Appendix (a) 「$\delta H/\delta A^\mu({\boldsymbol y})$の計算」を更新しました。
間違えていたわけではなく、標準的な計算方法を加えておきました。
本記事は
「
ゲージ対称性とは何か(5):Diracの方法
」
「
ゲージ対称性とは何か(6):Maxwell方程式・U(1)ゲージ理論
」
の続きです。
最初にいくつかnotationをまとめておきます:
以下の議論では、「ゲージ対称性とは何か(5):Diracの方法」の知識を前提とします。適宜ご参照ください。参考文献も「ゲージ対称性とは何か(5)」と基本的に同じですので、そちらを参照してください。一冊だけ新たな文献を挙げておきます。Weinbergの教科書(Ref.[1])に、電磁場の量子化がある程度詳しく載っており、そこにもDirac括弧のお話が載ってます。
U(1)ゲージ理論とは
\begin{align*} \hspace{0cm} &{\cal L}=-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu},\\ & F_{\mu\nu}:=\partial_\mu A^\nu-\partial_\nu A^\mu \end{align*}
で表される力学系です。$A^\mu=A^\mu(t,{\boldsymbol x})$はゲージ場と呼ばれます。ここでは真空中、つまり荷電粒子が存在しない場合(=カレント$j^\mu$がゼロ)を考えます。
この理論の詳細については、前回の記事をご参照ください(とくに最後のまとめ)。
以下ではこの系に存在する拘束条件について議論します。
今まで有限自由度の系しか扱ってなかったのですが、ここから無限自由度の場の理論を扱います。Appendix (a)にごく簡単に場の理論への移行に関して記しておきますので、不慣れな方はご参照ください。
U(1)ゲージ理論にDiracの方法を適用する動機は、第1に量子化です。
もうひとつは、ゲージ場の古典的な運動方程式を解くという動機です。
もしあなたの動機が運動方程式を解くことで(特に数値計算をしたいとき)、かつ$A^0=0, \partial_iA^i=0$というゲージでよいなら、特にDiracの方法を展開する必要はありません。
このとき運動方程式を解くには以下のようにすればいいです:
これでOKです。
この方法で正しく拘束が取り入れられているかは、時間発展に関する整合性=任意の時刻で拘束が保たれるかにかかっています。これを確認しておきます。
まず$A^0,\pi_0$はそもそも自由度に入ってないので問題ないです。
一方で2つの運動方程式の両辺のdivを取れば、初期条件が$\partial_i\pi^i=0, \partial_i A^i=0$を満たすなら、この2つの拘束条件は時間発展で保たれることを証明できます。
よって、この方法で$A^0,\pi_0, \partial_i\pi^i=0, \partial_i A^i=0$の4つの拘束が、時間発展と整合的な形で課されることがわかります。
ただし、他のゲージでは、このような取り扱いにより正しく拘束を取り入れられるかは保証されない気がします(すみません、よくわかりません)。いづれにせよDiracの方法が確実です(注)。
この記事では、Diracの方法により、拘束を内包した運動方程式を導きます。
それと上記の運動方程式を比べるのは有用です。
(注): 以下ではいわゆる「Diracの予想」に従った方法(=Hamiltonianに第1類拘束条件をすべて入れる)を展開します。これは非常に特殊なケースで間違った答えを導きますが、通常扱うような「まともな」理論では正しい答えを導くので安心してよいようです。
まず拘束条件を求め、Hamiltonianを構成します。
$A^\mu$に対するcanonical momentum $\pi_\mu$は
\begin{align*}
\hspace{0cm}\pi_\mu :=\frac{\partial{\cal L}}{\partial \dot A^\mu}
\end{align*}
ですが、${\cal L}$は$\dot A^0$を含まないので
\begin{align*}
\hspace{0cm}\pi_0 = 0
\end{align*}
です。これが第1次拘束条件です:
\begin{align*}
\hspace{0cm}\phi^1:=\pi_0
\end{align*}
$\pi$の空間成分は
\begin{align*}
\hspace{0cm}&\pi_i=\frac{\partial{\cal L}}{\partial \dot A^i}=-F^{i0}=-E^i,\\
&\therefore \pi^i = E^i
\end{align*}
となります。すなわち$A^i$の共役運動量$\pi^i$は電場$E^i$です。
Hamiltonian densityは
\begin{align*}
\hspace{0cm}{\cal H}&=\pi_\mu \dot A^\mu-{\cal L}\\
&=\frac{1}{2}(\pi^i)^2-(\partial_i\pi^i)A^0+\frac{1}{4}F_{ij}F^{ij}
\end{align*}
ゆえにHamiltonianは
\begin{align*}
\hspace{0cm}H=\int d^3x \left[\frac{1}{2}(\pi^i)^2-(\partial_i\pi^i)A^0+\frac{1}{4}F_{ij}F^{ij}\right]
\end{align*}
となります。
$\phi^1=\pi_0$の時間発展に関するconsistency
\begin{align*}
\hspace{0cm}\dot\phi^1=\left\{\phi^1,H\right\}_P
\end{align*}
を計算します。Poisson括弧の定義は冒頭のnotationをご参照ください。この計算は(この計算だけ)Appendix (b)に詳しく書いておきます。
結果は
\begin{align*}
\hspace{0cm}\dot\phi^1=\left\{\phi^1,H\right\}_P=\partial_i \pi^i
\end{align*}
です。これが弱い意味でゼロと等しいので
\begin{align*}
\hspace{0cm}\partial_i\pi^i \approx 0
\end{align*}
です。これは2次的拘束条件です。これを
\begin{align*}
\hspace{0cm}\phi^2=\partial_i\pi^i
\end{align*}
とします。$\pi$は電場なので、これはガウス則に他なりません。
これらの拘束
\begin{align*}
\phi^1=\pi_0, \ \ \ \phi^2=\partial_i\pi^i
\end{align*}
のPoisson括弧を計算すると
\begin{align*}
\hspace{0cm}&\{\phi^1,\phi^1\}_P=\{\phi^2,\phi^2\}_P\approx 0,\\
&\{\phi^1,\phi^2\}_P\approx 0
\end{align*}
となります。すべてのPoisson括弧がゼロなので、これは第1類拘束条件です。
第1類拘束条件があると、運動が定まりません(=未定係数に定まらないものがある)。これを第2類に落とすためには、$\phi^1=\pi_0,\ \phi^2=\partial_i\pi^i$に対応して、** 2つのゲージ固定が必要です **(第1類の拘束条件の数だけゲージ固定必要!)。よく採用されるのが
\begin{align*}
\hspace{0cm}\chi^1=A^0, \ \chi^2=\partial_iA^i
\end{align*}
です。
このゲージの良さは、まず拘束条件同士のPoisson括弧が単純なことです。明らかに$\{\chi^1,\chi^2\}$はゼロですし、$\{\chi^1,\phi^1\}$は1(というかデルタ関数)になります。
またのちほど見るように、ゲージ場の運動方程式も非常に単純になります。
これらの条件は、ゲージ固定条件の時間発展との整合性
\begin{align*}
\hspace{0cm}\dot\chi_a&\approx\{\chi_a,H'\}_P+\{\chi_a,\phi_b\}_P\lambda^b
\approx 0,\\
H'&:=H-\phi_\alpha C^{-1\alpha\beta}\{\phi_\beta,H\}_P\\
&(\text{ただし}\alpha,\betaは1から4をとる。\phi^{\alpha=1,2}=\chi^{a=1,2},\phi^{\alpha=3,4}=\phi^{a=1,2}とする)
\end{align*}
において、$\lambda$がゲージ固定により決定される条件
\begin{align*}
\hspace{0cm}{\rm det}\{\chi_a,\phi_b\}_P\not\approx 0
\end{align*}
を満たします(このへんのことは前々回の記事(5)をご参照ください)。このとき、拘束条件のPoisson括弧の行列$C$
\begin{align*}
\hspace{0cm}C=
\begin{pmatrix}
\{\chi^a,\chi^b\}_P & \{\chi^a,\phi^d\}_P\\
\{\phi^b,\chi^c\}_P & \{\phi^b,\phi^d\}_P
\end{pmatrix}
\end{align*}
は逆をもちます:
\begin{align*}
\hspace{0cm}&{\rm det}C={\rm det}
\begin{vmatrix}
\{\chi^a,\chi^b\}_P & \{\chi^a,\phi^d\}_P\\
\{\phi^b,\chi^c\}_P & \{\phi^b,\phi^d\}_P\\
\end{vmatrix}
\approx
{\rm det}^2|\{\chi_a,\phi_b\}_P|\not\approx 0\\
&\ \ \ (\{\chi_1,\chi_2\}_Pはゼロであることを用いた)
\end{align*}
これを用いて、Dirac括弧
\begin{align*}
\hspace{0cm}\{F,G\}_D:=\{F,G\}_P-\{F,\phi_\alpha\}_P C^{-1\alpha\beta}\{\phi_\beta,G\}_P
\end{align*}
を作れば、拘束条件$\Gamma^*$上での正準方程式は
\begin{align*}
\hspace{0cm}&\dot A^\mu = \{A^\mu,H\}_D,\\
&\dot \pi_\mu = \{\pi_\mu,H\}_D
\end{align*}
で与えられます。この式ではすでに拘束が取り入れられているため、外から拘束をつける必要がありません。
具体的に$C$を求めます。
\begin{align*}
C&=
\begin{pmatrix}
\{\chi,\chi\}_P & \{\chi,\phi\}_P\\
\{\phi,\chi\}_P & \{\phi,\phi\}_P
\end{pmatrix}\\
&=
\begin{pmatrix}
{\bf 0} & {\boldsymbol M}\\
-{\boldsymbol M} & {\bf 0}
\end{pmatrix}
\end{align*}
ここで${\bf 0}$は2x2のゼロ行列、また
\begin{align*}
{\boldsymbol M}=
\begin{pmatrix}
\{\chi^1,\phi^1\}_P & \{\chi^1,\phi^2\}_P\\
\{\chi^2,\phi^1\}_P & \{\chi^2,\phi^2\}_P
\end{pmatrix}
\end{align*}
です。
ここで拘束条件のPoisson括弧は以下のようになります:
よって
\begin{align*}
{\boldsymbol M}=
\begin{pmatrix}
1 & 0\\
0 & -\vec\partial_{\boldsymbol x}\cdot \vec\partial_{\boldsymbol y}
\end{pmatrix}
\delta^3({\boldsymbol x}-{\boldsymbol y})
\end{align*}
以上から$C$と$C^{-1}$は
\begin{align*}
C&=
\begin{pmatrix}
0&0&1&0\\
0&0&0&-\vec\partial_{\boldsymbol x}\cdot \vec\partial_{\boldsymbol y}\\
-1&0&0&0\\
0&\vec\partial_{\boldsymbol x}\cdot \vec\partial_{\boldsymbol y}&0&0
\end{pmatrix}
\delta^3({\boldsymbol x}-{\boldsymbol y}),\\
{}\\
C^{-1}&=
\begin{pmatrix}
{\bf 0} & -{\boldsymbol M}^{-1}\\
{\boldsymbol M}^{-1} & {\bf 0}\\
\end{pmatrix}\\
&=
\begin{pmatrix}
0&0&-1&0\\
0&0&0&(\vec\partial_{\boldsymbol x}\cdot \vec\partial_{\boldsymbol y})^{-1}\\
1&0&0&0\\
0&-(\vec\partial_{\boldsymbol x}\cdot \vec\partial_{\boldsymbol y})^{-1}&0&0
\end{pmatrix}
\delta^3({\boldsymbol x}-{\boldsymbol y})
\end{align*}
となります。
以下、Dirac括弧を構成するために必要なPoisson括弧の計算をまとめます:
$\{A^\mu,\phi^\alpha\}_P$:
・$\{A^\mu,\chi^1\}_P=\{A^\mu,A^0\}_P=0$
・$\{A^\mu,\chi^2\}_P=\{A^\mu,\partial_i A^i\}_P=0$
・$\{A^\mu,\phi^1\}_P=\{A^\mu({\boldsymbol x}),\pi_0({\boldsymbol y})\}_P=\delta^\mu_0\delta^3({\boldsymbol x}-{\boldsymbol y})$
・$\{A^\mu,\phi^2\}_P=\{A^\mu,\partial_i\pi^i\}_P=-\delta^\mu_i\delta^3({\boldsymbol x}-{\boldsymbol y})\partial_{xi}$
以上から
\begin{align*}
\{A^\mu,\phi^\alpha\}_P=(0,0,\delta^\mu_0\delta^3({\boldsymbol x}-{\boldsymbol y}),-\delta^\mu_i\delta^3({\boldsymbol x}-{\boldsymbol y})\partial_{xi})
\end{align*}
$\{\pi_\mu,\phi^\alpha\}_P$:
・$\{\pi_\mu,\chi^1\}_P=\{\pi_\mu({\boldsymbol x}),A^0({\boldsymbol y})\}_P=-\delta^\mu_0\delta^3({\boldsymbol x}-{\boldsymbol y})$
・$\{\pi_\mu,\chi^2\}_P=\{\pi_\mu({\boldsymbol x}),\partial_i A^i({\boldsymbol y})\}_P=-\delta^\mu_i\delta^3({\boldsymbol x}-{\boldsymbol y})\partial_{{\boldsymbol x}i}$
・$\{\pi_\mu,\phi^1\}_P=\{\pi_\mu,\pi_0\}_P=0$
・$\{\pi_\mu,\phi^2\}_P=\{\pi_\mu,\partial_i\pi^i\}_P=0$
以上から
\begin{align*}
\{\pi_\mu,\phi^\alpha\}_P=(-\delta^\mu_0\delta^3({\boldsymbol x}-{\boldsymbol y}),-\delta^\mu_i\delta^3({\boldsymbol x}-{\boldsymbol y})\partial_{xi},0,0)
\end{align*}
$\{\phi^\beta,H\}_P$:
・$\{\chi^1,H\}_P=\{A^0,H\}_P=0$
・$\{\chi^2,H\}_P=\{\partial_iA^i,H\}_P=\left\{\partial_iA^i,\int d^3x \left[\frac{1}{2}(\pi^i)^2-(\partial_i\pi^i)A^0+\frac{1}{4}F_{ij}F^{ij}\right]\right\}_P=-\partial_i\pi^i-\vec\partial^2 A^0$
・$\{\phi^1,H\}_P=\{\pi_0,H\}_P=\partial_i\pi^i$
・$\{\phi^2,H\}_P=\{\partial_i\pi^i,H\}_P=-\partial_i\partial_j F^{ij}=0$
以上から
\begin{align*}
\{\phi^\beta,H\}_P=(0,-\partial_i\pi^i-\vec\partial^2 A^0,\partial_i\pi^i,0)
\end{align*}
これらを用いて、Dirac括弧
\begin{align}
\{F({\boldsymbol x}),G({\boldsymbol y})\}_D=\{F({\boldsymbol x}),G({\boldsymbol y})\}_P-
\int d^3z d^3z' \{F({\boldsymbol x}),\phi^\alpha({\boldsymbol z})\}_PC^{-1\alpha\beta}({\boldsymbol z},{\boldsymbol z}')\{\phi^\beta({\boldsymbol z}'), G({\boldsymbol y})\}_P
\end{align}
を力学変数に対して計算します。Dirac括弧の中では拘束条件を強い等式として使って良いことに注意して計算すると
これで必要な計算は終わりました。
力学変数同士のDirac括弧を用いて運動方程式を求めます。
運動方程式は
\begin{align*}
\dot A^\mu&=\{ A^\mu,H\}_D\\
\dot \pi_\mu&=\{ \pi_\mu,H\}_D
\end{align*}
です。これは上記の関係を使って計算できます;
\begin{align*}
\dot A^i&=\{A^i,H\}_D\\
&=\left\{A^i,\int d^3y \left[\frac{1}{2}(\pi^j)^2+\frac{1}{4}F_{jk}F^{jk}\right]\right\}_D\\
&=\int d^3y\pi^j\{A^i,\pi^j\}_D\\
&=-\int d^3 y\pi^j\{A^i,\pi_j\}_D\\
&=-\left(\delta^i_j-\frac{\partial_i\partial_j}{\vec\partial^2}\right)\pi^j
\end{align*}
ここで横波のprojection operatorを
\begin{align*}
\hat P_{ij}&:=\left(\delta^i_j-\frac{\partial_i\partial_j}{\vec\partial^2}\right),\\ \ \hat P_{ij}\partial_j &= 0
\end{align*}
とすると、最終的に
\begin{align*}
\dot A^i&=\hat P_{ij}\pi_j=\pi_{\perp j},\\
\pi_{\perp i}&:=\hat P_{ij}\pi_j
\end{align*}
となります。同様に$\pi_i$の運動方程式は
\begin{align*}
\dot\pi_i&=\{\pi_i,H\}_D\\
&=\left\{\pi_i,\int d^3 y\left[\frac{1}{2}(\pi^j)^2+\frac{1}{4}F_{jk}F^{jk}\right]\right\}_D\\
&=-\int d^3y \frac{1}{2}F_{jk}\{F^{jk},\pi_i\}_D\\
&=-\int d^3y \frac{1}{2}F_{jk}\{\partial^jA^k-\partial^kA^j,\pi_i\}_D\\
&=\int d^3 \partial^jF_{jk}\{A^k,\pi_i\}_D\\
&=\hat P_{ik}\partial^jF_{jk}\\
&=\hat P_{ik}\partial^j(\partial_jA_k-\partial_kA_j)\\
&={\vec\partial}^2(\hat P_{ij}A^j)
\end{align*}
となります。$\pi_{\perp i}$と同様
\begin{align*}
A^i_\perp:=\hat P_{ij}A^j
\end{align*}
とすると,運動方程式は
\begin{align*}
\dot\pi_i={\vec\partial}^2 A^i_\perp
\end{align*}
になります。
$\hat P$は射影演算子
\begin{align*}
\hat P^2=\hat P, \ \ \ (\hat 1-\hat P)\hat P = 0
\end{align*}
であり、これを運動方程式に作用させることで
\begin{align*}
\dot A^i_\perp&=\pi_{\perp j},\\
\dot\pi_{\perp i}&={\vec\partial}^2 A^i_\perp,\\
\dot A^i_\parallel&=0, \ \dot \pi_{\parallel i} =0
\end{align*}
を得ます。ここで
\begin{align*}
A^i_\parallel := (\hat 1 -\hat P_{ij})A^j, \ \pi_{\parallel i} := (\hat 1 -\hat P_{ij})\pi_j
\end{align*}
です。これは縦波成分です。
まとめると、Diracの方法から導かれた運動方程式は
\begin{align*} \dot A^i_\perp&=\pi_{\perp j},\\ \dot\pi_{\perp i}&={\vec\partial}^2 A^i_\perp \end{align*}
となります。他の変数は時間発展しません。
ということで、非常にシンプルな方程式に落ちました。これはすなわち、このゲージでは$A$も$\pi$も横波自由度のみであり、それぞれ自由度2であることを示しています。このことは拘束条件とゲージ固定からほぼ自明ですが、Diracの方法がそれをちゃんと反映していることがわかります。冒頭に示した運動方程式では、ゲージ固定によるゲージ場の横波性($\partial_i A^i=0$)は外から課していましたが、上の運動方程式では、それが方程式の中に内包されています。
光の自由度が2であることは、小学校で習ったことである程度わかります。
偏光板で、例えば屋根に反射した光を見ることにします。すると、偏光板をぐるぐる回すことで、明るくなったり暗くなったりします。これは光が進行方向に垂直に振動しており、かつ振動方向が進行方向垂直な平面の中で回転することを示しています。すなわち、横波の自由度が上記平面の$x,y$方向の2であることを示唆しています。(縦波成分がないことは、2つの偏光板を直交させると光が透過しないことから推測できます)
一方で、いままで展開してきた拘束系のお話を使うと簡単に自由度が2であることがわかります。
相空間では自由度は$(A^\mu,\pi_\mu)$の8です。これに1次拘束条件$\pi_0=0$とその時間発展との整合性$\partial_i\pi^i=0$(2次的拘束条件)の2つが拘束としてつきます。これらは第1類拘束条件なので、それぞれの条件に対応してゲージ固定
\begin{align*}
A^0=0, \ \partial_iA^i=0
\end{align*}
を課します(第1類拘束条件のそれぞれが、独立なゲージ変換の自由度になります)。これですべての拘束が第2次拘束条件に落ちて、Lagrange multiplierがすべて決定されて運動が定まります。
ということで、相空間で数えて$8-4=4$自由度残ります。これをLagrange形式の自由度になおせば、$4/2=2$自由度になります。
(ふつう、ある$q$という力学変数があるとき、$q$と$\dot q$を違う自由度とはみなさないので、2でわってます)
U(1)ゲージ理論における力学変数のDirac括弧と運動方程式は以下のようになります:
力学変数のDirac括弧:
運動方程式:
\begin{align*} \dot A^i_\perp&=\pi_{\perp i},\\ \dot \pi_{\perp i}&={\vec\partial}^2 A_\perp^i. \end{align*}
おしまい。
☆次の記事: ゲージ対称性とは何か(8):Yang-Mills理論とDiracの方法
表題の式をちゃんと書くと
\begin{align*}
\left\{\phi^1({\boldsymbol x}),H\right\}_P
&=\int d^3y \left[\frac{\delta \phi^1({\boldsymbol x})}{\delta A^\mu({\boldsymbol y})}
\frac{\delta H}{\delta \pi_\mu({\boldsymbol y})}
-\frac{\delta \phi^1({\boldsymbol x})}{\delta \pi_\mu({\boldsymbol y})}
\frac{\delta H}{\delta A^\mu({\boldsymbol y})}
\right],\\
H&=\int d^3z \left[\frac{1}{2}(\pi^i({\boldsymbol z}))^2-(\partial_i\pi^i({\boldsymbol z}))A^0({\boldsymbol z})+\frac{1}{4}F_{ij}({\boldsymbol z})F^{ij}({\boldsymbol z})\right]
\end{align*}
となります。$\phi^1=\pi_0$だから
\begin{align}
\frac{\delta \phi^1(({\boldsymbol x}))}{\delta A^\mu({\boldsymbol y})}=0,\ \ \
\frac{\delta \phi^1(({\boldsymbol x}))}{\delta \pi_\mu({\boldsymbol y})}=\delta^\mu_0\delta^3({\boldsymbol x}-{\boldsymbol y})
\end{align}
です。よってPoisson括弧の右辺第2項しか残りません。これは
\begin{align}
-\int d^3y \ \left(
\frac{\delta \phi^1({\boldsymbol x})}{\delta \pi_\mu({\boldsymbol y})}
\frac{\delta H}{\delta A^\mu({\boldsymbol y})}
\right)
&=-\int d^3y\left(\frac{\delta H}{\delta A^0({\boldsymbol y})}\right)\\
&=-\int d^3y \left(\int d^3z (-\partial_i\pi^i({\boldsymbol z}))\delta^3({\boldsymbol z}-{\boldsymbol y})\delta^3({\boldsymbol y}-{\boldsymbol x})\right)\\
&=\partial_i\pi^i({\boldsymbol x})
\end{align}
です。よって
$$
\{\phi^1,H\}=\partial_i\pi^i
$$
となります。
これでいいのですが、ここでは
$$
\frac{\delta H}{\delta A^\mu({\boldsymbol y})}
$$
を全ての$\mu$に対して計算しておきます。この計算はわかりにくいかもしれないので。
問題は
$$
\frac{\delta H}{\delta A^\mu({\boldsymbol y})}
=
\int d^3 z \left[(-\partial_i\pi^i)\delta^0_\mu\delta^3(z-y)+\frac{1}{2}F_{ij}({\boldsymbol z})\frac{\delta F^{ij}({\boldsymbol z})}{\delta A^\mu({\boldsymbol y})}\right]
$$
の第2項です。定義に忠実に則れば、以下のように計算できます:
\begin{align*}
\int d^3y \frac{1}{2}F_{ij}(z)\frac{\delta F^{ij}(z)}{\delta A^\mu(y)}
&= \frac{1}{2}\int d^3yF_{ij}(z)\frac{\delta}{\delta A^\mu(y)} (\partial^i A^j(z)-\partial^j A^i(z))\\
&=\frac{1}{2}\int d^3z F_{ij}(z)[\delta^j_\mu\partial^i_z(\delta^3(z-y))
-\delta^i_\mu\partial^j_z(\delta^3(z-y))]\\
&(\text{微分はデルタ関数に作用していることに注意})\\
&\text{部分積分して}\\
&=\frac{1}{2}\int d^3z [-\delta^j_\mu\partial^i_z(F_{ij}(z))
+\delta^i_\mu\partial^j_z(F_{ij}(z))]\delta^3(z-y)\\
&=\int d^3z\delta^i_\mu\partial^j_z(F_{ij}(z))\delta^3(z-y)\\
&=\delta^i_\mu\partial^j_y(F_{ij}(y))
\end{align*}
または先に部分積分してもいいです。すなわち上の変形の2行目で部分積分を先にして、微分を$F$に作用させておいても、当然同じ答えにたどり着きます。さらに空間座標を離散化し、以下のように計算してもいいです:
\begin{align}
\int d^3 z \ \frac{1}{2}F_{ij}({\boldsymbol z})\frac{\delta F^{ij}({\boldsymbol z})}{\delta A^\mu({\boldsymbol y})}
\xrightarrow{\rm 離散化}
&\frac{1}{2}\sum_{\vec l}F_{ij}(\vec l)\frac{\partial}{\partial A^\mu_{\vec m}}F^{ij}(\vec l)\\
&=\frac{1}{2}\sum_{\vec l}F_{ij}(\vec l)
\frac{\partial}{\partial A^\mu_{\vec m}}\left((A^i(\vec l+\hat j)-A^i(\vec l))-(A^j(\vec l+\hat i)-A^j(\vec i))\right)
\\
&=\frac{1}{2}\sum_{\vec l}F_{ij}(\vec l)
\left(\delta^\mu_i(\delta^{\vec l+\hat j}_{\vec m}-\delta^{\vec l}_{\vec m})
-\delta^\mu_j(\delta^{\vec l+\hat i}_{\vec m}-\delta^{\vec l}_{\vec m})\right)
\\
&=\frac{1}{2}\sum_{\vec l}
\left(\delta^\mu_i( F_{ij}(\vec l-\hat j)-F_{ij}(\vec l) )
-\delta^\mu_j( F_{ij}(\vec l-\hat i)-F_{ij}(\vec l) )\right)
\end{align}
ここで$\hat i$は$i$方向の単位ベクトルです。ここで$F$は積分の境界でゼロになるとすると、和をずらすことができて
\begin{align}
&=-\frac{1}{2}\sum_{\vec l}
\left(\delta^\mu_i( F_{ij}(\vec l+\hat j)-F_{ij}(\vec l) )
-\delta^\mu_j( F_{ij}(\vec l+\hat i)-F_{ij}(\vec l) )\right)
\\ &\xrightarrow{\rm 連続極限}-\frac{1}{2}\left(
\delta^\mu_i\partial_j F_{ij}-\delta^\mu_j\partial_i F_{ij}
\right)
\end{align}
まとめると
\begin{align}
\int d^3 z \ \frac{1}{2}F_{ij}({\boldsymbol z})\frac{\delta F^{ij}({\boldsymbol z})}{\delta A^\mu({\boldsymbol y})}
&=-\frac{1}{2}\left(
\delta^\mu_i\partial_j F_{ij}-\delta^\mu_j\partial_i F_{ij}
\right)\\
&=\delta^\mu_i\partial^jF_{ij}
\end{align}
となり、前の計算と同じ結果を得ます。ここでは微分の離散化に前方差分を用いましたが、当然何を採用してもいいです。
場の理論は、時空$({\boldsymbol x},t)$に依存する関数$\phi_A({\boldsymbol x},t)$のなすダイナミクスを記述する理論です。$A$は場の種類を表すindexです。一般にはいわゆる時空の方向のindex(ゲージ場$A_\mu$の$\mu$)、内部空間のindexであったり、複数のindexをもつこともあります。
数学的にはいいかげんですが、物理では空間座標$x$(以下空間1次元とします)も「連続的なindex」とみなし、有限自由度のindexと次のような対応をつけることで取り扱います:
\begin{align} \hspace{1cm} i,j,\ldots &\leftrightarrow x,y,\ldots\\ \delta^i_j &\leftrightarrow \delta(x-y)\\ \sum_i &\leftrightarrow \int dx \end{align}
以下いくつか、場$\phi(x)$に対する場の理論における基本的な量の例を示します: