9
大学数学基礎解説
文献あり

数理生物学入門(1)〜個体数〜

954
0
$$$$

目次

・はじめに
・準備
・内容
・最後に

はじめに

どうも、色数です。
今回から数理生物学入門というシリーズを書いていこうと思います。
自分で学びながら書いていくので不備もあると思いますが、よろしければご覧ください。

準備

入門なのでここでは超簡単な微分方程式しか登場しません(させません)
なので基本的なものが解ければ十分です。

内容

微生物の増殖

微生物が時間が経つにつれ倍々になって増えていくことは習ったと思います。この事象を数学を使って記述してみましょう。
個体数を$x$,時間を$t$とします。
このとき個体数の増加速度は$\displaystyle \frac{dx}{dt}$と表せます。(前述より$x$$t$の関数なので)
どの個体も同じ環境にいるとすると(同じでないと増加速度が変化するため)
$\displaystyle \frac{dx}{dt}=mx$$m$は定数
となります。これは増加速度がそのときの個体数に比例するためです。
1番最初の個体数を$x_0$とすると、つまり$t=0$での個体数を$x_0$とするとこの方程式の解は
$x(t)=x_0e^{mt}$
とわかります。わからない方は上の式を微分してみてください。
ちなみにこの$m$のことをマルサス係数というみたいです。

いつまでも増殖し続けない場合

上のモデルは永遠と指数関数的に増加しますがこれはあまり現実的ではありません。
簡単にわかりますが食料は有限ですし、老廃物が堆積していくためですね。
では上の式のどこがいけないのでしょうか?

それは$m$を定数としてしまっているためですね。
この問題を解消するために$m$を個体数$x$の増加とともに減少する関数$m(x)$としてみましょう。
例えば$\displaystyle m(x)=r\left(1-\frac{x}{K}\right)$とおきましょう。
こうすると$x$が小さいときは$r$に近く$x$$K$に近づいていくと$0$になります。($m=0$となることはつまり増加が止まることを意味します)
この$r$を内的自然増加率なんていうみたいです。
すると微分方程式は
$\displaystyle \frac{dx}{dt}=rx\left(1-\frac{x}{K}\right)$
となります。これが有名なロジスティック方程式です。
この方程式の解は
$\displaystyle x(t)=\frac{K}{1+\left(\frac{K}{x_0}-1\right)e^{-rt}}$となります。
この解が前提を満たしていることは各自Desmosなどで確認してみてください。
ここでの$K$は最大限維持することのできる個体数なので環境収容力といいます。
ちなみに最初から$x=K,0$であれば個体数は変化しません。
この状態を平衡状態といいます。
平衡状態は$\displaystyle \frac{dx}{dt}=0$という式から得ることができます。
しかしこの2つは大きく異なり$x=K$安定な平衡状態、$x=0$不安定な平衡状態といいます。
これは$x=K$$K$から少しだけずれてもすぐに$K$になるが$x=0$は少しでも増えると時間とともに$x=0$から離れてしまうことからこのような名前がついているらしいです。

種関関係を考える場合

同じ物質を食料とする種関ではまれに競争がおこり様々な面で負の影響を及ぼします。[2]ではモンシロチョウとコナガが例に挙げられています。
このような種関での競争は「消費型」、「干渉型」にわけることができます。
消費型競争とはその名の通りどちらかの資源を消費することにより他方が利用できる資源が減ってしまうことを指します。
干渉型競争とはナワバリなどを直接取り合うような競争を指します。
また上のどちらとも違う、間接的に負の影響を及ぼす競争をHolt&Lawtonは見かけの競争と呼んだらしいです。
ここで上で考えた一種のみの場合のロジスティック方程式を思い出してみましょう。
種A、種Bの個体数をそれぞれ$x_1,x_2$、環境収容力を$K_1,K_2$、内的自然増加率を$r_1,r_2$とします。
競争相手がいなければ
$\displaystyle \frac{dx_1}{dt}=r_1x_1\left(1-\frac{x_1}{K_1}\right)$

$\displaystyle \frac{dx_2}{dt}=r_2x_2\left(1-\frac{x_2}{K_2}\right)$…(1)

と、相手からの負の影響を受けなければならないのでした。
そこでその大きさを表す競争係数と呼ばれる定数$\alpha$を導入します。
$\alpha_{AB},\alpha_{BA}$はそれぞれ種Bの一個体が種Aを減らす割合と種Aの一個体が種Bを減らす割合としています。
種A,種Bの増加率にはそれぞれ$\alpha_{AB},\alpha_{BA}$で表される負の効果が加わります。
つまり、種A,種Bの環境収容力に対する減少はそれぞれ$(x_1+\alpha_{AB}x_2),(x_2+\alpha_{BA}x_1)$となります。
これを(1)に代入すると
$\displaystyle \frac{dx_1}{dt}=r_1x_1\left(1-\frac{x_1+\alpha_{AB}x_2}{K_1}\right)$

$\displaystyle \frac{dx_2}{dt}=r_2x_2\left(1-\frac{x_2+\alpha_{BA}x_1}{K_2}\right)$
という解を得ます。
これをロトカ-ヴォルテラの競争方程式といいます。
上の式の平衡状態を示す式を(ゼロ成長の)アイソクラインと呼びます。
アイソクラインとは個体群の増加と減少が釣り合う点の集合を言うらしいです。

食う食われるや寄生を考える場合

捕食に関する関係は世代が連続している種を対象としたロトカ-ヴォルテラモデルと世代が離れている種を対象としたニコルソン-ベイリーモデルという二つの方面から研究されてきたようです。

ロトカ-ヴォルテラモデル

まず2つの仮定を行います
①捕食者がいないときの被食者は指数関数的に増加し被食者がいないときの捕食者は指数関数的に減少するとする。
被食者と捕食者の個体数をそれぞれ$N,P$、被食者の内的自然増加率を$r_1$、捕食者の死亡率(内的自然死亡率)を$r_2$と表すと
$\displaystyle \frac{dN}{dt}=r_1N$

$\displaystyle \frac{dP}{dt}=-r_2P$
(捕食者は減っていくのでマイナスがつくのですね)
②被食数は二者の遭遇確率に依存し(個体数の積$NP$に比例)、遭遇したときに捕食される確率を$a_1$とすると被食者の増加率は$a_1NP$だけ減少する。
一方捕食者は捕食した量に依存して増加すると考えれば$NP$に比例しその増加率を$a_2$とすると捕食者の増加率は$a_2NP$となる。

以上よりそれぞれの増加率は
$\displaystyle \frac{dN}{dt}=r_1N-a_1NP$

$\displaystyle \frac{dP}{dt}=-r_2P+a_2NP$
と表すことができます。
これがロトカ-ヴォルテラモデルです。
それぞれのアイソクラインを求めてみます。
$\displaystyle \frac{dN}{dt}=0,\frac{dP}{dt}=0$より平衡状態での被食者と捕食者の個体数は
$\displaystyle P=\frac{r_1}{a_1},N=\frac{r_2}{a_2}$

ニコルソン-ベイリーモデル

相手がいないときに寄主(H)と捕食寄生者(P)の個体数は指数関数的に増加するとき、それぞれの内的自然増加率を$r_1,r_2$とする。
時間$t+1$での両者の個体数は
$H_{t+1}=r_1H_t$
$P_{t+1}=r_2P_t$
時間区間$(t,t+1)$で寄主が寄生を逃れる確率関数を$f(H_t,P_t)$とすると、$t+1$での寄主の個体数は$r_1H_t$と寄生を逃れた個体数$f(H_t,P_t)$の積、捕食寄生者の個体数は$r_2P_t$と寄生された個体数$1-f(H_t,P_t)$の積で表されます。
$H_{t+1}=r_1H_tf(H_t,P_t)$
$P_{t+1}=r_2P_t(1-f(H_t,P_t))$
単位時間あたりに$N_e$の寄生が起こるとすると、寄主を発見する確率$(a)$は寄生数と寄主数の比で定義できます。
寄生総数は捕食寄生者1個体あたりの寄主発見率と捕食寄生者数の積であるため$N_e=aP_tH_t$となります。
$a$を粗寄主発見率、捕食寄生者の数をかけた$aP_t$を純寄主発見率とします。
ここで寄生に起こるとし$f$をポアソン分布の$0$次項に比例するとします。ポアソン分布については こちら をご覧ください。
そうすると寄生を逃れる確率は
$\displaystyle f(H_t,P_t) =e^{-\frac{Ne}{H_t}}$
これを先ほどの式に代入すると
$\displaystyle f(H_t,P_t)=e^{-aP_t}$
となりこれらをさらに最初の式に代入すると
$\displaystyle H_{t+1}=r_1H_te^{-aP_t}$

$\displaystyle P_{t+1}=r_2H_t(1-e^{-aP_t})$
を得ます。
ちなみにこの式ではいずれ両者ともに絶滅してしまいますが、現実ではそうではありません。
なので実際には空間的要素も同時に考えられているようです。

最後に(裏話)

こんな感じで短い記事をいくつも書いていきます。
数理生物学は本当にこれからもどんどん発展していくと思うので興味のある方は今のうちに勉強していくといいでしょう。
個人的にニコルソン-ベイリーモデルでどのように確率を使っているのか気になっていたので満足です。
数理生物学入門(2)

と、ここからはこの記事の裏話的なものを書きます。
実はこの記事はとある研究センターのとある方に僕が個人的に連絡をとったところ、なんとそこの方から本を貸していただけることになりようやく書くことができるようになりました。
改めてありがとうございました。
また、本を借りたのは中3後期でのことでその当時は忙しすぎたため手がつけられていませんでした。そんなときなぜか伊計島セミナーに参加できちゃってその千葉先生の講義で微分方程式の話や数理の世界の話を聞くことができたことでモチベーションができ今改めて書きことができています。
本当に感謝しかないです。

参考文献

[1]
巌佐 庸, 生命の数理
[2]
藤崎憲治、大串隆之、宮竹貴久、松浦健二、松村正哉, 昆虫生態学
投稿日:413
更新日:417

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

色数
色数
151
17480

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中