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3重根の判別式① 序論

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この記事は3本立てとなっております。
②はこちら
③はこちら


 以下、複素数の範囲で考えます。特に断りが無ければ、多項式の係数などはすべて複素数とします。

aを複素数とする。多項式f(x)(xa)3で割り切れるとき、af(x)3重根であるという。

(xa)4で割り切れる場合も3乗根の一種と見なすことにします。

 さて、以下の問題を考えます。

与えられた多項式が3重根を持つかどうかを判別することは出来るか?

 「判別することは出来るか?」というのは曖昧ですが、あとで厳密に定式化します。

 通常の重根の場合はよく知られた結果がありますが、3重根の場合はそういうものがないようです(筆者調べ)。なので、自分なりに考えてみたところ、意外と奥が深そうだったので、皆さんと共有したいなと思い記事を書きました。もし何かご存じの方、もしくは何か思いついた方がいれば、お知らせいただけると幸いです。

 長くなってしまったので、記事を3つに分けることにしました。この記事では、よく知られた事実や簡単な場合の結果を確認し、それを元に考察の方針を立てます。また、扱う概念や記号を整備します。続く2つの記事では、ここで立てた方針を元に考察した結果を紹介します。  

重根(2重根)の場合の復習

 以下のことはよく知られています。

多項式f(x)に対し、以下は同値:
(1) f(x)が重根を持つ。
(2) f(x)の判別式が0.
(3) f(x)f(x)が共通根を持つ。

 念のため、判別式の定義を書いておきます。f(x)=a(xa1)(xan)としたとき、f(x)の判別式D(f)
D(f)=i<j(aiaj)2
と定義されます。 i<jというのは、i<jであるようなすべてのi,jの組にわたって積を取るという意味です。これに何かしらの定数をかけて定義される場合もありますが、ここではこの定義を採用します。
 式を見れば、「f(x)が重根を持つ D(f)=0」が成り立つことは明らかですね。また、D(f)a1,,anについての対称式なので、f(x)の係数で表せます。したがって、f(x)が因数分解されていない状態でも、(理論上は)判別式を求めることが出来ます。
 (3)についても証明を書いておきます。

(1)(3)

(1)(3) f(x)が重根aを持つとする。このときある多項式g(x)によって
f(x)=(xa)2g(x)
と表せる。微分すると
f(x)=2(xa)g(x)+(xa)2g(x)
となり、f(x)f(x)は共通根aを持つ。
(3)(1) f(x)f(x)が共通根aを持つとする。ある多項式g(x)によって
f(x)=(xa)g(x)
と表せる。微分すると
f(x)=g(x)+(xa)g(x)
となる。f(x)aを根に持つからf(a)=0. これよりg(a)=0が従う。よってg(x)aを根に持つ。g(x)=(xa)h(x)とおくと
f(x)=(xa)2h(x)
であるから、af(x)の重根である。

 一般に、2つの多項式f(x),g(x)が共通根を持つことは、f(x)g(x)の"終結式"と呼ばれる値が0になることと同値です。終結式については、例えば こちら を参照して下さい。したがって、
f(x) が重根を持つ f(x) と f(x) の終結式が 0
とも言えます。

3次の場合

 では、3重根の話を始めましょう。簡単のため、以降はモニック(最高次係数が1)な多項式のみ扱います。
 f(x)が3次の場合、比較的容易に結論を得ることが出来ます。f(x)=x3+bx2+cx+dとおきます。f(x)が3重根αを持つとき、根と係数の関係から
3α=b,3α2=c,α3=d
となります。第1式よりα=b3なので、第2式、第3式に代入して整理すれば
b23c=0, b327d=0
が得られます。逆に、この2つの式が成り立つならば、c=b23, d=b327より
f(x)=x3+bx2+cx+d=x3+bx2+b23+b327=(x+b3)3
となるので、f(x)は3重根を持ちます。以上から、

多項式f(x)=x3+bx2+cx+dが3重根を持つことは、
b23c=0,b327d=0
が成り立つことと同値。

と結論づけられます。

 注目すべきは、式が2つ必要になったことです。これは2重根の場合との大きな違いであり、話を複雑化する要因になっています。(厳密に言えば、1つの式にまとめられないかどうかはきちんと議論する必要がありますが、ひとまず置いておきます。)
 f(x)が一般の次数の場合も、同様に2つ以上の式が必要になると予想されます。というわけで、我々の目標は、"いくつかの"多項式D1,,Dkをうまく見つけて、
f(x)=xn+s1xn1++sn が3重根を持つ Di(s1,,sn)=0 (i=1,,k)
が成り立つようにすること、となります。

(問題1の厳密な定式化)

 多項式D1,,DkC[t1,,tn]で、任意のs1,,snCに対して
f(x)=xn+s1xn1++sn が3重根を持つ Di(s1,,sn)=0 (i=1,,k)
を満たすものは存在するか。

 ここで、C[t1,,tn]t1,,tnについてのC係数多項式全体の集合です。
 問題2の解答は既に得られています。次の記事で紹介します。

とりあえず Yes か No かだけ知りたい人へのネタバレ

 問題2の答えは「存在する」です。

方針

 問題2の条件を満たすD1,,Dkを得るためにはどうすれば良いでしょうか。考えられる方針をいくつか挙げます。

方針1: 3次の場合と同様の方法

 3次の場合と同様に、n次多項式の場合も①根を文字で置き、②根と係数の関係を用いて式を立て、③根を消去する、という方針が考えられます。ただ、一般のnで考えた場合、筆者は特に手が着けられませんでした。何か分かる方がいらっしゃればお知らせ下さい。

方針2: f(x),f(x),f(x)が共通根を持つことを利用

 2重根の場合と同様に、
f(x) が3重根を持つ f(x),f(x),f(x) が共通根を持つ 
が成り立つことが証明できます。3つの多項式が共通根を持つかどうかの判別方法を探したところ、1つ見つかりました。次の記事で、それを使った議論を紹介したいと思います。この方針により、問題2の解答を得ることが出来ます。

方針3: 通常の判別式の類似を探す

 通常の重根(2重根)についての判別式は、「a1,,anのうち2つが等しければ0になるような、a1,,anの対称式」を考えると自然に見つかります。となれば、3重根の判別式を探すには「a1,,anのうち3つが等しければ0になるような、a1,,anの対称式」を考えれば良いと考えられます。実際にそのような多項式をいくつか見つけましたので、次とその次の記事で紹介します。皆さんは見つけられますか?

 本格的な考察に入る前に、以下でもう少し議論の土台を固めます。

3次の場合の補足

 3次の場合については、補足すべき話があります。3重根を持つかどうかを判別する条件式は、実は定理2で挙げたものだけではありません。
 定理2で得られた式b23c=0, b327d=0を順に①、②とします。例えば①をb倍して②を引くと
27d3bc=0
すなわち
9dbc=0
が得られます。これを③とします。①と②から③が示されたわけですが、実は①と③から②を導くことも出来ます。実際、①のb倍から③の3倍を引くと②になります。したがって、

多項式f(x)=x3+bx2+cx+dが3重根を持つことは、
b23c=0,9dbc=0
が成り立つことと同値。

とも言えるわけです。
 一意性が無いことについては、もうそういうものだと割り切ってしまうのが良いと筆者は思います。何かしらの理由をつけて1つに決めることは出来るかもしれませんが、この記事ではそういった話題は扱いません。

 このように一意性が無い状況において、数学ではしばしば取られる手段があります。それは、考え得る対象を全て集めた集合を考えることです。

3重根判別イデアル

 この節で定義される記号や用語は、筆者独自のものです。
 集合D3(n)を、次のように定義します。

D3(n)={D(t1,,tn)C[t1,,tn] | xn+s1xn1++snC[x] が3重根を持つならば D(s1,,sn)=0}

 D3(n)の元をn次多項式の3重根判別式と呼ぶことにします。上で見た通り、1つの判別式だけでは3重根を持つかどうかを判別することはできません。そこで、以下の表現を用います。

n次多項式の3重根判別式の組{D1,,Dk}十分であるとは、
xn+s1xn1++sn が3重根を持つ Di(s1,,sn)=0 (i=1,,k)
が成り立つことを言う。

 問題2は、次のように言い換えることが出来ます。

(問題2の言い換え)

n次多項式の3重根判別式の十分な組は少なくとも1組存在するか。

 また、環論を知っている方向けに言えば、D3(n)C[t1,,tn]のイデアルになります。そこで、D3(n)n次多項式の3重根判別イデアルと呼ぶことにします。
 集合D3(n)に着目することですぐに何かが分かる、というわけでは無いのですが、概念に記号や名前を与えるだけでもいろいろ考えやすくなるものです。また、以下の代数幾何の話に繋がります。  

ちょっと代数幾何

 鋭い方であれば、問題2や問題3は代数幾何の問題と見なせる、ということにお気づきのことと思います。ただ、筆者の浅い知識では、代数幾何を応用して何かするということは今のところ出来ておりません。この節では、代数幾何の言葉への言い換えを紹介するに留めます。何か分かる方がいらっしゃいましたらお知らせください。

 どのようにして幾何の話に持っていくのかというと、多項式xn+s1xn1++snCnの点(s1,,sn)と同一視することによって行います。これにより、「3重根を持つn次モニック多項式全体の集合」をCnの部分集合とみなすことが出来ます。
X3(n)={(s1,,sn)Cn | xn+s1xn1++snC[x] が3重根を持つ }
とおきます。この集合についてどのようなことが分かるかを考えるわけです。なお、X3(n)という記号も筆者独自のものです。

 以下、代数幾何の用語や記号を用います。


代数幾何の基本的な用語、記号

(1) 多項式fC[t1,,tn]に対し、Cnの部分集合V(f)を以下で定める:
V(f)={(s1,,sn)Cn | f(s1,,sn)=0}
これをf零点集合という。

(2) C[t1,,tn]の部分集合Sに対し、V(S)=fSV(f)と定める。Sが有限集合{f1,,fk}の場合、V(S)V(f1,,fk)とも書く。

(3) Cnの部分集合Xアフィン代数的集合であるとはX=V(S)を満たすSC[t1,,tn]が存在することを言う。もしXが代数的集合なら、有限個の多項式f1,,fkによってX=V(f1,,fk)と表されることが知られている。

(4) Cnの部分集合Xに対し、集合I(X)を以下で定める:
I(X)={fC[t1,,tn] | XV(f)}
I(X)C[t1,,tn]のイデアルとなる。


 多項式DC[t1,,tn]が3重根判別式であることは、X3(n)V(D)が成り立つこと、と言い換えられます。さらに、D3(n)の定義とI(X)の定義を見比べると、
D3(n)=I(X3(n))
であることが分かります。
 また、n次多項式の3重根判別式の組{D1,,Dk}が十分であるということは、
V(D1,,Dk)=X3(n)
と同値です。したがって、問題3はさらに次のように言い換えられます。

(問題3の言い換え)

X3(n)はアフィン代数的集合か。

 このように、代数幾何の概念が綺麗に当てはまります。言い換えたことによる恩恵は今のところ得られていないのですが、代数幾何の問題として考えるのが自然である、というのは間違いないと思います。

  3重根の判別式② 考察・前編  に続きます。

投稿日:20231220
更新日:20231222
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koumei
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(2023/11/30)別名義を使ってましたが、OMCでの名義に揃えました。

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  1. 重根(2重根)の場合の復習
  2. 3次の場合
  3. 方針
  4. 方針1: 3次の場合と同様の方法
  5. 方針2: $f(x),f'(x),f''(x)$が共通根を持つことを利用
  6. 方針3: 通常の判別式の類似を探す
  7. 3次の場合の補足
  8. 3重根判別イデアル
  9. ちょっと代数幾何