0
大学数学基礎解説
文献あり

複素2次元ベクトルから2次元球面への射影

118
0
$$$$

複素数のペア$(z_0, z_1)$を2次元球面上の座標に対応させる方法を、なるべく初等的に説明します。

オイラーの公式を前提とします。

オイラーの公式

$$ e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta $$

複素数のペアと球面

複素数のペア$(z_0, z_1)$があり、その大きさの和が 1 になるように正規化されているとします。

$$ |z_0|^2 + |z_1|^2 = 1 $$

これは4次元空間(複素数は実数2つ分なので$2+2=4$次元)の中にある3次元球面の方程式です。

複素数$z_0, z_1$を極形式(絶対値と偏角)で表します。$|z_0|^2 + |z_1|^2 = 1$なので、絶対値を$\cos\theta,\ \sin\theta$とおくことができます($0 \le \theta \le \pi/2$)。

$$ \begin{pmatrix}z_0 \\ z_1\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}e^{i\alpha} \cos\theta \\ e^{i\beta} \sin\theta\end{pmatrix} $$

任意性

$\cos\theta,\ \sin\theta$の割り当てには任意性がありますが、本記事ではパウリ行列によって構成される標準的なブロッホ球の定義に準拠しています。7shi-h

グローバル位相の無視(自由度の減少)

複素数のペアは実数で4自由度を持つため、3次元空間内の2次元球面に射影するには自由度を1つ捨てる必要があります。

そのために、この複素数のペアに対して「全体を回転させても同じとみなす」というルールを導入します。複素数の掛け算における回転とは、絶対値が1の複素数$e^{i\omega}$を掛けることです。

$$ \begin{pmatrix} z_0 \\ z_1 \end{pmatrix} \sim e^{i\omega} \begin{pmatrix} z_0 \\ z_1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} e^{i\omega}z_0 \\ e^{i\omega}z_1 \end{pmatrix} $$

これは、2つの数の比$z_0 : z_1$だけに注目し、全体にかかる余分な係数を無視することに相当します。

同値関係

$A \sim B$は、特定の条件を課すことで同一視される関係(同値関係)を表します。

位相に依存しない実座標の構成

$(z_0,z_1)$$e^{i\omega}(z_0,z_1)$を同一の点とみなすと決めた以上、これから作る3次元の座標$(x,y,z)$も、位相$\omega$の取り方に依らない値でなければなりません。すなわち$(x,y,z)$は、位相の回転$z_0 \to e^{i\omega}z_0,\ z_1 \to e^{i\omega}z_1$に対して不変な、$z_0, z_1$の実数値の組である必要があります。

まず$|z_0|^2, |z_1|^2$$|e^{i\omega}z_j|=|z_j|$より自明に不変です。

次に、$z_0$$z_1$を混ぜた項を考えます。位相回転$z_0 \to e^{i\omega}z_0$の複素共役を取ると$z_0^* \to e^{-i\omega}z_0^*$となり、位相の回転方向が逆になります。したがって$z_0$の代わりに$z_0^*$を使って$z_1$と掛け合わせれば、$e^{-i\omega}$$e^{i\omega}$が打ち消し合うはずです。実際に確認すると

$$ z_0^*z_1 \to (e^{-i\omega}z_0^*)(e^{i\omega}z_1) = z_0^*z_1 $$

となり、$z_0^*z_1$自体は複素数のままですが、位相$\omega$には依存しません。したがって、その実部・虚部

$$ \text{Re}(z_0^*z_1), \quad \text{Im}(z_0^*z_1) $$

も位相不変な実数です。以上で、$z_0, z_1$の2次の組み合わせのうち位相不変なものとして、次の4つが得られました。

$$ |z_0|^2,\quad |z_1|^2,\quad \text{Re}(z_0^*z_1),\quad \text{Im}(z_0^*z_1) $$

正規化条件$|z_0|^2+|z_1|^2=1$により最初の2つは独立ではないので、実質的に独立な不変量は3つです。

$|z_0|^2, |z_1|^2$から作られる不変量は本質的に1つのため、z軸はその線形結合で表されると定義します。$|z_0|^2=1$を北極$z=1$に、$|z_1|^2=1$を南極$z=-1$に対応させることにします。

北極・南極の代表元

$$ \text{北極: }\begin{pmatrix}1 \\ 0\end{pmatrix},\text{ 南極: }\begin{pmatrix}0 \\ 1\end{pmatrix} $$

最も単純な候補は1次式
$$ z=a|z_0|^2+b|z_1|^2 $$
です。両端の条件
$$ a \cdot 1 + b \cdot 0 = 1, \quad a \cdot 0 + b \cdot 1 = -1 $$
より、$a=1,\ b=-1$と定まり、次の式が得られます。

$$ z = |z_0|^2-|z_1|^2 $$

残る$\text{Re}(z_0^*z_1), \text{Im}(z_0^*z_1)$$x, y$としてそのまま採用すると、単位球面$x^2+y^2+z^2=1$の上に乗らなくなってしまいます。そこで$x = c\,\text{Re}(z_0^*z_1),\ y = c\,\text{Im}(z_0^*z_1)$と定数倍$c$を残しておき、単位球面に載るという要請から$c$を求めます。

$$ \begin{aligned} x^2+y^2+z^2 &= c^2\left(\text{Re}(z_0^*z_1)^2+\text{Im}(z_0^*z_1)^2\right) + (|z_0|^2-|z_1|^2)^2 \\ &= c^2|z_0^*z_1|^2 + (|z_0|^2-|z_1|^2)^2 \\ &= c^2|z_0|^2|z_1|^2 + |z_0|^4 - 2|z_0|^2|z_1|^2 + |z_1|^4 \\ &= |z_0|^4 + (c^2-2)|z_0|^2|z_1|^2 + |z_1|^4 \end{aligned} $$

これが$1$に一致するには、$|z_0|^2|z_1|^2$の係数について$c^2-2=2$、すなわち$c=\pm 2$である必要があります。符号は$x,y$の向きを決める慣習の問題なので、正の$c=2$を採用します。

$$ x^2+y^2+z^2 = |z_0|^4 + 2|z_0|^2|z_1|^2 + |z_1|^4 = (|z_0|^2 + |z_1|^2)^2 = 1 $$

こうして、単位球面に載ることが保証された座標として次の定義が得られます。

$$ \begin{pmatrix}x \\ y \\ z\end{pmatrix} := \begin{pmatrix} 2\,\text{Re}(z_0^*z_1) \\ 2\,\text{Im}(z_0^*z_1) \\ |z_0|^2 - |z_1|^2 \end{pmatrix} $$

この定義は代表元を選ぶ以前の、一般の$(z_0,z_1)$に対して成り立っています。したがって$(x,y,z)$は、位相の選び方とは無関係に、同値類ごとに一意に定まる座標です。

双線形という呼び方について

$z_0^*z_1$のように、$z_0,z_1$のペアから片方だけを共役にして掛け合わせた式は、$z_1$については線形(1次)ですが、$z_0$については複素共役を取っているため、厳密には線形ではありません。複素共役は$\mathbb C$上では線形写像ではなく、$\mathbb R$上でのみ線形な共役線形(conjugate-linear)写像だからです。wiki-antilinear

したがって数学的に正確な呼び方は「双線形形式(bilinear form)」ではなく、半双線形形式(sesquilinear form)、すなわち複素内積$\langle z_0, z_1\rangle$と同じ構造です。ただし量子力学などの文献では、$\psi^*\psi$のように状態とその共役を掛け合わせた式をまとめて「双線形」と呼ぶ慣習があるため、これらの式を指してそう呼んでいる場合があります。本記事では、この区別を踏まえて「2次の組み合わせ」と表記しています。

代表元による具体的な計算

$(x,y,z)$が実際に球面全体をどう覆うかを見るため、代表元を使って具体的に計算します。

同値と見なされる無数の組み合わせの中から、代表となる1つを選び出します。第1成分$z_0 = e^{i\alpha} \cos\theta$の位相を打ち消すため、全体に$e^{-i\alpha}$を掛けます。

$$ \begin{pmatrix} z_0 \\ z_1 \end{pmatrix} \sim e^{-i\alpha} \begin{pmatrix} z_0 \\ z_1 \end{pmatrix} = e^{-i\alpha} \begin{pmatrix} e^{i\alpha} \cos\theta \\ e^{i\beta} \sin\theta \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} \cos\theta \\ e^{i(\beta-\alpha)} \sin\theta \end{pmatrix} $$

$-1 \le \cos\theta \le 1$ですが、符号の違いはオイラーの等式$e^{i\pi}=-1$より同値と見なされます。

$$ -\begin{pmatrix} z_0 \\ z_1 \end{pmatrix} = e^{i\pi} \begin{pmatrix} z_0 \\ z_1 \end{pmatrix} \sim \begin{pmatrix} z_0 \\ z_1 \end{pmatrix} $$

符号の違いを吸収するため、$\theta$の定義域により正の値域に制限します。これは第1成分の絶対値に相当します。

$$ \cos\theta = |z_0| \ge 0 \quad \left( 0 \le \theta \le \frac{\pi}{2} \right) $$

$\phi = \beta-\alpha$とおくと、代表元は次の形になります。

$$ \begin{pmatrix} z_0 \\ z_1 \end{pmatrix} \sim \begin{pmatrix} \cos\theta \\ e^{i\phi} \sin\theta \end{pmatrix} $$

球面全体を覆うことの確認

先ほどの定義式に代入します。

$$ z_0^*z_1 = \cos\theta \cdot e^{i\phi}\sin\theta = \frac{1}{2}e^{i\phi}\sin 2\theta $$

$$ \begin{pmatrix}x \\ y \\ z\end{pmatrix} = \begin{pmatrix} \cos\phi \sin 2\theta \\ \sin\phi \sin 2\theta \\ \cos 2\theta \end{pmatrix} $$

$\theta$$0$から$\pi/2$まで動かすと、$z=\cos 2\theta$$1$から$-1$まで連続的に、途中で途切れることなく変化します。つまり$\theta \in [0, \pi/2]$だけで、北極($\theta=0$)から南極($\theta=\pi/2$)まで球面全体が途切れなく覆われます。半球で終わって縁を縫い合わせる、といった追加の操作は不要です。

極における縮退は通常の座標特異点

$\theta=0$(北極、$z_1=0$)と$\theta=\pi/2$(南極、$z_0=0$)では、$\phi$の値に関わらず$(x,y,z)$は同じ点になります。これは緯度・経度で地球上の点を表すとき、北極・南極で経度が意味を持たなくなるのと同じ、極座標一般に共通する見かけ上の特異点であり、写像がそこで壊れているわけではありません。

一方、赤道($\theta=\pi/4$)は定義域の内部にある通常の点で、$\phi$$0$から$2\pi$まで動かせば$(\cos\phi, \sin\phi, 0)$という赤道上の円をそのまま描きます。縁で全体が1点に潰れるようなことは起きません。

こうして得られた$(x,y,z)$は、角度$\theta,\phi$を経由した表現ですが、もともとの定義は$z_0^*z_1$$|z_0|^2-|z_1|^2$という、$z_0,z_1$そのものから作られる式でした。角度を経由せず、この形をそのまま最終的な変換式として採用します。

半角を使う慣習

ここでの$\theta$は球面の極角ではなく、$\sin 2\theta,\cos 2\theta$を経由してその半分の役割を果たしています。文献では最初から球面の極角そのものを$\theta$と呼び、代わりに複素数の側を半角にしておく書き方が一般的です。
$$ \begin{pmatrix}z_0 \\ z_1\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}e^{i\alpha} \cos\dfrac{\theta}{2} \\ e^{i\beta} \sin\dfrac{\theta}{2}\end{pmatrix} \sim \begin{pmatrix}\cos\dfrac{\theta}{2} \\ e^{i\phi} \sin\dfrac{\theta}{2}\end{pmatrix} $$
この記法は、複素数のペアが球面上のベクトルの「平方根」(スピノル)に相当することを、角度の上でも直接的に表しています。

まとめると、正規化された複素数のペア$(z_0, z_1)$から2次元球面上の点$(x,y,z)$への変換式は以下のようになります。

ホップ写像

$$ \begin{pmatrix}x \\ y \\ z\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}     2\text{Re}(z_0^* z_1) \\     2\text{Im}(z_0^* z_1) \\     |z_0|^2 - |z_1|^2   \end{pmatrix} = \begin{pmatrix}     z_0^* z_1 + z_1^* z_0 \\     -i(z_0^* z_1 - z_1^* z_0) \\     z_0^* z_0 - z_1^* z_1   \end{pmatrix} $$

「全体の位相を無視する」という要請から不変量を選び出し、それが代表元によって単位球面全体を途切れなく覆うことを確認することで、この数式が自然に導かれました。

$z_0, z_1$の順序や符号は文献により多少異なりますが、本質的な構造は同じです。

また、$z_0^* z_1$はクリフォード代数の幾何積に相当する操作で、内積と外積(ウェッジ積)を同時に計算することに相当するため、結果には位相差のみが反映されます。

まとめ

正規化された複素数のペア$(z_0,z_1)$は3次元球面$S^3$上の点であり、全体にかかる位相$e^{i\omega}$を無視するという同値関係により、実質的な自由度は2次元球面$S^2$分に落ちます。この位相不変性から$z_0^*z_1$の実部・虚部と$|z_0|^2-|z_1|^2$という3つの実量が導かれ、単位球面に載るよう係数を定めることでホップ写像の式が得られました。

$$ \begin{aligned} \begin{pmatrix}z_0 \\ z_1\end{pmatrix} &=\begin{pmatrix}e^{i\alpha} \cos\dfrac{\theta}{2} \\ e^{i\beta} \sin\dfrac{\theta}{2}\end{pmatrix}   \sim \begin{pmatrix}\cos\dfrac{\theta}{2} \\ e^{i\phi} \sin\dfrac{\theta}{2}\end{pmatrix} \\ \begin{pmatrix}x \\ y \\ z\end{pmatrix} &=\begin{pmatrix}     2\text{Re}(z_0^* z_1) \\     2\text{Im}(z_0^* z_1) \\     |z_0|^2 - |z_1|^2   \end{pmatrix} =\begin{pmatrix}     \cos\phi \sin \theta \\     \sin\phi \sin \theta \\     \cos \theta   \end{pmatrix} \end{aligned} $$

代表元による具体的な計算では、この写像が北極から南極まで球面全体を途切れなく覆うことを確認しました。$z_0^*z_1$という共役線形な組み合わせ1つが、位相の自由度を消しつつ球面上の点を過不足なく指し示しているという点に、この構成の本質があります。

参考文献

投稿日:20251124
更新日:11日前
数学の力で現場を変える アルゴリズムエンジニア募集 - Mathlog served by OptHub

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

7shi
7shi
52
15275

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中