Killingスピノルは$\nabla_X\psi=aX\psi$を満たすスピノルですが、まずそれがいつ存在するのかを調べましょう。
新しい接続を
$$
\bar\nabla_X\psi=\nabla_X\psi-aX\psi
$$
で定義すると、Killingスピノルは$\bar\nabla$に関する平行切断となります。従って$\bar\nabla\psi=0$という偏微分方程式の積分可能条件は$\bar\nabla$に関する曲率$\bar R$が消えることです。
\begin{align}
\bar\nabla_X\bar\nabla_Y\psi&=\bar\nabla_X(\nabla_Y\psi-aY\psi)=\nabla_X(\nabla_Y\psi-aY\psi)-aX(\nabla_Y\psi-aY\psi)\\
&=\nabla_X\nabla_Y\psi-a(\nabla_XY)\psi-aY\nabla_X\psi-aX\nabla_Y\psi+a^2XY\psi\\
\bar\nabla_{[X,Y]}\psi&=\nabla_{[X,Y]}\psi-a[X,Y]\psi=\nabla_{[X,Y]}\psi-a\nabla_XY\psi+a\nabla_YX\psi
\end{align}
より
$$
\bar R(X,Y)\psi=R(X,Y)\psi+a^2(XY-YX)\psi
$$
となります。
よって積分可能条件$\bar R=0$は
$$ R(X,Y)\psi=-a^2(XY-YX)\psi=-2a^2XY\psi-2a^2g(X,Y)\psi $$
となります。
さらに
曲率作用素とLichnerowiczの公式
の公式1を使うと
$$
Ric(Y)\psi=\sum_ie_iR(e_i,Y)\psi=2a^2nY\psi-2a^2\sum_ig(Y,e_i)e_i\psi=2a^2(n-1)Y\psi
$$
と
\begin{align}
\sum_ie_iRic(e_i)\psi&=-4a^2(n-1)n\\
R&=4a^2n(n-1)
\end{align}
が得られます。従って、次が得られました。
擬リーマンSpin多様体がKillingスピノルを持てば定スカラー曲率となる。
定スカラー曲率$R$が正ならKilling数$a$は実数で、$R$が負ならKilling数$a$は純虚数であることも分かりました。
またリーマン多様体のときはより強く次が成り立ちます。
リーマンSpin多様体がKillingスピノルを持てば、Einstein多様体である。
$Ric(X)\psi=2a^2(n-1)X\psi$より
\begin{align}
&\sum_iRic(X,e_i)e_i=\sum_i2a^2(n-1)g(X,e_i)e_i\\
&\sum_i(Ric(X,e_i)-2a^2(n-1)g(X,e_i))e_i=0
\end{align}
となる。
今、$ \sum_iX^ie_i\psi=0$が成り立つとき、$\sum_{i,j}(X^je_j)X^ie_i\psi=-\sum_i(X^i)^2\psi=0$となるから、$X^i=0$である。よって$Ric(X,e_i)=2a^2(n-1)g(X,e_i)$となるからEinstein多様体である。
$a=0$のとき、$\nabla\psi=0$となります。これは平行スピノルと呼ばれます。上の命題の証明より次が得られます。
平行スピノルを持つリーマンSpin多様体はRicci平坦である。