vh)$は$u,v$の$\mathbb C$係数多項式となります。このことと命題2を用いて、以下が得られます。
$u,v$を変数とする。3つの多項式$f,g,h \in \mathbb C[x]$に対し、$$ R_x(f,ug+vh)= \sum_{i,j}R_{ij}u^iv^j \quad (R_{ij}\in \mathbb C)$$
とおいたとき、
$$ f,g,h \text{ が共通根を持つ }\Longleftrightarrow R_{ij}=0 \quad (\forall i,j)$$
$(\Longrightarrow)$$f,g,h$が共通根を持つとすると、命題2より、任意の複素数$u_0,v_0$に対して$R_x(f,u_0g+v_0h)=0$となる。すなわち、多項式$\sum_{i,j}R_{ij}u^iv^j$は、$u,v$にいかなる複素数を代入しても$0$になる。これが成り立つのは、$R_{ij}=0 \quad (\forall i,j)$の時のみである。
($\Longleftarrow$) $R_{ij}=0 \quad (\forall i,j)$が成り立つとする。このとき$R_x(f,ug+vh)=0$であるから、任意の複素数$u_0,v_0$に対して$R_x(f,u_0g+v_0h)=0$となる。したがって、命題2より$f,g,h$は共通根を持つ。
この結果を$f,f',f''$に適用します。以下の系においては、$f',f''$は$x$についての(偏)微分を表すこととします。
$t_1,\ldots,t_n,u,v$を変数とし、$f(x)=x^n+t_1x^{n-1}+\cdots + t_n$とおく。$R_x(f,uf'+vf'')$は$t_1,\ldots,t_n,u,v$の多項式であるので
$$ R_x(f,uf'+vf'')= \sum_{i,j}R_{ij}(t_1,\ldots,t_n)u^iv^j \quad (R_{ij}(t_1,\ldots,t_n)\in \mathbb C[t_1,\ldots,t_n])$$
と表せる。このとき、任意の$s_1,\ldots, s_n \in \mathbb C$に対して
$$ x^n+s_1x^{n-1}+\cdots + s_n\text{ が3重根を持つ }\Longleftrightarrow R_{ij}(s_1,\ldots, s_n)=0 \quad (\forall i,j)$$
が成り立つ。
$\boldsymbol{s}=(s_1,\ldots,s_n)\in \mathbb C^n$に対し、$f_{\boldsymbol s}=x^n+s_1x^{n-1}+\cdots + s_n$とおく。等式
$$ R_x(f,uf'+vf'')= \sum_{i,j}R_{ij}(t_1,\ldots,t_n)u^iv^j$$
の両辺に$t_1=s_1,\ldots,t_n=s_n$を代入すると
$$ R_x(f_{\boldsymbol s},uf_{\boldsymbol s}'+vf_{\boldsymbol s}'')= \sum_{i,j}R_{ij}(s_1,\ldots,s_n)u^iv^j$$
となるから、あとは定理3を適用すれば良い。
これはまさに、前回の記事における「問題2」の解答が Yes であることを意味しています。したがって、前回に記事における「問題3」、「問題4」の答えも Yes となります。
$n$次多項式の3重根判別式の十分な組は存在する。
$X_3(n)$はアフィン代数的集合である。
更に言うと、定理3 系 における$R_{ij}$は整数係数です。
$f,uf'+vf''$はともに、$t_1,\ldots,t_n,u,v,x$についての整数係数多項式である。終結式の性質から、$R_x(f,uf'+vf'')$は$t_1,\ldots,t_n,u,v$についての整数係数多項式となる。
したがって、
$n$次多項式の3重根判別式の十分な組であって、それぞれが整数係数であるものが存在する。
などと言えます。
というわけで、当初の問題の解答が得られました。しかしこの方針では、得られた3重根判別式がどのようなものなのか、具体的なことはほとんど分かりません。気になる方は、コンピューターなどで実際に計算してみて下さい。ちなみに、上では$R_x(f,uf'+vf'')$としましたが、$R_x(f',uf+vf'')$や$R_x(f'',uf+vf')$でも同様です。$R_x(f'',uf+vf')$は他より行列のサイズが小さくなるので、これを使うと良いかもしれません。
方針2による考察は以上となります。続いて方針3による考察に入ります。
多項式$f(x)=a(x-a_1)\cdots(x-a_n)\in \mathbb C[x]$に対し、通常の重根(2重根)についての判別式は、$$ D(f)=\prod_{i< j}(a_i-a_j)^2$$
と定義されるものでした。この定義式は、
(1) $D(f)$は$a_1,\ldots,a_n$の対称式である。
(2) $D(f)=0$であることと$a_1,\ldots,a_n$のうち2つが等しいことが同値
ということが一目で分かる、素晴らしい式です。
3重根についても同じような式が見つからないでしょうか。すなわち、多項式$D_1,\ldots,D_k \in \mathbb C[a_1,\ldots,a_n]$で、
(1) $D_1,\ldots,D_k$は$a_1,\ldots,a_n$の対称式である。
(2) $D_1=\cdots=D_k=0$であることと$a_1,\ldots,a_n$のうち3つが等しいことが同値
ということが一目で分かるようなものはあるでしょうか。自分なりに考えてみましたが、
までは良くても、
が一目で分かるような式を見つけるのは難しいというのが現状です。とりあえず、分かったことを書きます。
もしよければ、みなさんも探してみて、難易度を体感して下さい(筆者が気づいていない簡単な答えがあるかもしれませんし)。
記号、用語を少し整備します。以下で定義されるの記号、用語は筆者独自のものです。
$a_1,\ldots,a_n$についての$\mathbb C$係数対称式全体の集合を$\mathbb C[a_1,\ldots,a_n]^{\mathrm{sym}}$で表すことにします。
$\mathcal D_3^{\mathrm{sym}}(n)=\{ D\in \mathbb C[a_1,\ldots,a_n]^{\mathrm{sym}} \ | \ \text{複素数 }z_1,\ldots,z_n\text{ のうち3つが等しいならば }D(z_1,\ldots,z_n)=0 \}$
と定めます。$\mathcal D_3^{\mathrm{sym}}(n)$は$\mathbb C[a_1,\ldots,a_n]^{\mathrm{sym}}$のイデアルになります (詳しい方向けに言うと、斉次イデアルになります)。$\mathcal D_3^{\mathrm{sym}}(n)$も$n$次多項式の3重根判別イデアルと呼ぶことにします。また、$\mathcal D_3^{\mathrm{sym}}(n)$の元も$n$次多項式の3重根判別式と呼ぶことにします。必要があれば違う用語を作ります。
$n$次多項式の3重根判別式の組$\{ D_1,\ldots,D_k \}\subset \mathcal D_3^{\mathrm{sym}}(n)$が十分であるとは、任意の$z_1,\ldots,z_n \in \mathbb C$に対し
$$ z_1,\ldots,z_n \text{ のうち3つが等しい }\Longleftrightarrow D_i(z_1,\ldots,z_n)=0 \quad (i=1,\ldots,k)$$
が成り立つことを言う。
ここまでは定義を厳密にするために$a_1,\ldots,a_n$と$z_1,\ldots,z_n$を使い分けましたが、以降はあまり区別せずに記述したいと思います。必要なら直します。
では、見つかった3重根判別式を紹介していきます。以下ではその都度$n$を固定するので、「$n$次多項式の」は省略する場合があります。
早速見ていきましょう。
$$ D_0=(a_1-a_2)^2+(a_1-a_3)^2+(a_2-a_3)^2$$
$$ D_1=a_3(a_1-a_2)^2+a_2(a_1-a_3)^2+a_1(a_2-a_3)^2$$
は3重根判別式である。
どうでしょうか。対称式であること、$a_1=a_2=a_3$のとき$0$になることがすぐに分かりますね。これらは以下のように容易に一般化されます。
$k$を非負整数としたとき、
$$ D_k=a_3^k(a_1-a_2)^2+a_2^k(a_1-a_3)^2+a_1^k(a_2-a_3)^2$$
は3重根判別式である。
以下、「$n=3$の場合」の中では、$D_k$は上記の多項式を表すとします。この形以外にも例えば
$$ (a_1+a_2)(a_1-a_2)^2 + (a_1+a_3)(a_1-a_3)^2 + (a_2+a_3)(a_2-a_3)^2$$
というものもあり、さらに以下のように一般化することができます。
$g(a_1,a_2,a_3)\in \mathbb C[a_1,a_2,a_3]$を、$a_1,a_2$について対称な多項式とする。このとき
$$ g(a_1,a_2,a_3)(a_1-a_2)^2+g(a_1,a_3,a_2)(a_1-a_3)^2+g(a_2,a_3,a_1)(a_2-a_3)^2$$
は3重根判別式である。
実は、3次多項式の3重根判別式はすべて命題9の形で表されます。証明は長くなるので割愛します。別に記事を書くかもしれません。
ちなみに、ある3重根判別式が命題9の形で表されるとき、$g$は一意ではありません(これ伏線です)。
$g(a_1,a_2,a_3)=(a_1-a_3)(a_2-a_3)$として命題9の3重根判別式を考えると、
$$ (a_1-a_3)(a_2-a_3)(a_1-a_2)^2 + (a_1-a_2)(a_3-a_2)(a_1-a_3)^2 + (a_2-a_1)(a_3-a_1)(a_2-a_3)^2$$
$$ =(a_1-a_2)(a_1-a_3)(a_2-a_3)\{ (a_1-a_2) - (a_1-a_3) + (a_2-a_3) \} = 0$$
また、
$$ (a_1-a_2)(a_1-a_3)+(a_2-a_1)(a_2-a_3)+(a_3-a_1)(a_3-a_2)$$
という3重根判別式もあります。一見して命題9の形をしていないように見えますが、計算してみると$\disp \frac 12 D_0$に等しいことが分かります。
さて、3重根判別式が沢山見つかったわけですが、十分な組を作ることは出来るでしょうか。結論から述べます。
$\{D_0,D_1\}$は3重根判別式の十分な組である。
まず
$$ b=-(a_1+a_2+a_3), \qquad c=a_1a_2+a_1a_3+a_2a_3, \qquad d=-a_1a_2a_3$$
とおく。なお、これは前回の記事の「3次の場合」の節に合わせた記号である。このとき
$$ D_0=2a_1^2+2a_2^2+2a_3^2-2a_1a_2-2a_1a_3-2a_2a_3 = 2b^2-6c=2(b^2-3c),$$
$$ D_1=a_1^2a_2+a_1a_2^2+a_1^2a_3+a_1a_3^2+a_2^2a_3+a_2a_3^2-6a_1a_2a_3 = -bc+9d=9d-bc$$
であるから、前回の記事の「3次の場合の補足」の結果から、
$$ D_0=D_1=0 \Longleftrightarrow x^3+bx^2+cx+d \text{ は3重根を持つ } \Longleftrightarrow a_1=a_2=a_3$$
を得る。
一応証明はできましたが、通常の判別式のように式の形を活かした証明はないものでしょうか。そのように考えた結果、以下の証明も得られました。
$\{D_0,D_1,D_2\}$は3重根判別式の十分な組である。
$D_0=D_1=D_2=0$とすると、
$$ (a_1-a_2)^2+(a_1-a_3)^2+(a_2-a_3)^2=0$$
$$ a_3(a_1-a_2)^2+a_2(a_1-a_3)^2+a_1(a_2-a_3)^2=0$$
$$ a_3^2(a_1-a_2)^2+a_2^2(a_1-a_3)^2+a_1^2(a_2-a_3)^2=0$$
より
$$ \matcc 111{a_3}{a_2}{a_1}{a_3^2}{a_2^2}{a_1^2}\matca {(a_1-a_2)^2}{(a_1-a_3)^2}{(a_2-a_3)^2}=\matca 000$$
である。もし$a_1,a_2,a_3$がどの2つも異なるならば、Vandermonde 行列式の性質から$\matcc 111{a_3}{a_2}{a_1}{a_3^2}{a_2^2}{a_1^2}$は正則であるから
$$ (a_1-a_2)^2=(a_1-a_3)^2=(a_2-a_3)^2=0$$
となり、$a_1=a_2=a_3$が得られるが、$a_1,a_2,a_3$がどの2つも異なるとしていたことに矛盾。よって、$a_1,a_2,a_3$のうち少なくとも2つは等しい。対称性より$a_1=a_2$としてよい。このとき$D_0=0$より
$$ 2(a_1-a_3)^2=0$$
となり、$a_1=a_3$を得る。
一目で分かる、とまではいきませんでしたが、比較的自然な式変形のみで証明できた、と言えるのではないでしょうか。しかし、$D_2$という余分な式が現れています。これについては、以下の補題で解消できます。
$3D_2-2(a_1+a_2+a_3)D_1+(a_1a_2+a_1a_3+a_2a_3)D_0=0$
例1 の$g(a_1,a_2,a_3)$を変形すると
$$ \begin{eqnarray}
(a_1-a_3)(a_2-a_3) &=& a_3^2-(a_1+a_2)a_3 + a_1a_2 \\
&=& a_3^2 - (a_1+a_2)a_3 + (a_1a_2+a_1a_3+a_2a_3) -a_1a_3-a_2a_3 \\
&=& a_3^2 - 2(a_1+a_2)a_3 + (a_1a_2+a_1a_3+a_2a_3) \\
&=& a_3^2 - 2(a_1+a_2+a_3)a_3 + 2a_3^2 + (a_1a_2+a_1a_3+a_2a_3) \\
&=& 3a_3^2 - 2(a_1+a_2+a_3)a_3 + (a_1a_2+a_1a_3+a_2a_3)
\end{eqnarray}$$
となり、例1の結果と合わせて補題を得る。
したがって、$D_0=D_1=0$ならば$D_2=0$となるので、$\{D_0,D_1\}$が十分であることが示されます。
さらに$\{ D_0,D_1 \}$は、ある意味で"最小限の"十分な組であると言えます。
3次多項式の3重根判別式で2次以下のものは、$D_0$の定数倍しかない。
2次以下の$a_1,a_2,a_3$の対称式は、$c_1,c_2,c_3,c_4 \in \mathbb C$を用いて
$$ D(a_1,a_2,a_3)= c_1(a_1^2+a_2^2+a_3^2)+c_2(a_1a_2+a_1a_3+a_2a_3)+c_3(a_1+a_2+a_3)+c_4$$
と表せる。$a_1=a_2=a_3=a$とすると
$$ D(a,a,a)=3(c_1+c_2)a^2+3c_3a+c_4$$
となる。これが任意の$a\in\mathbb C$で$0$になるには、
$$ c_1+c_2=c_3=c_4=0$$
が成り立つことが必要十分。このとき
$$ D(a_1,a_2,a_3)=c_1(a_1^2+a_2^2+a_3^2-a_1a_2-a_1a_3-a_2a_3)=\frac {c_1}2D_0$$
となる。
したがって、できるだけ低い次数の3重根判別式で十分な組を作ろうと思ったら、まず$D_0$をとり、次に3次式をとるしかないわけです。ちなみに$D_0$だけだと、$\disp \omega=\frac {-1+\sqrt{-3}}2$として
$$ D_0(1+\omega,1,0)=\omega^2+(1+\omega)^2+1^2 = 2(\omega^2+\omega+1)=0$$
となってしまうので、$\{D_0\}$は十分な組にはなりません。
さて、$n=3$の場合の議論は以上としますが、$\mathcal D_3^{\mathrm{sym}}(3)$について、もういくつか分かっていることがあります。先ほど述べた
の他に、
ということも分かっています。これらについては別に記事を書くかもしれません。
3重根の判別式③ 考察・後編 に続きます。