$S,T$を$0$を持つ半群とする.写像$\varphi\colon S\setminus0\to T\setminus0$が$0$準同型であるとは,任意の$s,s'\in S\setminus0$に対して,$ss'\neq0$であれば$\varphi(ss')=\varphi(s)\varphi(s')$をみたすことをいう.このとき$\varphi\colon S\zto T$と表す.$S$から$T$への$0$準同型全体を$\Hom_0(S,T)$で表す.
$0$を持つ半群の間の準同型として,$0$を保つ半群準同型$\varphi\colon S\to T$を考えることもある.この場合,零因子は零因子に写る($ss'=0$ならば$\varphi(s)\varphi(s')=\varphi(ss')=0$である)が,上記の$0$準同型においてはその限りではない.
$R,S,T$を$0$を持つ半群,$\varphi\in\Hom_0(R,S)$, $\psi\in\Hom_0(S,T)$を$0$準同型とする.このとき$\psi\circ\varphi\colon R\setminus0\to T\setminus0$は$0$準同型である.
任意の$r,r'\in R\setminus0$,$rr'\neq0$に対し,$\varphi(r)\varphi(r')=\varphi(rr')\neq0$である.よって$\psi(\varphi(rr'))=\psi(\varphi(r)\varphi(r'))=\psi(\varphi(r))\cdot\psi(\varphi(r'))$である.
$0$を持つ半群と$0$準同型のなす圏を$\catsemigrpzero$で表す.
$S,T$を$0$を持つ半群,$\varphi\colon S\zto T$を$0$準同型とする.このとき任意の$s,s'\in S\setminus0$に対し,$\varphi(s)\varphi(s')=0$であれば$ss'=0$である.
$ss'\neq0$であれば$\varphi(s)\varphi(s')=\varphi(ss')\neq0$であるから,対偶によりO.K.
$0$を持つ半群$S,T$が圏$\catsemigrpzero$において同型であることと半群として同型であることは同値である.
[十分性] $0$準同型$\varphi\colon S\zto T$, $\psi\colon T\zto S$が$\psi\circ\varphi=\id_{S\setminus0}$, $\varphi\circ\psi=\id_{T\setminus0}$をみたすとする.$ss'=0$なる$s,s'\in S\setminus0$に対し,$ss'=\psi(\varphi(s))\cdot\psi(\varphi(s'))=0$であるから,補題2により$\varphi(s)\varphi(s')=0$を得る.よって,$\varphi$を$0$を$0$に写すように拡張した写像を$\tilde{\varphi}\colon S\to T$とすれば,$\tilde{\varphi}$は半群準同型である.$\psi$についても同様であり,$\tilde{\psi}\circ\tilde{\varphi}=\id_S$, $\tilde{\varphi}\circ\tilde{\psi}=\id_T$が成り立つ.従って$S,T$は半群として同型である.
[必要性] 半群準同型$\varphi\colon S\to T$, $\psi\colon T\to S$が$\psi\circ\varphi=\id_S$, $\varphi\circ\psi=\id_T$をみたすとする.任意の$t\in T$に対し,$t\cdot\varphi(0)=\varphi(\psi(t)\cdot0)=\varphi(0)$である.同様に$\varphi(0)\cdot t=\varphi(0)$であるから$\varphi(0)=0$である.よって$\varphi'={\varphi|}_{S\setminus0}$, $\psi'={\psi|}_{T\setminus0}$は$0$準同型で,$\psi'\circ\varphi'=\id_{S\setminus0}$, $\varphi'\circ\psi'=\id_{T\setminus0}$が成り立つ.
$\setex{S_i}_{i\in I}$を$0$を持つ半群の族とする.
上定義において,$\prod_i^0S_i$は直積半群$\prod_iS_i$をイデアル$\setin{(s_i)_i}{s_i=0\text{ for some }i}$で割ったリース剰余半群と同型である.$S=0\amalg\coprod_iS_i$は$x\in S_i$, $y\in S_j$に対し,
\begin{align}
(x,i)\cdot(y,j)=\begin{cases}
(xy,i)&\text{if }i=j\\
0&\text{if otherwise}
\end{cases}
\end{align}
によりsemilattice of semigroupsである.$\coprod_i^0S_i$は$S$をイデアル$\setin{0,(0,i)}{i\in I}$で割ったリース剰余半群に同型である.
$\prod_i^0S_i$, $\coprod_i^0S_i$はそれぞれ圏$\catsemigrpzero$における直積,余直積である.
$p_k\colon\prod_i^0S_i\zto S_k$を$p_k((s_i)_i)=s_k$で定める.任意の$X\in\catsemigrpzero$, $\varphi_i\in\Hom_0(X,S_i)$をとる.写像$\varphi\colon X\setminus0\to(\prod_i^0S_i)\setminus0$を$\varphi(x)=(\varphi_i(x))_i$で定める.任意の$x,y\in X\setminus0$, $xy\neq0$に対し,
$$\varphi(xy)=(\varphi_i(xy))_i=(\varphi_i(x)\varphi_i(y))_i=\varphi(x)\varphi(y)$$
であるから$\varphi$は$0$準同型である.また,任意の$i$に対し$\varphi_i=p_i\circ\varphi$が成り立つ.このような$\varphi$の一意性は明らかである.
$r_k\colon S_k\zto\coprod_i^0S_i$を$r_k(s)=(s,k)$で定める.任意の$X\in\catsemigrpzero$, $\varphi_i\in\Hom_0(S_i,X)$をとる.写像$\varphi\colon(\coprod_i^0S_i)\setminus0\to X\setminus0$を$\varphi((x,i))=\varphi_i(x)$, $x\in S_i\setminus0$で定める.$0$準同型であることを確認するため,任意の$(x,i),(y,j)\in(\coprod_i^0S_i)\setminus0$, $(x,i)\cdot(y,j)\neq0$をとる.このとき$\coprod_i^0S_i$における積の定義から,$i=j$, $xy\neq0$である.よって
$$\varphi((x,i)\cdot(y,i))=\varphi_i(xy)=\varphi_i(x)\varphi_i(y)=\varphi((x,i))\varphi((y,i))$$
を得る.任意の$i$に対し$\varphi_i=\varphi\circ r_i$が成り立つ.一意性は明らかである.
$\coprod_i^0S_i$は各$S_i$をイデアルとして含むことに注意.以下では$S$の位相として イデアルのなす位相 を考える.
$S$を$0$を持つ半群,$I\subset S$をイデアルとする.$I$が既約であるとは,$I\setminus0$が($S$からの相対位相で)連結であることをいう.すなわち,真のイデアル$J,K\subsetneq S$で,
$$J\cap K=0,\quad I=J\cup K$$
をみたすものが存在しないことをいう.
$S$を$0$を持つ半群とする.$S\setminus0$の連結成分による分割は$S$の既約なイデアルによる直和分解を与える.すなわち,$S$の既約なイデアルの族$\setex{I_\lambda}_{\lambda\in\Lambda}$が存在して,
$$I_\lambda\cap I_\mu=0\;(\lambda\neq\mu),\quad S=\sideset{}{^0}{\coprod_{\lambda\in\Lambda}}I_\lambda$$
が成り立つ.
一般に連結成分は閉であり,アレクサンドロフ性から開でもある.よって$S$の既約イデアルの族$\setex{I_\lambda}$があって,
$$I_\lambda\cap I_\mu=0\;(\lambda\neq\mu),\quad S\setminus0=\coprod_\lambda(I_\lambda\setminus0)$$
が成り立つ.$\lambda\neq\mu$に対し,$I_\lambda\cdot I_\mu\subset I_\lambda\cap I_\mu=0$であるから,$S=\coprod_\lambda^0I_\lambda$である.
任意の$R,S,T\in\catsemigrpzero$と任意の$f\colon S\zto R$, $g\colon T\zto R$に対し,pullback $S\times_R T$が存在する.
$U=\setin{(s,t)\in(S\times^0 T)\setminus0}{f(s)=g(t)}\cup0$とおく.任意の$(s,t),(s',t')\in U\setminus0$に対し,$(s,t)\cdot(s',t')\neq0$であれば$ss'\neq0$, $tt'\neq0$であるから,
$$f(ss')=f(s)f(s')=g(t)g(t')=g(tt')$$
となって,$(s,t)\cdot(s',t')\in U\setminus0$を知る.従って$U$は$S\times^0T$の部分半群である.$0$準同型$p\colon U\zto S$, $q\colon U\zto T$を$p((s,t))=s$, $q((s,t))=t$で定める.$f\circ p=g\circ q$が成り立つ.普遍性は直積のそれと同様であるから省略する.
$\catsemigrpzero$において,$0$準同型は全射であればエピであることは容易にわかる.逆は一般に成り立たない.
$S=\setex{0,a}$, $aa=0$, $T=\setex{0,b,bb}$, $bbb=0$とする.$\varphi\colon S\zto T$, $\varphi(a)=b$は全射でない$0$準同型である.$T$からの$0$準同型は$b$の行き先で決まるから,$\varphi$はエピである.
$\catsemigrpzero$において,$0$準同型が単射であることとモノであることは同値である.
$S,T\in\catsemigrpzero$, $\varphi\colon S\zto T$とする.$\varphi$がモノであることと,下の図式がpullbackであることは同値である(圏論の一般論,ただし$0$準同型を表す下付きの$0$は省略している).
\begin{xy}
\xymatrix {
& S \ar[d]_\id \ar[r]^\id & S \ar[d]^\varphi \\
& S \ar[r]_\varphi & T
}
\end{xy}
このとき命題6により,$\setin{(s,s')\in (S\times^0S)\setminus0}{\varphi(s)=\varphi(s')}=\setin{(s,s)}{s\neq0}$である.従って$\varphi$が単射であることと同値である.
\begin{xy}
\xymatrix {
S \ar@/_/[ddr]_\id \ar@{.>}[dr]|{\cong} \ar@/^/[drr]^\id \\
& S \times_T S \ar[d]^q \ar[r]_p & S \ar[d]_\varphi \\
& S \ar[r]^\varphi & T
}
\end{xy}