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応用数学解説
文献あり

八元数の左作用とクリフォード代数

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八元数は非結合的ですが、その作用を行列として取り出せば結合的な代数構造(クリフォード代数や行列環)が得られます。本稿では、群論には意図的に踏み込まず、これらの作用が作る代数的な構造をまとめます。

前提となる八元数の知識については別記事を参照してください。oct

基本設定

正の3つ組を
$$ 123,\ 145,\ 176,\ 246,\ 257,\ 347,\ 365 $$
とする八元数代数$\mathbb O$を考えます。基底を$1,e_1,\dots,e_7$とし、各虚数単位による左作用・右作用を
$$ L_i(x)=e_i x,\quad R_i(x)=x e_i\quad (i=1,\dots,7) $$
と書きます。

左作用を行列で表現

八元数の乗法はノルム(絶対値)を保存する($|xy| = |x||y|$)ため、長さ$1$の基底$e_i$を掛ける操作は、$\mathbb R^8$空間の長さや角度を保つ直交変換になります。具体的に各基底の行き先を見ると、結果は必ず$\pm e_j$の形になります。これは実質的に、基底$\{1, e_1, \dots, e_7\}$を並べ替えつつ符号を変化させる操作にほかなりません。したがって、この作用を行列表現すると、各行および各列に$\pm 1$が1つだけ存在し、残りがすべて$0$となるような$8 \times 8$の直交行列(符号付き置換行列)として書き表すことができます。q-rmref1ref2

例として、冒頭で定義したファノ平面の正の3つ組($123, 145, 176, \dots$)に基づき、$e_1$による左作用$L_1$がどのように働くかを見てみましょう。列ベクトルとして基底を$(1, e_1, e_2, e_3, e_4, e_5, e_6, e_7)^T$と並べたとき、それぞれに$e_1$を左から掛けると次のようになります。

$$ \begin{aligned} &e_1 \times 1 = e_1 \\ &e_1 \times e_1 = -1 \\ &e_1 \times e_2 = e_3,&& e_1 \times e_3 = -e_2 &&(123\text{の組より}) \\ &e_1 \times e_4 = e_5,&& e_1 \times e_5 = -e_4 &&(145\text{の組より}) \\ &e_1 \times e_6 = -e_7,&& e_1 \times e_7 = e_6 &&(176\text{の組より}) \\ \end{aligned} $$

すべての基底が、符号を除いて別の基底へと1対1で移されます。この作用を、実数を成分とする$8 \times 8$行列として表現すると、実際の行列$L_1$は以下のようになります。

      L1 =
[[ 0 -1  0  0  0  0  0  0]   <-  1 の成分
 [ 1  0  0  0  0  0  0  0]   <- e1 の成分
 [ 0  0  0 -1  0  0  0  0]   <- e2 の成分
 [ 0  0  1  0  0  0  0  0]   <- e3 の成分
 [ 0  0  0  0  0 -1  0  0]   <- e4 の成分
 [ 0  0  0  0  1  0  0  0]   <- e5 の成分
 [ 0  0  0  0  0  0  0  1]   <- e6 の成分
 [ 0  0  0  0  0  0 -1  0]]  <- e7 の成分
   ^  ^  ^  ^  ^  ^  ^  ^
   1  e1 e2 e3 e4 e5 e6 e7
   を掛けたときの行き先
    

例えば左から3列目($e_2$$e_1$を掛けた列)を見ると、上から4番目($e_3$の位置)だけが$1$になっています。行列の各行・各列のどこか1箇所にだけ必ず$\pm 1$が現れる「符号付き置換行列(直交行列)」になっていることが一目で確認できます。

7つの虚数単位から6つの生成元へ

このような行列表現の視点に立つと、左作用$L_1,\dots,L_7$$\mathbb O \cong \mathbb R^8$上の直交変換($8 \times 8$の直交行列)であり、
$$ L_i^2=-I,\quad L_iL_j=-L_jL_i\quad(i\ne j) $$
を満たします。

もし$L_1,\dots,L_7$がすべて独立なクリフォード型生成元なら、重複のない積の組み合わせの総数は二項係数を用いて
$$ \sum_{i=0}^7 \binom{7}{i} = 2^7 = 128 $$
通り(個)になります。しかし、$8 \times 8$行列全体$M_8(\mathbb R)$の自由度(次元)は$8 \times 8 = 64$しかありません。したがって、7つの生成元のあいだには必ず従属関係があります。

実際、すべての基底の和$o_0 = 1 + e_1 + e_2 + e_3 + e_4 + e_5 + e_6 + e_7$に対して、$e_1$から順に左乗算を適用していくと以下のようになります。

$$ \begin{aligned} o_1 &= e_1 o_0 = -1 + e_1 - e_2 + e_3 - e_4 + e_5 + e_6 - e_7 \\ o_2 &= e_2 o_1 = 1 + e_1 - e_2 - e_3 - e_4 + e_5 - e_6 + e_7 \\ o_3 &= e_3 o_2 = 1 + e_1 + e_2 + e_3 - e_4 - e_5 - e_6 - e_7 \\ o_4 &= e_4 o_3 = 1 - e_1 - e_2 - e_3 + e_4 - e_5 - e_6 - e_7 \\ o_5 &= e_5 o_4 = 1 - e_1 - e_2 + e_3 - e_4 + e_5 - e_6 + e_7 \\ o_6 &= e_6 o_5 = 1 - e_1 + e_2 + e_3 - e_4 - e_5 + e_6 - e_7 \\ o_7 &= e_7 o_6 = 1 + e_1 + e_2 + e_3 + e_4 + e_5 + e_6 + e_7 = o_0 \end{aligned} $$

このように、7回掛け合わせると符号が巡り巡って完全に元に戻ります。これをすべての基底ベクトルに拡張して行列表現の積として表すと、
$$ L_7L_6L_5L_4L_3L_2L_1=I $$
となります。

ここから逆順の積$L_1L_2L_3L_4L_5L_6L_7$を求めるために、上の式の両辺に右から$L_1, L_2, \dots$を順に掛けて右辺へ移していく(相殺する)操作を行います。$L_i^2 = -I$であるため、掛けるたびに右辺の符号が反転することに注意してください。

$$ \begin{aligned} L_7L_6L_5L_4L_3L_2L_1 &= I \\ L_7L_6L_5L_4L_3L_2 &= -L_1 &&(\text{右から } L_1 \text{ を掛ける}) \\ L_7L_6L_5L_4L_3 &= L_1L_2 &&(\text{右から } L_2 \text{ を掛ける}) \\ L_7L_6L_5L_4 &= -L_1L_2L_3 &&(\text{右から } L_3 \text{ を掛ける}) \\ L_7L_6L_5 &= L_1L_2L_3L_4 &&(\text{右から } L_4 \text{ を掛ける}) \\ L_7L_6 &= -L_1L_2L_3L_4L_5 &&(\text{右から } L_5 \text{ を掛ける}) \\ L_7 &= L_1L_2L_3L_4L_5L_6 &&(\text{右から } L_6 \text{ を掛ける}) \\ -I &= L_1L_2L_3L_4L_5L_6L_7 &&(\text{右から } L_7 \text{ を掛ける}) \end{aligned} $$

この変形の6段階目で、
$$ L_7=L_1L_2L_3L_4L_5L_6 $$
が導かれます。したがって$L_1,\dots,L_6$の6つを生成元として選択すれば、$L_7$はそれらの積として生成されます。

どれを生成元として選択するかには任意性があります。

クリフォード代数$C\ell_{0,6}(\mathbb R)$と体積要素

$L_1,\dots,L_6$
$$ L_i^2=-I,\quad L_iL_j=-L_jL_i $$
を満たすため、実クリフォード代数$C\ell_{0,6}(\mathbb R)$の生成関係そのものです。したがって
$$ C\ell_{0,6}(\mathbb R)\cong M_8(\mathbb R) $$
とみなせます。furey1furey2

このとき
$$ \omega:=L_1L_2L_3L_4L_5L_6 $$
は体積要素であり、上の関係式から$\omega=L_7$となります。つまり八元数の7番目の虚数単位は、新しい独立生成元ではなく、$C\ell_{0,6}(\mathbb R)$の擬スカラーとして現れています。

この結果から、$L_1,\dots,L_6$の単調増加添字による積
$$ I,\ L_i,\ L_iL_j,\ \dots,\ L_1L_2L_3L_4L_5L_6 $$
の組み合わせの総数は
$$ \sum_{i=0}^6 \binom{6}{i} = 2^6 = 64 $$
個となり、これがちょうど$8 \times 8$行列全体の基底をなします。

後述のフロベニウス内積が$0$になることから、これらが互いに直交していることが確認できます。

トレースによるスカラー成分の抽出

$C\ell_{0,6}(\mathbb R)\cong M_8(\mathbb R)$の基底を$B_k\ (k=1,\cdots,63)$と表記すれば、任意の元$A$
$$ A=c_0I+\sum_{k=1}^6 c_kB_k $$
と書けます。基底$B_k$に対しては、反交換する元$C$が少なくとも1つは存在します。
$$ B_k C = -C B_k $$
両辺に右から$C^{-1}$を掛けると
$$ B_k = -C B_k C^{-1} $$
となります。ここで、行列の積の順序を循環させてもトレースが変わらないトレースの巡回性$\operatorname{Tr}(XYZ) = \operatorname{Tr}(ZXY)$を用いると、
$$ \operatorname{Tr}(B_k) = -\operatorname{Tr}(C B_k C^{-1}) = -\operatorname{Tr}(C^{-1} C B_k) = -\operatorname{Tr}(B_k) $$
より、$\operatorname{Tr}(B_k)=0$が従います。よって
$$ \operatorname{Tr}(A)=8c_0,\quad c_0=\frac18\operatorname{Tr}(A) $$
が導かれます。

つまり行列のトレースは、クリフォード代数の言葉では「スカラー成分の抽出(および次元スケール倍)」に他なりません。

クリフォード共役(転置)と逆元

成分の抽出を一般の基底$B_k$に拡張するために、行列表現における「転置」の性質を調べます。この転置は、生成元$L_1, \dots, L_6$の性質から代数的に完全に決定されます。

各生成元$L_i$$L_i^T = -L_i$を満たす反対称行列です。生成元とその転置行列との積は
$$ L_i L_i^T = L_i (-L_i) = I $$
となるため、転置(共役)は生成元の逆行列(逆元)を与える操作となります。

また、行列の積の転置は順序が逆転します。
$$ (AB)^T = B^T A^T $$
よって、$k$個の生成元の積からなるグレード$k$の基底$B_k = L_{i_1} L_{i_2} \dots L_{i_k}$の転置をとると、
$$ (L_{i_1} L_{i_2} \dots L_{i_k})^T = L_{i_k}^T \dots L_{i_2}^T L_{i_1}^T = (-1)^k L_{i_k} \dots L_{i_2} L_{i_1} $$
となります。これはクリフォード代数の共役を与える操作に対応します。

そのため、任意の基底$B_k = L_{i_1} \dots L_{i_k}$に対してその転置を掛けると、
$$ B_k B_k^T = (L_{i_1} \dots L_{i_k}) (L_{i_k}^T \dots L_{i_1}^T) = I $$
となり、内側から順に$L_{i_m} L_{i_m}^T = I$として相殺されていくため、結果は必ず単位行列$I$になります。すなわち、$B_k^T = B_k^{-1}$となることから、すべての基底行列について逆行列を与える操作となっています。

転置が逆行列となる関係は、係数を持たない基底行列(直交行列)だからこそ成り立つ性質であり、一般の線形結合では成り立ちません。

転置とトレースによる成分の抽出とフロベニウス内積

任意の行列$A$が基底の線形結合$A = \sum c_j B_j$で表されているとき、転置(共役)が逆行列(逆元)となる基底の性質と、トレースによるスカラー成分の抽出を組み合わせることで、特定の基底$B_k$の係数$c_k$を取り出すことができます。

行列$A$に抽出したい基底の逆元$B_k^{-1}$(すなわち転置$B_k^T$)を掛けます。
$$ B_k^T A = B_k^{-1} \left( \sum c_j B_j \right) = c_k (B_k^{-1} B_k) + \sum_{j \neq k} c_j (B_k^{-1} B_j) $$
すると、目的の成分だけが$c_k I$となりスカラー(単位行列)にシフトされます。それ以外の項は別の非スカラー基底となるため、トレースをとるとすべて$0$になって消え去ります。

すなわち、任意の基底の係数$c_k$は次のように計算できます。
$$ c_k = \frac{1}{8} \operatorname{Tr}(B_k^T A) $$
この式に現れる$\operatorname{Tr}(B_k^T A)$フロベニウス内積と呼ばれ、$\langle B_k, A \rangle$と表記されます。

右作用$R_i$を左作用だけで表す

$8 \times 8$行列の空間全体が上の$64$個の基底で張られる以上、各右作用$R_i$も左作用の積の線形結合として表されます。フロベニウス内積を用いて具体的に係数を計算し、整理すると次の対称的な形になります。

$$ \begin{aligned} R_1 &= \frac{1}{2} ( -L_1 + L_2 L_3 + L_4 L_5 + L_7 L_6 ), \\ R_2 &= \frac{1}{2} ( -L_2 + L_3 L_1 + L_4 L_6 + L_5 L_7 ), \\ R_3 &= \frac{1}{2} ( -L_3 + L_1 L_2 + L_6 L_5 + L_4 L_7 ), \\ R_4 &= \frac{1}{2} ( -L_4 + L_5 L_1 + L_6 L_2 + L_7 L_3 ), \\ R_5 &= \frac{1}{2} ( -L_5 + L_1 L_4 + L_7 L_2 + L_3 L_6 ), \\ R_6 &= \frac{1}{2} ( -L_6 + L_7 L_1 + L_2 L_4 + L_5 L_3 ), \\ R_7 &= \frac{1}{2} ( -L_7 + L_1 L_6 + L_2 L_5 + L_3 L_4 ). \end{aligned} $$

ここで各$R_i$の後半3項は、ファノ平面で$e_i$を生成する3つの正の組にちょうど対応しています。たとえば
$$ e_2e_3=e_1,\quad e_4e_5=e_1,\quad e_7e_6=e_1 $$
に対応して
$$ R_1=\frac12(-L_1+L_2L_3+L_4L_5+L_7L_6) $$
となります。

したがって右作用は独立な新要素ではなく、「自身の左作用のマイナス」と、「ファノ平面上で自身を作る3つの対の左作用積」の平均として記述できます。

スピノルへの射影

クリフォード代数を演算子と見なしたとき、それが作用する対象をスピノルと呼びます。八元数の左作用から生成した行列をクリフォード代数とすれば、スピノルは八元数のベクトル表現に対応します。

クリフォード代数(行列)とスピノル(ベクトル)は形状が異なる別の数学的対象ですが、これらを統一的に扱うために「スピノルをクリフォード代数自身の内部に埋め込んで表現したい」という動機が生じます。

これを行列の言葉で実現する方法が、「第1列以外がすべて0であるような行列」を考えることです。これにより、8次元の列ベクトルを$8 \times 8$行列に埋め込んで、同一視することができます。この特殊な行列の集合に左からどのような行列を掛けても、結果の行列はやはり第1列以外が0のまま保たれます。つまり、この集合は「左からの行列の掛け算に対して閉じている(外に飛び出さない)」性質を持っており、「左イデアル」と呼ばれます。

これまで見てきた左作用の演算子$L_x$の第1列は、八元数の基底$e_x$のベクトル表現と一致しています。したがって、$L_x$の第1列以外をすべて$0$にすれば、スピノルと見なすことができます。

この操作を実現するために、
$$ P=\operatorname{diag}(1,0,0,0,0,0,0,0) $$
という射影行列を導入します。任意の行列に右から$P$を掛けると、第1列だけが残り他の列はすべてゼロになります。この射影によって、
$$ L_x P \mapsto e_x $$
というように、演算子$L_x$から$e_x$のベクトル表現を抽出することができます。

作用を左から受ける空間(左イデアル)を切り出すため、射影行列$P$右から掛けています。

射影行列$P$の第1列は単位元$1$のベクトル表現で、第1列以外は$0$であるため、単位元$1$に対応するスピノルとも見なせます。$P$$L_1,\dots,L_6$の基底で表すと
$$ P = \frac{1}{8} ( I - L_1 L_2 L_3 - L_1 L_4 L_5 - L_1 L_7 L_6 - L_2 L_4 L_6 - L_2 L_5 L_7 - L_3 L_4 L_7 - L_3 L_6 L_5 ) $$
となります。

この7つの三重積は、ちょうど
$$ 123,\ 145,\ 176,\ 246,\ 257,\ 347,\ 365 $$
というファノ平面の7本の直線に対応します。したがって$P$は、「恒等変換からファノ平面の全直線に対応する三重積を引き、その平均をとる演算子」として解釈できます。

全基底の射影と八元数への対応

$L_1, \dots, L_6$が生成する64個の基底は$8 \times 8$行列の空間全体を張ります。$P$は単位元$1$を表すスピノルと同一視できるため、64個の基底行列それぞれに対して右から射影演算子$P$を掛けることは、それぞれの基底行列を単位元$1$に作用させることだと解釈できます。

したがって、基底行列に右から$P$を掛けることは、「単位元$1$に作用させたとき、八元数のどの基底に着地するか」という行き先を表しています。行き先別に基底を分類します。

$$ \begin{alignedat}{2} &1&&(8):\ I, -L_1L_2L_3, -L_1L_4L_5, -L_1L_7L_6, -L_2L_4L_6, -L_2L_5L_7, -L_3L_4L_7, -L_3L_6L_5 \\ &e_1&\ &(8):\ L_1, L_2L_3, L_4L_5, L_7L_6, -L_2L_5L_6, -L_3L_4L_6, -L_3L_5L_7, L_2L_4L_7 \\ &e_2&&(8):\ L_2, -L_1L_3, L_4L_6, L_5L_7, -L_1L_4L_7, -L_3L_6L_7, L_1L_5L_6, L_3L_4L_5 \\ &e_3&&(8):\ L_3, L_1L_2, -L_5L_6, L_4L_7, -L_2L_4L_5, L_1L_4L_6, L_1L_5L_7, L_2L_6L_7 \\ &e_4&&(8):\ L_4, -L_1L_5, -L_2L_6, -L_3L_7, -L_1L_3L_6, -L_5L_6L_7, L_1L_2L_7, L_2L_3L_5 \\ &e_5&&(8):\ L_5, L_1L_4, L_3L_6, -L_2L_7, -L_1L_2L_6, -L_1L_3L_7, -L_2L_3L_4, L_4L_6L_7 \\ &e_6&&(8):\ L_6, L_2L_4, -L_3L_5, L_1L_7, -L_2L_3L_7, -L_4L_5L_7, L_1L_2L_5, L_1L_3L_4 \\ &e_7&&(8):\ L_7, -L_1L_6, L_2L_5, L_3L_4, -L_1L_2L_4, L_1L_3L_5, L_2L_3L_6, L_4L_5L_6 \\ \end{alignedat} $$

例えば$e_1$の行にある$L_2L_3$を単位元$1$に作用させると、$L_2L_3(1) = e_2(e_3 \times 1) = e_2e_3 = e_1$となります。このように、各基底を単位元$1$に作用させたときの行き先によって、64個の基底が8個ずつのグループに分類されています。

一番上の「$1$」の行に注目すると、ここに並んでいる8つの基底は、射影演算子$P$を構成する8つの項と一致しています。すなわち、射影演算子$P$とは「単位元$1$に作用させたときにそのまま単位元$1$に留まるような8つの演算子を集め、その平均をとったもの」と解釈できます。

非結合性が見せる構造

四元数では結合律が成り立つため$L_iL_j=L_k$となり、左作用をいくら合成しても再び単一の左作用に戻ります。つまり、変換を受ける対象(スピノルに相当するベクトル)と、変換を行う演算子(クリフォード代数に相当する作用)が共に4次元であり、同じ表現に完全に「縮退」して一致しています。そのため、すべてが「四元数という1つの数」の中で完結してしまい、背後にある普遍的な幾何学の構造が見えにくくなっていました。

これに対して次元を上げて八元数に到達すると、非結合性のため$L_xL_y\ne L_z$となり、縮退することはありません。左作用のネストそのものが新しい独立な変換を生み出し、その結果、左作用の側だけで$64$次元の行列代数全体が生成され、右作用はその内部に吸収されます。

したがって八元数における本質は、単に左作用と右作用が違うことではなく、非結合性によって縮退が解け、変換を受ける「8次元のスピノル空間」と、変換を行う「64次元の演算子代数」とがはっきりと分離して姿を現すことにあります。

8次元の特異性とスピノルの可視化

四元数と八元数の比較から明らかになった「非結合性によって縮退しない」ことは、8次元という空間が持つ特異性と深く結びついています。

一般のクリフォード代数において、変換を行う「演算子(行列表現)」と、変換を受ける「スピノル(ベクトル)」は全く異なる空間に属します。抽象的な極小左イデアルとして定義される一般のスピノルに対し、直感的な実体や「実部・虚部」といった数の性質を直接割り当てることは通常不可能です。

しかし、今回の構成では、変換を受ける8次元のスピノル空間を八元数と同一視することができました。これは、八元数という数が、クリフォード代数の作用と自分自身の空間を直接的に結びつける特異な構造をあらかじめ内包しているためです。

八元数はその非結合性ゆえに複雑ですが、それを通して見ることで、本来であれば抽象的になりがちなスピノルという幾何学的構造の実体を、具体的な成分計算や図形的な対称性として直接「触れる」ことができるという点で、重要な教育的モデルになり得ます。

まとめ

八元数の左作用を調べると、見かけ上は7つある虚数単位のうち独立なのは6つだけであり、残る1つは体積要素
$$ L_7=L_1L_2L_3L_4L_5L_6 $$
として現れます。これにより八元数の左作用の行列表現の背後には
$$ C\ell_{0,6}(\mathbb R)\cong M_8(\mathbb R) $$
というクリフォード代数の構造があることが分かります。

さらに右作用$R_i$も、スピノルへの射影$P$も、すべてファノ平面の組合せと整合する簡潔な式で左作用の積に還元されます。八元数は単なる非結合代数ではなく、ファノ平面・クリフォード代数・スピノル表現が一点で結び付く場として理解できます。

このように「変換される八元数(ベクトル)」と「変換する作用(行列)」を明確に分離して記述することは、$G_2$やスピン群といった八元数の対称性(群)を論じるための重要な準備となります。

参考文献

投稿日:1日前
更新日:1日前
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