0
応用数学解説
文献あり

発見的手法による四元数の複素行列表現の構成

55
0

シリーズ: 四元数の行列表現

四元数の複素行列表現を、なるべく素朴な考え方によって発見的に構成します。

四元数の複素ベクトル表現

四元数a+bi+cj+dk (a,b,c,dR)を複素数の組として表現します。

a+bi+cj+dk=(a+bi)+(c+di)j

これを単純に複素ベクトルに対応させます。

(a+bi)+(c+di)j(a+bic+di)

このベクトル表現によって、四元数の基本操作がどのように表現されるか確認してみます。

左からiを掛ける操作

四元数に左からiを掛ける操作を考えます。計算してベクトルに対応させます。

i(a+bi+cj+dk)=aib+ckdj=(b+ai)+(d+ci)j(b+aid+ci)
この操作をベクトルの変換として考えます。

(a+bic+di)i×(b+aid+ci)

これは各成分にiを掛けているだけのため、行列による変換は以下のようになります。

(i00i)(a+bic+di)=(b+aid+ci)

左からjを掛ける操作

次に、四元数に左からjを掛ける操作を考えます。

j(a+bi+cj+dk)=ajbkc+di=(c+di)+(abi)j(c+diabi)

この操作をベクトルの変換として考えます。

(a+bic+di)j×(c+diabi)

この変換を行列で表現できるでしょうか。

(????)(a+bic+di)=?(c+diabi)

成分の対応には複素共役操作が含まれており、複素共役は線形変換ではないため、行列を掛けるだけでは表現できません。

ひねりを加えた表現

最初からabiが含まれるように、四元数からベクトル表現へのマッピングに「ひねり」を加えます。(第1成分の虚部の符号反転)

a+bi+cj+dk(abic+di)

この表現では、左からjを掛ける操作は次のようになります:

j(a+bi+cj+dk)=ajbkc+di=(c+di)+(abi)j(cdiabi)

この操作をベクトルの変換として考えます。

(abic+di)j×(cdiabi)

この変換には複素共役が含まれないため、行列で変換が可能です。

(0110)(abic+di)=(cdiabi)

このように、ベクトル表現へのマッピングに最初から複素共役の形を埋め込むことで、線形変換として扱うことが可能になります。

完全な行列表現

このマッピングによって、iおよびkによる左乗算も複素行列で表現できます。

i(a+bi+cj+dk)=(b+ai)+(d+ci)j(i00i)(abic+di)=(baid+ci)
k(a+bi+cj+dk)=(dci)+(b+ai)j(0ii0)(abic+di)=(d+cib+ai)

ここまでの結果をまとめます。

i×:MI=(i00i)j×:MJ=(0110)k×:MK=(0ii0)

これらの行列は四元数の乗算規則を満たしています。(1は単位行列Iに対応)

i2=j2=k2=1  MI2=MJ2=MK2=Iij=ji=k  MIMJ=MJMI=MKjk=kj=i  MJMK=MKMJ=MIki=ik=j  MKMI=MIMK=MJ

行列表現を線形結合させると、第1列がベクトル表現に一致することが分かります。

a+bi+cj+dk  aI+bMI+cMJ+dMK= a(1001)+b(i00i)+c(0110)+d(0ii0)= (abi(cdi)c+dia+bi) (abic+di)

まとめ

四元数を複素行列で表現するためには、単純なマッピングではなく、巧妙なひねりを加えることが本質的です。具体的には、第1成分の虚部の符号を反転させる表現を採用することで、四元数の乗算構造を完全に保存する複素行列表現が得られました。

a+bi+cj+dk(abic+di)

これは、複素共役のような非線形操作が、適切な表現を選ぶことで線形化できることを示す興味深い例です。

四元数の行列表現には任意性があります。一例として、パウリ行列の形に合わせるには、以下のように組み替えます。(それぞれiを掛ければパウリ行列が得られます)7shi-qp

IH:=MK=(0ii0)JH:=MJ=(0110)KH:=MI=(i00i)

IH,JHを決めれば、残りはKH=IHJH=MKMJ=MIより自動的に決まります。

参考文献

投稿日:24日前
更新日:22日前
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

7shi
7shi
32
7984

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 四元数の複素ベクトル表現
  2. 左からiを掛ける操作
  3. 左からjを掛ける操作
  4. ひねりを加えた表現
  5. 完全な行列表現
  6. まとめ
  7. 参考文献