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現代数学解説
文献あり

Henriciの三重積公式

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前の記事( 超幾何級数の積 , 超幾何級数の積2 )において, 超幾何級数の積を再び超幾何級数で表すタイプの公式を示したが, それらは全て2つの積に関するものだった. 今回は超幾何級数の3つの積が再び超幾何級数になる以下のような公式を示す.

Henrici(1987)

ω:=e2πi3とするとき,
0F1[a;x]0F1[a;ωx]0F1[a;ω2x]=2F7[a214,a2+14a,a3,a+13,a+23,2a13,2a3,2a+13;(49x)3]
が成り立つ.

0F1はBessel関数として古くから研究されてきたが, 上の等式が示されたのは1987年と比較的最近である. 超幾何級数が何らかの累乗になっている場合や指数関数で書ける場合を除いて, パラメータが入った超幾何級数の3つの積が再び超幾何級数で表されるというタイプの結果は他に見たことが無い.

超幾何級数が何らかの累乗になっている場合として, 例えば1F0の場合,
1F0[a;x]=(1x)a
であるので,
1F0[a;x]1F0[a;ωx]1F0[a;ω2x]=(1x3)a=1F0[a;x3]
と表される.

定理の証明の前にいくつか補題を用意する. Appellの超幾何関数を
F2[a,b,cd,e;x,y]:=0n,m(a)n+m(b)n(c)mn!m!(d)n(e)mxnymF4[a,bc,d;x,y]:=0n,m(a,b)n+mn!m!(c)n(d)mxnym
とする.

二次変換公式

F4[a,a+12bc,b+12;x,y2]=(1+y)2aF2[a,a+12b,bc,2b;x(1+y)2,4y(1+y)2]

F4[a,a+12bc,b+12;x,y2]=0n,m(a,a+12b)n+mn!m!(c)n(b+12)mxny2m=0n(a,a+12b)nn!(c)nxn2F1[a+n,a+12b+nb+12;y2]
ここで, 2F1の二次変換公式
2F1[a,a+12bb+12;y2]=1(1+y)2a2F1[a,b2b;4y(1+y)2]
において, aa+nとして,
2F1[a+n,a+12b+nb+12;y2]=1(1+y)2a+2n2F1[a+n,b2b;4y(1+y)2]
を得る. よって,
F4[a,a+12bc,b+12;x,y2]=(1+y)2a0n(a,a+12b)nn!(c)n(x(1+y)2)n2F1[a+n,b2b;4y(1+y)2]=(1+y)2a0n(a)n+m(a+12b)n(b)mn!m!(c)n(2b)m(x(1+y)2)n(4y(1+y)2)m
が得られる.

a=nが負整数のとき,
F2[a,b,cd,e;1,x]=(db)n(d)n0m(a,c,1+ad)mm!(e,1+a+bd)mxm

Gaussの超幾何定理より,
F2[a,b,cd,e;1,x]=0n,m(a)n+m(b)n(c)mn!m!(d)n(e)mxm=0m(a)n+m(b)n(c)mn!m!(d)n(e)mxm2F1[a+m,be;1]=0m(a,c)mm!(e)mxm2F1[a+m,bd;1]=0m(a,c)mm!(e)mxmΓ(d)Γ(dabm)Γ(dam)Γ(db)=(db)n(d)n0m(a,c,1+ad)mm!(e,1+a+bd)mxm
となって示される.

n=3kのとき,
3F2[n,a12,1na2a1,22a2n;4]=(3k)!(a12)2k4kk!(a)k(a12)3k
が成り立つ.

Baileyによる3次変換公式
3F2[3a,b,3ab+122b,6a2b+1;4x]=(1x)3a3F2[a,a+13,a+23b+12,3ab+1;27x24(1x)3]
において, a=nとすると, 右辺は
(1x)3n3F2[n,n+13,n+23b+12,13nb;27x24(1x)3]
となる. ここで, x1とすると, 超幾何級数の定数項だけが残り, それは
(3n)!(b)2n4nn!(b+12)n(b)3n
に一致する. よって,
3F2[3n,b,3nb+122b,16n2b;4]=(3n)!(b)2n4nn!(b+12)n(b)3n
を得る. ba12,nkとすれば, 示すべき等式になる.

以下は, Karlsson-Srivastavaによる1990年の証明である.

定理1の証明

まず, 左辺の3k+1,3k+2次の係数は0である. 左辺を展開すると,
0F1[a;x]0F1[a;ωx]0F1[a;ω2x]=0nxn0i,jωiω2ji!(a)ij!(a)j(nij)!(a)nij=0nxnn!(a)n0i,j(n,1na)i+ji!(a)ij!(a)jωiω2j=0nxnn!(a)nF4[n,1naa,a;ω,ω2]
となる. ここで, 補題2, 補題3, 補題4を用いると, n=3kのとき,
F4[n,1naa,a;ω,ω2]=ωnF2[n,1na,a12a,2a1;1,4]=4n(a12)n(2a1)n3F2[n,a12,1na2a1,22a2n;4]=24k(3k)!(a12)2k(2a1)3kk!(a)k
であるから, これを代入して定理を得る.

この等式は
0F1[a;x]0F1[a;ωx]0F1[a;ω2x]=0n(2a1)2nn!(a)n(a)2n(a,2a1)3nx3n
と書くこともできる. 例として, a=1の場合,
0nxnn!20m(ωx)mm!20l(ω2x)ll!2=0n(4n)!n!2(2n)!(3n)!2x3n
が成り立つ.

参考文献

[1]
Per W. Karlsson and H. M. Srivastava, A Note on Henrici's Triple Product Theorem, Proceedings of the American Mathematical Society, 1991, 85-88
投稿日:28日前
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Wataru
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超幾何関数, 直交関数, 多重ゼータ値などに興味があります

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