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応用数学解説
文献あり

四元数のテンソル積とクリフォード代数の構成

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四元数のテンソル積7shi-tpからクリフォード代数を構成する方法を確認します。同様に分解型四元数でも確認します。

四元数のテンソル積

四元数(全体の集合H)は実数体上の4次元の除法代数であり、その基底は通常{1,i,j,k}で表されます。これらの基底は以下の関係式を満たします:

四元数の基底の関係式

i2=j2=k2=1, k=ij=ji

四元数のテンソル積(全体の集合HH)は16次元の代数であり、その基底は四元数の基底のテンソル積{1,i,j,k}{1,i,j,k}から得られます。

HHの基底

{11, 1i, 1j, 1k,i1,ii,ij,ik,j1,ji,jj,jk,k1,ki,kj,kk}

クリフォード代数の生成元

HHHをクリフォード代数として扱う場合の、適切な生成元の選択とそれによって得られる代数構造を説明します。

クリフォード代数の生成元

グレード1の基底を生成元とする。n個の生成元{e1,e2,,en}から2n個の基底が生成される。

生成元は互いに反交換関係を満たす:eiej=ejei(ij)

Hの基底{1,i,j,k}4=22個であることから、クリフォード代数としての生成元は2個です。虚数単位i,j,kは代数的な性質が同一なため、任意の2個を選択して生成元とすることができます。

{i,j}を生成元とすれば、ij=kよりkはグレード2の基底に対応します。

四元数とクリフォード代数の基底の対応

H1ijkCl1e1e2e1e2

本記事ではこの組み合わせを使用します。

HH

HHの基底は4×4=16=24個であることから、クリフォード代数としての生成元は4個です。

{1,i,j,k}{1,i,j,k}から反交換関係を満たす基底の集合を総当たりで探索したところ、元の個数が3個と5個に分かれました。7shi-colab-cl

クリフォード代数として必要な生成元は4個であることから、3個では不足するため、5個の元からなる集合を選択します:

(1){1i, 1j, ik, jk, kk}
(2){1i, 1k, ij, jj, kj}
(3){1j, 1k, ii, ji, ki}
(4){i1, j1, ki, kj, kk}
(5){i1, ji, jj, jk, k1}
(6){ii, ij, ik, j1, k1}

これらは虚数単位i,j,kの置換や、左右の因子の交換によって移り合うため、本質的に同じ代数構造を与えます。

生成元の候補の選択

模式化しやすさの観点から、(3)を生成元の候補として選択します:

(3){1j, 1k, ii, ji, ki}

模式化しやすさ

次のセクションの(7)のこと

(3)の性質を調べます。

(3)HHの基底を生成する。

Hの基底{1,i,j,k}{i,j}から生成される:i4=1, ij=k

HHは、{i,j}1から{1,i,j,k}11{i,j}から1{1,i,j,k}が生成され、これらの積からすべての基底が生成される。

(3)1jを含んでおり、残りは以下のように生成される。
(ki)(ji)=i1(ii)(ki)=j1(1j)(1k)=1i

よって(3)からHHの基底が生成される。

(3)において、任意の4元から残りの1元が生成される。

直接計算により示す。
(1k)(1j)(ii)(ji)=ki(1k)(ii)(ji)(ki)=1j(ii)(ji)(ki)(1j)=1k(ji)(ki)(1k)(1j)=ii(ki)(1k)(1j)(ii)=ji

生成元の選択

互いに反交換ですべての基底を生成する最小の元の集合は、クリフォード代数の生成元となります。命題1,2より、(3)から任意の4元を選択すれば、クリフォード代数の生成元となります。

代数的な性質は生成元の選択に依存しませんが、どのようにすればテンソル積の構造が解釈しやすいかを検討します。

(3)の構造を捉えるため模式化します。

(7)左因子ijk11右因子iiijk

赤字部分は、左因子と右因子に{i,j,k}が現れるように並べ替えた様子を示します。

左因子が元となったHで、それに右因子を付加して拡張していると解釈します。Hのクリフォード代数としての生成元を{i,j}とすれば、左因子にkを含まないように生成元を選択することで、テンソル積による拡張の様子が分かりやすくなります。また、右因子のkijに書き換えます。

左因子ij11右因子iijijCle1e2e3e4

赤字部分は、拡張前のHにおけるクリフォード代数の生成元です。それ以外が、テンソル積によって拡張された部分です。

本記事では、この組み合わせをHHのクリフォード代数の生成元として使用します。

計量と符号数

生成元をそれぞれ2乗します:

(ii)2=i2i2=(1)(1)=1(11)(ji)2=j2i2=(1)(1)=1(11)(1j)2=12j2=1(1)=1(11)(1k)2=12(ij)2=1(1)=1(11)

これら2乗の係数(赤字部分)を計量、計量の値ごとの生成元の個数を符号数と呼びます。本記事では1,1の順に符号数を数えます。

  • 計量1が2個、計量1が2個 → 符号数(2,2)

クリフォード代数としての性質は符号数にのみ依存するため、通常、生成元の具体的な選択ではなく、符号数のみが添え字で示されます:符号数(p,q)Clp,q(R)

資料によっては1,1の順に符号数を数えるものがあります。どちらを使用しているかは確認が必要です。

計量を含めて、テンソル積による拡張の様子を示します。

HijCle1e2計量11HHij11HiijijCle1e2e3e4計量1111Cl0,2(R)Cl2,2(R)

拡張の際、赤字部分のi,jの計量がiによって反転しています。また、拡張されたe3,e4の計量は1です。

一般化と公式

Cl2,2(R)を更に拡張しても、同じ構造が繰り返されます。

Cle1e2e3e4計量1111HCle1e2e3e411Hiiiijij計量111111Cl2,2(R)Cl2,4(R)

e1,e2,e3,e4の計量がiによって反転して、追加された2個の生成元{1j, 1ij}の計量は1です。

この構造を一般化します。

クリフォード代数のHによる拡張の一般化

Cle1epep+1ep+q計量1111HCle1epep+1ep+q11Hiiiijij計量111111Clp,q(R)Clq,p+2(R)

この結果を公式の形にまとめます。wiki-clif

クリフォード代数のHによる拡張

Clp,q(R)HClq,p+2(R)

右辺のClq,p+2(R)p,qの位置が入れ替わります。これはiによる計量の反転に由来します。

符号数の増分(0,2)HCl0,2(R)に由来します。

分解型四元数

四元数を一部変更して、jj2=1となる実数ではない虚数単位としたものが分解型四元数です。wiki-sq

分解型四元数の基底の関係式

i2=1, j2=1, k=ij=ji(j±1)

この定義からk2=1が導かれます:

k2=(ij)(ij)=i(ji)j=i(ij)j=(ii)(jj)=(1)(1)=1

分解型四元数全体の集合をHと表記します。

分解型符号数

分解型四元数は、共役との積によって定義された擬ノルムの2乗により、計量が決まります。(クリフォード代数とは異なり、基底の2乗がそのまま計量とはなりません)

a+bi+cj+dk2=(a+bi+cj+dk)(a+bi+cj+dk)=(a+bi+cj+dk)(abicjdk)=a2+b2c2d2

擬ノルムの2乗に現れる符号数は(2,2)となり正と負の個数が等しくなります。このような符号数を分解型と呼び、代数名の由来となっています。

クリフォード代数

虚数単位によって2乗の値が変わるため、どれをクリフォード代数の生成元として使うかで符号数が変わります。

  1. Cl1,1(R): {i,j},{i,k}
  2. Cl2,0(R): {j,k}

クリフォード代数としての性質は符号数にのみ依存するため、Cl1,1(R)の生成元としては{i,j}のみを使用します。

グレード2の基底まで含めれば代数として同型です:HCl1,1(R)Cl2,0(R)

HH

2×2=4種類の組み合わせを確認します。

Hij計量11{i,j}Hij11Hiijij計量1111Cl1,1(R)Cl3,1(R) Hjk計量11{i,j}Hjk11Hiijij計量1111Cl2,0(R)Cl2,2(R) Hij計量11{j,k}Hij11Hjjkjk計量1111Cl1,1(R)Cl2,2(R) Hjk計量11{j,k}Hjk11Hjjkjk計量1111Cl2,0(R)Cl3,1(R)

結果をまとめます。

HHCl3,1(R)Cl2,2(R)

この結果から、以下の関係が分かります。

同型対応

HHHH

HHCl2,2(R)HH

一般化と公式

この構造を一般化します。

クリフォード代数のHによる拡張の一般化

Cle1epep+1ep+q計量1111{i,j}Cle1epep+1ep+q11Hiiiijij計量111111Clp,q(R)Clq+2,p(R) {j,k}Cle1epep+1ep+q11Hjjjjkjk計量111111Clp+1,q+1(R)

この結果を公式の形にまとめます。wiki-clif

クリフォード代数のHによる拡張

Clp,q(R)HClq+2,p(R)Clp+1,q+1(R)

中辺のClq+2,p(R)p,qの位置が入れ替わります。これはiによる計量の反転に由来します。
右辺のClp+1,q+1(R)p,qの位置が維持されます。これはjによって計量が変化しないことに由来します。

符号数の増分(2,0),(1,1)HCl2,0(R)Cl1,1(R)に由来します。

HH, HH

公式1より:

HHCl2,0(R)HCl0,4(R)Cl1,1(R)HCl1,3(R)

公式2より:

HHCl0,2(R)HCl4,0(R)Cl1,3(R)

この結果から、以下の関係が分かります。

同型対応

HHHH

HHCl1,3(R)HH

まとめ

本記事では、HHとそれらのテンソル積によって構成されるクリフォード代数の構造を分析しました。

テンソル積によってH,Hを付加することで、クリフォード代数としての生成元は2個増えます:

HCl0,2(R)HCl2,0(R)Cl1,1(R)
Clp,q(R)HClq,p+2(R)Clp,q(R)HClq+2,p(R)Clp+1,q+1(R)
HHHHCl3,1(R)Cl2,2(R)HHHHCl1,3(R)Cl0,4(R)Cl4,0(R)

pq012340HHH1HHH2HHH3HH4HH

参考文献

投稿日:20241122
更新日:20241125
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  1. 四元数のテンソル積
  2. クリフォード代数の生成元
  3. $\mathbb H⊗\mathbb H$
  4. 生成元の候補の選択
  5. 生成元の選択
  6. 計量と符号数
  7. 一般化と公式
  8. 分解型四元数
  9. クリフォード代数
  10. $\mathbb H'⊗\mathbb H'$
  11. 一般化と公式
  12. $\mathbb H'⊗\mathbb H,\ \mathbb H⊗\mathbb H'$
  13. まとめ
  14. 参考文献