4次元Euclid空間における非可換ゲージ理論(以降YM理論(Yang-Mills理論)と呼びます)にはインスタントンというトポロジカルなソリトンが存在しますPolyakov1975Belavin1975。この解をSU(2)YM理論において導出したのち、Dirac演算子のゼロモードとインスタントン、トポロジカルな不変量との関係を述べます。
本記事はNash1989Nakahara1990Cheng2000の議論に基づきます。
以下ゲージ場のみが存在するEuclid空間でのYM理論を考えます。
Euclid空間におけるYM理論の経路積分及び作用は以下で与えられる:
\begin{align}
&\int {\cal D}A_\mu^a \exp\left(-S_E\right)\\
&S_E=\frac{1}{4g^2}\int d^4x F^a_{\mu\nu}F^{a\mu\nu},\ \ \ F_{\mu\nu}:=\partial_\mu A_\nu-\partial_\nu A_\mu +[A_\mu,A_\nu]=:F^a_{\mu\nu}T^a
\end{align}
ゲージ場のゲージ変換性は以下:
\begin{align}
A\to A'_\mu = U^{-1}A_\mu U+U^{-1}\partial_\mu U
\end{align}
※本記事ではゲージ場に結合定数を吸収させていることに注意$:A_\mu\to iA_\mu/g$
本記事のnotationはNash1989に基づきます。
次の不等式
\begin{align}
&{\rm tr}\int (F_{\mu\nu}\pm \tilde F_{\mu\nu})^2d^4x\ge0 \ \ \ (\tilde F^{\mu\nu}:=\frac{1}{2}\epsilon^{\mu\nu\alpha\beta}F_{\alpha\beta})
\end{align}
と関係式
\begin{align}
(F_{\mu\nu}\pm\tilde F_{\mu\nu})^2=2(F_{\mu\nu}F_{\mu\nu}\pm F_{\mu\nu}\tilde F_{\mu\nu})
\end{align}
より次の等式が成立することから始めます:
\begin{align}
&{\rm tr}\int d^4x F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\ge
\left|
{\rm tr}\int d^4x F_{\mu\nu}\tilde F^{\mu\nu}
\right|
\end{align}
ここで
\begin{align}
\nu:=-\frac{1}{32\pi^2}{\rm tr}\int d^4x \ \epsilon^{\mu\nu\alpha\beta}F_{\mu\nu}F_{\alpha\beta}
\end{align}
を定義します。すると
\begin{align}
{\rm tr}\int d^4 F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\ge 16\pi^2|\nu|
\end{align}
が成立します。等号が成立するのは
\begin{align}
F^a_{\mu\nu}=\pm \tilde F^a_{\mu\nu} \tag{1}
\end{align}
のときです。そして後ほど確認しますが、$\nu$はトポロジカルな不変量です。よって不等式の右辺はゲージ場の連続変形では変化しません。一方不等式の左辺はEq.(1)を満たす場から場が連続的に変化すればその値が増えます。よってEq.(1)の場の配位は作用の極小値を与え、運動方程式の解になります。
Eq.(1)の条件を(anti-)self dualと呼びます(符号マイナスがanti-self dual)。
以下Eq.(1)の解を探します。この解に対し作用は有限でなければいけませんが、そのために解が遠方で持つべき振る舞いを確かめておきます。
作用の有限性より、$F_{\mu\nu}$は遠方で十分速くゼロになる必要があります。これらはゲージ不変な量です。一方ゲージ場はゲージ不変ではなく、$U(x)\in$SU(N)により
\begin{align}
A_\mu \to U^\dagger A_\mu U+U^\dagger \partial_\mu U
\end{align}
と変化します。これは遠方でゼロになる必要はなく、真空$A_\mu =0$にゲージ同値(ゲージ変換による同値関係)なゲージ場になればよいです。すなわち上式の右側で$A_\mu=0$として
\begin{align}
U^\dagger \partial_\mu U
\end{align}
と書ける配位であればかまいません。そして以下の議論で重要なのは、$U$を連続的な変形による同値類(トポロジカルな分類)で分類できることです。$U={\bf 1}(\in \text{SU(N)})$からの連続的な変形では辿り着けない$U$がインスタントンの議論では重要です。
ということで、次の2つの条件を満たすゲージ場の配位を探します:
(a) $F_{\mu\nu}=\tilde F_{\mu\nu}$を満たす
(b) 遠方で$U^\dagger\partial_\mu U, \ \ \ U\in \text{SU(N)}$となる
本記事ではSU(2)YM理論の解を求めることにします。
境界条件(b)を満たすように、次の形の解を探します:
\begin{align}
A_\mu(x)=f(r)U^{-1}\partial_\mu U, \ \ \ r:=\sqrt{x_1^2+x_2^2+x_3^2+x_4^2}=\sqrt{x_ax_a}
\end{align}
$U\in$SU(2)、また$f(r)$は$f(r\to \infty)=1$を満たす未知関数です。
ここで$U$はSU(2)だから以下のように表せます:
\begin{align}
&U=U_a\tau^a\\
&\begin{cases}
\tau^0={\bf 1},\ \tau^i =i\tau^i,\\
U_aU_a=1 \ \ \ (U_a\in {\mathbb R})
\end{cases}
\end{align}
この$U_a$が"ポテンシャル"$h(r)$から以下のように導けることを仮定します:
\begin{align}
U_a=\partial_a h(r)=x_ah'(r) \ \ \ (h'(r):=\partial_r h(r))
\end{align}
ここで$U_aU_a=1$より$h'=1/r$であるから、$U$は以下のようになります:
\begin{align}
U(x)=\frac{x_a\tau^a}{r}=:\hat n_a\tau^a, \ \ \ \ {\hat n}_a:=\frac{x^a}{r}
\end{align}
これを$A$に代入すれば
\begin{align}
A_\mu =\frac{f(r)}{r}\left[\hat n_a(\tau^a)^\dagger\tau^\mu-\hat n_\mu{\bf 1}\right]\tag{2}
\end{align}
を得ます。
次にself dualの条件$F_{\mu\nu}=\tilde F_{\mu\nu}$を満たすように$f(r)$を定めます。ここでEq.(2)の四角カッコ内の$-\hat n_\mu{\bf 1}$は$F_{\mu\nu}$に寄与しません。よってこの項はなくとも物理的には等価です。そこで
\begin{align}
A_\mu=\frac{f(r)}{r}\hat n_a(\tau^a)^\dagger\tau^\mu \tag{3}
\end{align}
として計算を進めます。ここで次の量を定義します:
\begin{align}
a(r):=f(r)/r^2,\ \ \ b(x)=x_a\tau^a
\end{align}
これにより$A_\mu$は
\begin{align}
A_\mu(x)=a(r)b^\dagger b_{,\mu}
\end{align}
と表せます。$b_{,\mu}$は$b$の$\mu$での微分です。これを用いて$F_{\mu\nu}$を計算すると以下のようになります:
\begin{align}
(a,_\mu+2x_\mu a^2)b^\dagger b_{,\nu}
-(a_{,\nu}+2x_\nu a^2)b^\dagger b_{,\mu}
+
\underline{(a-a^2x^2)
(b^\dagger_{,\mu}b_{,\nu}
-b_{,\nu}^\dagger b_{,\mu})}
\end{align}
ここで下線部はself dualityを満たします(Appendix参照)。よって
\begin{align}
(a,_\mu+2x_\mu a^2)b^\dagger b_{,\nu}
-(a_{,\nu}+2x_\nu a^2)b^\dagger b_{,\mu}
\end{align}
の部分がself dualならEq.(3)の配位はself dualityを満たします。最も単純にself dualityを実現するには、この部分がそもそもゼロであればよいです。よって
\begin{align}
a_{,\nu}+2x_\nu a^2=0
\end{align}
を要請します。この解はすぐに求まり
\begin{align}
a(r)=\frac{1}{r^2+\rho^2}, \ \ \ \rho:\text{const.}
\end{align}
となります。ゆえに
\begin{align}
f(r)=r^2a(r)=\frac{r^2}{r^2+\rho^2}
\end{align}
を得ます。これは$f(r\to \infty)=1$を満たします。
最終的に、SU(2)YM理論において(a)(b)を満たす解は以下のようになります:
\begin{align} A_\mu &=\frac{f(r)}{r}\hat n_a(\tau^a)^\dagger\tau^\mu\\ &=\frac{1}{r^2+\rho^2}x_a(\tau^a)^\dagger\tau^\mu \tag{4} \end{align}
この解をインスタントンと呼びます。この名前は、$|{\boldsymbol x}|=\text{const.}$として$x_4$を変化させたとき、$A_\mu$が$x_4\sim 0$付近で「瞬間的に」ピークをもつことに由来します。
最初の章で
\begin{align}
\nu:=-\frac{1}{32\pi^2}{\rm tr}\int d^4x \ \epsilon^{\mu\nu\alpha\beta}F_{\mu\nu}F_{\alpha\beta}
\end{align}
が整数になると言いました。ここではインスタントンの一般的な形
\begin{align}
A_\mu = f(r)U^{-1}\partial_\mu U
\end{align}
に関してこれを確かめます。
ここで次の定理を用います。
次の関係が成立する:
\begin{align}
&{\rm tr}{\bf F}^2
=d{\bf K}, \\
&{\bf K}={\rm tr}\left(
{\bf A}d{\bf A}+\frac{2}{3}{\bf A}^3
\right)={\rm tr}\left(
{\bf F}d{\bf A}-\frac{1}{3}{\bf A}^3
\right)\\
&
\begin{cases}
{\bf A}=A_\mu dx^\mu,\\
\displaystyle {\bf F}:=\frac{1}{2}F_{\mu\nu}dx^\mu\wedge dx^\nu
\end{cases}
\end{align}
太字はその量がformであることを表します。$d$は外微分であり、1-form ${\boldsymbol \omega=\omega_\mu dx^\mu}$に対し
\begin{align}
d{\boldsymbol \omega}:=\partial_\mu \omega_\nu \ dx^\mu\wedge dx^\nu
\end{align}
です。またformのwedge積は明示しません。例えば${\boldsymbol \omega}^2={\boldsymbol \omega}{\boldsymbol \omega}={\boldsymbol \omega}\wedge {\boldsymbol \omega}$です。
$d(d{\boldsymbol \omega})=0, {\rm tr}{\bf A}^4=0, $さらに${\rm tr}$の巡回性とformの反可換性を用いれば以下が導ける:
\begin{align}
d\left[{\rm tr}\left({\bf A}d{\bf A}+\frac{2}{3}{\bf A}^3\right)\right]
&={\rm tr}
\left(
(d{\bf A})^2+\frac{2}{3}(d{\bf A}{\bf A}^2-{\bf A}d{\bf A}{\bf A}+{\bf A}^2d{\bf A})
\right)\\
&={\rm tr}\left(
({\bf F}-{\bf A}^2)({\bf F}-{\bf A}^2)
+\frac{2}{3}(d{\bf A}{\bf A}^2+\frac{1}{2}(d{\bf A}{\bf A}^2+{\bf A}^2d{\bf A})+{\bf A}^2d{\bf A})
\right)\\
&={\rm tr}\left(
{\bf F}^2-{\bf F}{\bf A}^2-{\bf A}^2{\bf F}
+d{\bf A}{\bf A}^2+{\bf A}^2d{\bf A}
\right)\\
&={\rm tr}\left(
{\bf F}^2-d{\bf A}{\bf A}^2-{\bf A}^2d{\bf A}
+d{\bf A}{\bf A}^2+{\bf A}^2d{\bf A}
\right)\\
&={\rm tr}{\bf F}^2
\end{align}
また${\rm tr}({\bf A}d{\bf A}+2/3{\bf A}^3)$は以下のように書き換えられる:
\begin{align}
{\rm tr}({\bf A}d{\bf A}+\frac{2}{3}{\bf A}^3)
&={\rm tr}(d{\bf A}{\bf A}+{\bf A}^3-\frac{1}{3}{\bf A}^3)\\
&={\rm tr}((d{\bf A}+{\bf A}^2){\bf A}-\frac{1}{3}{\bf A}^3)\\
&={\rm tr}({\bf F}{\bf A}-\frac{1}{3}{\bf A}^3) {}_\blacksquare
\end{align}
ここで注意してほしいのは、${\rm tr}{\bf F}^2$は局所的にexactだということです。${\rm tr}{\bf F}^2$が大域的にexactなら、積分してゼロになります。ゲージ場の配位が大域的には非自明なトポロジーを持ちうるため積分が残ります。${\rm tr}{\bf F}^2$がゲージ不変であるのに対し、${\bf K}$はゲージ依存な量であるため、$U_N$上と$U_S$上のゲージ場を結ぶゲージ変換が$\bf K$の大域的な構造に影響を与えます。これにより$d{\bf K}$の積分が非自明になります。
さて、インスタントンが定義されている4次元Euclid空間${\mathbb R}^4$を、無限遠を同一視することで1点コンパクト化し$S^4$とします。また$|x|\to L$において$A_\mu(x)\to U^{-1}\partial_\mu U$とします。インスタントン解はこれを満たします($L$は十分大きく「遠方」とする)。$L={\rm const.}$は$S^3$であるので、$U$は$S^3\to SU(2)\simeq S^3$の写像であり、$\pi_3(S^3)\simeq {\mathbb Z}$で分類できます。
ここで${\bf A}$を上記の境界条件を満たすインスタントン解とします。このとき
\begin{align} \int_{S^4}{\rm tr}{\bf F}^2=-\frac{1}{3} \int_{S^3}{\rm tr}{\bf A}^3 \tag{5} \end{align}
が成立します。
$S^4$を北半球$U_N$と南半球$U_S$に分割する。ただしこれらの領域は赤道において少しだけ重なり帯状になるようにしておく(図1。赤道はオレンジの線)。
$S^4$の分割。$S^3$は$U_N\cap U_S$。
この微小帯の赤道を$|x|\to L$に対応させる。そして赤道上ではインスタントン解の満たす上記の境界条件:
\begin{align}
A = U^{-1}dU \tag{6}
\end{align}
が成立しているとする。赤道は$S^3=U_N\cup U_S$である。
ここで、「可縮な底空間上のファイバー束は自明」という事実を使う。$U_N, U_S$は共に可縮なので、ファイバー束は$U_N$と$U_S$それぞれに制限すれば自明になってしまう。よって、これが自明にならないのなら、それは$U_N$と$U_S$の重なり部分からもたらされる。$x\in U_N\cap U_S$において、$U_N$上のゲージ場$A_N$と$U_S$上のゲージ場$A_S$は変換$g_{NS}$により、以下のゲージ変換で結びつく:
\begin{align}
A_N=g^{-1}_{NS}A_Sg_{NS}+g^{-1}_{NS}dg_{NS}
\end{align}
いま$A_S$上ではファイバー束は自明として、$A_S(x)\equiv 0, \ x\in U_S$とする。すると赤道上では
\begin{align}
A_N=g^{-1}_{NS}dg_{NS}
\end{align}
が成立する。この式とEq.(6)を比べると、インスタントン解における$U$と、ファイバー束の非自明性を与えるゲージ変換$g_{NS}$は同一視できる。つまりインスタントン解の$U$がファイバー束の非自明性を与え、積分をノンゼロにする。
以上をもとにEq.(5)を計算する。$S^4$を$U_N$と$U_S$に分割し、$U_N$上の積分を計算する。
\begin{align}
\int_{U_N}{\rm tr}{\bf F}^2=\int_{U_N} d{\rm tr}\left(
{\bf F}d{\bf A}-\frac{1}{3}{\bf A}^3\right)=
\int_{\partial U_N=S^3} {\rm tr}\left(
{\bf F}d{\bf A}-\frac{1}{3}{\bf A}^3
\right)
\end{align}
$S^3$上ではインスタントン解の境界条件より${\bf A}=U^{-1}dU$なので、${\bf F}=0$である。ゆえに
\begin{align}
\int_{U_N}{\rm tr}{\bf F}^2=
-\frac{1}{3}\int_{S^3} {\rm tr}
{\bf A}^3
\end{align}
$\int_{U_S}{\rm tr}{\bf F}^2=0$より、左辺の積分領域は$S^4$にしてよい。よって
\begin{align}
\int_{S^4}{\rm tr}{\bf F}^2=
-\frac{1}{3}\int_{S^3} {\rm tr}
{\bf A}^3
\end{align}
が成立する。これは
\begin{align}
\int_{S^4}{\rm tr}{\bf F}^2=
-\frac{1}{3}\int_{S^3} {\rm tr}\left(
(U^{-1} dU) (U^{-1} dU) (U^{-1} dU) \tag{7}
\right)
\end{align}
とも表せる。${}_\blacksquare$
ここで
Skyrme模型の基礎
で説明したmap $U$のdegree
\begin{align}
{\rm deg}U
&=\frac{1}{24\pi^2}
\int_X{\rm tr}[(dUU^{-1})(dUU^{-1})(dUU^{-1})]\\
&=\frac{1}{24\pi^2}
\int_X{\rm tr}[(U^{-1}dU)(U^{-1}dU)(U^{-1}dU)]
\end{align}
を用いると、Eq.(7)は以下のように書き直せます:
\begin{align}
\int_{S^4}{\rm tr}{\bf F}^2=-8\pi^2{\rm deg}U
\end{align}
ただしここでの${\rm deg}U$は$X$を$S^3$としたものであり、また$U$はインスタントン解における$U$です。${\rm deg}U$は$\pi_3(S^3)\simeq {\mathbb Z}$に関する巻き付き回数を測る量です。これはトポロジカルな不変量であり、かつ整数です(
Skyrme模型の基礎
参照のこと)。
Dirac作用素のゼロモードと指数定理 の記事で議論した、カイラルアノマリーにおける、Diracゼロモードとトポロジカルな不変量の関係に話を移します。この記事では以下の関係式を示しました:
\begin{align}
n_+-n_-=\nu, \ \ \
\nu:=-\frac{1}{32\pi^2}{\rm tr}\int d^4x \ \epsilon^{\mu\nu\alpha\beta}F_{\mu\nu}F_{\alpha\beta}
\end{align}
ただし本記事では場の再定義:$A_\mu\to iA_\mu/g$を行っていることを考慮し、係数を$g^2/(32\pi^2)\to -1/(32\pi^2)$に変更しています。上記の記事では$\nu$が整数であることは示しませんでしたが、いまや$\nu$の整数性はほぼ明らかです。インスタントン解に対し
\begin{align}
\int_{S^4}{\rm tr}{\bf F}^2=\frac{1}{4}\int d^4x \epsilon^{\mu\nu\alpha\beta}{\rm tr}(F_{\mu\nu}F_{\alpha\beta})
\end{align}
であるから、
\begin{align}
\nu&=-\frac{1}{32\pi^2}{\rm tr}\int d^4x \epsilon^{\mu\nu\alpha\beta}F_{\mu\nu}F_{\alpha\beta}\\
&=-\frac{1}{8\pi^2}\int_{S^4}{\rm tr}{\bf F}^2\\
&={\rm deg}U
\end{align}
となります。このようにDiracゼロモードとトポロジカルな不変量との間には関係がつきます。これは楕円型微分作用素の指数と位相幾何学的指数の関係を示す「Atiyah-Singerの指数定理」のカイラルアノマリーにおける現れです。導出の詳細は上記記事をご参照ください。
Eq.(3)のインスタントン解に対して$\nu$を計算します。それには
\begin{align}
{\rm deg}U=\frac{1}{24\pi^2}
\int_{S^3}{\rm tr}[(U^{-1}dU)(U^{-1}dU)(U^{-1}dU)], \ \ \ U=\hat n^a \tau^a
\end{align}
を計算すればよいです。これはふつうに計算しても求まりますが、Ref.Nakahara1990では対称性を利用して計算しています。$U^{-1}dU$において全成分を計算するのではなく、$x^4$方向の成分のみを単位球面$S^3$上で計算します。$U^{-1}dU|_{x^4=1,{\boldsymbol x}=0}=i\sigma_kd x^k$($k$は空間成分のみ)となるので
\begin{align}
{\rm tr}[(U^{-1}dU)(U^{-1}dU)(U^{-1}dU)]&={\rm tr}(-i\sigma^i\sigma^j\sigma^k)dx^i\wedge dx^j \wedge dx^k\\
&=2\epsilon_{ijk}dx^i\wedge dx^j \wedge dx^k\\
&=12dx^1\wedge dx^2\wedge dx^3
\end{align}
$dx^1\wedge dx^2\wedge dx^3$は$x^4$方向の面積要素です。球対称性から方向依存性を回復させれば、これは面積要素$dS^\mu$に対応します。よって
\begin{align}
{\rm deg} U&=\frac{1}{24\pi^2}\int_{S^3}{\rm tr}[(U^{-1}dU)(U^{-1}dU)(U^{-1}dU)]\\
&=\frac{12}{24\pi^2}\int_{\text{unit } S^3\text{ sphere}} \hat n_\mu d{S^\mu}\\
&=1
\end{align}
ここで単位$S^3$球面の面積が$2\pi^2$である事実を用いました。以上より、Eq.(4)のインスタントンの解は$\nu=1$に対応することがわかります。
証明はしませんが、$\nu=k \ \ (k\in {\mathbb Z})$となるインスタントン解は、$A_\mu = f(r)(U_1^{-1})^k\partial_\mu U_1^k$となります。ここで$U_1:=\hat n_a\tau^a$であり、$k=1$のインスタントンにおける$U$です。これに関しては例えばNakahara1990のP63をご参照ください。
Euclid空間でのYang-Mills理論におけるトポロジカルなソリトンであるインスタントン解に関して説明しました。インスタントンはself-dualの条件および遠方での境界条件 −真空とゲージ同値となる条件− を満たす解です。SU(2)YM理論においてこれを具体的に構成しました。作用の極小はインスタントン配位によるトポロジカルな不変量$\nu$で与えられます。この量がインスタントンによる$S^3\to SU(2)\simeq S^3$の写像度であることを示しました。これと前回の記事: Dirac作用素のゼロモードと指数定理 により、カイラルアノマリーに関し、Dirac作用素のゼロモードがトポロジカルな不変量と関係することがわかります。これは楕円型微分作用素の指数と位相幾何学的指数の関係を示す「Atiyah-Singerの指数定理」の現れです。
数学的に言うと、${\rm tr}{\bf F}^2$は第2Chern指標と呼ばれ、de Rhamコホモロジー群の元です(Nakahara1990P63)。一方${\bf K}$はそのChern-Simons形式と呼ばれます。
おしまい。${}_\blacksquare$
表題を示すには
\begin{align}
b_{,\mu}^\dagger b_{,\nu}-b^\dagger_{,\nu}b_{,\mu}
=\frac{1}{2}\epsilon_{\mu\nu\alpha\beta}
(b^\dagger_{,\alpha}b_{,\beta}-b^\dagger_{,\beta}b_{,\alpha})\\
\leftrightarrow
\tau^\dagger_\mu \tau_\nu-\tau^\dagger_\nu\tau_\mu
=\frac{1}{2}\epsilon_{\mu\nu\alpha\beta}
(\tau^\dagger_\alpha \tau_\beta
-\tau^\dagger_\beta\tau_\alpha)\tag{a1}
\end{align}
を示せばいいです。これには$(\mu,\nu)=(0,i)$と$(\mu,\nu)=(i,j)$ ($i,j$は$1,2,3$, $i\neq j$)でEq.(a1)が成立することを示せばよいです。
$(\mu,\nu)=(0,i)$のとき
Eq.(a1)の左辺は
\begin{align}
\tau^\dagger_0\tau_i-\tau^\dagger_i\tau_0=2i\sigma_i
\end{align}
右辺は
\begin{align}
\frac{1}{2}\epsilon_{0ijk}(\tau_j^\dagger\tau_k-\tau^\dagger_k\tau_j)
&=\frac{1}{2}\epsilon_{0ijk}(\sigma_j\sigma_k-\sigma_k\sigma_j)\\
&=i\epsilon_{0ijk}\epsilon_{ijl}\sigma_l\\
&=i\epsilon_{jki}\epsilon_{jkl}\sigma_l\\
&=2i\sigma_i
\end{align}
よって$(\mu,\nu)=(0,i)$の場合成立。
$(\mu,\nu)=(i,j)$のとき
Eq.(a1)の左辺は
\begin{align}
\tau^\dagger_i\tau_j-\tau^\dagger_j\tau_i
=\sigma_i\sigma_j-\sigma_j\sigma_i=2i\epsilon_{ijk}\sigma_k
\end{align}
右辺は
\begin{align}
\frac{1}{2}\epsilon_{ijab}(\tau^\dagger_a\tau_b-\tau^\dagger_b\tau_a)
&=\frac{1}{2}\epsilon_{ijk0}(\tau^\dagger_k\tau_0
-\tau^\dagger_0\tau_k)
+\frac{1}{2}\epsilon_{ij0k}(\tau^\dagger_0\tau_k
-\tau^\dagger_k\tau_0)\\
&=-\frac{1}{2}\epsilon_{ijk}(-i\sigma_k-i\sigma_k)+\frac{1}{2}\epsilon_{ijk}(i\sigma_k+i\sigma_k)\\
&=2i\epsilon_{ijk}\sigma_k
\end{align}
よって$(\mu,\nu)=(i,j)$の場合も成立。
${}$
ゆえにEq.(a1)が成立します。${}_\blacksquare$