この記事は
「
ゲージ対称性とは何か(7):U(1)ゲージ理論とDiracの方法
」
の続きです。
本記事では以下のnotationを採用しています:
前回はU(1)ゲージ理論(=電磁気学、Maxwell理論)にDiracの方法を適用しました。
今回はYang-Mills理論でこれを議論します。具体的には力学変数間のDirac bracketの計算、および運動方程式の導出をします。
最後にちょっとだけゲージ場の量子論について書きます。
Yang-Mills理論は豊富な(本当に様々な)物理的側面を持つのですが、それはまたいつか。
SU(N)のYang-Mills理論は以下です:
\begin{align*}
{\cal L}&=-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}^aF^{\mu\nu a},\\
F_{\mu\nu}^a&:=\partial_\mu A_\nu^a-\partial_\nu A_\mu^a+gf^{abc}A_\mu^b A_\nu^c
\end{align*}
ここで
$f^{abc}$: SU(N)の群の構造定数 $\ $($a,b,c$は1から$N^2-1$まで走るadjoint表現の足)
$\ g$: 結合定数
SU(N)の構造定数とは、SU(N)の生成子を$T^a$とすると
\begin{align*}
[T^a,T^b]=if^{abc}T^c
\end{align*}
を満たす定数です。ただし$[A,B]:=AB-BA$は交換子です。$f^{abc}$は$a$と$b$および$b$と$c$の入れ替えに対し反対称です:
\begin{align*}
f^{bac}=-f^{abc},\ \ f^{acb}=-f^{abc}
\end{align*}
$g$はゲージ場同士の結合の強さを表す定数ですが、古典的には理論に関係のない定数です。
それは$\tilde A^a_\mu:=g A^a_\mu$とすると、
\begin{align*}
F^a_{\mu\nu}&=\frac{1}{g}\tilde F^a_{\mu\nu},\\
\tilde F^a_{\mu\nu}&:=\partial_\mu \tilde A_\nu^a-\partial_\nu \tilde A_\mu^a+f^{abc}\tilde A_\mu^b \tilde A_\nu^c
\end{align*}
のように書けるので、$1/g$がLagrangian全体にかかるoverall factorとなり、運動方程式には影響しないことからわかります。一方で量子論では$g$は重要です。
さらに理論にフェルミオンという場が結合してもよいのですが、ここではフェルミオンが存在しない"pure Yang-Mills理論"を考えます。
${}$
この理論は以下のゲージ変換:
\begin{align}
A_\mu\rightarrow \frac{i}{g}U\partial_\mu U^{-1}+UA_\mu U^{-1} \tag{1}
\end{align}
ここで
\begin{align*}
&U:=\exp(i\theta^a(x)T^a), \ \ \
\theta^a(x): \text{時空}x=(t,{\boldsymbol x})\text{に依存する任意関数}\\
&A_\mu:=A_\mu^aT^a
\end{align*}
の下で不変です。これは共変微分
\begin{align}
D_\mu:=\partial_\mu-igA_\mu \tag{2}
\end{align}
がEq.(1)のゲージ変換の下で
\begin{align}
D_\mu\rightarrow UD_\mu U^{-1}
\end{align}
と変換し、さらに
$$
F_{\mu\nu}:=\frac{i}{g}[D_\mu,D_\nu]
$$
を用いてLagrangianが
$$
-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}^aF^{\mu\nu a}=-\frac{1}{2}{\rm tr}(F_{\mu\nu}F^{\mu\nu})
$$
と書けることから直ちに従います。
以下Diracの方法をYang-Mills理論(以下YMと略します)に適用します。
Canonical momentumは
\begin{align*}
\pi_0^a&:=\frac{\partial {\cal L}}{\partial \dot A^{0 a}}=F^a_{00}=0,\\
\pi_i^a&:=\frac{\partial {\cal L}}{\partial \dot A^{i a}}=F^a_{i0}
=\partial_i A^a_0 -\partial_0A^a_\mu+gf^{abc}A_\mu^bA_\nu^c
\end{align*}
です。$\phi^1:=\pi_0^a\approx 0$は1次拘束条件です。
YM理論では"電場"は$F^a_{i0}$で定義します。よって
\begin{align*}
E_{ia}=\pi_i^a
\end{align*}
です。つまり、U(1)と同様、canocical momentumが電場になります。
Hamiltonianは
\begin{align*}
H&:=\int d^3x \ \pi_\mu^a A^{\mu a}-\int d^3 x {\cal L}\\
&=\int d^3x\left[-\frac{1}{2}\pi^a_i\pi^{ia}-A^{0a}D^a_{bi}\pi^{bi}+\frac{1}{4}F^a_{ij}F^{ija}\right]
\end{align*}
となります。ここで$D^a_{bi}$は
\begin{align*}
D^a_{bi}:=\partial_i \delta^a_b-gf^{abc}A^c_i
\end{align*}
です。これはEq.(2)の共変微分$D_\mu$において、$T^a$をadjoint表現$(T^a)^{bc}=f^{abc}$とした表式です。
力学変数同士のPoisson bracketは
\begin{align*}
\{A^{i a}(x),\pi_{j b}(y)\}=\delta^i_j\delta^3(x-y)
\end{align*}
です(時刻に関しては同時刻)。ほかはゼロです。
拘束条件を見つけていきます。
上記したとおり、1次拘束条件は
$$
\phi^{(1)a}=\pi_0^a
$$
です。$\phi^{(1)a}$の時間発展に対するconsistency conditionより
\begin{align*}
\dot \phi^{(1)a}&=\{\phi^{(1)a},H\}=D^a_{bi}\pi^{ib}
=\partial_i\pi^{ia}-gf^{abc}A^c_i\pi^{ib}\approx 0\\
\therefore \phi^{(2)a}&=D^a_{bi}\pi^{ib}
\end{align*}
を得ます。Abelianのときは$\partial_i\pi^i\approx 0$でしたが、微分が共変微分に代わりました。これは、YM理論では、電子のような荷電フェルミオンがなくとも、電場の湧き出し$\partial_i\pi^{ia}$が存在することを意味します。この事実はゲージ場自体が"YM電荷"を持っていることを反映しています。
さらに$\phi^{(2)a}$の時間発展によるconsistencyを調べます。
その際、すでに得られた$\phi^{(1)a}$をHamiltonianに加えます:
$$
\tilde H = H + \int d^3x \lambda^{1a}(x)\phi^{(1)a}
$$
そして$\tilde H$による$\phi^{(2)a}$の時間発展を調べると
$$
\dot \phi^{(2)a}=\{\phi^{(2)a},\tilde H\}=gf^{abc}\phi^{(2)b}A^{0c}
$$
となります。すなわち、新たに拘束条件を加えずとも、$\phi^{(2)a}\approx 0$なら$\dot \phi^{(2)a}\approx 0$となり、時間発展とconsistentになります。
これで拘束を見出す作業はおしまいです。
以上より、Yang-Mills理論には2つの第1類拘束条件
$$ \phi^{(1)a}=\pi_0^a,\\ \phi^{(2)a}=D^a_{bi}\pi^{ib}. $$
が存在することがわかります。
拘束条件同士のPoisson括弧は以下です:
\begin{align*} \{\phi^{(1)a},\phi^{(1)b}\}&=\{\phi^{(1)a},\phi^{(2)b}\}=0,\\ \{\phi^{(2)a},\phi^{(2)b}\}&=gf^{abc}D^c_{di}\pi^{id}=gf^{abc}\phi^{(2)c}\approx 0 \ \ \ \ (\text{←これだけAppendixで計算しておきます}),\\ \end{align*}
すなわち
$$
\{\phi^{(m)a},\phi^{(n)b}\}\approx 0 \ \ \ (m,nは1,2をとる)
$$
です。よってこれらは第1類拘束条件であり、運動が定まりません。つまりゲージ対称性が系に存在することを意味します。
第1類拘束条件を第2類拘束条件にするため、ゲージ固定をします。第1類拘束が2つあるので、それらの未定係数を決定するため2つゲージ固定が必要です。
ここではスタンダードなゲージ固定
$$ \chi^{(1)}=A^{0a},\\ \chi^{(2)}=\partial_i A^{ia} $$
を採用します。これはU(1)の場合と同様のゲージ固定です。
これが運動を決定する(=未定係数が決定される)かどうかは、拘束条件及びゲージ固定条件の時間発展に対するconsistencyから導かれる、未定係数に対する係数行列$C$が逆をもつか否かで判定できます。すなわち、決定されていない第1類拘束条件の未定係数が、ゲージ固定の時間発展のconsistencyから決まる条件は
$$
C^{\alpha\beta}:=\{\varphi^\alpha,\varphi^\beta\}\\
(\varphi^\alphaはすべての拘束とゲージ固定。今の場合\varphi^{\alpha=1,2,3,4}=\chi^{(1)a},\chi^{(2)a},\phi^{(1)a},\phi^{(2)a})
$$
が逆をもつことです。
(このへんのことは
「ゲージ対称性とは何か(5):Diracの方法」
をご参照ください)
$C$を計算するために必要な、拘束条件・ゲージ固定間のPoisson bracketsは以下です:
\begin{align*} \{\phi^{(1)a},\phi^{(1)b}\}&=\{\phi^{(1)a},\phi^{(2)b}\}=0,\\ \{\chi^{(1)a},\chi^{(1)b}\}&=\{\chi^{(1)a},\chi^{(2)b}\}=\{\chi^{(2)a},\chi^{(2)b}\}=0,\\ \{\chi^{(1)a},\phi^{(2)b}\}&=\{\chi^{(2)a},\phi^{(1)b}\}=0,\\ \{\phi^{(2)a},\phi^{(2)b}\}&=gf^{abc}D^c_{di}\pi^{id},\\ \{\chi^{(1)a},\phi^{(1)b}\}&=\delta^a_b\delta^3(x-y),\\ \{\chi^{(2)a},\phi^{(2)b}\}&=(\partial_iD^{bi}_a)_x\delta^3(x-y). \end{align*}
これより
\begin{align*}
C=\{\varphi^\alpha,\varphi^\beta\}=
\begin{pmatrix}
0&0&\delta^a_b&0\\
0&0&0&\partial_iD^{bi}_a\\
-\delta^a_b&0&0&0\\
0&-\partial_iD^{bi}_a & 0 &gf^{abc}D^c_{di}\pi^{id}
\end{pmatrix}
\delta^3(x-y)
\end{align*}
で、確かに逆をもち、逆行列は
\begin{align*}
C^{-1}&=
\begin{pmatrix}
0&0&-\delta^a_b&0\\
0&gf^{abc}D^c_{di}\pi^{id}/(\partial_iD^{bi}_a)^2&0&-1/(\partial_iD^{bi}_a)\\
\delta^a_b&0&0&0\\
0&1/(\partial_iD^{bi}_a) & 0 &0
\end{pmatrix}
\delta^3(x-y)
\end{align*}
です。
(※ここから先の計算は、適切な文献が見つからなかったため、正しいか確認できませんでした。大きく違うことはたぶんないと思いますが、符号や足の付き方等違う可能性があります)
Dirac括弧を構成します。そのために必要なPoisson括弧の計算は以下です:
\begin{align} \{A^{\mu a},\chi^{(1)b}\}&=\{A^{\mu a},A^{0 b}\}=0,\\ \{A^{\mu a},\chi^{(2)b}\}&=\{A^{\mu a},\partial_i A^{i b}\}=0,\\ \{A^{\mu a},\phi^{(1)b}\}&=\{A^{\mu a},\pi_0^b\}=\delta^\mu_0\delta^a_b\delta^3(x-y),\\ \{A^{\mu a},\phi^{(2)b}\}&=\{A^{\mu a},D^b_{ci}\pi^{ic}\}=-(\delta^b_a\partial_i-gf^{bac}A^c_i)\delta^3(x-y)\delta^\mu_i=-D^b_{ai}\delta^3(x-y)\delta^\mu_i\\ &\therefore \{A^{\mu a},\phi^{\alpha b}\} = (0,0,\delta^\mu_0\delta^a_b\delta^3(x-y),-D^b_{ai}\delta^\mu_i\delta^3(x-y))\\ {}\\ \{\chi^{(1)a},\pi_\mu^b\}&=\{A^{0a},\pi^b_\mu\}=\delta^0_\mu\delta^a_b\delta^3(x-y),\\ \{\chi^{(2)a},\pi_\mu^b\}&=\{\partial_iA^{ia},\pi^b_\mu\}=\delta^i_\mu\delta^a_b\partial_i\delta^3(x-y),\\ \{\phi^{(1)a},\pi_\mu^b\}&=\{\pi_i^a,\pi^b_\mu\}=0,\\ \{\phi^{(2)a},\pi_\mu^b\}&=\{D^a_{bi}\pi^{ib},\pi^c_\mu\}=gf^{abc}\pi_i^c\delta^i_\mu.\\ &\therefore \{\phi^{\alpha a}, \pi^b_\mu\}=(\delta^0_\mu\delta^a_b\delta^3(x-y),\delta^i_\mu\delta^a_b\partial_i\delta^3(x-y),0,gf^{abc}\pi^c_i\delta^i_\mu) \end{align}
これでDirac括弧の計算ができます。復習しておくと、Dirac括弧は
\begin{align}
\{F,G\}_D:=\{F,G\}-\{F,\varphi^\alpha\}(C^{-1})^{\alpha \beta}\{\varphi^\beta,G\}
\end{align}
で定義されます。
これを用いて、力学変数間のDirac括弧を計算すると
\begin{align*} \{A^{ia},\pi_j^b\}_D&=\delta^i_j\delta^a_b\delta^3(x-y)+D^a_{ci}((\partial_k D^{k})^{-1})^b_c\partial_j\delta^3(x-y)\\ &:=\hat P^{ab}_{ij}\\ (他はゼロ)& \end{align*}
となります。
これで拘束条件を内包した運動方程式を導く準備ができました。これを計算すると
\begin{align} \dot A^{ia}&=\{A^{i a},H\}_D=\hat P^{ab}_{ij}\pi^b_j\tag{3}\\ \dot \pi_i^a&=\{\pi_i^a,H\}_D=\hat P^{ba}_{ki}D^{bj}_cF^c_{jk}\tag{4} \end{align}
となります。ここで$\hat P^{ab}_{ij}$はprojection operatorになっています:
\begin{align}
&\hat P^{ab}_{ij} \hat P^{bc}_{jk}=\hat P^{ac}_{ik}, \\
&(\delta^a_b\delta^i_j-\hat P^{ab}_{ij})\hat P^{bc}_{jk}=0
\end{align}
さて、比較のため、通常のPoisson bracktから導かれる運動方程式を書くと
\begin{align}
\dot A^{ia}&= \{A^{i a},H\}=\pi^a_i-D^a_{bi}A^{0b}\\
\dot \pi_i^a &= \{\pi_i^a,H\}=D^{ja}_{b}F^b_{ji}-gf^{abc}A^{0b}\pi_i^c
\end{align}
です。$A^{0a}=0$とすれば
\begin{align}
\dot A^{ia}&=\pi^a_i\\
\dot \pi_i^a &=D^{ja}_b F^b_{ji}
\end{align}
を得ます。Eq.(3)(4)はこの式の右辺に$\hat P$を作用させた形になっています。
U(1)の場合、横波のprojection operatorでprojectされた力学変数のみで運動方程式を書くことができました。一方、YMの場合、$\hat P^{ab}_{ij}$でprojectされた力学変数のみでは書けないです(たぶん。文献で確かめてませんので、違ってたらごめんなさい)。これは、YMのGauss則が$\pi$に対して$D^a_{bi}\pi^i\approx 0$なのに対し、ここで採用した、$A$に対応するゲージ固定が$\partial_i A^{ia}\approx 0$であり、拘束条件とゲージ固定が非対称になっているからじゃないかと思います。
ちなみに、これらの式で$f^{abc}\rightarrow 0$とすれば、U(1)の場合を再現します。
古典論を正準量子化するには、Dirac括弧を、交換関係$[F,G]:=FG-GF$に$(-i)$をかけたものに置き換えます:
$$ \{A,B\}_D=\alpha\xrightarrow{正準量子化}-i[\hat A,\hat B]=\alpha, \\ \ \ [\hat A,\hat B]:=\hat A\hat B-\hat B\hat A,\\ \text{$\hat A,\hat B$は物理量$A,B$に対応する量子論のoperator} $$
この方法に従うと、$A^{0a}=0,\partial_iA^{ia}=0$のゲージの下では、ゲージ場およびその共役運動量(=YM電場)は
\begin{align}
[\hat A^{ia},\hat \pi^b_j]=i\left(\delta^i_j\delta^a_b\delta^3(x-y)+D^a_{ci}((\partial_kD^k)^{-1})^b_c\partial_j\delta^3(x-y)\right)
\end{align}
を満たすoperatorとして与えられます。状態はこれら演算子が作用する空間の元です。
しかし上式の右辺は大変イヤな演算子です。$(\partial_kD^k)^{-1}$は微分の逆を含むのでnon-localだし、Yang-Millsの足に関してもゲージ場を含む行列構造の逆を含みます。形式的に$(\partial_kD^k)^{-1}$と表記したとしても、それは絵に描いた餅で、実際の扱いは複雑になります。
そんなわけで、例えばRef.[1][2]では、このゲージにおいて、Diracの方法を直接用いた正準量子化の議論を避けています。
一方で、$\partial_kD^k$はFaddeev-Popov operatorと呼ばれ、重要な役割を持ちます。
ゲージ場の理論の量子化では、経路積分&Faddeev-Popovの方法がよく用いられます。この方法では、経路積分において拘束条件をデルタ関数の形で取り入れるのですが、その際
という操作を行います。こうしないと、経路積分に内在するゲージ変換方向の積分の無限大が悪さして計算ができません。この無限大をくくりだす操作が必要であり、1.で積分を分解するのはそのためです。そして、Coulomb gaugeで1.において現れるJacobianは
$$
{\rm Det}(-\partial_i D^{ai}_b\delta^4(x-y))
$$
を含みます。${\rm Det}$は時空およびYMの足に関する行列式です。このようにしてFaddeev-Popov operatorが現れます。2.はこうして生じた因子を、場の形で計算に取り込むための操作です。
もうひとつ述べておくと、上記のように拘束条件をDirac括弧の形で取り入れて正準量子化することは大変なのですが、BRS変換を用いた一連の方法を用いれば(=BRS量子化)、正準量子化も比較的カンタンにできます(例えばRef.[1]参照)。
このへんの話はまたいつか。
Yang-Mills理論にDiracの方法を適用しました。まとめると以下です:
第1・2次拘束条件:
\begin{align*}
\phi^{(1)a}&=\pi_0^a,\\
\phi^{(2)a}&=D^a_{bi}\pi^{ib}.
\end{align*}
これらは第1類拘束条件
${}$
ゲージ固定:temporal & Coulomb gaugeを採用
\begin{align}
\chi^1&=A^{0a},\\
\chi^2&=\partial_i A^{ia}
\end{align}
${}$
力学変数間のDirac括弧:
\begin{align}
\{A^{ia},\pi_j^b\}_D&=\delta^i_j\delta^a_b\delta^3(x-y)+D^a_{ci}((\partial_k D^{k})^{-1})^b_c\partial_j\delta^3(x-y)\\
(\text{他はゼロ})&
\end{align}
${}$
運動方程式:
\begin{align*}
\dot A^{ia}&=\{A^{i a},H\}_D=\hat P^{ab}_{ij}\pi^b_j\\
\dot \pi_i^a&=\{\pi_i^a,H\}_D=\hat P^{ba}_{ki}D^{bj}_cF^c_{jk}
\end{align*}
ここで
\begin{align}
\hat P^{ab}_{ij}:=
\delta^i_j\delta^a_b\delta^3(x-y)+D^a_{ci}((\partial_k D^{k})^{-1})^b_c\partial_j\delta^3(x-y)
\end{align}
おしまい。${}_\blacksquare$
☆次の記事: ゲージ対称性とは何か(9): なぜ「Diracの予想」を"信奉"するのか?
タイトルの計算ですが、ひとつ間違いやすい点があるので指摘しておきます。
とりあえず計算を進めてみます:
\begin{align*}
\{\phi^{(2)a},\phi^{(2)b}\}&=\{D^{a}_{ci}\pi^{ci}(x), D^{b}_{dj}\pi^{dj}(y)\}\\
&=\{(\delta^a_c\partial_{xi}-gf^{ace}A^e_i)\pi^{ic}_x,
(\delta^b_d\partial_{yj}-gf^{bdf}A^f_j)\pi^{jd}_y)\}\\
&=\{\delta^a_c\partial_{xi}\pi^{ic}_x,-gf^{bdf}A^f_i\pi^{id}_y\}
+\{-gf^{ace}A^e_i\pi^{ic}_x,\delta^b_d\partial_{yi}\pi^{id}_y\}
+\{gf^{ace}A^e_i\pi^{ic}_x,gf^{bdf}A^f_i\pi^{id}_y\}
\end{align*}
ここでPoisson bracket(およびDirac bracket)の性質
$$
\{FG,HI\}=\{F,H\}GI+\{G,I\}FH+\{F,I\}GH+\{G,H\}FI \ \ \ (\text{ただし}F,G,H,I\text{は可換})
$$
を用いると
以上から
\begin{align*}
\{\phi^{(2)a},\phi^{(2)b}\}=gf^{abc}\left(\pi^{ic}_x\partial^y_i\delta^3(x-y)+\pi^{ic}_y\partial^x_i\delta^3(x-y)-gf^{cdf}A^f_i\pi^{id}\delta^3(x-y)\right) \ \ \ (★★)
\end{align*}
となります。
注意しなければならないのは次の計算です。(★★)のカッコ内の最初の2項を
\begin{align*}
\pi^{ic}_x\partial^y_i\delta^3(x-y)+\pi^{ic}_y\partial^x_i\delta^3(x-y)=2\pi^{ic}_x\partial^x_i\delta^3(x-y)
\end{align*}
としてはいけないです。変形には次の2つの公式を使います:
※ 後者の式の証明:
\begin{align}
f(x)\partial_i^x\delta^3(x-y)
&=-f(x)\partial_i^y\delta^3(x-y)\\
&=-\partial_i^y(f(x)\delta^3(x-y))\\
&=-\partial_i^y(f(y)\delta^3(x-y))\\
&=-(\partial_i^yf(y))\delta^3(x-y)-f(y)\partial_i^y\delta^3(x-y)\\
&=-(\partial_i^yf(y))\delta^3(x-y)+f(y)\partial_i^x\delta^3(x-y)
\end{align}
Ref.[3-5]に本導出に関連することが載っていますのでご参照ください。
これらの式より
\begin{align}
\pi^{ic}_x\partial^y_i\delta^3(x-y)+\pi^{ic}_y\partial^x_i\delta^3(x-y)
&=(\pi^{ic}_y-\pi^{ic}_x)\partial^x_i\delta^3(x-y)\\
&=(\partial^x_i\pi^{ic}_x)\delta^3(x-y)
\end{align}
なので、
\begin{align}
(★★)&=gf^{abc}(\partial_i\delta^c_d-gf^{cdf}A^f_i)\pi^{id}\delta^3(x-y)\\
&=gf^{abc}D^c_{di}\pi^{id}
\end{align}
となり、本文の式を再現します。${}_\blacksquare$