前回の投稿のおさらいから。リンクは こちら
積分$\displaystyle I_n:=\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\cos x}{(x^2+1)^n}dx$について値を考察していた。得られた結果としては
\begin{align*}
I_{n+2} &= \frac{2n+1}{2n+2}I_{n+1}+\frac{1}{4n(n+1)}I_n, \quad I_1=I_2=\frac{\pi}{e}. \\
\lim_{n\to\infty}\sqrt{n}I_n &=\sqrt{\pi}.
\end{align*}
の主に2つであった。(後者の証明もコメントで教えて頂きました。感謝です。)
ありがたいことに更にコメントを頂きました。そしてその内容は記事の追記ではもったいないので、続編を書くことにしました。
この積分$I_n$を考えることは、複素関数$\displaystyle f(z)=\frac{e^{iz}}{(z^2+1)^n}$の点$z=i$における留数を計算することと同じことは前記事でも述べました。
そこで$w=iz$という変数を置き、変数変換をすると
\begin{align*}
i\cdot \mathrm{Res}\left(\frac{e^{iz}}{(z^2+1)^n},\,\, i\right) = \mathrm{Res}\left(\frac{e^{w}}{(-w^2+1)^n},\,\, -1\right)
\end{align*}
と書けます。ここで変数変換した際に$i$が1つ消えることに注意。(留数は複素積分と対応するのでそこからも自然にわかる)
さて関数$\displaystyle \widetilde{f}(w):=\frac{e^{w}}{(1-w^2)^n}$について考えると、分子は正則関数、分母は$(1+w)$の項を$n$個持つことから、この関数は$w=-1$において$n$位の極であることがわかる。
$n$位の極の点における留数の計算は、便利な計算方法があって
\begin{align*}
\mathrm{Res}(\widetilde{f}, -1)
=\frac{1}{(n-1)!}\lim_{w\to -1}\frac{d^{n-1}}{dw^{n-1}}\left\{(w+1)^n\widetilde{f}(w)\right\}.
\end{align*}
これは関数$\widetilde{f}$の点$-1$の周りのローラン展開における$-1$次の係数の取り出し方である。$(w+1)^n$を掛けて0次以上のローラン級数にして、$n-1$回微分し留数より下の次数の項を消し、$w\to-1$で留数より上の項を消し、そして最後に$(n-1)!$で割ることで微分して掛かった係数を割っている。
この方法を使うと
\begin{align*}
\mathrm{Res}(\widetilde{f}, -1)
=\frac{1}{(n-1)!}\lim_{w\to -1}\frac{d^{n-1}}{dw^{n-1}}\frac{e^{w}}{(1-w)^n}.
\end{align*}
次に関数$\displaystyle\frac{e^{w}}{(1-w)^n}$の微分には、ライプニッツの公式を用いる。具体的には
\begin{align*}
\frac{d^{n-1}}{dw^{n-1}}\frac{e^{w}}{(1-w)^n}
&=\sum_{k=0}^{n-1}\binom{n-1}{k}
\frac{d^k}{dw^k}\frac{1}{(1-w)^n}\cdot
\frac{d^{n-1-k}}{dw^{n-1-k}}e^w \\
&=\sum_{k=0}^{n-1}\binom{n-1}{k}
n(n+1)\cdots(n+k-1)\frac{1}{(1-w)^{n+k}}e^w \\
\end{align*}
さてこれを$w\to-1$の極限を取り$(n-1)!$で割ることで
\begin{align*}
\mathrm{Res}(\widetilde{f}, -1)
&=\frac{1}{(n-1)!}\sum_{k=0}^{n-1}\binom{n-1}{k}
n(n+1)\cdots(n+k-1)\frac{e^{-1}}{2^{n+k}} \\
&=\frac{1}{(n-1)!}\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(n-1)!}{k!(n-k-1)!}
\frac{(n+k-1)!}{(n-1)!}\frac{e^{-1}}{2^{n+k}} \\
&=\frac{1}{(n-1)!}\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(n-1+k)!}{k!(n-1-k)!}
\frac{e^{-1}}{2^{n+k}}
\end{align*}
以上より、$2\pi$を掛けて整理すると次を得る。なお$n-1$が大量に出てきているので、見やすさのために$n$を1ずらす。
\begin{align*} I_{n+1}=\int_{-\infty}^\infty \frac{\cos x}{(1+x^2)^{n+1}}dx =\frac{1}{n!}\sum_{k=0}^{n}\frac{1}{2^{n+k}} \frac{(n+k)!}{k!(n-k)!}\frac{\pi}{e}. \end{align*}
以上がコメント頂いた内容でした。ありがとうございました。
圧巻です。全く思いつかなかった方法にまた賢くなった気分。
これを見て、きっとよく知られた数なんだろうなぁ、と思いました。
一応、実験ね。お決まりの。$n=9$として、計算機にかけると
\begin{align*}
I_{10}=\frac{12994393}{26542080}\frac{\pi}{e}.
\end{align*}
よかった、一致していた。こんなに綺麗に求まるとは。
上の式を一見すると分母を払うのに$n!\times 2^{2n}$位必要ではと思うが、よく見ると
\begin{align*}
\frac{1}{2^{n+k}}
\frac{(n+k)!}{k!(n-k)!}
=\frac{1}{2^n}\frac{(n+k)!}{(2k)!(n-k)!}\frac{(2k)!}{k!2^k}
=\frac{\binom{n+k}{2k}(2k-1)!!}{2^n}
\end{align*}
と書けるので
\begin{align*}
I_{n+1}=\frac{1}{n!2^n}
\sum_{k=0}^n\binom{n+k}{2k}(2k-1)!!\cdot\frac{\pi}{e}
\end{align*}
である。すなわち$n!\times 2^n$(及び$\frac{e}{\pi}$)を掛けると整数値になる。
さてこの数列はどのような意味を持つのだろうか。
困ったら実験。$0\le n\le 9$に対して
$n$ | $y_n$ |
---|---|
$0$ | $1$ |
$1$ | $2$ |
$2$ | $7$ |
$3$ | $37$ |
$4$ | $266$ |
$5$ | $2431$ |
$6$ | $27007$ |
$7$ | $353522$ |
$8$ | $5329837$ |
$9$ | $90960751$ |
この中で素数は$2, 7, 37, 5329837$がそうなのね...いやそういう話じゃない。
こんな数列は誰かが既に研究しているでしょう。
OEIS
という数列のオンライン辞典で検索...あった!!
A001515
Bessel polynomial $y_n(x)$ evaluated at $x=1$.
ベッセル多項式? 初めて聞いた。
とりあえず、A001515に書かれているコメントを訳して掲載する。
最後のゲームが気になる(後述)が、ベッセル多項式についての記述というよりはこの数列自体の性質が書かれていた。
Note: $\displaystyle 1+\tanh(1)=\frac{2e^2}{1+e^2}$は連分数展開$[1; 1,3,5,7,9,11,13,...]$を持つ。別の言い方をすると、$[2,3,5,7,9,11,13,...]$を持つ連分数は$\displaystyle \frac{e^2-1}{2e^2}$である。
この章(及びこれ以降)は、主に以下のarticleGiftを参照した。
--ゲームのルール--
・・・なんと楽しそうなゲームであろうか!(楽しくないって?)
でも数学的には楽しそうなのは間違いない。
起こりうるゲームの進み方の数を$H_\sigma(n)$とおく。
< $n=3,\,\, \sigma=1$ のときの例 >
3人の人をA, B, Cとしこの順に呼ばれたとする。
3つのギフトを1, 2, 3とおき、この順に開封されたとする。(ここは任意性があるので本当は$3!=6$倍される)
このとき、次の7通りのゲームの進み方がある。
ということで、$H_1(3)=7\times3!=42$である。
以下、$H_\sigma(n)=n!\cdot G_\sigma(n-1)$とおく。$n$を1つずらすのは、上の例だとギフト$3$は最後に開封されてそれですぐ終了になるので、実質ゲームには寄与していないからである。
すなわち、$G_1(2)=7$である。
上のコメントが意味しているのは、この関数$G_1(n)$がベッセル多項式に等しいということである。
Note: このことの証明は参考論文にも述べられているが、大事なことは、最後のギフト以外の全てのギフトの(開封された+盗まれた)回数は1回以上2回以下で、それらの順列の総数と対応がつく。(コメント1つ目との対応)
以下(Bessel関数の章以外)は主にarticleBesselを参照した。
Bessel多項式$y_n(x)$は以下のように定義される。
\begin{align*}
y_n(x)=\sum_{k=0}^n
\frac{(n+k)!}{k!(n-k)!}\left(\frac{x}{2}\right)^k
\end{align*}
この定義から、$x=1$のときの値$y_n(1)$は上の数列$y_n$と一致している。
$0\le n\le 5$のとき、多項式$y_n(x)$の値は
\begin{align*}
y_0(x)&=1 \\
y_1(x)&=x+1 \\
y_2(x)&=3x^2+3x+1 \\
y_3(x)&=15x^3+15x^2+6x+1 \\
y_4(x)&=105x^4+105x^3+45x^2+10x+1 \\
y_5(x)&=945x^5+945x^4+420x^3+105x^2+15x+1
\end{align*}
などと計算される。よく知られた事実として
などがある。
Bessel多項式はBessel関数と関係が深い。
ただしここに関しては筆者は詳しくないのでより今後勉強したい。
この章は英語版WikipediaBesselWikiを参照した。
$\alpha\in\mathbb{C}$に対し、通常のBessel関数$J_\alpha(x)$は、ざっくり言えば
\begin{align*}
x^2\frac{d^2y}{dx^2}+x\frac{dy}{dx}+(x^2-\alpha^2)y=0
\end{align*}
の解の1つであり、主に$\alpha$は整数または半整数を扱う。そのマクローリン展開は
\begin{align*}
J_\alpha(x)=\sum_{m=0}^\infty \frac{(-1)^m}{m!\Gamma(m+\alpha+1)}\left(\frac{x}{2}\right)^{2m+\alpha}
\end{align*}
で与えられる。
この関数$J_\alpha(x)$に対し、第二種Bessel関数$Y_\alpha(x)$を
\begin{align*}
Y_\alpha(x)
=\frac{J_\alpha(x)\cos(\alpha\pi)-J_{-\alpha}(x)}{\sin(\alpha\pi)}
\end{align*}
と定める。更に第一種(第二種)変形Bessel関数 $I_\alpha(x), K_\alpha(x)$をそれぞれ
\begin{align*}
I_\alpha(x)
&=i^{-\alpha}J_\alpha(ix)
=\sum_{m=0}^\infty \frac{1}{m!\Gamma(m+\alpha+1)}\left(\frac{x}{2}\right)^{2m+\alpha}, \\
K_\alpha(x)
&=\frac{\pi}{2}\frac{I_{-\alpha}(x)-I_\alpha(x)}{\sin(\alpha\pi)}
\end{align*}
と定める。この時Bessel多項式$y_n(x)$は
\begin{align*}
y_n(x)=\sqrt{\frac{2}{\pi x}}
e^{\frac{1}{x}}K_{\frac{2n+1}{2}}\left(\frac{1}{x}\right)
\end{align*}
と書き表せる。
実は直交多項式と呼ばれる多項式族の1つである。
直交多項式については、私自身全くの無知であり(具体例として知られる関数の名前や簡単な性質を知っている程度)今後特に勉強したいと思っているので
mathlogの今後の記事の方針も、直交多項式について書こうと思っている。
なので、今回はBessel多項式が満たす直交性について述べ、それについて証明することで記事を終えたいと思う。
$m, n$: 非負整数
$C$: 複素数平面上の単位円$|z|=1$上を反時計回りに回る経路
このとき以下が従う。
\begin{align*}
\int_C y_n(z)y_m(z)e^{-2/z}dz
=\frac{2(-1)^{n+1}}{2n+1}2\pi i\delta_{m, n}
\end{align*}
なお被積分関数の極は$z=0$のみであるので、経路$C$は$z=0$の周りを一周する経路なら他のものでも構わない。
Note: 同様に部分積分を実行することで任意の$k$に対し
\begin{align*}
\int_C z^ky_n(z)e^{-2/z}dz
=2\pi i\frac{(-2)^{k+1}(k)_n}{(n+k+1)!}
\end{align*}
が成立する。ここで$(k)_n$は下降階乗である。
\begin{align*}
(k)_n=k(k-1)(k-2)\cdots(k-n+1)=\frac{k!}{(k-n)!}
\end{align*}
まさか複素関数の教科書の例題の積分から、組み合わせ論や直交多項式や...といった概念が出てくるとは
この記事を書きながらも
Bessel関数や直交多項式の勉強も(人はそれを次の記事のネタという)始めたし
また理解が進み次第記事の加筆も進めていきたいな
2023年の更新はこれが最後だろうし
今年もありがとうございました、そして来年もよろしくお願いします。