フィボナッチ数は「指数-指数」と同じようなふるまいをすることに前回までの記事で触れてきました. ので, 「指数-指数」で有名な性質, LTEの補題とZsigmondyの定理を中心に, フィボナッチ数列の応用例をいくつか書いていきます!
証明中の記法など
- 番目のフィボナッチ数.
- がの約数である.
- 二項係数
- Eulerのトーシェント関数, と互いに素な以上以下の整数の個数
- 整数が素数で割り切れる回数の最大値
前回の記事
およびそこから飛べる過去の記事の結果を色々使います.
まずはLTEから.
LTEの類似
前回の記事
のなかで扱ったフィボナッチ数列におけるLTEの補題の類似を示していきます. といっても, 証明は普通のLTEとほとんど同じです. (そして
じゅんにーさんのこの記事
が以下の結果を包含しています. )
追記
OMC040Fの解説
にまったく同じ手法が用いられていることを発見しました. 議論の流れ上、該当部分の削除はいたしませんが、その点に十分ご留意ください
任意の正整数, 整数に対して以下の式が成立する.
ここで, である(リュカ数列, ルカス数列と呼ばれるもの).
なお, 上の式は有限和である.
概略
とおく. を二項定理で展開し, を代入したのちの係数を比較することにより所望の式を得る.
補題1の右辺第一項について考える.
よりであるが, もしだと仮定するとよりであるが, これは不適. 従って,
である. また, 右辺第二項以降について,
であるので示された.
は前回の方法で頑張りましょう.
使ってみよう!
LTEを使ってみます.
素数, 正の整数に対しての素因数をの素因数と同じように考察してみます.
奇素数を任意にとる.
- がを割り切るとき
定理2よりなので, が従う. - がを割りらないとき
のどちらもの倍数なので, であり, 場合分けの仮定よりである. これより, 従ってである. つまりはでのいずれかに合同である.
また, となるのは前回の補題よりの場合のみなので結局の素因数はでのいずれかに合同なものだけである. 特にすべて以上である.
多項式の場合と似た結果が得られました!
で割って余る素数の評価
整数コン
5についてです.
上の結果において, を以上の素数, とします. このとき, は以上の素因数しか持たず, との偶奇の考察およびなのでこれは以上です. さらに,
が成立し, とが互いに素であることを併せれば, の素因数は全てで割って余ります(一般にの素因数の議論). 従って, の場合も考慮に入れれば, すべてので割って余る素数に対して以上以下の, で割って余る素数が存在することが言えました.
指数を含む不定方程式への利用
であることと, LTEよりが分かります. これより, なるが存在したとき, となり, となります. これは, で不成立なので, べきのフィボナッチ数はだけです.
ところで, これにフィボナッチ数の判定法を用いると,
の解を求めたことになります. の解は, 平方数-平方数の形にできるので, 結局の整数解を求められたことになります. 特に, という解はかなり非自明ですごいですよね. ということは, 逆に考えればこういった方程式は三項間漸化式に帰着させて解くことができそうな気がします. やってみましょう.
これもという解があるのでやばそうです.
が偶数の場合は簡単. が奇数の場合はをで置きなおして, になる.
ここで, についても, フィボナッチ数列同様の乗法定理が成立する:
として, 漸化式を代入すると
についての判別式を見ると, が平方数になる. さて, これを利用したいのだが定数項の絶対値がになってしまい困った. ので, 元の式から強引にを作り出そう.
をとおけば, となった. よって, とすればよさそう. 数列を書いていくと,
となる. ここで注目すべきは, 奇数項目である. 偶数項目がの整数倍であることから, 判別式が平方数の倍であり, がの整数倍であることと整合性がとれた!
一見常にこのようにうまくいくように見えるが, 整合性がとれたのはただの数値設定上の偶然である.
具体的には,
の場合がこの方法で処理できる(多分). そのほかの場合にはより一般のペル方程式の議論を要する.
つまり, の整数解は数列の奇数項目で与えられる. 逆も, 詳細は省略するが,
この記事の最後
っぽいことをすれば示せる.
さて, 上で考えた について, が言える.
ここから, 先の例と同じように不等式評価をするとこの数列の奇数項目に現れるべきはだけだと分かった. 以上より, もとの方程式の解もしぼれ, のみだと分かる.
といった感じで, 一見難しそうな不定方程式を解くことができました. 常にというわけにはいかなさそうですが...
最後にZsigmodyの類似の紹介です.
Zsigmondyの定理の類似
INTEGERSのこの記事
の手法を応用し, フィボナッチ数列でも類似の結果を得られたので証明をかいてみます. なお, 実際はより一般の数列に対して成立することが知られています(
この記事
で結果が紹介されています).
Zsigmondyの類似
任意の自然数に対し, の素因数であって, がを割り切らないものが存在する. このような素因数を原始的素因数と呼ぶ(上で紹介した記事における原始的約数とは若干異なるので注意).
この証明をしていきます.
証明の大まかな流れとしては, の約数のうち, 原始的素因数でないものの積を上から評価するといった感じです. 実際には円分多項式にあたる概念, 円分フィボナッチ数を定義し, それについての評価をしていきます.
正整数に対し, がの倍数になる正整数が存在するので, このうち最小のものをとかく.
証明は演習とする.
任意の, 奇素数に対し, , 任意のに対してが成立する.
補題2より, がの倍数のときはの倍数なので, LTEの類似よりが成立. これより, となるので示された(逆は同様にLTEを使おう). の場合も同様.
メビウス関数
をメビウス関数, すなわち正整数に対しが平方因子を持つ場合, それ以外の場合の素因数の個数についてとする.
メビウス関数には以下の重要な性質がある.
メビウスの反転公式
正の整数に定義される関数(厳密には終域は任意のアーベル群)が
のそれぞれを満たすことは同値である.
円分フィボナッチ数
正の整数に対し, 円分フィボナッチ数列を以下で定める:
はとなる.
円分フィボナッチ数の性質
以上の整数に対して,
が成立する(は左ののみ成立). ここで, はの原始乗根の一つである. 特に, は整数である.
(1つ目の)
素数がを割り切るのは, の場合のみであることに注意する.
補題6より,
を示せばよいが, 補題より, はいずれもを割り切るため,
である. よって示された.
(2つ目の)
とおく. Binetの公式より,
ここで, は斉次の円分多項式であり, 最後から三つ目のには一般の円分多項式の性質, 最後から二つ目のにはを用いた.
円分フィボナッチ数自体を操作することが円分多項式に比べて難しいため, あらかじめ素因数で記述した. そして, さらに以下の補題によりより明示的に記述できる.
左辺が正になるのはの場合のみなので, LTE, 補題5より直ちに従う.
さて, より, はを割り切るので, にの原始的素因数があることを言えばよい. 参照元の記事の記号を用い, 以下のように定義する. 同様にを評価していく.
とおく. ここで, はの原始的素因数のみを素因数に持ち, は持たない.
素数に対して, はの原始的素因数でないので, 補題7, 8よりがの素因数のとき, なる正整数をとれる.
が相異なる素因数を持つとする.
このとき, ある正整数が存在し,
が成立する. は相異なるので, はそれぞれの倍数である.
前回の記事
の定理3より, なのでこれをあわせると,
となる. 従って, 偶奇を考えればのいずれかはであり, このときもう一方はとなる. このとき, である.
それ以外の場合, と記述できるが, 補題8よりの場合を除きである.
これより, が十分大きいことを言えれば, となりZsigmondyの類似が証明される.
とおけば, 補題7よりである. 三角不等式より右辺の各因数は以上であり, の場合より大きいものが存在するので, の場合は示された.
:素数とし, がの倍数とする. このとき, とおけば, がを満たすとき, である. これらをペアにして考え, についても同様のペアを考えれば, 合計で組のペアができる. また, 各ペアについては, 「中心半径の円の原点における方べきの値()」以上であるため(図を描いて位置関係の議論による), が示された.
よって, が言え, これはよりも大きい.
そうでない場合, とおく. (以下の変形は参照元で利用されているものである.)
この最右辺はでより大きい. のとき, およびより, それぞれとなり, いずれも除外済みである.
以上より, のときとなり, すなわちには原始的素因数が存在する.
これでZsigmodyの類似も示されました!
これを利用すると, 例えばJMO2011本選2のフィボナッチ数列版のさらに一般化を考察できたりします(あまりいい感じの応用が思いつかなかった...).
JMO2011本選2, 強化版
を満たす以上の整数および以上の整数の組を全て求めよ.
とか. の原始的素因数を取ればと分かります.
さて, 今までフィボナッチ数列の性質を色々扱ってきましたが, 実はほとんどの命題においてフィボナッチ数列であることは本質的に使っていません. 一般のなる三項間漸化式によって定義される数列(特にという形のもの)において多少形は違えどほとんど同じ結果が得られます. ただ, その中でもフィボナッチ数列というのは一番シンプルなだけあり, 得られる結果も綺麗になりやすいです. 今後はもっと二次体とかと絡めた議論をしてみて, より一般的な結果を得たいですね.
最後まで読んでいただきありがとうございました!また次回(フィボナッチ数列関連は今回で最後かも?)