Appendix (a) 「
間違えていたわけではなく、標準的な計算方法を加えておきました。
本記事は
「
ゲージ対称性とは何か(5):Diracの方法
」
「
ゲージ対称性とは何か(6):Maxwell方程式・U(1)ゲージ理論
」
の続きです。
最初にいくつかnotationをまとめておきます:
以下の議論では、「ゲージ対称性とは何か(5):Diracの方法」の知識を前提とします。適宜ご参照ください。参考文献も「ゲージ対称性とは何か(5)」と基本的に同じですので、そちらを参照してください。一冊だけ新たな文献を挙げておきます。Weinbergの教科書(Ref.[1])に、電磁場の量子化がある程度詳しく載っており、そこにもDirac括弧のお話が載ってます。
U(1)ゲージ理論とは
で表される力学系です。
この理論の詳細については、前回の記事をご参照ください(とくに最後のまとめ)。
以下ではこの系に存在する拘束条件について議論します。
今まで有限自由度の系しか扱ってなかったのですが、ここから無限自由度の場の理論を扱います。Appendix (a)にごく簡単に場の理論への移行に関して記しておきますので、不慣れな方はご参照ください。
U(1)ゲージ理論にDiracの方法を適用する動機は、第1に量子化です。
もうひとつは、ゲージ場の古典的な運動方程式を解くという動機です。
もしあなたの動機が運動方程式を解くことで(特に数値計算をしたいとき)、かつ
このとき運動方程式を解くには以下のようにすればいいです:
これでOKです。
この方法で正しく拘束が取り入れられているかは、時間発展に関する整合性=任意の時刻で拘束が保たれるかにかかっています。これを確認しておきます。
まず
一方で2つの運動方程式の両辺のdivを取れば、初期条件が
よって、この方法で
ただし、他のゲージでは、このような取り扱いにより正しく拘束を取り入れられるかは保証されない気がします(すみません、よくわかりません)。いづれにせよDiracの方法が確実です(注)。
この記事では、Diracの方法により、拘束を内包した運動方程式を導きます。
それと上記の運動方程式を比べるのは有用です。
(注): 以下ではいわゆる「Diracの予想」に従った方法(=Hamiltonianに第1類拘束条件をすべて入れる)を展開します。これは非常に特殊なケースで間違った答えを導きますが、通常扱うような「まともな」理論では正しい答えを導くので安心してよいようです。
まず拘束条件を求め、Hamiltonianを構成します。
ですが、
です。これが第1次拘束条件です:
となります。すなわち
Hamiltonian densityは
ゆえにHamiltonianは
となります。
を計算します。Poisson括弧の定義は冒頭のnotationをご参照ください。この計算は(この計算だけ)Appendix (b)に詳しく書いておきます。
結果は
です。これが弱い意味でゼロと等しいので
です。これは2次的拘束条件です。これを
とします。
これらの拘束
のPoisson括弧を計算すると
となります。すべてのPoisson括弧がゼロなので、これは第1類拘束条件です。
第1類拘束条件があると、運動が定まりません(=未定係数に定まらないものがある)。これを第2類に落とすためには、
です。
このゲージの良さは、まず拘束条件同士のPoisson括弧が単純なことです。明らかに
またのちほど見るように、ゲージ場の運動方程式も非常に単純になります。
これらの条件は、ゲージ固定条件の時間発展との整合性
において、
を満たします(このへんのことは前々回の記事(5)をご参照ください)。このとき、拘束条件のPoisson括弧の行列
は逆をもちます:
これを用いて、Dirac括弧
を作れば、拘束条件
で与えられます。この式ではすでに拘束が取り入れられているため、外から拘束をつける必要がありません。
具体的に
ここで
です。
ここで拘束条件のPoisson括弧は以下のようになります:
よって
以上から
となります。
以下、Dirac括弧を構成するために必要なPoisson括弧の計算をまとめます:
・
・
・
・
以上から
・
・
・
・
以上から
・
・
・
・
以上から
これらを用いて、Dirac括弧
を力学変数に対して計算します。Dirac括弧の中では拘束条件を強い等式として使って良いことに注意して計算すると
これで必要な計算は終わりました。
力学変数同士のDirac括弧を用いて運動方程式を求めます。
運動方程式は
です。これは上記の関係を使って計算できます;
ここで横波のprojection operatorを
とすると、最終的に
となります。同様に
となります。
とすると,運動方程式は
になります。
であり、これを運動方程式に作用させることで
を得ます。ここで
です。これは縦波成分です。
まとめると、Diracの方法から導かれた運動方程式は
となります。他の変数は時間発展しません。
ということで、非常にシンプルな方程式に落ちました。これはすなわち、このゲージでは
光の自由度が2であることは、小学校で習ったことである程度わかります。
偏光板で、例えば屋根に反射した光を見ることにします。すると、偏光板をぐるぐる回すことで、明るくなったり暗くなったりします。これは光が進行方向に垂直に振動しており、かつ振動方向が進行方向垂直な平面の中で回転することを示しています。すなわち、横波の自由度が上記平面の
一方で、いままで展開してきた拘束系のお話を使うと簡単に自由度が2であることがわかります。
相空間では自由度は
を課します(第1類拘束条件のそれぞれが、独立なゲージ変換の自由度になります)。これですべての拘束が第2次拘束条件に落ちて、Lagrange multiplierがすべて決定されて運動が定まります。
ということで、相空間で数えて
(ふつう、ある
U(1)ゲージ理論における力学変数のDirac括弧と運動方程式は以下のようになります:
力学変数のDirac括弧:
運動方程式:
おしまい。
☆次の記事: ゲージ対称性とは何か(8):Yang-Mills理論とDiracの方法
表題の式をちゃんと書くと
となります。
です。よってPoisson括弧の右辺第2項しか残りません。これは
です。よって
となります。
これでいいのですが、ここでは
を全ての
問題は
の第2項です。定義に忠実に則れば、以下のように計算できます:
または先に部分積分してもいいです。すなわち上の変形の2行目で部分積分を先にして、微分を
ここで
まとめると
となり、前の計算と同じ結果を得ます。ここでは微分の離散化に前方差分を用いましたが、当然何を採用してもいいです。
場の理論は、時空
数学的にはいいかげんですが、物理では空間座標
以下いくつか、場