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多項式関数の根における微分係数についての等式の別証

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$$\newcommand{disp}[0]{\displaystyle} \newcommand{Im}[0]{\mathrm{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\mathrm{Ker}} \newcommand{matab}[2]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \end{pmatrix}} \newcommand{matac}[3]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \end{pmatrix}} \newcommand{matba}[2]{\begin{pmatrix} #1 \\ #2 \end{pmatrix}} \newcommand{matbb}[4]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \end{pmatrix}} \newcommand{matbc}[6]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \\ #4 & #5 & #6 \end{pmatrix}} \newcommand{matca}[3]{\begin{pmatrix} #1 \\ #2 \\ #3 \end{pmatrix}} \newcommand{matcb}[6]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \\ #5 & #6 \end{pmatrix}} \newcommand{matcc}[9]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \\ #4 & #5 & #6 \\ #7 & #8 & #9 \end{pmatrix}} $$

 以前、 こちら の記事で以下の等式を示しました。

$K$を体とし、$a_1,\ldots,a_n \in K$を相異なる$2$個以上の元とする。$f(x)=(x-a_1)\cdots(x-a_n)$とおくと
$$ \sum_{i=1}^n\frac 1{f'(a_i)}=0$$
が成り立つ。

 この等式、計算上成り立つことは分かったのですが、直感的に納得できるような解釈は得られていませんでした。今回、良い感じのものが見つかったので、別証という形で述べたいと思います。ただし、複素数の場合限定です。鍵となるのは逆関数の微分です。

定理1の別証($K=\mathbb C$の場合)

 $f(x)$は重根を持たないから、各$i$に対して$f'(a_i)\neq 0$である。よって、各$i$に対し、$x=a_i$のある近傍$U_i$上で$f(x)$は逆関数を持つ。それを$g_i(y)$とおく。ここで、各$U_i$を十分小さくとり、$U_1,\ldots,U_n$がどの2つも共通部分を持たないとして良い。$g_i(0)=a_i$ であり、$g_i$$y=0$の近傍$V_i:=f(U_i)$上で定義される。$V_i$たちの共通部分を$V$とすれば、$V$$0$の近傍で、$V$上で$g_1(y),\ldots,g_n(y)$が定義される。
 さて、逆関数の微分の公式より
$$ g_i'(0)=\frac 1{f'(a_i)} \quad (i=1,\ldots,n)$$
である。したがって、示すべき式は
$$ g_1'(0)+\cdots+g_n'(0)=0$$
と表せる。さらに$h(y)=g_1(y)+\cdots+g_n(y)$とおけば(これは$V$上で定義される)、示すべき式は
$$ h'(0)=0$$
である。
 任意に$t \in V$をとり、$h(t)$を考える。$g_i(y)$$f(x)$の逆関数であったから、$f(g_i(t))=t$である。また、$g_i(t)\in U_i$であるので、$g_1(t),\ldots,g_n(t)$は相異なる。したがって、方程式$f(x)=t$は、相異なる$n$個の解
$$ x= g_1(t),\ldots,g_n(t)$$
を持つ。ここで$f(x)=x^n+c_{n-1}x^{n-1}+\cdots+c_0$とおけば、解と係数の関係から、
$$ h(t)=g_1(t)+\cdots+g_n(t)=-c_{n-1}$$
である(ここで$n\geqq 2$を用いている)。以上により、$h(y)$$V$上定数であるので、$h'(0)=0$を得る。

 分かりにくいかもしれませんが、「2次以上の多項式に定数を加えても、根の総和は変わらない」というのが本質的な部分です。この視点で見れば、$n \geqq 2$という仮定は自然なものであると分かります。
 複素数限定とはいえ、(個人的には)納得感のある証明ができたので、スッキリしました。

 同じ考え方で、別の等式を得ることもできます。証明と同じ記号を用いると、例えば$n \geqq 3$のとき
$$ h_2(y):=\sum_{i< j}g_i(y)g_j(y)$$
$V$上定数となることが上の証明と同様にして分かります。したがって、
$$ \begin{eqnarray} 0 &=& h_2'(0) \\ &=& \sum_{i< j}(g_i'(0)g_j(0)+g_i(0)g_j'(0)) \\ &=& \sum_{i \neq j} g_i'(0)g_j(0) \qquad (\text{$i\neq j$であるようなすべての組$(i,j)$にわたって和をとる})\\ &=& \sum_{i=1}^{n} \sum_{j \neq i} \frac {a_j}{f'(a_i)} \qquad (\text{2つめの$\Sigma$では、$i$以外のすべての$j$について和をとる})\\ &=& \sum_{i=1}^n \frac {(a_1+\cdots + a_n)-a_i}{f'(a_i)} \\ &=& \sum_{i=1}^n \frac {-c_{n-1}-a_i}{f'(a_i)} \\ &=& -c_{n-1}\sum_{i=1}^n \frac 1{f'(a_i)} - \sum_{i=1}^n \frac{a_i}{f'(a_i)} \end{eqnarray}$$

 ここで、最右辺の第1項は定理1より$0$となります。したがって、
$$\ \sum_{i=1}^n \frac{a_i}{f'(a_i)}=0$$
となります。これは こちら の記事で既に示した等式ですが、複素数の場合の別証が得られたことになります。
 $n\geqq 4$として$h_3(y) = \sum_{i< j< k}g_i(y)g_j(y)g_k(y)$を考えるなど、同様に考えていくことができますが、同じように以前示した等式が得られるものと思われます。

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koumei
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(2023/11/30)別名義を使ってましたが、OMCでの名義に揃えました。

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