ABJ anomalyの計算:経路積分における藤川の方法 [1]
では、U(1)の電磁場がフェルミオンと結合している系においてABJ anomalyの計算を行いました。本記事ではこれを非可換ゲージ理論(以下これをYang-Mills(YM)理論と呼びます)に拡張します。計算自体はほぼU(1)の場合と変わりません。そして以下に見るように、Dirac演算子の右手ゼロモードと左手ゼロモードの差が、ゲージ場のトポロジカル不変量で書けることがわかります。粒子の右手・左手とは、
このように、楕円型微分作用素の解析的な指標が、幾何学的な位相的指標(トポロジカルな不変量)と結びつくのは、Atiyah-Singer及びAtiyah-Patodi-Singerの指数定理の現れです。
非可換ゲージ理論(YM理論)に関しては以前記事を書きました:
ゲージ対称性とは何か(8):Yang-Mills理論とDiracの方法
Mathlog3
基本事項に関しては、この記事の「基本的なこと」をご参照ください。
本記事ではEuclid計量の空間を考え、かつフェルミオン
本記事で扱うEuclid空間の経路積分は以下で定義される:
ここで
である。フェルミオン
本記事における
ここで
である。
局所的なカイラル変換に関し、Eq.(1)の経路積分のヤコビアンを計算します。
局所的な無限小カイラル変換
に対し、YM理論の経路積分のヤコビアンは以下で与えられる:
ここで
これはMathlog1の「公式1 局所的なカイラル変換に関するヤコビアン1」の証明と同じなので省略する。
次に
以下の関係式が成立する:
これもMathlog1における「公式2」のYM理論バージョンの式であり、導出は殆ど同じです。
ここで
U(1)ゲージ理論の場合の対応する式の証明はMathlog1のAppendix 2に示してある。証明を追えばわかるように、これは非可換ゲージ理論に関しても全く同様に成立する。
この先の計算もMathlog1と同様である。「公式2 局所的なカイラル変換に関するヤコビアン2」において非可換ゲージ理論の場合に変更されるのは、
となる。時空の積分と
これより、YM理論の場合の局所的なカイラル変換のヤコビアンは
となります。
Eq.(2)で
となります。この式の左辺は次のようにDirac演算子のゼロモードで書くことができます。
Eq.(3)の左辺は以下のように表せる:
ここで
であり、異なる固有値に属する。よって
となる。ゆえにEq.(3)の左辺には
これらのモードはnormalizeされているとすると、Eq.(3)の左辺は以下のように計算できる:
ここで
よってEq.(3)は
と書けます。
実際
一方
「無限ホテル」から始める量子異常
Mathlog4では、
非可換ゲージ理論の経路積分における局所的なカイラル変換に対するヤコビアンを計算しました。適切に正則化し計算すると、ゲージ場で表される第2Chern指標の積分が、Dirac作用素のゼロモードのLHとRHの数の差と等しいことがわかります。これは楕円型微分作用素の解析的指標と位相的指標の関係を示すAtiyah-Singer及びAtiyah-Patodi-Singerの指数定理の現れです。
保存則の観点から言えば、これらの事実は、古典的に保存するカレントが量子論では破れる現象である量子アノマリーと関係します。経路積分のヤコビアンとカレントの発散はWard恒等式により結びつきます。この恒等式より、位相的指標とカレントの発散の関係がわかります。標語的に言えば、対称性は量子効果により位相的指標ぶんだけ破れます。これらのお話に関してはMathlog1やMathlog4をご参照ください。
おしまい。