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応用数学解説
文献あり

複素数の拡張で学ぶテンソル積

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複素数の虚数単位を増やして拡張することから、テンソル積を導入します。

虚数単位を増やす

複素数の虚数単位iについてi2=1が成り立ちます。ここに、同じ性質j2=1を満たす新しい虚数単位jを導入します。ただし、i±jで、ijは可換ij=jiとします。

積を計算します。(a,b,c,d,e,fは実数)

(a+bi+cj)(d+ei+fj)=a(d+ei+fj)+bi(d+ei+fj)+cj(d+ei+fj)=ad+aei+afj+bdi+bei2+bfij+cdj+ceij+cfj2=ad+aei+afj+bdibe+bfij+cdj+ceijcf=(adbecf)+(ae+bd)i+(af+cd)j+(bf+ce)ij

この計算結果から、i,jによって生成される数は

a+bi+cj+dij(a,b,c,d は実数)

の形で表せることが分かります。このような数の体系を双複素数wiki-bc (bicomplex numberwiki-bc-en) と呼びます。

  • ija+bi+cjの形では表せないことから、三元数ではありません。
  • 双複素数はij=jiであることから、ij=jiとなる四元数wiki-qとは異なります。

零因子の存在

0でない2つの双複素数の積が0になる場合があります。

(1+ij)(1ij)=1(1ij)+ij(1ij)=1ij+ijijij=1i2j2=1(1)(1)=11=0

1+ij, 1ijのように、0ではないのに積が0になる数を零因子wiki-0dと呼びます。

零因子は逆数を持ちません。なぜなら、1+ijに何かを掛けて1になると仮定すれば、その両辺に1ijを掛けることで矛盾が生じるためです。

(1+ij)x=1(1ij)(1+ij)x=1ij0=1ij

これは1ij0でないという前提に矛盾します。

もう少し式変形を進めるとij=1, j=iとなって、前提i±jに矛盾します。

テンソル積による構成

非可換な積の演算子を導入して、複素数の積を計算します。(a,b,c,dは実数)

(a+bi)(c+di)=a(c+di)+bi(c+di)=ac+adi+bic+bidi

これを双複素数と比較します。

(a+bi)(c+dj)=a(c+dj)+bi(c+dj)=ac+adj+bci+bdij

実部の基底として1を明示し、係数と基底 {1,i,j,ij} を分離します。

=ac(1)+ad(j)+bc(i)+bd(ij)

でも係数と基底を分離して、係数が括り出せるという計算規則を追加します。

=a(1)c(1)+a(1)d(i)+b(i)c(1)+b(i)d(i)=ac(11)+ad(1i)+bc(i1)+bd(ii)

以下の対応関係を認めれば、双複素数はによる計算と一致します。

111,ii1,j1i,ijii

このように

  • 因子に含まれる基底は非可換
  • 因子に含まれる実成分(係数)は可換で、括り出せる

という規則を持った積の演算子を導入することで、双複素数を構成することができます。このようなによる積をテンソル積wiki-tpと呼びます。

双線形性

このような性質を双線形性と呼びます。テンソル積と、2つの引数を取る双線形関数Bを比較します。
axy =xay =a(xy)B(ax,y)=B(x,ay)=aB(x,y)
分配法則も双線形性に含まれます。
(ax+by)z=axz + byz =a(xz)+b(yz)B(ax+by,z)=B(ax,z)+B(by,z)=aB(x,z)+bB(y,z)

テンソル積による構成によって「複素数複素数」という構造が明確となり、これが双複素数という名前の由来となっています。

  • 双複素数でのij(i1)(1i)に対応します。言い換えると、双複素数での基底の区別が、テンソル積の因子の非可換性として現れます。
  • 双複素数ではij=jiですが、テンソル積では両辺ともiiとなるため区別がありません。言い換えると、双複素数での可換性が、テンソル積では同一な表現として現れます。

テンソル積の積

双複素数の積を、テンソル積で書き直します。

ii=1(i1)(i1)=(11)jj=1(1i)(1i)=(11)(i)(j)=ij(i1)(1i)=ii(ij)(ij)=1(ii)(ii)=11

対応関係の観察から、左因子は左因子と、右因子は右因子と積を計算すると定義します。

テンソル積の積

(αβ)(γδ)=αγβδ(α,β,γ,δ は複素数)

計算例

冒頭に挙げた双複素数での計算例をテンソル積で書き直します。

(a+bi+cj)(d+ei+fj)(a1+bi1+ci)(d1+ei1+fi)=(a1)(d1+ei1+fi) +(bi1)(d1+ei1+fi) +(ci)(d1+ei1+fi)=ad1+aei1+afi +bdi1+bei21+bfii +cdi+ceii+cfi2=ad(11)+ae(i1)+af(1i) +bd(i1)be(11)+bf(ii) +cd(1i)+ce(ii)cf(11)=(adbecf)(11)+(ae+bd)(i1)+(af+cd)(1i)+(bf+ce)(ii)(adbecf)+(ae+bd)i+(af+cd)j+(bf+ce)ij

双複素数の計算結果と一致しました。

まとめ

テンソル積によって代数系を拡張することができます。いくつか例を挙げます。

  • 任意個の複素数のテンソル積 → セグレの多重複素数wiki-smc7shi-mc
  • 複素数と四元数wiki-qのテンソル積 → 双四元数wiki-bq(パウリ行列が生成する代数と同型7shi-pdq
  • 複素数と八元数wiki-oのテンソル積 → 双八元数wiki-bo

テンソル積の応用として量子コンピューターがあります。7shi-qc17shi-qc2

参考文献

投稿日:2024116
更新日:20241111
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  1. 虚数単位を増やす
  2. 零因子の存在
  3. テンソル積による構成
  4. テンソル積の積
  5. 計算例
  6. まとめ
  7. 参考文献