4次元Euclid空間における非可換ゲージ理論(以降YM理論(Yang-Mills理論)と呼びます)にはインスタントンというトポロジカルなソリトンが存在します[1][2]。この解をSU(2)YM理論において導出したのち、Dirac演算子のゼロモードとインスタントン、トポロジカルな不変量との関係を述べます。
本記事は[3][4][5]の議論に基づきます。
Euclid空間におけるYang-Mills理論
以下ゲージ場のみが存在するEuclid空間でのYM理論を考えます。
Euclid空間におけるYM理論の経路積分及び作用は以下で与えられる:
ゲージ場のゲージ変換性は以下:
※本記事ではゲージ場に結合定数を吸収させていることに注意
本記事のnotationは[3]に基づきます。
のself dualityと作用の極小性
次の不等式
と関係式
より次の等式が成立することから始めます:
ここで
を定義します。すると
が成立します。等号が成立するのは
のときです。そして後ほど確認しますが、はトポロジカルな不変量です。よって不等式の右辺はゲージ場の連続変形では変化しません。一方不等式の左辺はEq.(1)を満たす場から場が連続的に変化すればその値が増えます。よってEq.(1)の場の配位は作用の極小値を与え、運動方程式の解になります。
Eq.(1)の条件を(anti-)self dualと呼びます(符号マイナスがanti-self dual)。
遠方でのゲージ場の境界条件
以下Eq.(1)の解を探します。この解に対し作用は有限でなければいけませんが、そのために解が遠方で持つべき振る舞いを確かめておきます。
作用の有限性より、は遠方で十分速くゼロになる必要があります。これらはゲージ不変な量です。一方ゲージ場はゲージ不変ではなく、SU(N)により
と変化します。これは遠方でゼロになる必要はなく、真空にゲージ同値(ゲージ変換による同値関係)なゲージ場になればよいです。すなわち上式の右側でとして
と書ける配位であればかまいません。そして以下の議論で重要なのは、を連続的な変形による同値類(トポロジカルな分類)で分類できることです。からの連続的な変形では辿り着けないがインスタントンの議論では重要です。
ということで、次の2つの条件を満たすゲージ場の配位を探します:
本記事ではSU(2)YM理論の解を求めることにします。
SU(2)インスタントン解
境界条件(b)を満たすように、次の形の解を探します:
SU(2)、またはを満たす未知関数です。
ここではSU(2)だから以下のように表せます:
このが"ポテンシャル"から以下のように導けることを仮定します:
ここでよりであるから、は以下のようになります:
これをに代入すれば
を得ます。
次にself dualの条件を満たすようにを定めます。ここでEq.(2)の四角カッコ内のはに寄与しません。よってこの項はなくとも物理的には等価です。そこで
として計算を進めます。ここで次の量を定義します:
これによりは
と表せます。はのでの微分です。これを用いてを計算すると以下のようになります:
ここで下線部はself dualityを満たします(Appendix参照)。よって
の部分がself dualならEq.(3)の配位はself dualityを満たします。最も単純にself dualityを実現するには、この部分がそもそもゼロであればよいです。よって
を要請します。この解はすぐに求まり
となります。ゆえに
を得ます。これはを満たします。
最終的に、SU(2)YM理論において(a)(b)を満たす解は以下のようになります:
この解をインスタントンと呼びます。この名前は、としてを変化させたとき、が付近で「瞬間的に」ピークをもつことに由来します。
がトポロジカルな不変量(写像度)であること
最初の章で
が整数になると言いました。ここではインスタントンの一般的な形
に関してこれを確かめます。
ここで次の定理を用います。
太字はその量がformであることを表します。は外微分であり、1-form に対し
です。またformのwedge積は明示しません。例えばです。
さらにの巡回性とformの反可換性を用いれば以下が導ける:
または以下のように書き換えられる:
ここで注意してほしいのは、は局所的にexactだということです。が大域的にexactなら、積分してゼロになります。ゲージ場の配位が大域的には非自明なトポロジーを持ちうるため積分が残ります。がゲージ不変であるのに対し、はゲージ依存な量であるため、上と上のゲージ場を結ぶゲージ変換がの大域的な構造に影響を与えます。これによりの積分が非自明になります。
さて、インスタントンが定義されている4次元Euclid空間を、無限遠を同一視することで1点コンパクト化しとします。またにおいてとします。インスタントン解はこれを満たします(は十分大きく「遠方」とする)。はであるので、はの写像であり、で分類できます。
ここでを上記の境界条件を満たすインスタントン解とします。このとき
が成立します。
を北半球と南半球に分割する。ただしこれらの領域は赤道において少しだけ重なり帯状になるようにしておく(図1。赤道はオレンジの線)。
の分割。は。
この微小帯の赤道をに対応させる。そして赤道上ではインスタントン解の満たす上記の境界条件:
が成立しているとする。赤道はである。
ここで、「可縮な底空間上のファイバー束は自明」という事実を使う。は共に可縮なので、ファイバー束はとそれぞれに制限すれば自明になってしまう。よって、これが自明にならないのなら、それはとの重なり部分からもたらされる。において、上のゲージ場と上のゲージ場は変換により、以下のゲージ変換で結びつく:
いま上ではファイバー束は自明として、とする。すると赤道上では
が成立する。この式とEq.(6)を比べると、インスタントン解におけると、ファイバー束の非自明性を与えるゲージ変換は同一視できる。つまりインスタントン解のがファイバー束の非自明性を与え、積分をノンゼロにする。
以上をもとにEq.(5)を計算する。をとに分割し、上の積分を計算する。
上ではインスタントン解の境界条件よりなので、である。ゆえに
より、左辺の積分領域はにしてよい。よって
が成立する。これは
とも表せる。
ここで
Skyrme模型の基礎
で説明したmap のdegree
を用いると、Eq.(7)は以下のように書き直せます:
ただしここでのはをとしたものであり、またはインスタントン解におけるです。はに関する巻き付き回数を測る量です。これはトポロジカルな不変量であり、かつ整数です(
Skyrme模型の基礎
参照のこと)。
Diracゼロモードとインスタントン
Dirac作用素のゼロモードと指数定理
の記事で議論した、カイラルアノマリーにおける、Diracゼロモードとトポロジカルな不変量の関係に話を移します。この記事では以下の関係式を示しました:
ただし本記事では場の再定義:を行っていることを考慮し、係数をに変更しています。上記の記事ではが整数であることは示しませんでしたが、いまやの整数性はほぼ明らかです。インスタントン解に対し
であるから、
となります。このようにDiracゼロモードとトポロジカルな不変量との間には関係がつきます。これは楕円型微分作用素の指数と位相幾何学的指数の関係を示す「Atiyah-Singerの指数定理」のカイラルアノマリーにおける現れです。導出の詳細は上記記事をご参照ください。
SU(2)インスタントン解に対する
Eq.(3)のインスタントン解に対してを計算します。それには
を計算すればよいです。これはふつうに計算しても求まりますが、Ref.[4]では対称性を利用して計算しています。において全成分を計算するのではなく、方向の成分のみを単位球面上で計算します。(は空間成分のみ)となるので
は方向の面積要素です。球対称性から方向依存性を回復させれば、これは面積要素に対応します。よって
ここで単位球面の面積がである事実を用いました。以上より、Eq.(4)のインスタントンの解はに対応することがわかります。
証明はしませんが、となるインスタントン解は、となります。ここでであり、のインスタントンにおけるです。これに関しては例えば[4]のP63をご参照ください。
まとめ
Euclid空間でのYang-Mills理論におけるトポロジカルなソリトンであるインスタントン解に関して説明しました。インスタントンはself-dualの条件および遠方での境界条件 −真空とゲージ同値となる条件− を満たす解です。SU(2)YM理論においてこれを具体的に構成しました。作用の極小はインスタントン配位によるトポロジカルな不変量で与えられます。この量がインスタントンによるの写像度であることを示しました。これと前回の記事:
Dirac作用素のゼロモードと指数定理
により、カイラルアノマリーに関し、Dirac作用素のゼロモードがトポロジカルな不変量と関係することがわかります。これは楕円型微分作用素の指数と位相幾何学的指数の関係を示す「Atiyah-Singerの指数定理」の現れです。
数学的に言うと、は第2Chern指標と呼ばれ、de Rhamコホモロジー群の元です([4]P63)。一方はそのChern-Simons形式と呼ばれます。
おしまい。
Appendix: のself duality
表題を示すには
を示せばいいです。これにはと (は, )でEq.(a1)が成立することを示せばよいです。
のとき
Eq.(a1)の左辺は
右辺は
よっての場合成立。
のとき
Eq.(a1)の左辺は
右辺は
よっての場合も成立。
ゆえにEq.(a1)が成立します。